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1月16日、トランプ次期米大統領が打ち出す経済政策の柱となりそうなのが国境税だ。具体策はまだ不明だが、民間企業の米国回帰を促すのが目的とみられている。写真はメキシコのシウダー・フアレスから米国のエルパソへ続く国境の橋を渡る人々。昨年12月撮影(2017年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)
市場も揺るがすトランプ国境税、スムート・ホーリーの亡霊に警戒
http://jp.reuters.com/article/trump-tax-idJPKBN1500Q2
2017年 01月 16日 17:05 JST
[東京 16日 ロイター] - トランプ次期米大統領が打ち出す経済政策の柱となりそうなのが国境税だ。具体策はまだ不明だが、民間企業の米国回帰を促すのが目的とみられている。金融市場への影響は、米国の輸出増・輸入減によるドル需要増加を通じてドル高要因となる可能性がある。しかし、高関税の報復合戦に発展したかつての「スムート・ホーリー法」のように保護主義的な動きが強まれば、リスクオフの円高になりかねないとして警戒感も強い。
<国境税、理論的にはドル高>
現在、市場で想定されている米国の国境税の仕組みは、米国からの輸出品に対し課税を免除する一方、特定国からの輸入品に対しては、現行税制で仕入れコストとして非課税となっていた部分をあらため、課税対象とする。海外からの特定品目に高い関税をかける通常のやり方とは異なるが、米国からの輸出を促進し、輸入を抑制する見通しだ。
「広く関税をかけるやり方と異なり、米国の貿易赤字を短期的に改善させることはなさそうだが、トランプ氏の目的は国内雇用の増加であり、企業が戻ってくればいいのだろう」と、T&Dアセットマネジメント・チーフエコノミスト、神谷尚志氏はみる。
金融市場に対する米国境税の理論的な影響は、ドル高だ。米国の輸出増・輸入減によってドル需要が増加するためだ。ただ、ドル高は輸出を抑制・輸入を促進する効果も持つため、一方的にドル高が進むわけではなく、均衡するまでドル高が進むことになる。
貿易収支が改善すればドル高要因だが、国境税によって米国の貿易収支は改善しないとの見方もある。貿易収支もしくは経常収支は、国内の投資と貯蓄のバランスで決まるとすれば、国境税によって、それが大きく変化することはないためだ。国境税による輸出増・輸入減を相殺するまで、輸出減・輸入増効果のあるドル高が進むと考えることもできる。
<実際には、保護主義警戒でドル安に>
しかし、実際の金融市場では真逆の反応が起きた。トランプ氏が11日の会見で「中国や日本、メキシコなどと貿易不均衡に陥っている」と指摘した後、為替市場ではドル安が進行。翌日(12日)の市場で、ドル/円JPY=は約1カ月ぶりに114円を割り込んだ。
「市場では、理論的なドル高要因よりも、保護主義的な政策への警戒感が勝ったためだ。国境税は米国の輸出企業にはプラスだが、米輸入企業や米国以外の国はマイナスになる」とシティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は話す。
市場参加者が警戒するのは、第2次世界大戦前のような保護主義の高まりだ。
「スムート・ホーリー法」は、最も危険な法律の1つと呼ばれる。1929年の株価大暴落をきっかけとした世界恐慌の嵐が吹き荒れる中、米国内では保護主義が台頭。農産物だけでなく、工業製品にも高関税を課す法案を提出した。
マクロ経済に悪影響を与えかねないとして1000名以上の経済学者が大統領に署名しないよう求めたが、当時のフーバー大統領は世界恐慌のなかで、国際経済の安定より国内経済の保護を優先。同法は1930年6月に成立した。
関税の対象となった国は、報復的関税措置で対抗。同法が世界恐慌をさらに拡大させたかについては、今でも見方が分かれているが、保護主義の台頭やブロック経済化につながって行ったとの評価では、ほぼ一致している。そして、それは第2次世界大戦へとつながっていく。
<「貿易戦争」になれば米経済はマイナス成長も>
実際、トランプ氏の国内第一主義に呼応する動きも出ている。トランプ氏は同国に輸入される米企業の海外生産車には、高関税を課すとけん制。フォード・モーターなどがメキシコ新工場建設計画を取り止め、ミシガン州工場への投資を発表したが、フランスの極右政党・国民戦線のルペン党首は10日、そのことを称賛した。
ルペン党首は、仏ルノー(RENA.PA)やPSAグループ(PEUP.PA)についても同じように望むかとの質問に対し「トランプ氏は、私が長年求めていた施策を実行しようとしている」と応じ、この施策を「経済的愛国主義であり、知的保護主義」であると表現した。
ピーターソン国際経済研究所は、米中などが全面的な貿易戦争に突入すれば、米成長率は2019年にマイナス0.1%に落ち込むと予測。民間部門において約480万人分の雇用を失いかねないとしている。
各国を保護主義に走らせる要因は、世界の低成長化だ。しかし、保護主義は、企業行動の最適化を妨害し、結局は自国の成長率を下げる方向に働きかねない。
秘書よりもタイプ打ちが速い弁護士は秘書を辞めさせて、自分でタイプを打つべきだろうか──。もちろん答えはノーだ。タイプは秘書に任せ、弁護士は自分の仕事に専念した方が、全体的な効率が高まる。
グローバル化の反動や見直し機運が強まってきているとはいえ、比較生産による貿易のメリットまで失えば、世界には暗い未来が待ち受けている。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)
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