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危険水域に入った世界経済
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8133
2016年11月11日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
サマーズ元米財務長官が、10月9日付ワシントン・ポスト紙掲載の論説で、世界の政治・経済双方が制御不可能の状況に陥っていることへの不安を指摘、その根底にあるグローバルな経済停滞から回復するための提言をしています。要旨、次の通りです。
■コンロールを失った指導者たち
10月7〜8日の世銀・IMF年次総会は、経済停滞の長期化とポピュリズム政治の世界的蔓延を受け、指導者たちは事態のコントロールを失い、世界経済は海図のない危険な領域に入って来たのではないかという不安感に彩られていた。
不況が迫っているほどではないにしても、世界の主要地域の経済成長がほとんど止まっている中、中央銀行には利下げで景気刺激を行う余地がない。普通、利下げのためには5%程の余裕が金利にないといけないのだが、ゼロ金利状況の今、そのような状況はあと何年たっても訪れまい。
リーマン危機後の停滞は長期にわたり、もはや危機の後遺症と言うより、世界経済の構造的要因によるものとしか言えない。貯蓄が過剰、投資が不足、そして停滞が恒常化している。貯蓄を奨励するとともに財政にも負担とならず、同時に適正な成長をもたらすような利子率はない(注:金融政策だけでは事態に対処できない)。
経済成長率が年々下がる一方、成長の果実を享受できるのが一部の者だけということでは、選挙民の気が荒くなるのも無理はない。経済と政治は悪循環を起こして、事態を悪化させている。英国のBrexit騒動、米国でのトランプ・サンダース現象、欧州における右翼国家主義者の台頭、ロシアにおけるプーチン支配、中国における毛沢東個人崇拝の復活等、世界中で「ポピュリズム強権主義」(大衆独裁、あるいは衆愚政治)が目を覚ましている。
人々は、経済界のリーダー達が広く国民の利益に奉仕するのではなく、グローバルなエリート階級の利益にのみ奉仕していると思い込みつつある。そして経済界の指導者には、大衆もそのうち諦めるだろうと思っている者もいる。
しかし、大衆の気持ちを踏みにじる政策は長続きしない。他方、中南米で60年も続いているポピュリズム政治の結果が示しているように、過激な経済ナショナリズム(保護主義)も解決にはならない。我々の課題は、国際的協力を推進するとともに、同時にそれが原理主義者やグローバル・エリートの利益のみではなく、広汎な中産階級の利益に適うものにすることにある。
具体的な政策は、財政緊縮政策を捨て、投資を増やすことである。需要が不足し、高率インフレが起きにくい現在は、諸国の中銀は需要増進を政策の主要目標に据え、この面で政府と協同するべきである。財政においては、官民によるインフラ投資を増進せねばならない。世界中で、インフラ建設のための融資手段を充実させねばならない。
国際経済の中心的目的は、企業の利益より、働く者たちにとってのより良い結果であるべきである。そのためには、マネーロンダリング、企業の不当な利益誘導行為、節税・脱税行為への取り締まりも強化せねばならない。グローバル・エコノミーへの人々の信頼を取り戻すことは、次期米大統領にとって最重要の課題である。
出典:Lawrence H. Summers,‘The global economy has entered unexplored, dangerous territory’(Washington Post, October 9, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/the-global-economy-has-entered-unexplored-dangerous-territory/2016/10/09/a04852ac-8e24-11e6-a6a3-d50061aa9fae_story.html
サマーズは、世界の政治・経済双方ともが制御不可能の状況に陥っていることへの不安を指摘、右の根底にあるグローバルな経済停滞から回復するため、保護主義の克服、財政支出拡大によるインフラ建設推進、インフラ建設への国際融資体制の拡充等を提言しています。19世紀以来のリベラリズムの伝統をしっかり踏まえ、戦後世界経済の根本的問題を見据えた上で、骨太な政策論議を展開したものと言えます。
ただし、彼はこの数年、先進国経済は長期停滞(デフレ)の趨勢にあること、デフレ傾向=低金利の中では財政支出を拡大しても高率インフレにはならないことを指摘してきているので、本件主張は目新しいものではありません。また、彼は、中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)には前向きの発言をしています。
クリントン政権誕生の暁には、上記提言が幅広く採用される可能性があります。クリントンが選挙演説とは正反対の財政緊縮政策を提唱したスピーチが暴露されていますが、それは、数年も前のものです。
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