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2017年3月17日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
「スマホ・ネット禁止令」で働き方改革は簡単に実現できる
生産性向上に向けた政策が
不十分な働き方改革
新聞を見ると、毎日にように“働き方改革”という言葉が踊っています。安倍政権の現在の最重要政策なので当然ではありますが、ちょっと首を傾げたくなってしまいます。
というのは、実際に動いている目立った政策が、同一労働同一賃金の実現に向けた非正規雇用の待遇改善と、長時間労働の是正くらいだからです。後者について、今週に入って残業時間の上限を設定することで政府・経団連・連合が合意しましたが、それを総理や官房長官が“歴史的な大改革”と自画自賛するのを見ると、いよいよ首を傾げたくなってしまいます。
そもそも働き方改革は何のために行うのでしょうか。働く側のために賃金の上昇とワークライフバランスを実現するとともに、経済全体では生産性の向上と労働人口の増加(人口減少への対応)を実現するためになると思います。政策目的としては4つが考えられるのです。
この観点から考えると、長時間労働の是正をはじめ、働き方改革で検討されているテーマの多く(テレワーク、女性の活躍、高齢者の就業促進、子育て・介護と仕事の両立、外国人受け入れ)が、主にワークライフバランスや労働人口増加のための政策です。逆に言えば、日本経済にとってもっとも重要な課題である生産性の向上と賃金の上昇に向けた政策はそんなに多くないのです。
もちろん、非正規雇用の待遇改善は、非正規の賃金上昇のためにやって当然の政策です。ただ、低賃金で喘いでいるのは非正規だけではありません。最低賃金を大幅に上げることが、ブラック企業を撲滅するためにも必要なはずです。
かつ、大事なのは、それらはあくまで賃金上昇のための政策に過ぎず、それだけで自動的に生産性も向上するなどあり得ないということです。
真剣に労働者の生産性を向上させたいなら、やはり労働者がスキルアップできる機会を増やすことが必要です。北欧のように政府が提供する職業訓練プログラムや失業手当を充実するなど、教育・訓練の機会を抜本的に強化し、労働者のスキルアップは企業のOJT任せという高度成長期以来の仕組みを転換すべきではないでしょうか。
スマホとネットが脳に与える三つの悪影響
ただ、そうした政策は多額の予算が必要だし、ハローワークなど既得権益も絡みますので、おそらく抜本的な改革はやらない今の政権では無理でしょう。それでは、予算をかけずに労働者の生産性を向上させる政策はないでしょうか。一つあります。それは“スマホ・ネット禁止令”を出すことです。
既にこのコーナーで何度か軽く触れたことがありますが、スマホやネットを使い過ぎると、人間の脳には三つの悪影響が生じる可能性が高いと言われています。
第一は集中力が低下することです。スマホやネットで画面をどんどん変えていろんなウェブサイトやソーシャルメディアを見ていると、脳が常に情報の刺激を求めるようになるので、集中して勉強したり考えるということができなくなります。
第二は画面をスクロールしながらテキストを読んでばかりいると、読み方が“浅い読み”(字面だけを追って記憶に残らない流し読み)ばかりになり、“深い読み”(じっくり読んで内容を吸収するとともに、自分が持っている知識と新しい情報を結合して新しいアイディアを生み出す)ができなくなります。
第三は行動全般が受け身になることです。特にスマホは、能動的に使いこなしているようで、実はだいたい決まったウェブサイトやソーシャルメディアを巡回しているだけ、ゲームも与えられたルールに従ってやっているだけと、スマホが情報を与えてくれるのに従うという受け身の状態になります。脳がそれに慣れてしまうと、スマホを使っていない時も行動が受け身になりがちです。
ここで、恐ろしいデータを紹介しましょう。いずれも米国での調査の結果ですが、まずiPhoneユーザは1日に80回、Androidユーザは1日に110もスマホをアンロック、つまりスマホをいじっていました。平均して1日に100回として、また睡眠時間を除いた1日の時間が仕事をしている時間も含めて17時間とすると、なんと10分に1回はスマホをいじっていることになります。
次に、スマホやネットのユーザは、平均的なウェブサイトに書かれている文章(英単語で593語が含まれている)の20%しか読んでいないそうです。
さらに、これが一番恐ろしいのは、今や仕事ではパソコンやスマホによりマルチタスクが当たり前になり、また様々なデジタルのサービス(メール、携帯電話、メッセンジャーなど)が入り込んだ結果、人は平均して3分ごとに違ったタスクをこなしますが、一度止めたタスクに戻るには23分も要したそうです。
「歩きスマホは危険です」ではなく
「スマホは危険です」
私自身、自分の日々の行動を思い返すと思い当たる節が多いので、自己反省を込めて考えると、おそらく日本人の行動も同じようなものだと思います。人間は、スマホやネットを通じた情報の過剰摂取により、これまでにないくらいに注意散漫になってしまっているのです。こんなに落ち着きのない行動をしていては、そもそも仕事の生産性も高まりませんし、また集中してスキルアップに取り組めるはずもありません。
もちろん、スマホやネットは、賢く使えば生産性アップに大きく貢献する化物のような道具、手段です。でも、残念ながら今はまだ賢く使いこなすどころか、逆に人間がスマホやネットに使われてしまっているために、マイナスの影響の方が大きく出ているのです。
そう考えると、スマホやネットの利用の全面禁止は当然無理ですが、まず使い過ぎある程度制限するキャンペーン、ムーブメントを起こすだけでも、労働者の生産性の向上に役立つのではないでしょうか。例えば、車内や公共交通機関の中ではスマホの利用を禁止するとか、オフィスや大学の教室の中ではウェブ閲覧を完全に禁止するとか…。最近は電車の中で「歩きスマホは危険です」という表示をよく見かけますが、それだけでは不十分、「スマホは危険です」というキャンペーンを始めるべきです。
…もちろん、私の妄想レベルではこれがすぐにやれるベストの政策だと思うものの、実際にはこうした取り組みを政策として行うのは確実に無理です。ただ、少なくとも欧米では様々な調査でスマホやネットの問題点、人間に与える悪影響が明らかになりつつあるからこそ、生産性の向上が最重要課題の日本がこの問題に率先して取り組んでもいいのではないでしょうか。
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)
http://diamond.jp/articles/-/121597
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