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人工知時代に生き残るのは、意外にも「こんな人たち」だった 実は、能力がない人ほど得をする…?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50641
2017.01.10 鈴木 貴博 現代ビジネス
ゲームの分野では既に人間を超えたと言われるAIですが、AIとロボットの進化によって、今からそれほど遠くない未来に「技術的失業」と呼ばれる大規模な人類規模の失業が起きることが危惧されています。
外資系コンサルティングファームを振り出しに長年にわたり企業のコンサルを行っている「百年コンサルティング」代表の鈴木貴博氏は、ここ数年、大手人材会社のコンサルティングを通じて、技術的失業に関心を持ち、研究を続けています。そこから導き出される雇用の未来と、会社組織がどうなるか、鈴木氏の導き出した「ある結論」とは…?
■「特別な人だけ生き残る」は間違い
今から10年ないしは15年後に、人工知能による大失業がやってくると言われています。一説によれば日本人の仕事の半分は人工知能やロボットにとって代わられることになるそうです。その時代には単純計算すれば日本人の半分は失業者ということになる、とも言われます。
「これからの未来は誰でもできるような仕事しかできない人はダメだ。自分にしかできない特別なスキル(能力)を持っている人だけが生き残る」
よく経営コンサルタントなどが、こうした指南をすることがありますが、人工知能の発達についての情報を総合すると、どうやらその教えは怪しいようです。人工知能の未来ではもっと違った、そしてサラリーマンにとって意外な形で到来します。
それならどんな未来がやってくるのでしょうか? 来るべきサラリーマンの未来について、3つの観点から予測してみたいと思います。
<第一の予測:10年後、上司が没落貴族になる未来がやってくる>
人工知能とロボットが発達すると、まず単純な仕事から消滅していって、単純な仕事しかできないサラリーマンが失業すると言われています。
実際、海外の著名な大学から発表された「近未来に無くなっていく仕事のリスト」を眺めると、簡単な仕事が世の中から無くなり、専門性の高い仕事をしていなければ仕事がなくなっていくという予測が、その根拠となっていることがわかります。
しかし、人工知能の世界では今、ディープラーニングという学習能力の急速な進化が起きています。そして近未来においては、実は上司のように「頭のいい人の仕事」の方が先に人工知能に置き換わるのではないかと言われ始めました。
私が携わっている経営コンサルタントという仕事を例に、お話しをしましょう。
経営コンサルタントという仕事は、その大学の研究では「2030年にはまだ無くならない仕事」のリストに入っているのですが、それは怪しいと思っています。
■使いっぱしりがトクをする?
経営コンサルタントに依頼される典型的な仕事のひとつが、「わが社のこの製品を続けるべきか、もう止めてしまうべきか?」という依頼です。時代の変化で商品やサービスが売れなくなる。このまま続けても赤字が増えるだけという状況で、経営陣も判断に困り果てて経営コンサルタントにアドバイスを求めてくるのです。
さてこの問題を解決する経営コンサルタントのチームにもボスと使いっぱしりのコンサルタントがいます。このような問題の場合、使いっぱしりのコンサルタントが手分けをして顧客の声を集めたり、流通業者の声を集めたり、競争企業の情報を集めたり、社内の意見をまとめたりといった、いわば手足のような仕事をします。特に現場で集める一次情報は重要で、その商品にかかわる環境に思わぬ変化が起きていることがわかったりするのです。
こうして集まった膨大な情報を眺めながら、ボスのコンサルタントが、その商品を続けたほうがいいか、それとも止めたほうがいいか。続ける場合はどのように商品の売り方を変えるべきかを検討します。このボスの頭脳労働の方が付加価値は高いので、経営コンサルタントの社会ではボスの方がはるかに高い給料をもらっています。
しかし2030年、人工知能が発達すると状況は一変します。このような判断をする能力自体を人工知能がディープラーニングで獲得するようになりそうなのです。
判断情報が膨大なほど人工知能は人間よりも有利です。市場全体ではこの商品は競争力を落としているが、特定の顧客や地域、国ではまだ高い競争力を持っている。そのような領域にフォーカスした場合、売上規模は半減するが利益は大幅に増える、また成長率も高い。そういった領域を発見することが経営コンサルティングの定石ですが、人間と比較して人工知能の方が、直観に頼らない斬新で複雑な解決策を発見することができるのです。
