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コラム:
ECB「量的緩和縮小」観測は時期尚早
井上哲也野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長
[東京 12日] - 欧州中央銀行(ECB)の政策理事会メンバーが資産買い入れの縮小(テーパリング)を示唆したとの報道を受けて、ユーロ圏の長期金利は総じて反発した。
来年3月をめどとして運営されている資産買い入れのその後の扱いについて、前回(9月)の政策理事会で結論が得られなかったことに加え、同じく資産買い入れの「限界」が懸念されていた日銀が「量」から「金利」へと政策手段の重心をシフトしたために、市場関係者の間ではECBの金融緩和に関する見方が不安定化した面があるようだ。
しかし、ユーロ圏の現状に照らすと、ECBに金融緩和を後退させる余裕は見いだし難い。確かに、ユーロ圏経済は所得の回復や輸入物価の下落に支えられた個人消費をけん引車として、金融危機後のペントアップデマンド(繰越需要)による設備投資の寄与もあり、内需を中心に堅調な推移が見込まれる。ECBスタッフの最新見通し(9月)でも、2016年と17年の実質国内総生産(GDP)成長率(前年比)はそれぞれ1.7%、1.6%と潜在成長率を上回ると予想されている。
もっとも、9月の政策理事会に関する声明文や議事要旨に示されたように、ECBは新興国景気回復の遅延や英国の欧州連合(EU)離脱の影響が本格化することなどによる外需の下押しリスクを引き続き懸念している。
しかも、上述したECBスタッフの見通しでは、原油価格下落の効果剥落を考慮しても、2016年と17年の消費者物価指数(HICP)上昇率(前年比)はそれぞれ0.2%、1.2%と低位に推移すると予想されている。市場ベースだけでなくサーベイベースのインフレ期待も停滞しており、低インフレの長期化がインフレ期待の低位固定に至るという日本と同じ問題に陥るリスクは小さくない。
<マイナス金利深掘りの余地は小さい>
加えて、ECBが金融緩和を続けつつも、日銀のように資産買い入れから金利操作へ政策手段の重心を明示的にシフトすることも現時点では考えにくい。
第1に、ユーロ圏の金融経済には、民間部門のバランスシート調整と一部の国の不良債権問題という、現在の日本とは異なる課題が存在する。これらの問題を解決する際には、非金融法人と銀行を含む金融システムの双方にストレスがかかるとともに、健全な企業に対する与信が行われにくくなるリスクがある。
こうした弊害を抑制する上で、クレジットスプレッドやタームプレミアム(期間に伴う上乗せ金利)を抑制する効果を持つ資産買い入れが有効であることは、米連邦準備理事会(FRB)が実施した量的緩和第1弾(QE1)の経験からも明らかである。
第2に、ECB自身がマイナス金利政策の強化に関する限界を示唆し始めている。つまり、8月下旬にクーレ理事は、マイナス金利の実質的な限界点が、銀行券の引き出しが合理的となる水準でなく、金融仲介への影響が生ずるより高い水準にあると指摘し、マイナス金利政策の強化の余地が小さいことを示唆した。
また、ドラギ総裁やプラート理事は、先月下旬から今月初旬の一連の講演で、マイナス金利政策に対する銀行業界の批判に反論し、低収益の原因は過剰な数の銀行による過当競争や低成長環境下でのビジネスモデルの転換の遅れにあると指摘しつつも、マイナス金利政策による銀行収益への影響にも理解を示した。上記のようにユーロ圏では金融仲介の維持が特に重要である以上、ECBはこうした副作用への配慮に一定のウエートを置く必要がある。
<資産買い入れは持続性強化の余地あり>
このように、少なくとも当面、ECBは資産買い入れを金融緩和の重要な柱として維持せざるを得ない。すでにECBは資産買い入れのテーパリングという思惑を打ち消す努力を始めており、9月の政策理事会の議事要旨は、域内の中央銀行が実施している資産買い入れのレビューについて、あくまでもその円滑な実施を確保することが目的であると明記している。
また、目標とする資産買い入れ額を達成するためにいつでも条件(パラメーター)を調整し得る点を強調している。実際、ECBの資産買い入れに係る「限界」には、自ら設定したルール(買い入れ利回りの下限やECBによる保有シェアなど)による面もあるだけに、技術的には持続可能性を強化する余地が残されている。
もちろん、長い目で見れば、ECBによる資産買い入れにも「限界」は存在し、そうした限界は域内の資産市場が一様ではないというユーロ圏の構造問題に関わる面が大きいだけに、日本や米国に比べて相対的に早い段階で問題が表面化することは考えられる。その意味でECBも資産買い入れの長期戦略をも平行して考えているのだろうし、冒頭に挙げた報道もこうした議論がリークされたと理解すべきかもしれない。
