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『コンビニ人間』にみる普通と狂気の境界 人間と店員は別の生き物
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 9 月 15 日 01:41:00: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

『コンビニ人間』にみる普通と狂気の境界

著者に聞く

芥川賞受賞、村田沙耶香さんに聞く
2016年9月15日(木)
鈴木 哲也

 第155回芥川賞に選ばれた「コンビニ人間」が幅広い層に読まれている。主人公は36歳の未婚女性で、コンビニエンスストアのアルバイト歴が18年。子供の頃から社会の常識になじめず、これまで一人も彼氏がいないが、マニュアルに沿ってコンビニで働いているときだけは、「世界の正常な部品」になったと、安心することができるのだ。そこに婚活目的の男性が新人バイトとして入ってきて、物語は展開していく。
 著者の村田沙耶香(37)さんは、作家業と並行して、コンビニの店員を続けていて、そのバイトの体験を元にした小説を初めて書いた。世の中の人が信じる「普通」とは何なのか。そんな問いを投げかける受賞作に込めた思いや、これからの創作活動について聞いた。

(聞き手は鈴木哲也)
受賞が決まってから、どんな気持ちで過ごしてきましたか。

村田 そうですね。自分の小説について、こんなにいろんな人からいろんな言葉をもらった1カ月間はないというくらい、感想やお祝いの言葉、厳しいお言葉も含めて、すごくいっぱい栄養をもらいました。次に書くための栄養をもらった1カ月間だなと思っています。


村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生まれ。小説家。玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年、「授乳」で第46回群像新人文学賞優秀作受賞。
09年、『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。
13年、『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。
16年、『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
他の著書に『マウス』『殺人出産』『消滅世界』など。(写真:的野 弘路)
村田さんにとってのコンビニは聖域なので、なかなか小説のテーマにする気にならなかったそうですね。どうして聖域だったのですか。

村田 自分自身、学校とかで、友達はいたのですが、話しかけてもらって友達になってもらうような内気な子で、積極的な子に救われながらの学校生活でした。大学生になって、コンビニでバイトすることで初めて、すごくいろんなことと対等になれたというか、対等な関係で友達になれた感じがありました。すごく自然に男友達ができたりとか、ちょっと上の世代の友達もできたりとか、自分ではすごく世界が広がった場所でした。自分にとってはすごく大切な場所で、あまりに感情移入もあり過ぎて、小説やエッセーにも多分あまりできないだろうなとずっと思っていました。

それでもコンビニの小説を書いてみようと思ったのは、どうしてですか。

村田 最初はオタクの女の子を主人公にして性愛を描いてみたいと思っていて、それを書いてはボツみたいなことを繰り返していました。前に書いた『消滅世界』という作品をずっと引きずっていて、担当の編集さんに「重なっていたら指摘してください」と言うと、「重なっていると思います」とおっしゃるのですね。それで、一旦全部捨てようと思ったのです。いっそオタクの女の子が主人公という設定も全部捨ててみようと思ったときに、コンビニという場所を舞台にしようかなと急に思いました。

コンビニという仮面を脱いだ人間の姿に目が行く

『コンビニ人間』を読むと、コンビニが好きという思いも伝わってきますが、もちろん単純に肯定しているわけでもない。小説家の目でみると、コンビニの変なところ、少しグロテスクなところも、見えてきたと、村田さんは記者会見などで話していましたが、それはどんなところでしょうか。

村田 国籍や男女を問わず、全く同じ服を着て、男女の差があまりないのです。お店では外国の方が一緒にいっぱい働いているということをずっと経験してきましたが、そういう方が「これ温めますか」とか、コンビニ用語を片言ながらも、だんだんナチュラルにしゃべれるようになっていきます。みんなが、コンビニの店員という形に、足並みをそろえていく感じ、それは前から、おもしろいなとか、不思議だなと思っているところです。
 でも、私は「コンビニ愛」が強いので、書いていて思ったのは、コンビニというよりは、むしろ普通の人間の、コンビニというものを脱いだ普通の生身の人間のグロテスクさみたいな部分に、目が行くようになりました。