この時に、人工知能にはどうしてもできない仕事が、現場で起きている一次情報をかきあつめる仕事です。倉庫で管理をしているおじさんが発見したある事実とか、ある特定顧客を担当している営業マンだけが気づいている秘密とか、そういった足で稼がないと発見できない情報は、ネット上には存在しません。
そのため2030年の経営コンサルティング業界で必要な社員は、使いっぱしりのコンサルタントだけという状況になっている。情報さえ集まればボスは不要で、あとは人工知能が一番いい判断を下せるようになるのです。
上司が持つ権力の根源は「判断力」にあります。その判断力が今から10年後ぐらいには、人工知能に任せたほうがよほど良い判断をするように人工知能の学習能力が上がります。課長、部長、いや場合によっては経営者といったポジションの仕事が世の中から先になくなって、会社に必要な仕事は社員の仕事だけだという時代がまもなくやって来るのです。
そしてそのときに、なにが起きるのか。それは上司と部下の関係の逆転です。会社組織の中で生き残れるのは、部下だけという時代がやってくる。上司はみな、組織の中で生き残るためには部下の仕事をするしかありません。
しかし長年上司の仕事に慣れた人は、部下の仕事を任されてもうまくこなすことはできないでしょう。こうして多くの上司たちが仕事を失い没落する。そんな時代がこれから10年後には待っているのです。
■仕事のポジションが激減する結果…
<第二の予測:七年後、サラリーマンが若手芸人化する未来がやってくる>
第一の予測を読んで、安堵している読者も多いかも知れませんが、世の中そう甘くありません。
これまでのサラリーマンは、能力が高くて日々努力や勉強を重ねている人ならば、それなりに組織の中で生き残っていけました。しかし、人工知能が一般化する時代はそれだけでは生き残れない時代になりそうなのです。
タレントの世界を考えれば理解しやすいかもしれません。タレントの世界は我々一般人に比べるととても厳しい世界です。若手芸人の場合、才能があって、ネタも面白く、日々努力を続けている人でも、それだけでは生き残っていけないという現実があります。
なぜそうなるのでしょうか? それは芸人がサラリーマンとは違い、いい仕事の数が少ないからです。芸人として売れるためには人気番組のレギュラーに起用されることが重要だとします。しかしそのポジションの数は限られていて、チャンスは多くはありません。
一定の才能が必要なのは言うまでもありませんが、売れるためには芸を磨くだけではだめで、先輩たちとの付き合いも重要になります。楽屋にあいさつにいく。先輩の出演した番組や舞台についてこまめにメールで感想を伝える。夜中に召集がかかったら15分で西麻布の焼肉屋に集合する…。そういった努力があって初めて、先輩に顔や名前を覚えてもらえて、何かの機会にちょっとした仕事を分けてもらえるようになります。
この若手芸人の日常は、今のサラリーマンから見れば「別の世界」の出来事でしょう。芸能界というのは、なにしろ志望する人数が多い割に、売れるために必要となる仕事のポジションの数が圧倒的に少ない。芸人だけでなく、役者、歌手、アイドルなど芸能界で活躍しようと志望する若者はみな「いい仕事のポジションの競争倍率がめちゃくちゃ高い」世界で戦っています。
だから若手の役者が大物俳優の身の回りを世話したり、大御所歌手の誕生会には若手芸能人が欠かさずに顔を出さなければいけなかったり、アイドルが事務所の人と一緒に日々あいさつまわりに精を出したりといった、サラリーマンとは違う努力に大量の時間を使わなければなりません。
しかし、それが「違う世界」なのは今のうちです。サラリーマンの世界でも仕事のポジションが激減すれば同じことが起きるようになります。
いよいよ人工知能の話に入ります。仮に人工知能が発達した結果、会社の中でやらなければいけない仕事が激減したとします。10人で仕事をしていた部署で、来年は8人、さ来年は6人という具合に毎年ふたりずつ社員がいらなくなる。そんなことが自分の部署だけでなく、全社で、そして日本全体で起き始めます。
会社でそのように人員削減をするということが決まると何が起きるのか?これは外資系の巨大企業ではよく起きていることですから、その様子を見るとどんなことが起きるのかがわかります。外資系企業でリストラを行う場合、各部署で今年、何人削らなければいけないか人事部から指示がはいり、部長、課長レベルで各部署の中から辞めてもらう人を決めていきます。