大きな視点からは、資産買い入れをいかに長持ちさせるかよりも、所期の政策効果をいかに確保するかがより重要であることは言うまでもない。ユーロ圏の実体経済にとっては財政支出の活用による金融緩和への反応の強化、金融システムにとっては銀行部門の持続可能性の強化による金融仲介の維持の各々に向けた経済政策の補完が求められる。
*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
http://jp.reuters.com/article/column-tetsuya-inoue-idJPKCN12C0C0?sp=true
OPEC、過去最高の産油量で課題浮き彫りに
OPECの産油量は9月に過去最高となり、リビヤやイラン、ナイジェリアは増産を目指すとしている PHOTO: ASSOCIATED PRESS
By
BENOIT FAUCON
2016 年 10 月 12 日 15:42 JST
【ロンドン】国際エネルギー機関(IEA)が11日に公表した月報によると、石油輸出国機構(OPEC)加盟国の9月の原油生産量は過去最高に達した。OPEC加盟3カ国の当局者は今後生産量を増やす予定だとしている。
2年に及ぶ原油価格低迷をもたらした生産過剰に終止符を打とうとOPECが9月に合意した減産を達成するために、OPECがどれほど多くの課題を抱えているのかが浮き彫りになった。
OPECのバルキンド事務局長は11日、減産実施を協議するため今月中に会合を開くと述べた。またOPEC関係者は、減産で協力するためにロシアなどOPEC非加盟国と会合を持つとした。ロシアは今週、協力に前向きな姿勢を示している。
IEAは月報で「いま実際の作業が始まる」とし、市場に任せておけば供給過剰の状態は来年前半まで続く可能性があると指摘した。
月報によるとOPECの9月の生産は日量16万バレル増え過去最高の同3364万バレルとなった。9月の非公式会合では生産上限を日量3300万バレルに抑えることで合意した。
だがこの合意は、このところ石油産業に問題があったリビア、イラン、ナイジェリアを対象外としており、これら3カ国の増産が共同減産を目指すOPECの障害となっている。
IEAによると、3カ国の9月の産油量は8月に比べ合計日量12万バレル増えた。これら3カ国の当局者はさらに日量58万バレル程度増やす意向を表明している。これはOPECが目指している減産量にほぼ等しい。
この3カ国がさらに増産したため、サウジアラビアなど他の諸国がより大幅な減産を迫られることになる。OPEC最大の産油国サウジの9月の生産は8月に比べ日量約2万バレル少ない同1058万バレルだった。
生産量が増えたのにはさまざまな要因がある。リビアでは長く閉鎖されていた原油積み出し港を先ごろ支配した軍事組織が、出荷再開に合意した。地元当局者は同国の生産量について、OPECが提案している生産上限を算出する基礎となる8月の日量30万バレルから、70万バレルに増える可能性があるとしている。
欧米諸国による長年の経済制裁を受け生産量が減少していたイランは、制裁解除によって輸出を増やしている。
原油生産量の推移(日量・単位100万バレル)
https://si.wsj.net/public/resources/images/OJ-AQ192_OPECCU_16U_20161011142706.jpg
ナイジェリアは、武装勢力によって破壊されていた重要なパイプラインを修復し、最大日量20万バレルを増産する計画だ。
イラクは、OPECが使用するデータで最近の生産量が実際より少なく表示されており、同国の生産上限が不公正に低く設定される可能性があると主張して、OPECに新たな問題をつきつけている。
OPECは非加盟産油国とも協力しようとしている。
IEAによるとロシアの9月の生産量はソビエト連邦崩壊後の最高水準に達した。だがイスタンブールで開かれている世界エネルギー会議(WEC)でプーチン大統領は10日、ロシア政府はOPECの減産に協力する可能性があると述べた。
WECで11日にはロシアの石油大手ルクオイルのレオニード・フェダン副社長が「市場への過剰供給を減らすことは極めて重要だ」と述べ、同社は減産の用意ができていると語った。また「ロシアの全ての企業は直ちに減産の合意を支持した」と述べた。
サウジのエネルギー産業鉱物資源省によると、サウジとロシアの石油担当相は11日に会談した。ロシアのノバク・エネルギー相はWECで、この会談ではOPECが非加盟国と協力する計画や方法について話し合ったことを明らかにした。
またノバク氏は「今のところ、市場の変動リスクを軽減しバランスをとるために最も賢明で最良の方法は、生産を凍結することだ」と語った。