 『コンビニ人間』では、そこで働いている人たちの、生身の人間としての実態が、ユーモアも交えて描かれています。

村田 そうですね。いつも自分がコンビニにいるときは、みんなが店員とか店長といった役割やペルソナ(仮面)をかぶっている部分を、素晴らしいな思ったり、尊敬し合ったり、影響し合ったりという中で働いています。でも、小説を書くに当たって、登場人物たちの、その仮面を脱いだ姿、人間の姿というのにちょっと目が行くようになった。何かそういう感じがしています。小説を書くに当たっては嫌な部分も描きたくて、嫌な人間、人間の嫌な側面も書きました。

小説の中では、自分自身がコンビニで働いているのに、「コンビニのバイトなんて」というようなこと言う人たちが出てきます。これも人間の本性ということかもしれません。実際、村田さんが働いている場所でも、似たようなことがありましたか。

村田 一緒に働いている内部の人間というよりも、やっぱり外の人から言われることが多いですね。コンビニバイト、誰でもできる、みたいに。例えば同窓会とか、めったに会わない人とかのほうがそういうことを言いますね。
 私自身、ちょっと悲しい気持ちがどこかにあったのでしょうね。

小説では、何歳で結婚して、正社員で就職して、というように世の中が「普通」を押し付けてくる息苦しさが描かれています。コンビニというものに対する世の中の視線にも似た問題があるのでしょうね。

村田 イメージでしょうね。コンビニでバイトしている、イコール楽なバイトをしているみたいなイメージを持っている人が一定数いるなと感じるときはあります。大切な仕事だと思っているので、ちょっと悲しい気持ちにはなりますね。

この奇抜なタイトルでいいか、最後まで悩んだ

バイトも含めて店員さんの働き次第で、お店の売り上げはかなり変わるものではないですか。例えば村田さんは商品の発注などもしますか。

村田 最近は消耗品といって、お箸となどの発注しかしていないのですが、以前勤めていたお店では結構売れるもの、例えばチョコレートやお握りとかもやったことがあって、結構大変でした。今週は新商品の何を100個売りますとか、そういう目標みたいなものを立てて、売り場をつくって、POPをつくってということをしていく。例えば新商品のチョコレートを何百個も売っていく店員さんもいれば、全然売れないところに置いちゃう店員さんもいる。店長が指示もしますが、店員の力も大きいかなと思っています。

『コンビニ人間』という題名は、インパクトがあります。題名はいつ決めたのですか。

村田 書いている途中で、ラストが決まったぐらいの時点で決まったのですが、でも、本当にこのタイトルにしていいかということは、最後まで悩みました。すごく奇抜なタイトルになってしまったので。

安部公房の小説『箱男』を連想しました。

村田 何かちょっと、安部公房っぽさがありますね。安部公房の時代は、こんなに、コンビニはなかったと思うのですが(笑)。

村田さんのほかの作品でも、SF的な設定など、安部公房の世界観と似たところがありますね。

村田 影響は受けている部分はあるのかもしれないです。好きなので。

小説の主人公の次のような言葉が印象的でした。「私にはコンビニの『声』が聞こえていた。コンビニが何を求めているか、どうなりたがっているか、手に取るようにわかるのだった」。村田さんご自身も、こういうイメージを持っているのですか。

村田 いや、私はそこまでの領域に達したことはさすがにないですね。あれはほとんど狂気と言っていいほどコンビニというものにのめり込んだ人が聞こえる領域なのです。でも、自分は小説に対してですが、小説がこうなりたがっているみたいなことはあります。作家は、小説の声に耳を傾けるとよく言いますが、そういうことをイメージして、そういうことをコンビニでやっている人という気持ちで書きました。

多い感想、女性「すかっとする」、男性「怖い」

村田さんが小説を習った、芥川賞作家の宮原昭夫先生は、「小説は作者の思いがけないことが起きる時がある」と、話していたそうですね。

村田 「作者は小説の奴隷だ」という言葉を先生がおっしゃっていました。作者は、主人公が主人公らしく生きることに奉仕する奴隷だ、とも仰っていました。例えば、どうしてもハッピーエンドにしたいと作者が思っていたとしても、小説がなりたがっている形として、ものすごく悲劇的な結末が物語として必然であるなら、それに従うしかない。自分の意思ではなくて、小説の意思に従うしかないというふうに教わりました。『コンビニ人間』では、そういうイメージをコンビニに投影してみました。

