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電通社長辞任は日本企業の生産性を向上させる
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8571
2016年12月31日 塚崎公義 (久留米大学商学部教授) WEDGE Infinity
最近、働き方改革との関連で、日本の生産性の低さを嘆く記事をしばしば見かけます。生産性を計測する方法に問題があるため(たとえば日本では電車を時刻通り動かすために保守点検業務を必死に行っているのに、それを評価していないなど。)、嘆くだけの記事をそのまま認めるわけには行きませんが、それを除いても、生産性が低い部分が多い事も事実です。
ようやく近年、少子高齢化と景気回復により労働力不足となり、企業に省力化投資を進めようといったインセンティブが高まりつつあり、生産性向上への明るい兆しが見えて来ています。
そこで発生したのが今回の電通事件です。事件自体は悲惨でしたが、日本経済全体への影響を考えると、この事件が、上記の流れを加速し、決定付ける可能性は大きいと思われます。
社長が辞任したとなれば、日本中の企業で多くの経営者が、「我が社でも違法残業をしていると自分の首が飛びかねない」という恐怖を味わっていることでしょう。これにより、各社が残業削減に取り組むとすれば、生産性が高まらざるを得ません。加えて、違法残業をしていない企業の生産性も高まるでしょう。違法残業をやめるために各社が雇用を増やすことにより、日本全体の労働力不足が一層深刻化していくからです。
今回は、この点について考えてみましょう。
■労働生産性を阻害している要因は主に3つ
日本の労働生産性を阻害している要因は、たしかに存在しています。それらが取り除かれれば、日本の労働生産性はさらに上がるでしょう。
第一の要因は、文字通り無駄な仕事が多いことです。長時間労働を美徳と考える企業文化が、付き合い残業を多発させているかも知れません。年功序列制度によって無能な人が管理職になって部下に無駄な仕事を命じているかもしれません。コンセンサスを重視するばかりに、無駄な会議が増えているかも知れません。これについては、簡単には減らないと思いますが、残業規制が強まってくれば、おのずと工夫や見直しが行われると期待しましょう。
第二の要因は、今まで労働力が余っていたので、企業に省力化のインセンティブがなかったことです。この点については、労働力不足の深刻化によって省力化投資が増えていくでしょうから、楽観的に考えて良いと思います。
第三の要因は、日本企業が過剰サービスやゼロサムゲームに労力を費やしていることです。たとえば顧客の細かい好みに対応するため、多品種少量生産が行なわれ、これにより生産ラインや輸送、小売等々で多くの労働力を必要としているかも知れません。これを過剰サービスと認識して、生産品目を減らして大量生産に切り替えることで、生産、配送、小売要員が少なくて済み、生産性が大幅に上昇するかもしれません。
過剰サービス以上に問題なのは、ゼロサムゲームとなっている営業活動です。同じ顧客をターゲットとして各社が勧誘合戦を行っているとすれば、日本全体としての生産性を損ねている事になります。仮に誰も営業活動をしなかったとしても、その顧客は自分からどこかの売り手に出向いて購入する事になるでしょうから、営業活動はマクロ的には何の価値も生み出していないのです。
以下で、第二、第三の点について、少し詳しく見ていきましょう。
■労働力不足は省力化投資を促す
これまで、日本には失業者が大勢いましたから、企業は安い労働力を容易に用いることができました。機械を導入すれば簡単に出来る仕事でも、アルバイトにやらせた方が安上がりなので、アルバイトを雇っていた会社が多いのです。しかし、労働力不足になりアルバイトの時給も上昇して来ると、そうした会社も機械を導入するようになります。その方が安上がりだからです。
日本企業は、これまで省力化投資をするインセンティブが乏しかったので、企業はあまり省力化投資をして来ませんでした。従って、いたる所に「少しだけ省力化投資をすれば労働生産性が大幅に改善する」余地が転がっているのです。
労働力不足が一時的ではないから、企業も真剣に対応する
日本企業のマインドは景気の長期低迷で冷えきっており、多少景気が回復しても「どうせ遠からず不況が来る」と考えて設備投資をしない、という習性が身に付いています。したがって、多少景気が回復しても、なかなか設備投資には踏み切らないのです。
しかし、今回の労働力不足は、少子高齢化による現役世代人口の減少が主因ですから、容易には反転しないでしょう。今後も、景気が大幅に悪化しない限り労働力不足が続く、という予想が立てば、企業が省力化投資に踏み切る事は容易でしょう。
■残業抑制の流れが、労働生産性向上のインセンティブを決定的なものに