これは課長にとってとても心が痛む仕事なのですが、役割なので仕方ない。粛々と人選が進みます。
さて、このリストラの現場を眺めてみると興味深い現象が起きます。初期のリストラではいわゆるローパフォーマー、つまり職場であまり役にたっていない人に辞めてもらうというリストアップがなされます。しかし会社がさらにもう一段リストラを要求すると、能力が同じような人の中から辞めてもらう人を選ばなければならなくなります。
そういった会社に嫌気がさして進んで辞めていく能力が高い社員が散見されるのもこの段階ですが、そうしたプロセスの中で誰が残っていくのかを見ていくと、最終的には上司のお気に入りというか、仲間とも言うべき人間関係になっているひとたちが組織に残っていくという現象が起きます。
外資系企業では数名のグループが特定のボスの傘下に入って強い結束を持つという人間関係が出来上がっていきます。ボスが別の外資系企業に転職すると、その後、そのグループの人間が続々と同じ企業に転職していくという現象も起きるのです。
この外資系企業で起きているような人間関係が、やがて人間の仕事の数が激減し始めると、普通の企業のサラリーマンの世界でもあたりまえのものになるでしょう。
仕事がだんだん消失していく。10人から8人、8人から6人と部下の数を減らしていかなければならない未来においては、生き残るサラリーマンは、最後は「ボスと仲がいいかどうか」で職場に残ることができるかどうかが決まります。
その時代には若手サラリーマンの芸人化が始まるのです。上司にいかにかわいがられるか、上司といかにプライベートを共有できるのか、上司と一緒にいる時間がどれだけ長いのか……そういったことができるかどうかで、組織の中での生き残りが左右されます。
意外に思われるかもしれませんが、これはアメリカ企業の中では現在でもあたりまえの力関係です。日本企業と違い、上司の人事考課権が絶対であるアメリカ企業では、上司に対するおべっかが生き残りには欠かせません。
若手芸人が先輩の楽屋にあいさつに行くように、若手サラリーマンが出社するたびに上司の席に「あいさつに伺う」ようになる。仕事のポジションが減る未来にはそうしていかなければ失業するからです。今から7年後ぐらいの未来では、こんな現象が社会問題になるかもしれません。
■残酷なことが起こるのは間違いない
<第三の予測:15年後、若くて体力のある人だけが生き残る未来がやってくる>
人工知能とロボットが発達すると究極には人類の99%の仕事がなくなるという予測があります。百年後の未来を考えればそれはその通りなのですが、15年後ぐらいの近未来を考えた場合、人工知能とロボットにはどうしても到達できない、非常に優れた人間の体の機関があります。
それは指です。指先が行う繊細な仕事が、ロボットにも人工知能にも、どうにもマネできないのです。
それ以外の機関、つまり眼や耳などの感覚器官、脳のような思考力、足や腕のような四肢のマネごとまでは人工知能やロボットが比較的近未来には人間を代替できるようになるのですが、指先だけはどうしようもありません。
先日、ある経済学者の方から聞いた話ですが、甲斐の名産である信玄餅の工場を見学したところ、生産プロセスの大半はロボットが行っていたのですが、最終工程の箱詰めだけは人間が作業をしていたそうです。
指先が必要な仕事の大半は現場仕事です。コンビニの棚に商品を補充する店員の仕事や、マクドナルドの厨房で調理のオーダーをさばく仕事、こういった細かい作業をする際には指が不可欠です。指の役割をロボットが代替できない以上、たとえ世の中の大半の仕事が消えてしまっても、こういった仕事だけはなくなりません。
そう。人工知能とロボットが発達した15年後の未来には、人類に残される仕事は現場作業だけになります。そうなるとサラリーマンの世界にはさらに残酷なことがおきます。
若くて働ける人材の方が給料は高く、歳をとって筋力も理解力も衰えた人材は給料が下がるか、それとも厄介払いされる時代がやってきます。
これが新しい現実です。これから15年くらいかけて、サラリーマン社会には完全な下剋上の時代がやってきます。今から15年後、仕事があって生計が成り立つのは若くて力仕事ができる人材だけ。それ以外のサラリーマンは頭のいい人から順にすべて没落し、一部の決定権を持つ者とそれにすり寄るものが生き残る――。
人工知能が発達する未来は、そういう世界になっている可能性が高いのです。
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