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ワタミ店舗(撮影=編集部)
もうブラック企業なんて呼ばせない!ワタミ、解体的「脱ブラック化」改革の内実
http://biz-journal.jp/2016/09/post_16635.html
2016.09.14 構成=小野貴史/経済ジャーナリスト Business Journal
「24時間365日働け」「ビルから飛び降りろ」――。
創業者・渡邉美樹氏のこうした発言が大きく取り上げられ、世間から「ブラック企業の代名詞」として批判を浴びた大手飲食店チェーンのワタミ。2013年には入社間もない社員が過労自殺したとして遺族が同社を提訴するなどして、同社の労働環境を問題視する声が高まった。そんな同社は15年に社長に就任した清水邦晃・新体制の下、「これまでブラック企業であった」と認め、全社的に企業体質や労働環境の改善に取り組んでいるという。
今回は、100人以上の同社関係者への取材に基づき、その改革の内実に迫った書籍『ワタミの失敗』(KADOKAWA)を9月8日に上梓した、働き方改革総合研究所代表の新田龍氏に話を聞いた。
『ワタミの失敗 「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(新田龍/KADOKAWA)
――新田さんはブラック企業アナリストとして、ワタミ批判の急先鋒でした。そのワタミが新田さんにブラック体質脱却にあたって協力を求めてきたということですが、どのようにアプローチをしてきたのですか。
新田龍氏(以下、新田) ワタミが叩かれている真っ最中だった2014年、同社幹部から共通の知人を介して打診がありました。当時のワタミは「世間からバッシングされている状況が続いてしまってはまずい」と考えて、労務環境の改革に取り組み始めていたのですが、それがまったく世間に伝わらないことに悩んでいました。その取り組みを伝えようとしても、逆にさらなる批判を呼ぶ恐れがあったので、専門家に広報を手伝ってほしいという考えが出てきたところでした。
当時の私はワタミを激しく批判していた1人でした。そういう立場の人物がワタミの変革を客観的に見て「本当に変わった」と伝えられれば、説得力が増すのではないかという意図もあったようです。
――アプローチを受けて、どのように判断されたのですか。
新田 私はアンチの立場だったので、仲介してくださった方も、「ワタミからこんな相談があるが、大丈夫か?」という打診から話が始まりました。「ワタミが本腰で改革に取り組んでいて、具体的な形になっているのであれば興味がある」と答え、まずは話を聞かせてほしいと。そこで何回かワタミの幹部社員とミーティングの機会を持ちました。
その場で主要な業績数値の変化や、改革の取り組み状況を聞かせてもらったのですが、本気で改革しようとしているという姿勢が伝わってきて、成果も少しずつ現われ始めていました。「ここまで徹底した取り組みであれば、その内容を広く知ってもらうことで、同じような労働環境で困っている他社の参考にもなるはず」と考えました。
また、「批判していた問題が解消されたのであれば、その事実まできちんと伝えることが、批判していた者としての責任だ」という考えもあり、お引き受けすることにしました。
ただし、条件がありました。「私はあくまで第三者のジャーナリストとしての立場で、客観的に見て思った通りのことを書きます」と。御社にとって不都合なこと、嫌なこと、昔の出来事の掘り返しなども書くかもしれませんよと。原稿になってから、「そういうことは書かないでほしい」といった要望は一切受け容れられない、ということを約束頂きました。
――事前の原稿チェックを認めなかったのですね。
新田 原稿でチェック頂くのは、細かい数字など事実関係の確認だけで、私の視点や論調、表現のニュアンスに至るまで、一切の変更や修正はご容赦頂きました。その条件で、改革の内容と成果、それに対する評価を書くことになったのです。
――ワタミの広報支援をしたわけですね。
新田 そうです。ワタミが自ら発信した情報だと、どんなに良いものでもアンチが批判する材料になってしまう。そこで、同じアンチな立場の者から発信することによって、少しでも世間に広く伝えようということです。約1年半をかけて取材をして、それを一挙にまとめたのが本書です。取材を進めていくなかで、インターネット上などでポジティブな情報を発信する機会は充分にあったのですが、ワタミはあくまで「書籍」という形で発信することを望んだので、本書で一挙出ししました。
――取材では、どのぐらいの人に会いましたか?