 記者の仕事でも、記事に書かされたことってありますか。記事の神様みたいな存在を感じることはないですか。

いつか言ってみたいですね、そういうふうに(笑)。『コンビニ人間』の最後ですが、これはハッピーエンドなのでしょうか。

村田 自分では、主人公にとっては少なくともハッピーエンドという気持ちで書いています。また読み手にとっては、「すかっとした」という人もいれば、「ものすごく怖かった」という人もいる。はっきり2つに分かれます。

「ディストピア小説」のように読めなくもないじゃないですか。

村田 そうですね。わりと女性は結構「すかっとした」という方が多い気がしますね。男性のほうが「怖かった」という意見をよく聞く気がします。

この女性の主人公は、ある意味、周りが何と言おうと、自分を貫いてしまっていますからね、最後まで。

村田 そうですね。そのすかっと感があるのかもしれないですね。

村田さんは、「人間が好きで小説を書いている」と、おっしゃっていますよね。

村田 はい。人間が好きですね。私の作風的に人間嫌いで世界が嫌いじゃないかと言われるときもあるんですが、私も人間がわりと好きだし、世界もわりと好きと思って書いています。
 でも、ちょっと変なことかもしれないですね、それでこういう作風だというのは。でも、人間のグロテスクな部分が結構好きなんですよね、生々しい部分とかを、可愛らしい、面白いというふうに思います。

『コンビニ人間』に登場する人たちも、やたらと噂好きなところだとか、グロテスクなところがありますね。

村田 そういう生々しさを書くのが、小説を書いている中で喜びでもあります。

「カースト」に苦しむ人間への興味

村田さんが、コンビニで働いているときに、会う人々が好きだとも、おっしゃっていますね。

村田 店員なので、お客様に対しても、性善説というか、嫌な人だなと思うより先に、早くスピードを上げて対処をしようというような眼でしか見ません。店員さんに対しても、私はいいところを見つけたいと思って一緒に働いていて、ちょっと気持ち悪いくらい性善説で働いているのです。だから、それもあって、自分はコンビニをやめるまでは、ここを舞台にした小説を書くのは無理だなと思っていました。働いているうちは、性善説の世界を出られないだろうと思っていました。


人間の生々しさを書くのが、小説を書く喜びでもある(写真:的野 弘路)
2013年に三島由紀夫賞を受賞した『しろいろの街の、その骨の体温の』
では、主人公の女性が通う中学校の女子たちが、容姿などで階層に分かれている、いわゆる「スクールカースト」が、小説のベースにありました。『コンビニ人間』でも、大人の世界の階層や、仕事についての差別といった、テーマも含まれていると感じました。

村田 私、『しろいろ』を書いたときに、「大人になっても形を変えて階層は存在していて、学校を卒業しても大人にはもっと残酷な形でカースト制がある」という感想をいただいて、結構衝撃だったんですよね。もっと多種多様な、お給料が低くても幸せな人もいるという、もっと自然で幸せな世界だと思っていました。でも、そうではなく、一般の中での階層みたいなもので苦しんでいる方がいらっしゃって、そういう方が『しろいろ』という物語を読んで反応する。「これは大人にもある、もっと強い形で、もっと残酷な形である」とおっしゃるということは、自分には発見だったし、すごい衝撃でした。だから、『コンビニ人間』でも、それを意識した部分もあるかもしれないですね。
 主人公は全くそういうことを気にしない、階層からある意味解放された人ですが、階層に縛られている男性の白羽さんみたいな人もいて、白羽さんの中ではスクールカーストの社会人版みたいなものが揺るぎなく存在していて、カースト制度に苦しめられている。コンビニのバイトという、同じような立場だけれども、白羽さんは苦しめられているし、主人公は、自分は幸せ、多幸感の中で働いている。そういう部分も描きたいなと思って、書いたと思います。

格差が拡大していると言われる、社会や経済にも関心が強いですか。

村田 いえ、私は社会というよりも、カーストに苦しめられている人間、個体への興味という感じですかね。社会全体にカーストを感じるというのは、私は正直あまりないのです。でも、そういうことを言っている人がいっぱいいることは知ってはいて、自分のようにあまりそれを意識していない人もいれば、ものすごくがんじがらめになっている人もいるし、そこをはい上がる楽しさを味わっている人もいるし、さまざまだなと思っています。

