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東急電鉄が開発した、たまプラーザ(横浜市青葉区)。広い道路や整備された遊歩道、駅前に立つ百貨店などが、ブランドイメージを高めた(撮影/今祥雄)
かつては“高嶺の花”ニュータウン いまは地価8分の1 一挙に高齢化〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160920-00000250-sasahi-soci
AERA 2016年9月26日号
鉄道会社がニュータウン開発を始めて1世紀。阪急電鉄の創始者、小林一三が作り上げた経営モデルが岐路に立っている。ニュータウンの光と影を追った。
かつて「多摩の田園調布」の異名をとった高級住宅地が、東京都多摩市にある。
その名は「桜ケ丘住宅地」。
最寄り駅は、新宿から京王線特急で約30分の「聖蹟(せいせき)桜ケ丘駅」。駅を出て坂道を上ると、山を切り崩して造成された場所に家々が整然と並んでいる。
実はこの住宅地、ジブリファンにとって「聖地」ともいえる場所で、ジブリ映画「耳をすませば」の舞台として知られる。映画は中学3年の女の子、月島雫の初恋を描いた物語。駅から住宅地に向かって歩くと、映画に出てきた坂道や神社、ロータリーなど映画そっくりの風景が点在する。丘からは、雫が「空に浮いているみたい」と感激した美しい街並みも広がる。
住宅地を開発したのは、京王電鉄だ。同社が最初に手がけた大規模ニュータウンで、1960年に工事を始め、62年に分譲を開始。71年までに約1300区画の販売を完了した。新時代の高級分譲地を目指して造られ、都市ガスなど近代的な都市生活に必要なものを備えた、国内では類を見ない本格的な街だった。子育て世代がこぞって入居したが、半世紀以上が経ち、深刻な高齢化にあえいでいる。
●「坂道はつらいわ」
8月下旬、残暑の中、杖をついて住宅地の坂道を歩く住民の女性(82)は、「坂道はつらいわ」とため息をついた。
65年ごろ、結婚して子どもが生まれたのを機に埼玉県から移り住んだ。同時期に神奈川県内にできたニュータウンへの引っ越しも考えたが、最寄り駅に特急が止まる便利さと、何より環境が気に入ったという。
今もその美しい街並みと静かな環境は変わっていないが、住民が老いた。桜ケ丘1〜4丁目の現在の人口は約6千人だが、高齢化率は約38%と、3人に1人以上は65歳以上だ。
最大の要因が、坂道だ。住宅地までは駅から大きく曲がりくねった急勾配の坂道が1キロ近く続く。高低差は約50メートルあり、歩くと中心部まで20分近くかかる。若い世代はこの坂道を嫌い、成人すると街を出た。先の女性の2人の子どもも結婚すると、通勤に便利な都心のマンションに引っ越したという。
住民によれば、バブル期、住宅地は1坪当たり400万円の値がついたという。89年10月27日の朝日新聞は、桜ケ丘の80坪の土地と家を売り2億円を手にし、広島に一戸建てを買い、息子には都内のマンションを買い与えたという、ある女性の逸話を紹介している。それが今や、
「1坪当たり40万円から60万円。平均で50万円程度でしょう」(地元の不動産業者)
●空き家増え治安も心配
当時の8分の1近い価格だ。それでも買い手は容易につかず、住宅地には空き家や草が生い茂る空き地が点在する。先の女性は、治安も心配だという。
桜ケ丘住宅地だけではない。いま鉄道会社が造った多くのニュータウンが高齢化や人口減に直面する。西武鉄道が開発した松が丘住宅地(埼玉県所沢市)、東武鉄道が開発した東武CITY幸手(埼玉県幸手市)、相模鉄道が開発した南万騎が原駅(横浜市旭区)周辺……。
鉄道会社のニュータウン開発の歴史は、戦前にまでさかのぼる。『沿線格差』(SB新書)の執筆者の一人で、鉄道に詳しいライターの小林拓矢さんは言う。
「最初に鉄道事業に沿線開発を取り入れたのは、関西の阪急電鉄。不動産で収益を上げるのが目的です」
1910(明治43)年、阪急電鉄の創始者でカリスマ経営者の小林一三は、梅田─宝塚間(今の阪急宝塚線)と石橋─箕面間(今の阪急箕面線)を開業させる。当時沿線は農地が広がるだけで電車は「ミミズ電車」と揶揄されたが、彼は沿線に約2万7千坪の土地を購入し、全国初の住宅ローン販売を導入、大阪のサラリーマンを対象に庭付き住宅の分譲を始めた。中流サラリーマンが郊外に家を持つことが可能になり、分譲地は瞬く間に完売。阪急宝塚線の池田駅西側に広がる室町住宅(池田市)は、今も高級住宅地だ。
●ブランド化に成功
鉄道事業に詳しい政策研究大学院大学の家田仁教授(交通・都市政策)は、鉄道を敷設しその沿線の宅地を開発する小林一三の鉄道経営モデルを「コンバイン(結合)型のビジネスモデル」だという。
「このビジネスモデルのメリットは鉄道側と地域開発側の両面にあります。まず、鉄道側からすれば、鉄道を敷くには膨大な初期投資が必要だが、沿線に宅地開発をしておくことで開業当初から旅客を見込める。地域開発側からすれば、鉄道アクセスがあることを売りに住宅地を販売できます」
この手法を取り入れたのが、関東の東急電鉄だ。元々、不動産会社が母体で、ニュータウン開発には特に力を入れた。とりわけ渋谷から横浜方面へと延びていく「田園都市線」は60〜70年代にかけ、横浜市青葉区のたまプラーザ、あざみ野、青葉台といった駅周辺にニュータウンを開発。成熟した高級な雰囲気が「東急ブランド」を生み出し、今も変わらず若者をはじめ多くの人を集め続ける。
●老年化する三つの特徴
建築家で東京藝術大学の藤村龍至准教授(建築科)は、老年化するニュータウンに共通する特徴として(1)規模が中途半端(1千から3千戸程度)、(2)開発期間が短い(5年から10年程度)、(3)駅から遠い(バスで10分以上程度)──この三つが挙げられるという。
「開発時に短期間に一斉に入居が行われたニュータウンでは住民の高齢化も急速で空き家も増え、若い世代が敬遠します。逆に言えば、民間企業が不動産の管理や運営に参入できる5千戸以上程度の一定規模があり、30年程度ゆっくり年月をかけて開発され、人口バランスが良く、交通が確保されている一部のニュータウンでは、しっかり活力を維持できています」
急激に高齢化するニュータウンの再生に向け、電鉄会社ができることは何か。
京王電鉄は、沿線で進む高齢化に向け、聖蹟桜ケ丘駅近くに今年5月、介護付き有料老人ホームを開業させた。来春には、自立した生活ができる高齢者を対象にしたサービス付き高齢者向け住宅も同駅近くに開業させる予定だという。
「高齢者の不安や不便さを解消し、地元の医療機関とも連携します。一方、空き家になる入居者の自宅は賃貸などで有効活用し、子育て世代や若者などの入居を促す仕組みを設けたい」(同社広報部)
前出の家田教授は、大切なのは、若者も高齢者も住みたいと思うクオリティーの高い沿線をつくることだと提言する。
「そのためには、鉄道会社が沿線経営は使命であるという精神を持てるかどうか。ただ電車を走らせるだけでなく、沿線に住む人に喜んでもらえる文化や空間、施設をつくっていくのが役目と思うこと。それがひいては若者を引きつけ、ニュータウンを活性化させていきます」
(編集部・野村昌二)
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