http://www.asyura2.com/16/hasan116/msg/530.html
Tweet |
トランプの経済政策が絶対にうまくいかない理由
http://diamond.jp/articles/-/110711
2016年12月9日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授] ダイヤモンド・オンライン
最近、数人の知り合いから「お前はトランプの経済政策への評価をまだ明確に示していないのではないか?」と言われました。言われてみると確かに、テレビなどで断片的に話すことはあるものの、まとめて考えを話したことはなかったので、ここで私の評価を明確にしておこうと思います。結論は簡単、トランプがやろうとしている経済政策は絶対にうまくいきません。
■大幅減税は中流階級や低所得層には届きにくい政策
トランプが大統領選の過程で示した経済政策の目玉は、財政出動による景気拡大と、反グローバリズムの通商政策による国内雇用の維持・増加となリます。大統領選後、財政出動への期待から米国の株価は上昇し、為替は円安が進んでいますが、私はこの両方の政策とも評価も信頼もしていません。
まず財政出動について考えてみると、トランプが主張するような大規模な公共事業の増加(インフラ整備に10年間で1兆ドル)と大幅減税(法人税を35%から15%に、個人所得税の最高税率を39.6%から33%に)を大統領就任早々に実行したら、来年の米国の景気はさらに良くなるでしょう。
しかし、問題も多いと言わざるを得ません。そもそも議会は上下院とも小さな政府を志向する共和党が多数であることを考えると、トランプの言い値どおりの規模の財政出動が実現するかもまだ不確かです。
それ以上に問題なのは、大幅減税のメリットを主に享受できるのは富裕層だということです。法人税の大幅減税により企業の収益は増加しますが、近年は経営陣の報酬ばかりが大幅に増加していることを考えると、そのメリットは主に富裕層に行くでしょう。また、個人所得税の減税についても、米国のTax Foundationの試算によると、それによって中流階級の税引後所得は0.8%増加するのに対して、所得の上位1%の富裕層の税引後所得は10.2〜16%も増加します。
トランプの大統領勝利の最大の原動力は、米国中部の製造業地帯に多く住む白人の中流階級や低所得層でした。だからこそ、トランプはこれらの層の収入の増加や雇用機会の拡大を実現しなければなりません。
もちろん、財政出動と減税によるマクロ的な景気拡大のメリットはこれらの層にも及びます。しかし、大幅減税のメリットを主に享受するのは富裕層であり、トランプの実現したいことと、やろうとしていることが矛盾しているのです。
■財政頼みで目標の経済成長率に届かない理由
もう1つ気になるのは、財政出動ばかりで十分な経済成長率を実現できるのかということです。低所得者層の収入増加のためには、そして財政出動による財政赤字の膨張を抑えるためには、高い経済成長率を来年1年のみならず長期にわたって実現することが必要となります。要は米国の潜在成長率を高める必要があるのです。
この点について、トランプ政権で財務長官となるムニューチン氏は「3〜4%の経済成長の実現が最優先課題」と発言しています。米国の20世紀後半の経済成長率は平均して年率3.5%であり、それが過去15年は年率2%に低下してしまったことを考えると、一見妥当な目標に見えますが、しかしこの数字はかなり達成困難なはずです。
というのは、20世紀後半の潜在成長率が高かった一因は、1949〜2000年にかけて人口が年率1.7%と高い割合で増加していたからです。これに対して、議会予算局の推計によると、米国の今後10年の人口増加率はわずか0.6%に過ぎません。
人口増加の後押しが低下する中で20世紀後半と同じ潜在成長率を実現するためには、米国経済の生産性をかなり高めなくてはなりません。しかし、インフラ整備や法人税減税はそれにある程度貢献するものの、米国でも21世紀に入ってから生産性上昇率の低迷(長期的停滞)が生じていることを考えると、かなり達成困難な数字ではないでしょうか。
財政出動で景気は良くなりますが、所詮それは短期的なものに過ぎず、財政出動が潜在成長率を高めることはありません。そして、潜在成長率を高める具体的な方策が不明な中では、トランプの政策で米国経済が長期的に大丈夫とは、とても考えられないのです。
■工場流出阻止のやり方はまさに愚の骨頂
