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「クールジャパン」×「地方創生」の驚くべき惨状=@無線LANにTPP対策まで、地方で広がる「何でもあり」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8247
2016年11月21日 WEDGE Infinity
予算が出ると思って猫も杓子も使うマジックワードが、地域活性化分野ではその時代時代に存在する。製造、流通、販売まで農業を一貫する「六次産業化」、都市を小さく集約する「コンパクトシティ」など列挙すればキリがない。
近年は「クールジャパン」と「地方創生」もまさにこのマジックワードの部類に入るが、この合わせ技で予算を獲得する事例が出てきている。
■「忍者」で地方創生!?煙に巻かれた成果
世界が知るクールジャパンといえば「忍者」という話になり、2015年度における地方創生関連交付金で合計約1億7200万円の予算がついた。さらに、この予算活用のために忍者にゆかりのある三重県・神奈川県・長野県・滋賀県・佐賀県、さらに伊賀市・甲賀市・上田市・嬉野市・小田原市などが発起人となり、日本忍者協議会まで設立された。
とはいえ、内容としては忍者を用いたイベント開催や忍者PR動画を入札して外注するという極めて古典的な手法となっている。結局は、代理店などへの外注頼みの「忍者」事業なのである。このような外注頼みの方法では、地域に一切のノウハウが残らず、失敗しても外注先にその責任を押し付けられるため、事業の改善が期待できないという問題点がある。
また、外注した事業成果として参加する自治体が期待しているのが、観光客の増加だ。それ自体は良いのだが、事業の成果を測る地方創生予算の重要業績評価指標として指定している数値に問題がある。各自治体がばらばらに外国人旅行宿泊数、県内の延べ宿泊者数といったようなマクロ統計を目標設定しており、それでは忍者事業の効果を測ることは全くできない。
円安で外国人観光客が増加したり、はたまた全く税金に関係なくやっている地域のイベント、誘客キャンペーンによって増加する観光客数も全てこの成果に含まれてしまう目標設定になっている。本来であれば、新たに企画した忍者ツアーの参加者数や売り上げなどを目標設定すべきだろう。
さらに甲賀市に至っては、地方創生先行型予算で約2350万円の予算を獲得し、市・観光協会のホームページ閲覧数の10%アップという目標を設定。結果として9・3%増加して、成果があったとしているのだが、実数をみて驚愕する。
「(H26)50万775件のアクセスが(H27)54万7220件に増加」とあるのだ。わずか年4万件の閲覧数を獲得するために2350万円もの国費を投じたのである。しかも、前述の観光客数同様に本当にこの予算の成果としてアクセスが増加したかという因果関係は、誰も確認できない。
このように、目標設定自体が大変いい加減なもので、結局は予算を使って、海外への動画配信やイベントなどを行うだけで終わり、という実態がそこらじゅうにある。
従来から地域活性化は予算を獲得するための名目としてマジックワードを活用してきた。そして、成果が出ても出なくても責任を求められない目標を掲げ、結局はバブル崩壊の煽りだの、リーマンショックの影響だのといったその時々のマクロ要因に責任を押しつけ、個別事業の責任はないといったような極めて適当な総括をして終わりにしてきた。そのようないい加減な事業運用の成れの果ての姿が現在の地方である。
そして、今回も同様の事業方式が繰り返されているのである。クールジャパンネタの「忍者」を使えば、地方創生予算も引き出しやすい。
実は、この複数都道府県市町村合同の「忍者マーケティング事業」の1億7200万円だけでなく、地方創生加速化交付金だけでも「忍者列車事業」に約8188万円、「伊賀流クールジャパン〜忍者(NINJA)に会える・学ぶ・なれるまち〜」事業に約3716万円、「甲賀流忍者観光加速化事業」に約2578万円もの国費が投じられている。
もし、本当に忍者に高い市場価値があるのであれば、投資家や金融機関による投資・融資が可能なはずだが、なぜか税金ばかりが投入される。それは、実際にはそこまでの市場価値がなく、民間としては身銭を切ってまで付き合いきれない現実を示している。次の大阪の事例はその典型例だ。
■応募ゼロで廃止、付き合いきれない民間