電通が社員に違法残業を強いていたとの疑いで、社長が辞任しました。これを受けて、各社で残業抑制の動きが活発化して来るでしょう。これが、上記の流れを加速し、決定的なものとする契機となると、筆者は考えています。
違法残業の規制も、一過性のものではなく、今後も続くに違いないからです。社長が辞任するに至らないケースでも、政府が違法残業企業の名を公表するようになれば、採用活動の大きな妨げになります。ただでさえ労働力不足で採用活動が難しい時に、名前を公表されてしまうようでは、企業にとって極めて大きな打撃となるはずです。
まず、違法残業をさせている企業が残業を減らすためには、生産性を向上させる必要がありますから、各社とも生産性向上に尽力するはずです。違法なサービス残業が減って、その分だけ仕事が減ったとすれば、統計には何も表われませんが、実体として生産性が向上するわけです。
違法残業を廃止した企業は、生産性向上だけでは足りない場合、社員数を増やして仕事をこなそうとするでしょう。そうなると、日本全体として、労働力不足が一層激しくなります。そうなれば賃金が上昇し、違法残業とは無縁の会社も、省力化投資を強いられることになるでしょう。
■非効率企業は淘汰され、労働力が効率的企業に流れる
日本には、効率的な企業も非効率な企業もあります。労働力が不足した時に、効率的な企業に優先的に労働力を振り向ける事が出来たら、経済にとって素晴らしいことです。そして、それは可能なのです。経済学者の好きな「価格メカニズム」が機能し、「神の見えざる手」が経済を望ましい方向に導いて下さるのです。
非効率な企業は、労働力不足で賃金が上昇してくると、採用を減らさざるを得なくなります。現存する社員も、給料の高い会社(つまり効率的な会社)に移動してしまうかも知れません。場合によっては非効率企業は人件費高騰によって倒産し、労働者全員が効率的な企業に雇われることになるかも知れません。こうして、日本経済全体として見た場合の労働力の分布が変化し、日本経済全体としての効率性が上がっていくのです。
■過剰サービスが維持できなくなり、効率化が進む
日本企業は過当競争体質ですから、価格競争もサービス競争も、やり過ぎです。価格競争は、賃金が上昇してくれば、自然に沈静化してくるでしょう。サービス競争も、そうなると思います。
たとえば、一般向けの洋服は、着心地が良くて暖かければ良いのであって、大量生産で十分です。多品種少量生産でなくても、問題ありません。他人と違う服を着たければ、高い料金を払ってそれなりの店に行けば良いのです。
これまでは、ライバル企業も労働力が豊富でしたから、サービス競争が激化していましたが、労働力不足が深刻化していけば、お互いに無い袖は振れなくなり、大量生産に戻るかもしれません。お互いのサービスが同時に低下すれば(過剰なサービス競争が正常化すれば)、客が逃げることもないでしょう。個々の消費者の嗜好にピッタリのものは減るかもしれませんが、それは日本経済の効率化であり、経済成長に大いに貢献する変化だと言えるでしょう。
■顧客の奪い合いが沈静化するかも
過剰サービス以上に問題なのは、顧客の奪い合いです。同じ顧客をめぐって各社が営業活動を繰り広げるとすれば、各社合計の売上はふえません。一社だけが営業をやめれば、ライバルに顧客を奪われてしまうため、それはできませんが、全社一斉に営業をやめれば、日本経済の生産性は大幅に向上します。
自社だけが苦しいのではなく、ライバルも同様に労働力不足で苦しんでいるわけですから、自社もライバルも少しずつ営業活動を減らしていき、「ライバルも営業活動を減らしたので売上は減らなかった。今少し減らしても大丈夫かも」ということを各社とも考えるかもしれないわけです。
営業職員の名誉のために記しておくと、各社にとって営業は重要な仕事です。営業がいなければ、その会社は注文がとれず、破産してしまうからです。重要なことは、ライバルも一斉に営業をやめれば、誰も困らないということであって、ライバルが営業を行っている現状においては当社の営業も重要なのです。マクロとミクロの視点の違いにご注意下さい。
■潮目が変わったので、今まで無理だったことが可能になる
未来を予測する時、過去のデータを用いないのは独善ですが、過去のデータに頼り過ぎるのも危険です。バックミラーを見ながら運転するようなものだからです。「これまで生産性が向上して来なかったのだから、今後も無理だろう」ということにはならないのです。労働力が余っていた時代から足りない時代に変化することで、労働生産性にも劇的な変化が生まれるのです。
将来、振り返って見た時に、アベノミクスと電通事件が大きな転換点であった、ということになる可能性は高いと思います。つまり、我々は今、時代の大きな転換点にいるのです。
最後になりましたが、過労死された元電通社員、高橋まつりさんのご冥福をお祈りします。
なお、生産性については、拙稿『一人当たりGDPがイタリア並みでも日本経済は素晴らしい』も併せて御参照いただければ幸いです。
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