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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第197回 経済成長と認知的不協和
http://wjn.jp/article/detail/5106840/
週刊実話 2016年11月24日号
前々回、「認知的不協和」という心理的現象について取り上げた。本稿における認知的不協和とは、自分が信じた(あるいは「信じ込まされた」)情報が間違っていると認識した際に、懸命に「自分は間違っていなかった」という結論を導くために思考を巡らせ、情報を求める心の動きになる。
さて、前回解説した通り、日本のGDPが世界に占めるシェアは、日本経済の絶頂期(1995年)の17%超と比較し、今や5.6%と見る影もなく凋落した。'96年以降の世界全体のGDP成長率は、平均3.799%であった。それに対し、日本は経済のデフレ化で極端に成長率が低下。'96年以降のGDP成長率の平均は、何と0.771%と、1%にすら届いていない(数値はいずれもIMFデータによる)。
今後、世界経済が約3.8%の成長を続け、日本経済が0.771%という寂しい経済成長率を続けた場合、2040年に日本のGDPのシェアは2.7%にまで低下する。もはや、経済大国でも何でもなく、普通に発展途上国だ。
日本のGDPが世界に占めるシェアを高めるためには、最低でも4%の経済成長が必要になる。もちろん為替レートの変動の影響もあるが、とりあえず国家として名目GDP(実質GDPではない)4%超の成長を目指すという目標は合理的だ。
何しろ、実質GDPではなく、名目GDPである。
名目GDPは生産の「量」の変化である実質GDPの成長率と、インフレ率(GDPデフレータ)に左右される。例えば、わが国がGDPデフレータベースで2%のインフレ率を維持する場合、実質GDP成長率、すなわち経済成長率が2%であれば、名目GDP4%成長という目標を達成できる。
高々、この程度の話にすぎないのだ。インフレ率2%の下で、経済成長率2%を達成する。「高々、この程度」の経済成長の目標ですら、日本国民の多くは思考停止的に「そんな成長率は不可能だ」と否定しようとしてくる。
成長否定論者が真っ先に持ち出す理屈は、「人口が減っているから経済成長できない」というものだ。とはいえ、左ページの図(※本誌参照)の通り、世界には日本以上のペースで人口が減っている国々が2桁ある。というよりも、ジョージア(旧グルジア)やバルト3国などと比べると、日本の人口減少ペースはまだまだ甘い。
とはいえ、2000年から2015年にかけて人口が減った国々の中で、まともに経済成長をしていないのは、わが国のみだ。ちなみに、ジョージアは2000年からの16年間で人口が16.6%も減った。それにもかかわらず、この時期の経済成長率の平均は5.6%だ。それに対し、日本の平均成長率は0.85%にすぎない。人口が減っていることは、経済成長率低迷の理由にはならない。
などと書くと、それこそ「認知的不協和」に陥った人は、
「日本は経済が成熟しているから成長率は低い」
と、抽象的な言い訳を持ち出す。
そんなことを言ったらドイツはどうなるのだ。ドイツの過去16年間の人口は、日本以上に減っている。さらに、ドイツは日本と同じように経済が成熟した国だ。ところが、この時期の経済成長率は1.26%と、日本を上回っている。そもそも、「経済の成熟」を成長率低迷の理由にする時点でおかしい。
例えば、ギリシャのGDPはリーマンショックが発生した'08年をピークに、何と28%以上も縮小してしまった(ユーロ建て)。GDPとは、国内の生産の合計であると同時に、支出(需要)、所得の合計でもある。'08年以降、ギリシャ国民は平均で3割近い所得縮小に見舞われたのだ。
強烈な「貧困化」である。
1929年、アメリカのNYウォール街で株式大暴落が発生。世界はアメリカを先頭に「大恐慌」という超デフレーションにたたき込まれた。当時、アメリカのGDPは、わずか5年で4割も縮小してしまった。
'08年以降のギリシャは、7年間でGDPが3割縮小したわけである。さすがに大恐慌のアメリカには及ばないが、それに近い恐慌状態に陥っているのは間違いない。
ギリシャのGDPが激減するのと時期を同じくし、ドイツはGDPを何と18%も増やした。結果的にドイツとギリシャのGDPを比較すると、'08年には10倍台だったのが、'15年には17.5倍に広がってしまった。まさに、勝ち組と負け組に分かれたわけだ。
ギリシャはドイツよりも経済が成熟しているのか? もちろん、そんなことはない。ドイツは先進国であり、ギリシャはどちらかといえば発展途上国に近い。すなわち、成熟していない。
それにもかかわらず、ギリシャ経済が停滞(というよりも「縮小」)する時期、ドイツは経済成長を続けた。なぜなのか。
日本やギリシャの経済が低迷している理由は、人口や「経済の成熟度」とやらとは無関係で、単にデフレーションに陥っているためだ。物価と所得が悪循環を描いて下落するデフレ期に、経済成長を達成することは不可能である。
日本の低成長の原因が「デフレ」であると分かれば、政府による財政出動という正しいデフレ対策を打つことができる。ところが、認知的不協和に陥った人々は、過去の自分の認識(例:日本は宿命的に成長しない)を否定したくないため、懸命に日本経済が成長しない(あるいは「成長させない」)レトリックを考案し、正しいデフレ対策を妨害しようとする。
とりあえず、日本経済は正しい政策を打てば、成長路線に戻れるという現実を理解しよう。すべては、そこから始まる。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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