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ドイツのアンゲラ・メルケル首相。ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議で〔AFPBB News〕
IoT、AI推進の危険、日本はもの作りを強化せよ インダストリー4.0でドイツが教える日本の生きる道
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48520
2016.11.30 伊東 乾 JBpress
TPPに関してネジレが起きている様子です。
米国大統領選の「転倒」で、今まで旗を振ってきた米国が批准から撤退という引き潮の傍らで、国内で進んでしまったらしい調整の惰性が逆方向に振り切れつつあり、どうなることか、率直に心配です。
長年このコラムをご覧の方はお気づきかと思いますが、TPPは私が一切触れない話題の1つです。あるいは沖縄問題、最近ならトランプ候補といった話題も、コラムに書くということは一切したことがありません。
それは、興味がないとかいうことではなく、書くものを選んでいるだけの話で、重要ではないと思っているわけでは決してありません。
ただ、それに言及して公器に記す役回りに自分は明らかに当っていない。むしろそれと補い合う方向で、私自身も一定の範囲でコミットしている話題、例えばAIであったり、IoTであったり、ビッグデータであったり、を提供したいと思っています。
今回はトランポリン逆転選挙結果やら、TPPねじれやらを横目に見つつ、EU〜ドイツ連邦共和国の産業指導陣が何を考えているか、ドイツ連邦工学会主催のシンポジウムに出席しているミュンヘンから最新の話題をお届けしましょう。
■「リストラ」の訳語が示唆するもの
ドイツ連邦共和国は2011年に「インダストリー4.0」という連邦国家レベルでの技術政策指針を発表しました。
日本ではある時期、特殊な形で紹介され、一部ブームにもなりましたが、必ずしも正しく理解されているとは言えません。
「インダストリー4.0」の本質を一言で表すなら、「製造業のデジタル化=IT化」にあります。
これを「第4次産業革命という旗印はもの作りのスマート化を目指し、自ら感じ考える工場、スマートファクトリー化によって人件費節減、米国や日本に対抗する競争力を強化する」といった論調で報道する傾向は、どうも日本が一番顕著であるように思われてなりません。
何かと言えば、「ヒトの首を斬りたがる」論調が、日本のある種のマスコミには長らく観察されます。
例えば「リストラって何ですか?」と問うてみましょう。ネットの辞書には次のような表記がありました。
「企業が不採算部門の整理、成長分野への進出など、業態の再構築をはかること。俗に、余剰人員の整理。解雇」
日本語としては正解でしょう。
しかし元来のリストラクチャリング=Restructuringとは「再構築」の意味であって人員整理に限局されないし、そもそもRestructuringはリエンジニアリング=Re-engineeringと対になる概念で、闇雲な人員整理は基幹競争力を失いかねず、克服すべき対象と考えられるはずなのに、人員整理ばかりが強調されたのが、日本という国の病と思います。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・ハマー教授が1993年に提示し世界的に反響があった「企業をリエンジニアリングする」(邦題:『リエンジニアリング革命』)は、野中郁次郎さんの本質を衝いた邦訳ですぐに日本にも紹介されました。
しかし、日本社会でそれが変にヒットしてしまったのは「リストラ」という新手のカタカナで大手を振って人員整理ができるという、リエンジニアリングの本質と全く無関係な部分ばかりだったと言っていいでしょう。
少なくとも、上に引用したウエブ辞書の用法は、この残念な現実を示してしまっています。
私たちの島国における「インダストリー4.0」の受容にも、同様の傾向がみられるように思います。
IoTの親玉のようなスマートファクトリーが実現すれば、生産ラインに必要な人員は大幅削減され、リストラ効果で価格競争力倍増・・・。
こういうふうには、ドイツ人は、少なくともこの政策を推進している当事者は考えていないはずです。
もっと別の観点から企画され、推進されている「インダストリー4.0」の本質をお伝えしましょう。
■国としてのインダストリー4.0の狙い
一番のポイントは、インダストリー4.0は「国策」だということです。
これに対して、日本国内の経済マスコミは、企業経営者が読者・顧客ですから、それに受けるような訳文を粉飾しやすい。
「人員が整理でき、経営合理化に役立つ」
なるほど、企業経営者ならそう思うでしょう。しかしインダストリー4.0は、自身も物理の博士号を持つアンゲラ・メルケル首相自身が陣頭に立つ国家政策であること、これを見失うと、ほとんど何一つ、ここから得られる価値ある内容は見過ごしてしまうでしょう。
もし経営合理化が進んで企業が余剰な人員を減らしに減らしたら・・・。失業率が目に見えて跳ね上がり、社会は多くの病巣を間違いなく抱えます。
こういう脇の甘い中長期的な国策を、ドイツのような国は決して取りません。ドイツのようなというのは、1920年代末の恐慌と大量の失業者が1933年以降のファシズムを生み出し、あのような経過をたどったことから、二度と繰り返さない再発防止が政策に徹底している国家という意味です。
似たような歴史的経緯があっても、指導層に学習能力や、それ以前の理解力や学力がない国では、何度でも同じ過ちを繰り返すかもしれません。
ドイツの「インダストリー4.0」は人員整理のための合理化政策ではありません。
1990年代中葉から進んだIT化、情報化の流れは、米国系企業が「情報地主」として独り勝ちする構造が確立してしまっている。
これに対するドイツ〜というよりドイツ経済でどうにか動いているEU全体の産業経済100年の計を念頭に「もの作り復興」を掲げているのにほかなりません。
基本ソフト(OS)からアプリケーションまで、ネットワークという犬のくさりに繋がれた情報と価値は必ず米国側に流れて行きます。私たちはあくまで小作人の地位に甘んじなければなりません。
さらにそこでの商取引のデータすら、ビッグデータパッケージとして売買の対象となり、最初からイモしか引けない構造になっているインターネットでありIoTであるということです。
例えて言えば、高速道路を使う以上はかならず道路公団にお金は落ちて行きますよ、というのが、問題の大前提です。
翻って考えてみましょう。1950−60年代、人類最大規模、最速最高の高度成長はいったいどこの国が成し遂げたのでしょう?
