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ドイツ銀行の株価下落は深刻。「10月危機」の引き金を引くことになるのだろうか(写真:ロイター/アフロ)
日本株に忍び寄る「欧州発10月危機」の足音 ドイツ銀の株価が物語っている状況の深刻度
http://toyokeizai.net/articles/-/138047
2016年09月29日 江守 哲 :エモリキャピタルマネジメント代表取締役
日米の金融政策決定会合から1週間が経った。米国では利上げ見送りが市場に安心感を与える一方、日本では政策の内容に対するネガティブな反応が見られる。米FRB(連邦準備制度理事会)は市場からの批判を極度に恐れる一方、日銀は本来取るべき政策の方向性を誤ったままである。
いずれも中央銀行としての役割を果たせていない点は同じだが、このような愚策がいずれ大きな問題を引き起こすのではないかと筆者は危惧している。
■FRBは株価動向を気にしすぎる
米国については、FRBがいかに株価動向を気にしているか、ということに尽きる。昨年などは、イエレン議長が株価動向に言及したのちに体調不良になったとのうわさが広がったこともあるくらいだ。
それだけ、FRBは株価動向に神経質になっている。それは今も同じである。さらに言えば、株価が下がらないように、性急な利上げの回避に腐心してきた感がある。今回の米FOMC(連邦公開市場委員会)直前に、あれだけの数のFRB関係者が利上げの可能性を示唆していたのをご記憶の方も多いだろう。
今回利上げしなかったのは、利上げ確率が全く上昇しなかったことから、今の状態で利上げすれば、市場を驚かせると考えたのであろう。しかし、これはまさに本末転倒である。それは、3名の委員が利上げを支持したことにも表れている。
つまり、米国はすでに利上げすべき状況にあるということである。しかし、このように利上げを見送らざるを得ない状況に自らを追い込んだ後に、いつどのような理由で利上げができるのだろうか。
今回発表された、FRB関係者の利上げ見通しでは、年内に1回、来年は2回の利上げが見込まれている。しかし、現状では年内の利上げも難しいのではないかと思わせるほどの市場への気遣いぶりである。
FRBが今後の経済データなどを考慮したうえで判断するのだろうが、もし株価が大幅下落した場合には、むしろどのような反応を示すのだろうか。FRBの政策方針はすでに形骸化しているように思われる。
一方、日銀の政策に対する市場の評価も、やはり芳しいものではない。筆者の知る市場関係者の間でも、今回の新しい政策枠組みはものすごく反応が悪い。厳しい評価をする人が大半である。それは当然であるため、今さら論評するつもりはない。
それに加え、前回の会合で決まったETF(上場投資信託)購入額の増額による日本株の買い支えにも、やはり感心しない。
いったい、現状の株価水準と企業の実力との差をどのように埋めるつもりなのだろうか。株価を支えることで、インフレになるとでも考えているのだろうか。
それ以上に問題なのが、企業価値と株価とのかい離が拡大することにより、市場の健全性が失われ、市場参加者が減少することである。日本株は割高なので買わない、とはいえ、日銀のETF買いがあるため、空売りしても下がらないので妙味がない。
こうなってしまうと、参加者は着実に減っていくだろう。非常に残念である。10月に入ってしばらくすれば、今年上期の企業業績が徐々につまびらかになる。
■株価の調整が不可避なのに、価格が捻じ曲げられている
現在、日経平均株価の構成銘柄(225)の「1株当たり利益」は1177円だが、8月には1200円を超えていた。つまり、着実に切り下がってきていることになる。
ドル円の影響を冷静に考慮すれば、1株当たり利益が現状から引き上げられることは考えにくい。つまり、株価収益率(PER)が現状の14倍から12倍程度まで売り込まれるだけで、現在のドル円が100円の場合の日経平均の適正レベルと考えられる1万4000円程度まで容易に調整されることになる。
実際には、12倍でなくとも、1株当たり利益が下方修正されれば、PERが変わらなくても、株価水準自体は自動的に低下することになる。このように、株価の調整はほぼ不可避なのだが、結局は日銀のETF買いが本来あるべき株価水準を捻じ曲げている。本当に困ったものである。
さらに、市場ではもう一つの懸念が浮かび上がっている。それはドイツ銀行の問題である。
市場関係者の一部には、この問題はリーマンショックのようにはならないとの声もある。しかし、この見方は全くの理解不足である。
そもそも、リーマンショックは、名前こそそのようについているが、実際にはサブプライムローンショックである。実際の問題発生は2007年初めごろである。リーマンが破たんしたのは、2008年の9月であり、相場こそ大きく変動したが、問題が収束する最終局面であった。
そもそも、海外では、これら一連の問題をリーマンショックとは呼ばない。「金融危機(Financial Crisis)」である。これを理解していない市場関係者がいまだに多い。
リーマン自体は、市場でも主導的な立場にあったわけではなく、市場では「つぶれても仕方がないだろう」と考えていたほどである。だからこそ、米国政府が見放したのである。
筆者も含め、プロの市場関係者が驚いたのは、リーマンクラスの金融機関が破たんしたことによる市場の反応に対してだった。逆に言えば、市場がその時期においても、まだポジションの処理が進んでいなかったということである。
■ドイツ銀行の株価が物語る、状況の深刻さ
いずれにしても、今回のドイツ銀行の規模とリーマンブラザーズのそれとは、比較する意味すらない。それだけ、規模が違う。そもそも、同行に問題がなければ、株価が上場来安値を付け、年初来でも半値以下になるようなことはないだろう。
そして、その株安の元凶はサブプライムローン問題とみられているのだから驚きである。「この問題がいずれ大きな惨事に発展する可能性は相当高い」と考えるのが常識的であろう。
現在の市場には、思っている以上に非常に多くの火種がある。もちろん米大統領選もそのひとつである。26日の候補者テレビ討論会(第1回)では、民主党候補のクリントン氏が共和党候補のトランプ氏を上回ったもようだが、討論会はあと2回ある。
また、有権者が最終的にどちらに投票するかは未知数である。いずれにしても、懸念材料が満載の秋に、米国株は1年で最も下げやすい3週間の真っただ中にあることになる。
もし10月半ばまで、現状の株価水準が維持されていれば、筆者にとってはそれは驚きでしかない。最終的に市場がどのような判断を下すのか、じっくりとみていきたい。
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