『コンビニ人間』の主人公は、子供の頃から、周囲が「普通」と思うように行動できず、家族が困惑します。さまざま形ですが、村田さんの作品は、子供の頃から「生きづらさ」を抱えて育つ女性が、多く登場します。

村田 自分自身が内気でおとなし過ぎて、生きづらさを感じていました。浮いていたというわけではないんですが、沈んでいたというほうが正しいです。例えば、積極的に前で発表しなさいとか、そういうことが学校では苦手だった子供だったので、生きづらさみたいなものがずっと、自分のテーマだと思います。『コンビニ人間』の主人公はかなりエキセントリックなので、だいぶ私とは違うのですが、でも、違う形で生きづらさを感じている人なのだろうなと思いながら書いていました。

新作の世界観、「リアル、へんてこ、グロテスク」

2014年の『殺人出産』、2015年の『消滅世界』とSF的でグロテスクな世界を描きましたが、今回はリアルな設定に、戻ろうと思っていたのですか。

村田 そうですね。『しろいろ』までは変な設定の小説ということを全然考えたことがなくて、ほんとうに思春期の女の子を書くのが好きで、思春期の女の子とか、女性の性愛の世界とかをぎりぎりの切実な言葉を探していきたいとの気持ちでずっと書いてきました。ただ、『しろいろ』を書いて、ある程度書き切った気がしたのだと思います。それで次に『殺人出産』というすごく飛んだ世界を書いてしまったら、意外と、そんなに違和感なく、こんな突拍子もない設定でも普通に読んでもらえるんだなと思って、ちょっとへんてこな設定のものをいっぱい書きました。それは自分では楽しい試みでしたが、もう1回リアルな世界の中で、リアルをはみ出ない世界だからこそ書ける怖さみたいなのを書いてみたいなと思いました。『コンビニ人間』は、そういう気持ちで書きました。

次の作品は、どちらの方向ですか。

村田 今のところはリアルの世界をはみ出さない、でも、へんてこな小説。だから、『コンビニ人間』に近い世界観、もうちょっとグロテスクな内容かもしれないですが、そういうのを書いています。

村田さんは、これまで作品も多く、次々と文学賞も受賞しています。あえてコンビニでバイトをしなくてもいいような、状況ではないですか。

村田 そうですね。いろいろ考えた結果、コンビニで働くのが一番小説が進むというふうに思ったので、働いています。

世の中とのつながりを得るため、もしくは、生活のリズムをつくるためでしょうか。

村田 両方ですね。小説専業で、やってみたこともあるのですが、毎日が日曜日みたいになってしまって、かえってだらだらしてしまうのです。コンビニの仕事で、強制的に外に出るということで、すごく1日にリズムをもらう感じがありました。

今回の受賞で8月はコンビニをお休みしたそうですが、今後も続けるのですか。「店長と相談します」っておっしゃっていましたけど。

村田 一応店長には9月のシフトは私なしで組んでもらっています、ちょっと取材とかがまだあるので。入れる日から入ろうかなとは言ってはいるんですが、周りの人からは、まだ早いんじゃないかと、とめられていて、ちょっと悩んでいる状態です。

AI(人工知能)やロボットの開発で、将来いろいろな仕事が、機械に置き換わっていくと言われています。コンビニでもロボットが店員になる、という人もいますが、どう思いますか。

村田 ロボットと一緒に働くとなると、ちょっとわくわくすると思いますけど(笑)。でもロボットだけだとどうでしょうか。お年寄りのお客様とか、店員とのおしゃべりが好きで、いらっしゃっているお客様も、結構いらっしゃるのです。そういうお客様からすると、寂しくなっちゃうんじゃないかなと思います。


このコラムについて

著者に聞く
「著者に聞く」の全記事
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/15/101989/091400011/

 

村田沙耶香「コンビニ人間」あらすじ・ネタバレ
2016/08/11
簡単なあらすじ

1) 古倉惠子は、子供の頃から「変わった子」と思われていた。自らの言動や行動で、周囲を困惑させてしまうため、恵子は黙っていたり、言われたことをするだけにするよう心がけていた。

