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ビールも日本はガラパゴス、税制正常化が先送りされる理由 山田厚史の「世界かわら版」(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/16/hasan114/msg/812.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 10 月 27 日 07:24:15: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

ビールも日本はガラパゴス、税制正常化が先送りされる理由 
http://diamond.jp/articles/-/105942
2016年10月27日 山田厚史の「世界かわら版」 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員] ダイヤモンド・オンライン


 10月24日月曜の夕刻、東京・赤坂のホテル・ニューオータニの宴会場「アゼリア」に、麻生太郎財務相、二階俊博自民党幹事長、高村正彦自民党副総裁、大島理森衆議院議長など政府・自民党の要人が次々に入っていった。

 通路入り口にはホテル従業員ばかりか、要人警護のSPが立ち、関係者以外の立ち入りを厳しく制止する。主催者はサントリーホールディング。佐治信忠会長、新浪剛史社長がホスト役を務め、宴会が行われていた。

 18:30、安倍首相が女性秘書官が伴って入場した。

 毎年この時期にサントリーは政治家を集めて懇談する。「恒例の会合」である。

「まるで閣議だね、集まった顔ぶれは」。宴会場から出てきた甘利明元財政経済担当大臣は開口一番そう語った。岸田外務相、稲田防衛相、塩崎厚労相、石原経済財政担当相など国会答弁に立つ有力閣僚のほとんどが顔をそろえた。首相が一時間足らずで退席すると、入れ替わるように菅官房長官が入った。

■自民党税調がビール系税率
一本化を見送った舞台裏

 この会合はもとをただせば「インナー」と呼ばれる自民党税調の幹部が主役だった。10月末に設定されるのは、年末に向け税制改革論議が始まるからだ。

「30年ほど前、与謝野馨さんや鳩山邦夫さんなど大蔵省に顔の利く議員をサントリーが集めて通称ビール会として発足した親睦会でした」

 当時を知る政治家は言う。「ビール税制をよろしく」とサントリーが自民党に挨拶する場とされてきたのである。

「この場では生臭いはなしは一切しない。そこは以心伝心で、別れ際に『よろしく』で話がつく間柄になる懇親の場です」といわれる。

 自民党税調は財務省に近い議員が主導権を握ってきた。近年は大蔵省OBの伊吹文明らが仕切り役だったが、伊吹が衆議院議長を降り、第一線から退いた頃から、税制論議の主導権は官邸に移る。背後には官邸と財務省の不協和音がある。

 消費税増税を悲願とする財務省に不信を募らす安倍首相は党税調の換骨奪胎を進めた。伊吹の後釜となった財務省OBの野田毅を会長から外した。後任は宮沢洋一元経産相。当選5回の軽量級を会長に据えて、党税調の発言力を封じた。

「サントリーが呼んだのは安倍に群がる顔ぶればかり。党総裁の任期延長でゴマを擦った政治家たちの会合ですよ」

 閣僚経験者の政治家は苦々しく指摘した。

 安倍親衛隊の集まりのようになったこの日の会合に、党税調最高顧問である野田毅の姿はなかった。呼ばれていなかった。宮沢洋一会長も出席していない。税調の重鎮として顔を出したのは、「謹慎」から復帰した甘利である。甘利の税調入りは、官邸の意向を税制論議に反映する人事と見られている。

 税の主導権は党税調ではなく官邸へと移ったと判断したのか、サントリーは政界工作のターゲットを変えた。24日の会合はその象徴だった。

 翌々日、NHKは朝のニュースで「自民党税調、ビール系税率一本化を見送り」と流した。決定事項のようで観測記事のような曖昧なニュースだった。「税調は開かれていません。なんでこんなニュースが流れるのでしょう」と税調幹部の秘書は首を傾げた。

「官邸からのリークでしょう。宴会の成果が早くも出た。おかしな時代になった」

 別の党税調関係者はいう。

 ビール業界からは「税率一本化見送りは、サントリーが望んでいたことだが、一体どこで決まったというのか」と不満の声が上がった。

■日本のビール市場は
世界で類を見ない「歪んだ市場」

「ビール税制正常化」は今年の税制改正の目玉のひとつになっている。

「ビールではない、ビールみたいな飲料」で競争する日本の業界は、世界で類を見ない「歪んだ市場」とされてきた。市場の現状を見てみよう。

 ビールは麦芽を原料とする酒というのは国際的な常識である。日本でも酒税法は原料の67%(3分の2)以上が麦芽であることをビールの条件としている。ビールは最も多く飲まれている酒であることから政府はビールに課税して国庫を膨らませてきた。その結果日本のビールは世界で突出した高税率となってしまった。

 1994年、サントリーが発泡酒「ホップス」を発売して状況は変わる。麦芽の量を3分の2以下に抑え、「節税ビール」を売り出したのである。高い税金を逃れる「ビールもどき」の飲料にメーカーはしのぎを削ることになる。