ロシアのメディアが11日に伝えたところによると、ノバク氏は6カ月またはそれ以上の間、ロシアは生産上限を設ける可能性があると述べた。サウジのエネルギー省は、両国の石油担当相は今月中に再度会談する予定だとした。
OPEC関係者は11日、バルキンド事務局長および加盟国のアルジェリアとベネズエラの代表者が12日に非加盟国の代表者と会い減産に協力するよう求めると述べた。非加盟産油国からはロシア、アゼルバイジャン、メキシコが出席する見通し。
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コラム:
英ポンドはどこまで下がるか
村田雅志ブラウン・ブラザーズ・ハリマン 通貨ストラテジスト
[東京 12日] - 英国のメイ首相が2日、来年3月末までに欧州連合(EU)離脱を正式通告すると表明してからポンドの下落が止まらない。ポンドドルは3日夕方に1.29ドルを下回った後も連日節目を割り込む動きを見せ、7日朝方には数分で1.18ドルまで急落する「フラッシュクラッシュ(瞬間的な急落)」に見舞われた。
週が変わってもポンドドルの下げは止まらず、10日には1.24ドル割れ。11日にはイングランド銀行(英中央銀行)金融政策委員会のソーンダース委員が、英財務委員会での証言で、英国の巨大な経常収支赤字が続く以上、ポンドが一段安となっても不思議ではなく、ポンド相場の短期的な変動に対しては懸念していないと発言した。
この発言を受けて、英中銀もポンド安を容認したとの見方が強まり、ポンドドルは一時1.21ドルちょうどと、EU離脱の是非を問うた6月23日の英国民投票前の高値(1.50ドルちょうど)から19%も下落した。これはドルが対円で(ドル円が)120円から97円に下落することに相当する。
メイ首相が保守党大会前までEU離脱プロセスについて明言を避けてきたこともあり、市場関係者の多くは、現英政権内では、EU離脱に伴い欧州単一市場へのアクセスを失う「ハードブレグジット(強硬な英EU離脱)」を回避する意向が強いと見なしていたようだ。しかし、メイ首相は2日の保守党大会で、EUから離脱をすることで移民コントロールの決定権を取り戻すと述べるなど、ハードブレグジットも辞さない姿勢を示した。
英国が本当に欧州単一市場へのアクセスを失うか否かは、EU側の意向次第の部分が大きい。しかし、メイ首相がEUの基本原則である「ヒト・モノ・カネ」の移動の自由のうち、「ヒト」の移動についての自由を拒否する姿勢を示している以上、EU側が英国だけに独自の移民政策を認めるとは考えにくい。今後の事態は流動的とはいえ、欧州単一市場へのアクセスを失うと考えるのが現時点では自然と思われる。
<70年代の財政危機時には25%下落>
英財務省は国民投票前の5月、仮に英国がハードブレグジットを選択し、EUとは世界貿易機関(WTO)協定を通じてのみ関係を有するようになった場合、EU離脱に伴う経済損失は今後15年間で国内総生産(GDP)比5.4―9.5%に達するとの試算結果を公表している。
ただ、こうした試算は、前提条件の設定次第であり、実際に発生する損失は経済指標などを通じて時とともに確認していくしかない。
為替市場に限らず、金融市場は不確実性の高い状況に対し、行き過ぎとも言える反応を示すものだ。ハードブレグジットによる英国経済の被害が現時点では具体的に見えていないだけに、ポンドが大きく下落してもさほど不思議ではない。
英国経済が危機にひんしたとされる過去の事例は主に3つある。「英国病」と揶揄されるほどの戦後の長期停滞を経て、第1次オイルショック後に財政が破綻し、国際通貨基金(IMF)からの融資を受けるに至った時期(1975―76年)、そして投機の対象となり、欧州為替相場メカニズム(ERM)からの離脱に追い込まれた前後の時期(1992―93年)、さらに直近ではリーマンショックに見舞われた時期(2008―09年)だ。これら3局面で、ポンドの実効レートは順にそれぞれ25%、17%、20%下落している。
英国民投票直前に記録したポンドドルの高値(1.50ドルちょうど)に、リーマンショック時の下落率(20%)を機械的に当てはめれば1.20ドルちょうどまで、70年代半ばの財政危機時の下落率(25%)を当てはめれば1.125ドルまで下落することになる。
1.125ドルという水準は、やや極端なものに思えるかもしれないが、ポンドドルはドル高圧力が強まった1985年3月に1.055ドル近辺の過去最安値を記録している。心理的な節目である1.20ドルちょうどや、85年5月の安値である1.188ドル近辺を割り込めば、1.125ドルや1.055ドル(過去最安値)も視野に入る。
<悪いことばかりではないポンド安>
ただ、EU離脱プロセスや離脱に伴う英国経済の姿に関する不確実性が高いとはいえ、ポンドがいつまでも下落を続けるわけではない。現に12日朝方には離脱プロセスで柔軟な交渉を求める英議会にメイ首相が譲歩するとの見方が浮上し、ポンドドルは1.22ドル台後半まで急反発した。