2) 恵子は、コンビニのバイトに出会い、マニュアルで全て行動する仕事を転職と感じるようになる。大学時代から18年、惠子はコンビニで働き続けていた。だが、年齢を重ねるにつれ、就職も結婚せずに36歳となった恵子のことを、周囲は再び奇異に感じるようになる。

3) そんなある日、35歳で職歴もない白羽が新人バイトとして入ってくる。彼は、婚活を目的にバイトを始めたのだという。だが、彼は女性客へのストーカー行為で解雇される。

4) 恵子は、懲りもせず女性を待ち伏せする白羽に声をかける。恋愛感情もないが、恵子は彼と一緒に暮らすことを提案する。そうすることで、恵子は「同棲している男性がいる」と、恋愛をしないことへの言い訳を手に入れる。

5) 白羽は、恵子にコンビニバイトを辞めさせ、就職させて自らの借金を返させようとする。だが、就職のための面接に向かう途中で訪れたコンビニで、恵子は本社の社員を装って、困っているバイトに手を貸す。そして、コンビニで働くことを自らの体が求めているのだと感じるのだった。

6) 恵子は「私は、人間である以上に、コンビニ店員なんです」と言う。そして、白羽との同棲や就職を行うことを拒否するのだった。白羽は「気持ち悪い。お前なんか人間じゃない」と言って、恵子のもとを去っていく。

7) コンビニの窓に映る自分の姿を見て、恵子は「この手も足も、コンビニのために存在していると思うと、自分が初めて意味ある生き物と思えた」と感じるのだった。


起:コンビニとの出会い

古倉惠子は、子供の頃から「変わった子」と思われていた。小鳥が死んでいるのを見つけ、周りの子供たちが悲しんでいる中、「焼き鳥にしよう」と言いだして驚かせた。ケンカをする同級生を止めるため、スコップで殴りつけて流血騒ぎにしてしまった。

両親は惠子を「普通の子」にしようと、カウンセリングなどに通わせようとした。だが、惠子は変わることはなく、彼女は騒ぎを起こさないよう、黙ることで対処するようになった。

そんな彼女は、大学生になってコンビニ店「スマイルマート日色町駅前店」に出会う。そこでバイトを行うようになり、マニュアルが子細に決まっているコンビニでは、「部品」となって働けることに気づく。今までの世界では「異物」として排除されていた惠子は、ついに居場所をみつけることができたのだった。

承:白羽との出会い

大学時代から18年、惠子はコンビニで働き続けたのだった。同僚のバイトの喋り方や服装などを真似、目立たないようにしつつ、週5日、コンビニで勤務を続けていた。

そんなある日、スマイルマート日色町駅前店に新人バイト・白羽がやってくる。酷く痩せた35歳の彼は、異様な雰囲気をかもし出していた。マニュアル通りの仕事ができず、サボり癖のある彼はすぐにコンビニ店で浮いた存在となっていた。

白羽は、大学を中退後、専門学校も辞めていた。職歴はなく、そんな彼がコンビニでバイトを始めたのは、「婚活のため」なのだと惠子に語る。

惠子がコンビニに出勤すると、突然、白羽は解雇されていた。彼はコンビニの女性客へのストーカー行為を繰り返していたのだった。惠子は勤務からの帰り道、女性を待ち伏せしようとしていた白羽を見かける。惠子は、白羽を連れてファミレスに行き、話を聞く。

転:白羽の飼育

白羽は、「働いている女と結婚して、資金を提供させる。それでネットビジネスで起業するんだ」と息巻く。だが、実のところ白羽は、ルームシェアしている部屋の家賃すら払えず、追い出されようとしている無職の男だった。そんな彼に世間の目は厳しく、「どうして働きもせず、恋愛・結婚もしていないんだ」と疑問を突きつける。

白羽の話を聞き、惠子は「それならば、私と婚姻届を出し、一緒に暮らしませんか?」と提案する。惠子もまた、「なぜ36歳にもなってバイトを続け、就職や結婚をしないんだ?」という疑問に対し、言い訳を探していたのだった。

惠子は、白羽を家に連れ帰る。恋愛感情を抱くでもなく、彼女は白羽を住まわせ、エサを与えるだけの存在と考えていた。だが、「家に男性がいる」と妹に告げただけで、妹は大喜びしたため、惠子は白羽を家に置いておくだけでメリットはあるのだと考えていた。

