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銀座最大の商業施設「ギンザ シックス」の謎
トレンド・ウォッチ from日経トレンディ
来年4月開業、観光バスの乗降所も
2016年11月18日(金)
日経トレンディ
2013年6月、88年にわたる営業に幕を下ろした「松坂屋銀座店」。その跡地と隣接する街区で構成された約1.4ヘクタールが一体的に整備されて進められている「銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業」は、多くの注目を集めてきた。長い間、断片的な情報ばかりで明確な姿が見えなかったその巨大商業施設の全貌がついに明らかになった。
J.フロント リテイリング、森ビル、L Real Estate、住友商事の4社は、2016年10月26日の記者会見で、施設名称を「GINZA SIX(ギンザ シックス)」、開業日を2017年4月20日と発表。4社は共同出資により「GINZA SIXリテールマネジメント」を設立し、同施設を運営していく。
ギンザ シックスという名称は、もちろん銀座六丁目というロケーションに由来するが、同時に「五感を超越した喜びや満足など新たな価値を提案する」「6つ星級の価値をもった施設である」ことを表現したという。コンセプトは「Life At Its Best 最高に満たされた暮らし」、ブランドスローガンは「Where Luxury Begins 世界が次に望むものを」。最高に満たされた暮らしを求める人々に向け、世界でここにしかない特別な場と仕掛けを創発し、新たな価値を世界にプレゼンテーションしていくという。
改めて驚いたのは、その規模だ。敷地面積約9080平米、延床面積約14万8700平米は銀座エリア最大。中央通りに面した全長(間口)約115mに、6つのハイブランド(「ディオール」「セリーヌ」「サンローラン」「ヴァン クリーフ&アーペル」「ヴァレンティノ」「フェンディ」)が旗艦店として2〜5層の大型メゾネット店舗を構える。それらを含めて旗艦店が122、総出店数は241(物販210、飲食24、サービス7)に上る。
「これまで築き上げてきた百貨店のビジネスモデルは通用しなくなる。そうした状況を見据え、『百貨店はやらない』『百貨店を進化させるのではなく、まったく新しい商業施設を作る』という決断を下した」(松坂屋を運営するJ.フロント リテイリングの山本良一社長)。銀座のど真ん中に、いったいどんな巨大施設が誕生するのか。
2017年4月20日にオープンする「ギンザ シックス」(中央区銀座6丁目10番1号)。延床面積は約14万8700平米。地下6階、地上13階建て。営業時間は物販・サービスが10時半〜20時半、飲食が11時〜23時半(※一部店舗により異なる)
基本設計と外観のデザインは谷口吉生氏(谷口建築設計研究所)が担当。ファサードは、「ひさし」と「のれん」をイメージしたという
三原通りに面して、観光バス乗降所を設置。観光案内やチケット発券、外貨両替、免税、手荷物預かり、宅配、土産物販売なども扱うコンビニエンスストアなどを備えた「ツーリストサービスセンター」を設置。地下鉄「銀座駅」から施設まで直結する地下通路も整備。建物内に、歩車分離された貫通通路(あづま通り)と、中央通りと三原通りをつなぐ歩行者専用通路を整備する予定
中央通りに面した全長(間口)約115mに、6つのハイブランドが旗艦店として2〜5層の大型メゾネット店舗を構える
屋上は、地域に開かれた約4000平米の屋上庭園「GINZA SIXガーデン」となる。シーズンに合わせたイベントの実施も予定
1000平米オーバーの飲食業態が2店舗も!