 ビールの旨さは麦芽にあるが、麦芽ゼロでもビールに似た味に仕上げ、莫大な宣伝費をかけて売りまくる。業界で「ビールもどき」と呼ばれる商法が、デフレ経済の中で広がった。

「技術革新」と呼ぶか「邪道」と考えるかは人それぞれだが、日本のビール市場が世界の趨勢からかけ離れた「カラパゴス化」に向かっているのは確かだ。

 日本で飲まれている「ビールもどき」が、味と値段で世界に通用するなら、それは技術革新の成果ともいえるだろう。残念ながら、その実績はゼロだ。世界のビール市場で麦芽を減らして味を出す、という奇策は論外とされるている。「ビールもどき」が売れているのは、税金対策という極めて異常な条件による「歪み」という認識では、業界と財務省は一致している。

 ビール系飲料で分野ごとに価格・税金の違いを比べると以下の通りだ。

 350ml缶で、ビールは221円、うち酒税が77円(税率34.8%)。発泡酒164円・酒税47円(同28.6%)、第3のビール143円・酒税28円(同19.5%)。

 ビール酒造組合がコンビニで売られている商品をもとに推計したもので、価格は量販店やスーパーの特売品に比べるとやや高い。

 ビールの酒税は量にかかるので、値段が下がっても税金はしっかりかかる。

 ビール系市場は1994年から減少に転じた。若年人口が減り、若者のアルコール離れが起きている。消費全体が低迷したこともあり消費量は落ちた。メーカーは購入しやすい「まがいもの」に広告宣伝費を投じ、家庭で飲むなら節税ビールという流れを作った。

 世界では大手ビール会社が合併や買収で巨大化し、メーカーの開発競争が激化している。そんな時に、日本はビール本来の旨味を追求するのではなく、節税ビールで、世界とは逆方向に開発費を投じている。

 内向き志向のガラパゴス化はビール業界にも浸透しているかのようだ。

■地ビール普及にも逆風
財務省・大企業・政局の論理

 そうした中で静かな変化が起きている。日本各地で地ビールやクラフトビールが生産されるようになった。「味は二の次」のまがいものに飽き足らない消費者が「味」で勝負するビールに注目するようになった。それが地域おこしのシンボルになり始めている。

 原料を吟味すればコストも上がる。大手メーカーの量産品に価格ではかなわない。地ビールは麦芽をたくさん使うため税率は高く、まがいものとの価格差は開くばかりだ。

 吟味した原料で、手間ひまかけて生産したことで値段が上がるなら消費者は納得できる。それが「税金の違い」で価格差が広がるので、リスクを取って地ビールに取り組む生産は浮かばれない。

 地域活性化のシンボルともいえる地ビールの普及を考えるうえでも高すぎるビール課税の見直しは必要だろう。

 ビール酒造組合は「高いビール税率を下げることで税率格差を解消してほしい」と政府に要望している。税率の低い第3のビールにビール系全体の税率を合わせれば消費者も歓迎だが、財政の論理はそれを許さない。

 財務省は「ビール税制の一本化は目指すが酒税全体では中立的とする」という姿勢だ。中立的とは、増税でも減税でもない、という意味。ビールの税金を下げ、発泡酒や第3のビールを上げる方向で調節する、ということだ。

 業界は内々にこの方向で合意しているが、面白くないのがサントリーといわれる。

 ビールは後発だが、ウイスキーで培ってきた香料や色素で本物らしく見せる技術には強い。「節税ビール」でシェアを広げてきた。

 主戦場になっている「第3のビール」は自社販売量の62%を稼ぐ。キリン(同35%)アサヒ(同24%)、サッポロ(31%)より「ビールもどき」への依存率が高い。

 サントリーは「一本化先送り」を密かに官邸に働きかけている、と業界関係者は見ている。

 政治家を説得する理屈は「大衆増税は反発を受けます」。節税ビールは不況下で家計をやりくりする庶民が求めるお酒だ。一缶140円が増税になると160円になり、税率一本化したら200円近くになる。おカネがある人が飲むビールは安くなって、庶民の節税ビールが値上がりする。これでは庶民をいじめることになる――。

 それも一理だが、背後にはあるのは自社の儲けであり、シェアの確保である。

 税率の一本化は昨年の税制論議でも取り上げられるテーマとされていた。発泡酒「ホップス」の登場以来、歪みまくってきた税制を正常化しようと財務省と自民党税調が重い腰を上げたのが昨年だった。間を取り持ったのが党税調会長だった野田毅だった。

 昨年も首相を囲む政治家の宴会が同じころ、同じ場所でサントリーによって開かれた。

「ビール税一本化は党税調で議論しない」というニュースが流れたのは、その直後だった。「大衆増税を掲げて参議院選挙は戦えない」というのが理由だった。

「来年度の課題」に持ち越されたが、また「先送り」。節目もまた、ホテルニューオータニでの宴会である。

 昨年は、次の夏の参議院選が視野にあった。宴会の裏で何が語られたのか。「解散風」が永田町に吹いている。

 

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