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発生の初期にヒト細胞を注入され、4週が過ぎたブタの胎児。(PHOTOGRAPH COURTESY JUAN CARLOS IZPISUA BELMONTE)
【解説】ヒトの細胞もつブタ胎児の作製に成功、一方で世論の抵抗も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170131-00010000-nknatiogeo-sctch
ナショナル ジオグラフィック日本版 1/31(火) 7:20配信
■臓器ドナー不足の解消めざし研究
ヒトの細胞をもつブタの胎児の作製に成功したという報告が1月26日付けの科学誌「セル」に発表され、話題となっている。米カリフォルニア州にあるソーク研究所が主導した国際研究チームが、科学の世界で言う「キメラ」、つまり異なる2種の生物に由来する細胞をあわせ持つ生物を作り出したのだ。
このプロジェクトにより、ヒトの細胞が人以外の生物に導入でき、移植先の動物(今回の場合はブタ)の体内で生存し、成長もできることが証明された。これは注目されると同時に、物議を醸しそうな成果である。
この生物医学的な進歩は、臓器ドナーの深刻な不足を打開したいと望む科学者たちにとって長年の夢であり、ジレンマでもあった。
現在、全米の臓器移植待ちリストに連なる人数は10分に1人のペースで増えている。リストに載っていても、毎日22人が必要な臓器提供を受けられずに亡くなっている。親切なドナーに頼るのではなく、自分用に作られた臓器を動物の体内で育てられるとしたらどうだろうか?
その一方で、これまでヒトと動物のキメラははるか遠くの目標だった。現在も、米国ではそうした実験は公的資金を受けることができない(今のところ、ソーク研究所のチームは民間の寄付に頼ってキメラプロジェクトを進めている)。一部がヒト、一部が動物という生物を作ることには世論の抵抗もある。
だが、研究を主導したソーク研究所のジュン・ウー氏にとっては、伝説上のキメラを違った視点から見ればよいだけだという。例えば、天使は人と鳥のハイブリッドだ。
「古代文明において、キメラは神と結び付けられていました」とウー氏。私たちの先祖は、「キメラの形を取る者は人を守護する力がある」と考えていたという。ヒトと動物のハイブリッドに対して彼ら研究チームが期待する働きも、ある意味でこれと同じことだ。
■キメラを作る2つの方法
キメラを作るには2つの方法がある。1つ目は、ある動物の臓器を別の動物に導入することだが、これは危険が大きい。移植先の免疫システムにより、臓器が拒否される可能性が高いからだ。
もう1つが、受精してから間もないごく初期の「胚」の段階から始める方法だ。ある動物の細胞を別の動物の胚に導入し、2つが一体となったハイブリッドへと成長させる。
奇妙に聞こえるかもしれないが、研究室で作られた臓器の厄介な生物学的課題をのちのち解決するには、こちらのほうが賢いやり方だ。
体内のどんな組織にもなりえる「親」とも言える「幹細胞」を科学者たちが発見したとき、無限の科学的可能性があるように思われた。だが、これらを特定の組織や臓器に成長させるにはいくつかのハードルが存在する。
まず、細胞がペトリ皿という環境で生き続けられなければならない。また、器官を思い通りの形に確実に仕上げるには特別な「型」も必要だ。さらに、このプロセスに取り掛かるのに必要な組織を取り出すため、患者は往々にして侵襲的で痛みを伴う処置を強いられる。
したがって当初、ソーク研究所、遺伝子発現研究室のファン・カルロス・イズピスア・ベルモンテ教授は移植先の胚を使って臓器を育てるという発想は十分に真っ当だと考えた。だが、ベルモンテ氏と40人を超す研究者たちが、ヒトと動物のキメラを作る方法を突き止めるのに4年もかかってしまった。
■元々存在しない器官が出現したマウスも
このとき、彼らが参考にしていたのは、マウスとラットを使ったキメラの先行研究だった。
東京大学の中内啓光教授らは、ラットの膵臓の組織をマウスの体内に移植し、成長させる方法を過去すでに発見していた。さらに1月25日付けの科学誌「ネイチャー」での発表によれば、今度は逆にマウスの膵臓をラットの体内で成長させ、作製した健康な膵臓の一部を糖尿病のマウスに移植することで、糖尿病の治療効果を確認したという。
今回、ソーク研究所のチームは、この発想をさらに1歩進めた。「CRISPR」というゲノム編集ツールを使い、マウスの「胚盤胞(胚形成の初期段階)」から、特定の臓器を作るのに必要な遺伝子を取り除いた。続いて、それらの臓器を作れるラットの幹細胞を導入すると、細胞は順調に機能した。
こうして生まれたマウスは成体になるまで生きることができ、胚盤胞で異種のキメラをつくるときにCRISPRが有効であることが示された。マウスの中には胆汁をたくわえる胆のうを備える者までいた。過去1800万年の間、マウスにはなかった器官だ。
■ヒト幹細胞の「タイミング」が重要
次いで研究チームは、ラットから取り出した幹細胞をブタの胚盤胞に注入した。が、この試みは失敗した。当然のことながら、ラットとブタでは妊娠期間も進化上の祖先も大きく異なるためだ。
だが、ブタとヒトの間ならかなり共通点がある。妊娠期間はブタの方が短いが、臓器はヒトによく似ているのだ。
とはいえ、それで研究が容易になるわけではない。チームは、ブタを殺さずにヒトの細胞を導入するには、ヒトの細胞において「正確なタイミング」が必要であることを突き止めた。
ソーク研究所の科学者で、今回の論文の筆頭著者であるジュン・ウー氏は、「我々は異なる3種のヒト細胞を試しました。発達段階の違う3種類ということです」と説明する。試行錯誤の結果、より初期の状態に近い「ナイーブ型」の多能性幹細胞は生存できず、もう少しだけ発達が進んだ幹細胞も同様だった。
ところが、より「正確なタイミング」の人工多能性幹(iPS)細胞を注入されたブタの胚は生き続けた。それを成体のブタの体内に移し、3〜4週間後に取り出して分析した。
チームが作製し、生き続けた後期段階のキメラのブタ胎児は計186個に上ったとウー氏。「1つの胚が持つヒト細胞は、およそ10万個に1個の割合と推定しています」
これは割合としては低く、この手法に長期的な観点で問題があることを示しているのかもしれないと話すのは、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校とノースカロライナ州立大学で幹細胞を専門に研究するケ・チェン氏だ。
チェン氏は、「ヒトの組織が胚の成長を遅らせたようにも思われます」と指摘。さらに、今回作製されたような胚から育った臓器は、ブタの組織をかなり多く含むと思われ、ヒトに移植されると拒否反応が出る可能性があるとコメントした。
「次の大きな1歩は、ブタ胚中のヒト細胞の数を増やせるかどうかを突き止めることです」とチェン氏は言う。今回の成果はスタート地点だが、このハードルを越えられるかどうかはまだ明らかではない。
ベルモンテ氏もこの点を認め、実際に機能するヒトの臓器をこのプロセスを用いて作り出すには何年もかかるだろうと考えている。この技術は、ヒト胚の発生や疾患の解明といった研究に使える一手段として、もっと早く実用化されるかもしれない。また、そこから得られる洞察も、臓器を作る能力と同じくらい価値があるだろう。
研究は始まったばかりだが、チェン氏は今回の成果をブレークスルーだと評価する。「まだ課題はあります」と認めつつ、「しかし、面白い。とても興味を引かれます」と語った。
文=Erin Blakemore/訳=高野夏美
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