まずは施設内の構成を、下の階から見ていこう。地下3階は文化・交流施設「観世能楽堂」、地下2階が食物販、地下1階がビューティー。1階が商業施設、観光拠点「ツーリストサービスセンター/観光バス乗降所」。1階から5階に店舗が入り、6階には書籍、レストラン、7階から12階と13階の一部にはオフィス、13階の一部がレストラン、バンケットほかとなる。物販はざっと見て、1階がジュエリー&ウォッチ中心、2階がバッグ&シューズ中心、3階と4階がレディスファッション中心、5階がややメンズ多め、という印象。いずれも高級感はあるが、よく目にするブランドがほとんどで、悪くいえば新鮮味にはやや欠け、よくいえば安心感のあるラインアップだ。
注目したいのは、なんといっても敷地面積の広さを生かした空間デザインや、アート作品展示スペース。施設の共用部インテリアデザインは、グエナエル・ニコラ氏が担当。巨大な空間を親しみやすく分かりやすいものにするため、「人」の感情や身体感覚を第一に考えたヒューマンスケールの空間を創出したという。また施設の中心部にある巨大な吹き抜けは、現代アートの巨大な展示空間となり、館内各所に世界的な現代アーティストの作品を展示予定。館内2カ所にある高さ約12mの壁面には、対となる2つのアート作品を展示予定だ。6階に出店する「銀座 蔦屋書店」も、アートに特化した大型店舗。カフェ、物販スペース、ギャラリーを併設。アートオークションなども実施する予定だという。
もうひとつの注目ポイントは、大型飲食業態の出店だ。6階には、カフェ・カンパニーが広さ1100平米のフルサービス型フードホール「ギンザ フードホール(GINZA FOODHALL)」(仮)を出店。和牛、寿司、天ぷらなど日本の食の専門店8店を集め、ライブキッチンを囲みながら旬の味をカジュアルに楽しめるという。13階には、1600平米の「THA GRAND GINZA」がオープン。ダイニングのほか茶室もあるプレミアムラウンジ、バー、パーティー会場、多目的ホールを完備。エンターテインメント、ブライダルもカバーできる複合業態を展開するという。
グエナエル・ニコラ氏のデザインによる館内のイメージ。日本建築の障子や行燈などの光を参考に、風のように光が全体に回るデザイン。銀座や京都に残る路地をイメージして、通路を適度に雁行させることで、そぞろ歩く楽しみを演出したという
筆者が感じた「ギンザ シックスの4つの謎」
記者会見で全貌が明らかになると、期待が高まる一方、いくつかの疑問も多く浮かんできた。
(1)目標年商と目標来館者数が少ない?
J.フロント リテイリングの山本社長によると、初年度の目標年商は600億円。目標来館者数は年間2000万人だという。年商は三越銀座店が2015年度に約853億円を売り上げたことと比較すると、施設規模に対してあまりにも低い数字に思える。また来館者数も、開業して10年以上が過ぎた六本木ヒルズにはいまだに年間約4000万人もの来場者があることを考えると、少なすぎる印象だ。
(2)飲食店比率が低い?
最近オープンやリニューアルしている商業施設は、物販の割合が減り、話題になりやすく集客に直結する飲食の割合が大幅に増加しているのが特徴(関連記事「恵比寿の“新しい食堂”!? 『アトレ恵比寿西館』大解剖」、「玉川高島屋SC『マロニエコート』が“おしゃれ朝食スポット”に!?」)。だが同施設の出店の内訳を見ると、241の出店のうち、飲食は24店のみ。物販も最近はファッションよりもライフスタイル雑貨を扱う店が多いが、同施設では「コンランショップ」ほか数えるほどしかなく、圧倒的に貴金属やファッション系の店が多い印象だ。
(3)集客の目玉になりそうな店舗がない?
発表によると、総出店数241のうち、旗艦店が122、日本初が11、世界最大級が4、新業態が65、銀座初が81、日本最大級が3。たしかにすごいといえばすごいが、話題となって集客の目玉になりそうな店舗が見あたらない印象だ。海外人気店の日本初上陸が出し尽くしているのかもしれないが。
(4)なぜ唐突に「能楽堂」?
地下3階には、能楽最大流派である観世流の拠点「観世能楽堂」(480席、約1600平米)。「国際的な観光都市である銀座から、日本の伝統文化を発信したい」という気持ちは分かるが、商業施設で能はハードルが高すぎはしないだろうか。ただしこのスペースは、災害発生時には、帰宅困難者の一時滞在スペースとしても活用する予定ということだから、万が一のために覚えておくといいかもしれない。
最大の挑戦は、富裕層狙い路線!?
会見で何度も繰り返されたのが「最上級」「高級感」という言葉。あえていわれなくても、物販店のラインアップを見れば高所得層狙いであることは一目瞭然(りょうぜん)。「松坂屋単独での再開発も十分可能だったが、銀座初の百貨店である松坂屋は挑戦がアイデンティティー」(J.フロント リテイリングの山本社長)という。中央通りをはさんだ向かいにある「ユニクロ」「GU」がにぎわう時代に、あえてこうした高級路線を打ち出すことが、同施設最大の挑戦なのかもしれない。
左から、住友商事の中村邦晴社長、森ビルの辻慎吾社長、J.フロント リテイリングの山本良一社長、L Real Estateマネージング パートナーのマシュー・ルボゼック氏
(文/桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2016年10月31日付の記事を転載]
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