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男児が発見された陸自演習場内施設(YouTube「ANNnewsCH」より)
北海道の男児行方不明で「父親の殺人」のデマ…寝屋川の事件でも見せたネットとマスコミの醜悪な“子殺し事件化”願望
http://lite-ra.com/2016/06/post-2306.html
2016.06.04. 男児行方不明でネットが父親殺人説 リテラ
北海道七飯町の山林で行方不明になっていた小学生男児(7)が、6月3日朝、鹿部町の陸上自衛隊駒ケ岳演習場内で発見され、無事保護された。この小学生の行方が分からなくなったのは先月28日。道警、消防、自衛隊が大掛かりな捜索を行うも1週間近く発見できず、海外メディアもこの行方不明事件を報じるなど大ニュースになった。
報道によれば、男児は28日夜から陸自演習場内施設にいたと語っており、命に別条はないという。とにもかくにも無事であったことに胸を撫で下ろすばかりだが、しかし男児が発見されるまでのネット上の反応はといえば、かなり酷いものだった。
事件発生から一夜明けた29日、男児の父親が当初「山菜採りの途中にはぐれた」としていたのを「『しつけ』のため車から降ろした」と説明を翻すと、ネットでは父親が悪意をもってなんらかの行為を行ったとするツイートや2ちゃんねるへの書き込みが相次いだのだ。
〈親はまだ隠してるんじゃね?〉〈置き去り(生きたままとは言ってない)〉〈父親、あんな事してよく取材受けられるよなあ。本当は殺ったんじゃないか〉〈山に置き去りの事件未だに見つかってないっておかしくない?絶対この親が殺したべ…〉〈ころされているにきまっている。しつけ、ふざけるな!うざったいから遺棄して殺した。それが真実だね〉
そして、こうした2ちゃんねる等の書き込みをまとめたサイトが、この「父親による殺人遺棄説」を煽るようなまとめ記事を次々と投下していったことで、その勢いは加速していく。たとえば、ネット右翼御用達の悪質まとめサイト「あじあにゅーす 2ちゃんねる」では、5月31日から6月2日かけて、こんなタイトルのまとめ記事を連投していた。
「事件に急展開!!! 父・母・姉の口裏合わせが完全崩壊!!! ついに秘密の暴露キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! ○○逮捕に向けて一気に流れが変わったぞ!!!」
「インタビュー中の父親の目がヤバイwwwwww 2ch「目は正直だなおい」「これはもうダメかもわからんね」」
「北海道警察が父親をロックオンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! 今後の捜索方法を道警が発表!!!! 父親完全終了wwwww」
いうまでもなく、これらは2ちゃんねる等の根拠のない書き込みを誇大化してタイトルにした“釣り”である。しかし、こういった悪質まとめサイトの動きと、道警、消防、自衛隊による大規模捜索に進展がなかったことも重なり、ネット上ではどんどん「父親による計画殺人」「母親も姉もグル」などという与太話が、あたかも事実のごとく流布されていったのだ。
素人の探偵気取りに悪質まとめサイトの煽り……はほとほと嫌気がさすが、しかも、こうしたネットの声にひきずられるかたちで、ワイドショーのコメンテーターや週刊誌の一部までもが、父親が証言を翻したことなどに疑問を呈し、殺人事件を匂わせるようなことを言い出す始末だった。
だが、実際には、事件発生から早い段階で、現場の記者たちの間では「殺人の線はない」という認識でほぼ一致していたという。
「道警は保護責任者遺棄容疑の可能性もあるとして、両親や姉を事情聴取していましたが、矛盾点はなかった。だいたい、もしも殺人ならば、男児の行方が分からなくなってからすぐに現場で捜索願を出すのは不自然でしょう。そういうことから、第三者の介入の可能性はともかくとしても、当局が家族による殺人の線を考えていないのは捜査関係者の話からも明らかでした」(全国紙社会部記者)
ようするに、取材のイロハも知らないネット民や一部のメディアが、勝手に妄想を働かせ、「親が殺した」と決めつけていた、というわけである。
しかし、これは決して笑い事ではない。子どもが行方不明になって不安と動揺に包まれている一般市民を犯罪者呼ばわりして、攻撃するというのは、明らかに人権侵害だ。
言っておくが、これは結果論で言っているわけではない。権力をもつ政治家や自らメディアに露出している有名人なら疑惑段階でいろんな追及を受けても当然だろう。しかし、彼らはなんの反論の場ももっていない一般市民なのだ。そんな弱者に対して、なんの証拠もないのに探偵気取りで嬉々として「犯罪者」扱いするというのは、どうかしているとしか思えない。
しかも、こうしたネットやメディアの暴走は今回の騒動がはじめてではない。むしろ、最近は、子どもが関係する事件が大きく報じられるたびに、事件の全容が明らかになる以前から「親の子殺し」と決めつける言説が流布されることが、パターン化している。
たとえば、昨年2月に川崎市の河川敷で中学1年生が、少年グループに暴行の末殺害された事件では、報道直後から被害者少年の母親が犯人だとする言説がネットで跋扈した。他にも、昨年8月、大阪府寝屋川市の中学生男女2人が行方をくらましたあと遺体で発見された事件でも、ネットでは母親の犯人説や虐待死隠蔽説が流れ、一部の週刊誌記者までも、その線で取材を進めていたという。
しかも、これらはすべて最初から捜査関係者が「ありえない」といっていたなんの根拠もないデマだった。ようするに、彼らは行方不明を心配しているわけでも、殺人事件の真相を追及しようとしているわけでもない。エンタテインメントとして事件を消費するために、最初から「子殺し」という“刺激的なニュース”をつくろうとしているだけなのだ。そしてこの自分勝手な欲望を満たすために、被害者の家族を晒し者にし、粗探しをして、袋叩きにする。
繰り返すが、権力を持つ公人やマスコミに露出している有名人なら疑惑を徹底的に追及して言論で批判するのは当然だ。むしろ、何度チェックしてもしすぎるということはない。
しかし、この国のメディアやネットの動きは全く逆だ。公権力を批判的に検証する報道や言論をほとんど行わず、大手芸能プロの芸能人はどんな不祥事を起こしても一切報道しない。それどころか、数少ない真っ当な権力批判を「偏向」「反日」と攻撃し、つぶしにかかる。一方で、相手が反論する術を持たない一般人となると、まるでその憂さを晴らすように嬉々として“妄想的バッシング”を繰り広げるのだ。
この国のメディアやネットのグロテスクな状況をなんとかしないと、このつけは必ず国民に返ってくるだろう。
(宮島みつや)
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