大阪では、既に事業困難であると判断されて終わってしまった、クールジャパンフロント事業なるものがあった。12年に「日本のおもちゃ・マンガ・アニメ展」を開催したものの、当初計画6000人のはずが、2120人しか動員できず、約1300万円の大赤字を記録。さらに、14年に同事業を推進する民間企業の公募を行ったところ、応募企業が1社も現れず、15年には正式に府議会で同事業の廃止が決定。累積で4700万円もの税金が投じられた上での幕引きだった。
そもそも、民間企業公募の際のヒアリングでは「『クールジャパン』というテーマでビジネスを行うことが難しい」という回答が数多く寄せられていたという。
税金を使えば結局は損得無視で実行できるが、民間企業からすれば「儲からない適当なクールジャパン事業」なんかに付き合うようなことはあり得ないということなのである。ある意味、民間のほうが至極真っ当な結論を導き出したと言える。なぜ未だに全国各地でクールジャパンを切り口にした地方創生事業が展開されるのか、というのもこのような事例から分かる。
儲からないクールジャパン事業の実像が垣間見られる。
この手のマジックワードとなると、もともと進んでいた事業の予算獲得のために流用されることがある。東日本大震災の後に、あらゆる予算が「震災復興」という名をつければ通るということで、沖縄の道路整備まで含まれていて問題になったこともあった。
■無線LANやTPP対策までも!?なんでもありのクールジャパン
クールジャパン政策は、最近では「ローカルクールジャパン」なる言葉が誕生。この名目になると、地域でもともとあった様々な事業がある意味なんでも「ローカルクールジャパン」と銘打って予算申請することが可能になっている実情がある。
その典型の一つが、15年ローカル版クールジャパン政策で総務省が打ち出した「無線LAN」を整備するという事業である。「観光や防災の拠点における来訪者や住民の情報収集等の利便性を高めるため、公衆無線LAN環境の整備を実施する地方公共団体等への支援を行う」とある。が、このどこにいわゆるクールジャパンの要素があるのだろうか。頭を抱える。
さらに、経済産業省のローカルクールジャパンでは「TPP対策JAPANブランド等プロデュース支援事業」を行っている。TPP対策までもがローカルクールジャパンとセットになっており、1億5000万円の予算が投入されている。
ローカルクールジャパンは、世界から人気のあるコンテンツを打ち出すどころか、地方にあるものを無理やり海外に押し出していくことに補助金をつける業務になりつつある。
本来、世界から「クールだ」と思われるものであれば、市場原理で民間企業が投資してビジネスとして攻め込んでいく。それをしないのは、そもそも儲からない可能性が高いからである。クールジャパンで投資されている事案のどれだけが利益を生み出しているのだろうか。これまで見てきた「クールジャパン」事業は、予算拠出の根拠も矛盾に溢れ、事業性は陳腐である。
■必要な本質的見直し、「何でもあり」はもうやめよう
一方で、本来の日本が持つ地域の歴史や文化を活かした民間主導の取り組みとして注目を集めている宿「里山十帖」がある。越後湯沢からローカル線に乗り換え、10分ほど電車に揺られ、車でさらに山間へ移動してたどり着ける宿だ。
木造建築をリノベーションした母屋、自然を感じさせる露天風呂、そして食事として出てくるものは、江戸時代に栄えた地元の醸造技術や地野菜などを活用した決して贅沢ではないが、たしかにこの地域の歴史、文化を感じるもの。宿に揃う家具やアメニティなどはすべて、この宿の経営者であり『自遊人』という雑誌の経営者でもある岩佐十良氏が、日本各地から集めたこだわりの品々である。客単価4万〜5万円にも関わらず、稼働率は90%を超え、私が今年4月に訪ねたときも台湾など海外から多数のお客様が訪れ、満室で賑わっていた。
しかし、岩佐氏によると、この事業は、当初は破綻すると銀行から言い渡される中、様々な協力に支えられての船出だったという。先のような補助金依存で、成果もまともに示さない事業と比較するのも恥ずかしくなるような挑戦である。
こういった事例こそ、本当に日本が各地域に潜むコンテンツ力を活かした適正で挑戦的なビジネスとしてのクールジャパンなのではないだろうか。
どこの地域もクールジャパンといえば忍者だアニメだといい、挙げ句の果てには無線LANやTPP対策までもがその範囲に入るような、なんでもかんでも「クールジャパン」の昨今。今一度、本質的な見直しが必要なのではないだろうか。
地方における儲からない自称クールジャパン事業に税金を突っ込んでも、クールにはならない。むしろ地方経済がさらに冷え込むだけだろう。
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