惠子は相変わらずコンビニで働き、白羽は浴室で暮らし始めた。白羽の私物の処分に困っていた店長に、つい「渡しておきましょうか?」と言ってしまったため、勤務しているコンビニでは、惠子と白羽が付き合っているのではないか、という噂になってしまう。「どういう関係なの?」「同棲しているの?」などと、面倒な質問を浴びせられ、惠子は困惑する。

そんな中、妹が様子を見にやってくる。「働いていない男を浴室に住まわせ、エサを与えている」とありのままを伝えると、妹は「いつになったら治るの?」などと言い、泣いてしまう。見かねた白羽は、「実は元カノと浮気をしてしまい、怒った惠子に浴室に追いやられてしまった。今は働いていないが、就職活動中です」とウソをついて惠子の妹を安心させる。

奇妙な同棲生活が続く中、白羽の弟の妻(義妹)が惠子の部屋にやってくる。白羽がルームシェアの家賃を踏み倒したところ、実家に電話がかかってきて、母親が立て替えたのだった。その費用を、義妹は白羽に払わせようとしていたのだった。

白羽は、払うと約束する。惠子は白羽との関係を訊かれ、無職の白羽との同棲について話す。無職とバイトの30代男女の同棲に義妹は呆れる。だが、白羽は「今は彼女、就職活動中なんだ。俺が家事を行い、彼女が外で働く。それで借金は返す」と勝手に宣言する。

結:コンビニ人間

恵子は、白羽の宣言により、コンビニでのバイトを辞めざるを得ない。コンビニを辞めると、昼夜関係のない生活となってしまった。恵子は、コンビニのシフトに合わせて生活し、バイトのために健康管理・身なりを整えるということを行っていたのだった。今やバイトを辞めてしまったため、無軌道な生活を送るようになってしまったのだった。

だが、白羽が求人情報を調べ、履歴書を送ったことにより、面接を受けることになった。スーツを着て、白羽が案内して会社に向かうが、その途中で白羽はコンビニに寄って用を足す。

その間、混雑したコンビニは店長不在であり、バイトと新人バイトで対応せざるを得ず、彼らは困っていた。本社の社員を装って乱雑になった棚を整理し、レジの客が途切れたところで、飲み物の補充やドアの汚れを指摘する。バイトたちは感謝していたが、白羽は「何をしているんだ!」と恵子を叱りつける。

恵子は、「コンビニの『声』が聞こえるんです」と言う。「私は、人間である以上に、コンビニ店員なんです」と言う。そして、白羽との同棲や就職を行うことを拒否するのだった。白羽は「気持ち悪い。お前なんか人間じゃない」と言って、恵子のもとを去っていく。

コンビニの窓に映る自分の姿を見て、恵子は「この手も足も、コンビニのために存在していると思うと、自分が初めて意味ある生き物と思えた」と感じるのだった。
http://saku-ara.com/archives/2016



村田沙耶香「コンビニ人間」感想:人間と店員は別の生き物という表現が面白い!

2016/7/26 2016/9/8 おすすめ小説

こんにちは、ニシマツ(@output_log)です。
2016年上半期、芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの「コンビニ人間」。

受賞したときは単行本になっておらず、掲載されていた小説誌をamazonで探してはみたものの在庫切れ。読みたいけど読めない状況でしたが、ついに単行本として発売!

amazonでの発売日は7月27日でしたが、各書店のTwitterをみると「入荷しました!」との報告が。26日には店頭に並ぶような雰囲気だったので、行ってみるとありました。

150ページほどの量で読みやすく、強烈なキャラクターと独特な世界感に惹き込まれ、瞬く間に読了。コンビニをテーマに、これほど心動かされることも珍しい。

個人的には、過去に芥川賞を受賞した作品である「火花」「異類婚姻譚」よりも好き。

面白かったので、感想を交えつつコンビニ人間について紹介します。(ネタバレ含む)

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目次 [隠す]
1 あらすじ 内容紹介
2 感想
2.1 人間じゃない、コンビニ店員という生き物
2.2 コンビニ人間というタイトル
2.3 いい終わり方
3 著者の村田沙耶香さん
4 表紙のデザイン
5 おわりに
あらすじ 内容紹介