ポンド安の英景気への刺激効果も忘れてはならない。英国の輸出は、ポンド安が進展した7月、8月ともに前年比2桁増を記録。ポンド安で海外旅行者の消費を刺激したこともあって英小売売上高(除く自動車燃料)も両月とも前年比約6%増と2015年9月以来の高い伸びに加速した。ポンドが大きく下落し、英景気が拡大基調を強めていることもあり、英中銀は利下げを見送るとの見方も浮上している。
EU離脱に伴う英国経済への被害は、時間とともに広がるのに対し、ポンド安はEU離脱を織り込む形で先んじて短期間で進む。この結果、英国経済ではポンド安メリットが先行することとなり、ポンド安が進みにくくなるという皮肉な状況も生じつつある。一部で報じられているようにメイ首相が、英議会の意向を尊重し、ハードブレグジットを避ける判断に切り替える可能性もあり、ポンドが大きく買い戻されることも否定できない。
ポンドのインプライドボラティリティー(1カ月)は14.0%と7月19日以来の高水準に上昇するなど、今後のポンド相場は、上にも下にも大きく動く余地があると言えそうだ。ポンドは、観測報道も含め日々の材料に対し大きく反応するものの、特段の方向感を見いだしにくい展開が予想される。
*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社)
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-masashi-murata-idJPKCN12C0C7?sp=true
EU離脱手続き開始「議会で採決せず」と英首相報道官
[ロンドン 12日 ロイター] - 英国の首相報道官は、欧州連合(EU)離脱手続きを正式に開始するリスボン条約50条の発動について、議会で採決することはないとの見方を示した。
これを受けて上昇していたポンドは下落した。
メイ英首相はこれに先立ち、EU離脱の政府案について議員による一定の精査を認める方針を示した。これによりポンドは大幅に上昇していた。
ポンドGBP=D4は対ドルで0905MGT(日本時間午後6時05分)現在1.2265ドルで1.3%高。首相報道官の発言前は1.2270ドル、報道官発言後は一時1.2240ドルまで下落した。
http://jp.reuters.com/article/britain-markets-sterling-idJPKCN12C109
タイの株・通貨が下落、国王の健康懸念などで
[バンコク 12日 ロイター] - タイの主要株価指数は12日、6%超下げ、通貨バーツも売られた。プミポン国王の容体が不安定と発表されたことなどが圧迫材料となっている。
首都バンコクで爆破計画が進められているとして警察が警戒を強めていることも相場を圧迫している。
バンコク市場の株価指数.SETIは一時6.9%安となり、3月1日以来の安値をつけた。航空・観光関連株の下げが目立っている。
バーツは対ドルTHB=THで一時約8カ月ぶり安値をつけた。
http://jp.reuters.com/article/thailand-markets-idJPKCN12C0S6
2016年の市場に起こった逆転現象
不安が欲に変化し、投資が高リスク資産に移行
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S&P500種構成銘柄の上期のベストパフォーマーだったのはコロラド州に拠点を置く金鉱大手のニューモント・マイニング。写真はニューモントのベンチャーが運営するオーストラリアの金鉱山 PHOTO: KIM CHRISTIAN/EUROPEAN PRESSPHOTO AGENCY
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JAMES MACKINTOSH
2016 年 10 月 11 日 16:43 JST
今年、次のような取引だけを実行した投資家は素晴らしいリターンを上げたはずだ。上期のパフォーマンスが上位だった資産をすべて売り、パフォーマンスが下位だった資産すべてを買うという取引だ。
パフォーマンス上位が下位となり、下位が上位となるというその逆転現象はほぼすべての資産で起きてきた。
ウォール街の皮肉屋たちであれば、これを単なる市場のノイズと見なそうとするだろう。ある取引に飽きると何か新しいものを始めるカジノ資本主義者たちによる利益確定売りにすぎないと。しかし、この市場の急な方向転換には、投資で利益を上げようとしている人々にとって、シグナルとより深いメッセージの両方が込められている。
不安から欲への転換と筋書きの変化