財政出動以上に失敗が確実と思うのが、反グローバリズムの通商政策です。海外に流出した米国企業の工場を国内に戻し、メキシコや中国からの安価な輸入品には35%の関税をかけると息巻いていますが、もうこれらの政策になるとムチャクチャとしか言いようがありません。
たとえば先週、トランプはインディアナ州の空調メーカーCarrier社に出向いて直談判し、メキシコに工場を移転する予定だったのを思い直させ、1000人の雇用を守ったと大きく報道されましたが、このやり方こそ愚の骨頂です。
そもそもこのやり方は、行政の手続きを無視した水面下でのやり取りで決められています。かつ、州の税金を10年で700万ドル(約8億円)減税するというアメも提供しています。その結果として勝ち取った成果も、実は全面的な工場移転の撤回ではなく、単に当初予定だった2100人の雇用削減のうち、1300人分を撤回させたに過ぎません。
つまりCarrier社は、減税というアメをもらえた以外には、親会社であるUnited Technologies社の収入の10%が国防総省からの発注であるにもかかわらず、メキシコへの工場移転のペースをスローダウンさせただけなのです。
実際、グローバル化の現実を考えると、米国の工場の海外流出を止められるはずがないのは、主要国間での賃金の違いを見ると明らかです。たとえば、2015年の工場労働者の福利厚生を含めた賃金を見てみると、右図の通り。
だからこそ、米国の製造業の就業者数は1979年の1960万人をピークに減少を続け、今や1230万人となっているのです。その現実を無視して工場を米国に戻すというのは、非現実的と言わざるを得ません。
また、別の数字からもトランプの今回のやり方に意味がないことがわかります。米国政府のデータから、米国全体では3ヵ月の間に670万人分の雇用が喪失する一方で、720万人の新たな雇用が創出されています。ちなみに、こうした雇用の流動性が米国経済のダイナミズムの原動力となっており、その面では日本も早く、単なる働き方改革にとどまらず、雇用制度の改革を進める必要があることがわかります。
それはともかく、この数字と比較すればわかるように、3ヵ月で670万人の雇用が喪失する国で、大統領(になる人)が1日かけてわずか800人の雇用を守るというのは、あまりに効率が悪すぎるのです。
もちろん、今回のトランプのやり方はパフォーマンス、テレビでのショーアップという面では効果的でしょう。その意味で、トランプには小池都知事と同じ匂いを感じてしまいますが、逆に言えば、その程度の効果しかないのです。
■自由貿易を止めるとトランプ支持層が最も被害を受けやすい
次に、トランプは自由貿易協定に否定的で、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)不参加はもちろん、NAFTA(北米自由貿易協定)も見直す」と言っており、さらには「メキシコや中国からの安い輸入品に35%もの関税をかける」と言っています。しかし、それらを真面目に実行したら、その被害を最も受けるのは、トランプを支持した中間層・低所得層になることを忘れてはいけません。
そもそも自由貿易のおかげで、米国内でも様々なモノの価格が下落して安くなりました。たとえば、2002〜2012年の間に、おもちゃの価格は43%下がり、家具の価格は7%低下しています。当然ながら、そうしたメリットをもっとも享受してきたのは中間層や低所得者層なのです。
実際、40ヵ国を対象としたある調査によると、自由貿易を止めた場合、富裕層の購買力は28%低下するのに対して、安い輸入品に頼らざるを得ない所得水準の下位10%の層の購買力は63%も低下するのです。
このように考えると、工場の海外流出を阻止し、製造業での雇用を回復するために反グローバリズムに偏っているとしたら、その対価はあまりに高いと言わざるを得ないのです。
以上から明らかなように、トランプの経済政策はまったく評価できないし、それを実行したらトランプ支持層ほど被害を受けるという矛盾した結果となるのです。
したがって、今は金融市場が盛り上がっていますが、トランプ大統領の下で米国経済がずっと良くなっていくと考えては絶対にダメです。ポピュリストが間違った政策で政権を取った場合、その間違った政策を実行・失敗して支持層から見放されるか、君子豹変してまったく違った政策で成果を出して支持層を喜ばすしか、道がないはずです。トランプがそのどちらの道を行くのか、注意深く見守っていく必要があるのではないでしょうか。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民116掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。