村田沙耶香_コンビニ人間
古倉恵子36歳女性、未婚。
ちょっと変わった思考の持ち主。例えば幼稚園のころ、公園で死んでいた小鳥に対して悲しむことはなく、「焼いて食べよう」と言うような、大人をざわつかせるような子どもだった。

両親に迷惑をかけているのは自覚しているので、必要なこと以外喋らない。そんな恵子が大学生の時、興味本位でコンビニのアルバイトを始める。そのまま月日が流れ卒業。就職せず、コンビニで働き18年が経過。

周囲からの「就職は? 結婚は?」という質問には予め用意していた答えを返し、コンビニで働く日々を過ごす。

ある日、新入り男性バイトの白羽と出会うことをきっかけに、恵子は変化を求めるようになる。

感想

人間じゃない、コンビニ店員という生き物

恵子は人間とコンビニ店員を別の生き物として捉えている。

これから、私たちは「店員」という、コンビニのための存在になるのだ。

いろいろな人が、同じ制服を着て、均一な「店員」という生き物に作り直されていくのが面白かった。

あのコンビニエンスストアで、全員が『店員』という架空の生き物を演じているのと同じですよ

?

最も衝撃的だったのがラスト3ページにあった次の台詞。

気が付いたんです。私は人間である以上にコンビニ店員なんです。

人間としていびつでも、たとえ食べていけなくてのたれ死んでも、そのことから逃れられないんです。私の細胞全部が、コンビニのために存在しているんです

逆の「○○である以上に人間です」といった主張はよく聞く話。だから衝撃だった。

コンビニ人間というタイトル

働くときはコンビニ店員。
同窓生や家族と接するときは人間。

でも、働いていない状態の時にコンビニのことを考えていたから、それはもうコンビニ店員なんじゃないかな? 恵子の中で入り混じっているのだろう思った。だからこの本のタイトルは「コンビニ人間」なのかなーと。

いい終わり方

恵子は周囲の影響から、普通になろうと変化を求めた。男と同棲をし、就職するためバイトすら辞めてしまった。

でも彼女は最後、人間であることよりもコンビニ店員であることを選んだ。

クズな男との同棲生活は破滅への道にしか見えなかったので、いい選択だったと思いたい。

著者の村田沙耶香さん

著者の村田沙耶香さんは現役のコンビニ店員とのこと。受賞後のインタビューが記事になっていたので読みました。中でも次のコメントが印象的。

「コンビニという場所は、小さい頃から不器用だった自分が初めて何かをまともに出来たところで、聖域です」

たしかに、作中にも「光に満ちた箱」とう表現があった。この物語、村田沙耶香さんの実体験も混じっているのかなーと想像が膨らみますね。

※追記
村田沙耶香さんがコンビニへ宛てて書いたラブレター作品「コンビニエンスストア様」を読みました。以下のページで内容紹介や感想を書いているので、コンビニ人間が面白いと思った方は是非お読みください!

「コンビニエンスストア様」はコンビニへの愛を綴ったラブレター!
「コンビニエンスストア様」はコンビニへの愛を綴ったラブレター!
ファビコンoutput-log.comはてブ数
表紙のデザイン

単行本の表紙に描かれているのは、金氏徹平さんの作品「Tower」の原画。

youtubeには動画がありましたよ!


おわりに

村田沙耶香さんの作品を読むのは初めてでしたが、読んでてとても面白かった。読み終えた方がどんな感想を抱いたのかも気になります。

約150ページで読みやすかったので、あまり本を読まない人にもおすすめ! 話題作なので手に取ってみてはいかがでしょうか。


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▼惜しくも芥川賞を逃した候補作はこちらでチェック!
https://output-log.com/2016/07/26/conveni-novel/  

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コメント
 
1. 2016年9月15日 08:26:01 : nJF6kGWndY : n7GottskVWw[2653]

>『コンビニ人間』にみる普通と狂気の境界 人間と店員は別の生き物

狂気といういうより、普通だな

人や動物を区別し、差別し

自分と違うものを否定し、無視して捨て去る

そして自分のもつ観念に従って自動的に動く

まさに普通の人間のやっていることだな


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