シグナルとしては不安から欲への転換だ。S&P500種構成銘柄の上期のベストパフォーマーだったのはコロラド州に拠点を置く金鉱大手のニューモント・マイニング。金の価格が米国債(利回りが低下すると価格は上昇する)と同時に高騰したことで、同社株は値上がりした。ところが6月末以来、投資家は再び欲深くなり、現金の保管場所として金利の付かない金や面白みがないのに値が上がり過ぎた米国債を利用することをためらうようになった。ニューモントの下期のパフォーマンスは今のところ、S&P500種構成銘柄の中で480位となっている。
不安が消えたことで、投資家は上期には避けていたよりリスクの高い株式にも手を出すようになった。上期のパフォーマンスでは最下位に近かった米ハードディスク駆動装置(HDD)大手シーゲイト・テクノロジーの株式だが、割安株が再注目されたこともあり、6月末以来のパフォーマンスではS&P500種指構成銘柄の中で1位となっている。
左)S&P500種指数のセクター別の上期(緑)と下期(黄色)のパフォーマンス 右)G7の株式市場の上期と下期のパフォーマンス
https://si.wsj.net/public/resources/images/OJ-AQ168_STREET_9U_20161010143008.jpg
より深いメッセージとしては、市場を突き動かしている筋書きがある。今年の安全性に対する需要は国債の異常な高騰を招き、先進諸国の国債の利回りをばかげた水準にまで押し下げた。日欧の中央銀行の積極的な措置と米国経済への懸念が相まって、国債の低利回りがほぼすべての資産クラスに波及。投資家は代わりとなる投資先を模索し始めた。ところが7月8日にその筋書きが変わった。予想を上回る米雇用統計が発表されて安心感がもたらされたのだ。そのとき多くの投資家は、世界の景気が落ち込んでいく場合にのみ理にかなうような割高なディフェンシブ株や利回りが0%もしくはマイナスの国債を保有するなど、完全に安全地帯からはみ出していた。
雇用統計はエコノミストたちの予想を上回っていたが、コンセンサス予想との差は米労働局が示している誤差の範囲10万人を下回っていた。昨年と一昨年の10月の雇用統計は予想をさらに大きく上回っていた。しかし、7月に公表された数値は特別だった。投資家がやきもきしながら保有していた資産は割高で、景気が落ち込んでいくという支配的な筋書きを損なう材料に対して過敏だった。
あらゆる資産で逆転現象
欲への回帰にはニューモントやシーゲートをはるかに超えたより深い影響がある。ほぼすべての銘柄が逆転したのだ。上期の上位10銘柄のうちで下期の上位250位以内に入っているのは3銘柄だけで、上期の下位10銘柄中7銘柄が下期の上位200位以内に入っている。
こうした逆転現象は、国債市場からの波及効果が目立つセクターにおいて最も顕著だ。上期のS&P500種構成銘柄で上昇率が高かったのは公益事業株と通信株で、両セクターは国債の代替と見なされている。その一方でハイテク株と金融株のパフォーマンスは断トツで最下位だった。ところが6月末以来、状況は見事に逆転。通信株と公益事業株が最下位セクターへと落ち込み、ハイテク株と金融株が大差で最上位セクターになっている。
こうした逆転現象は国際的にも当てはまる。慢性的に低迷しているイタリア市場を除くと、先進7カ国(G7)の株式市場の順位は6月末を境に逆転した。為替変動の影響を除くと、上位3カ国だったカナダ、米国、英国は下位3カ国に、下位3カ国だったドイツ、フランス、日本は上位3カ国に転じた。主要な資産クラスについても同じことが言える。上期に保有していて最ももうかった国債は日本国債だが、下期のリターンは最低となっている。金も上期には最も有利な保有資産だったが、下期に入ってからは大きく低迷している。
筋書きとセンチメントに注目
もちろん、例外もある。新興国市場は上期、下期の両方で素晴らしいリターンを生み出してきた。それを後押ししたのが、中国当局による景気刺激策と、エネルギーセクターが国債価格ではなく原油価格と連動する形で力強い回復を続けたという2つの筋書きだ。
投資家は市場の動きを説明する筋書きを注視する必要がある。他の投資家たちの不安や欲にも細心の注意を払わなければならない。そうした感情が過剰であればあるほど、市場はその筋書きを揺るがすニュースにますます敏感になる。
最近の調査によると、現在の市場のセンチメントはニュートラルに近いという。そうしたこともあり、10月7日に発表された9月の米雇用統計は予想を下回っていたが、市場に与えた影響はほとんどなかった。現在の支配的な筋書きは適度に上昇しているインフレ、12月に実施される可能性が最も高い米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ、そして緩やかで着実な成長だ。いずれはその柱が揺らぐこともあるだろうが、少なくとも今のところ、市場は悪いニュースに対して過敏になっていない。
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