西ドイツと日本の製造業が両輪となって、世界を瞬く間に席捲したのにほかなりません。
基幹競争力のコアは、市場競争に一見負けて見えても、まだ国内で命脈を保っている。
これを「毒をもって毒を征す」とばかり、情報化でやられた分を情報化で対抗して、健全なグローバルバランスをキープせずんばあらず・・・というのが、インダストリー4.0の最大のポイントなのです。
ですから、IoT、インターネットではいけないんですね。米国系に価値も情報もほとんど漏れてしまうから。
オープンアーキテクチャーのような顔をしているものがあっても、基本は徹底してクロ―ズド、コアを固め切った「スマート化」で、ネット犬、もといネット圏の番犬のごとき情報の首輪から解き放たれ、スマートに経済と産業、そして社会の立て直しをしましょう! というのが、国策としてのインダストリー4.0にほかなりません。
そして、1950−60年代高度成長期の好敵手として、むしろ「ITのくびき」に対抗する連携を、ドイツは日本に期待している。
1999年に東大に呼ばれて以来、大学の公務で学術外交を担当してきました。現在はこの日独連携―ひいては日欧連携を私自身が担当しています。ここに記せる範囲は限られますが、こういった政策の本質動機は日本社会が認識しなければならないコアになるポイントで、多くの方の理解を求めたいと思います。
■健全なマニュファクチュア人口なくして繁栄なし
2016年6−7月、私が戦略連携を担当しているミュンヘン工科大学からミュンヘン社会技術センターのクラウス・マインツァー教授をお招きし、複数の学部でセミナーを行っていただきました。
マインツァーさんは元来数学者ですが、1970年代から広範な対象のシミュレーションを数理の基礎から検討し、今で言う「複雑系」の第1世代として貢献しつつ、科学技術の哲学や倫理にも多くの仕事があり、インダストリー4.0でもブレインとして重要な役割を果たしています。
文学部哲学科に始まり、数理科学、情報理工、学外ですがJSTや中央大学、慶應義塾経済学部などでも授業をしていただき、最後にお連れしたのが東京大学経済学部・ものづくり経営研究センターでした。
その週に英国で例の投票があり、英国のEU離脱、ブレグジットが確定しました。
マインツァーさんには東大本郷の三四郎池に面する「山上会館」に泊まってもらっていたのですが、あの日の朝、彼は「ついに大英帝国800年の栄光が終わる日が来たね」と言いながら坂を降りてこられました。
ものづくり経営研究センターでは、藤本隆宏教授と開口一番、まさにその話題で冒頭から議論沸騰、マインツァー藤本両氏は大いに意気投合、実を言うと本稿を書いているミュンヘンでも藤本さんとご一緒しています。
ポイントは「健全なマニュファクチュア人口なくして国家の安定した繁栄はない」という一点に尽きます。
マインツァーさんは言います。
「2010年代に入って英国は完全に金融国家に変質、GDP(国内総生産)に占める金融の割合がものづくりを上回ってしまった。でも政府は国内の工場労働者に十分なケアをしなかった」
「今回(2016年6月)EU離脱に投票した多数の労働者の工場に製品を発注していたのは、実はブリュッセル経由のEU枠だった。それなのに、それで仕事を得ていた労働者は、国内で割を食った生活苦と不満から 離脱票を投じて英国はEU離脱、英国人は自分で自分の首を絞めてしまった」
こういう話題を皮切りに「ものづくり経営研究センター」での議論は詳細かつ具体を極め、夜10時頃まで議論の後は酒席に席を移し、日付が変わるまで議論が尽きることがありませんでした。
そういうところから、国家経営の経世済民の要、百年の計に照らしての「インダストリー4.0」にほかなりません。
そのドイツで精力的に検討されている「アシスタントシステム」などの新しいキーワードについては、別の機会に改めましょう。
ポイントは、この技術国策を進めているアンゲラ・メルケル首相自身が、難民の受け入れを政治生命を懸けて推進している、という点にあります。
中東から非熟練の難民人口がさらに流入しても、その雇用、またその子孫の雇用を含めた2025年、2030年の国家経営を極めて明確に考えている。
それがドイツ100年の計としての「インダストリー4.0」の本質です。
そういうことが分かっていない国家であるなら、100年後に残っているか、定かでないかもしれない。心配です。
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