新田 取材にはワタミの全面協力をいただく前提でスタートしたので、証拠となるデータの提出、ネガティブな意見も含めて証言してくれる社員の紹介を依頼しました。役員、エリアマネージャー、店長、フランチャイズオーナー、結婚・出産を経て復職した女性社員、身体障害をお持ちの方、内定者の学生などを紹介していただき、さらに非公式ルートとして私のネットワークで多くの関係者を取材しました。ワタミからの紹介、ネットワーク、過去に取材した人を合わせると、100人以上の関係者に取材したことになります。
本書のテーマを考えると、創業者の渡邉美樹さんのインタビューは必ず掲載したいところでしたが、これは結果的に見送りになりました。渡邉さんがいくら真摯に話した内容だとしても、一部の言葉が切り取られてそこだけ報道されたり、渡邉さんが持論を発言すると、一般論を語っただけでも「いまだに反省していない」と受け取られたりするなど、過剰な反応を引き起こしてしまう懸念があったからです。
――でも、渡邉氏本人は取材に対して大変前向きだったのでしょう?
新田 そうでしたね(笑)。ただ、渡邉さんへの取材にまつわる一連の経緯を見るなかで、ワタミが「脱・創業者」を本気で志向していて、渡邉さんからも独り立ちした会社になろうとしていることが垣間見られて、これも変革のひとつではないかと感じました。
■悪意はなく「善意」がベースになっている
――そもそも、なぜワタミはブラック企業になってしまったのでしょうか。
新田 これはどの成長企業にも当てはまることなのかもしれませんが、ワタミは最盛期で年間100店舗を出店するほどの急成長を続けていたにも関わらず、その成長に対して会社の管理体制やシステムが中小零細企業時代のままに据え置かれた状態でした。しかも社員には「素直な頑張り屋さん」が多かったので、その状態のままなんとかキャッチアップしようと頑張り、無理が続いてしまったことが、大きな問題につながったと考えています。
世間がイメージするブラック企業とは、「経営者が悪意を持って私利私欲のために若者を使い潰す」という構図ですが、私が見てきた限り、ワタミはその構図に当てはまらないと考えています。渡邉さんをはじめ経営幹部も皆さん真摯に世の中に良い影響を与えたいと考えて、居酒屋という“おじさん”相手の業態をファミリー層にまで広げ、健康に良い料理を安く提供するという社会貢献的なミッションを持っています。そのミッションに共感した人たちが入社してきたので、社員は素直で人柄が良く、「頑張ればなんとかなる」という思いで急成長を続けてきたのです。その成長にマネジメントのレベルが追いつかない状況に対しても、経営陣は「これまでなんとかやってきたのだから、なんとかなるだろう」という考えでした。
さらに、渡邉さん自身は異様に成長意欲が高く、超人的な努力もできる人なのですが、自分と同じぐらいの努力や成長を社員にも求めてしまったのです。
「社員の成長を期待するあまり、高い水準を要求する」ということはよくありますし、応えられる社員が多いうちは問題ないのですが、会社が拡大し、従業員も増えれば、社員の価値観も多様になってきます。そんなところに、創業時と変わらない厳しい要求が投げかけられると、「無理強い」と感じてしまう社員も少なからずいたことでしょう。何も「会社ぐるみで若者を使い潰してやろう…」といった悪意があったわけではなく、あくまで善意によるものですが、ひずみが修正されないまま成長を続けたことが大きな原因だと考えています。
――ブラック企業の社長には支配欲求の強い人が多いように思います。「自分は人を使う側の人間で、他の社員は使われる側の人間なのだから、自分の言うことに全面的に従え」という処世観を持っている人が多い。
新田 ブラック企業と呼ばれる多くの企業の社長にはそういうタイプが多いでしょうね。しかし渡邉さんの場合は逆で、「社員全員が経営者マインドを持つべき」という考え方です。「店長なら会社に使われる人間ではなく、店舗という会社を経営している社長のような存在なのだから、その視点で考えて行動しなさい」と社員に話すのです。確かに正論であり、そんなマインドが理想なのですが、そうはいっても実際は経営者でなく一社員なので、齟齬が生じるわけですね。
取材を通して振り返ってみると、ワタミという会社からは「社員を使い潰そう」というマインドは感じられませんでした。実際、賃金は飲食業界のなかでは良いですし、やる気のある社員にはFCオーナーとして独立を促し、好業績店を任せる仕組みを早々に構築しているぐらいです。
――渡邉さんは長時間労働について、どのように考えていましたか。
新田 長時間労働を美徳と考えるのではなく、「自分の店なのだから、自分のやりたいように運営しなさい」という考え方です。世間から見るワタミは、「勤務時間内に終わらない大量の仕事を無理やり与えられ、社員が苦労している…」というイメージがあるかもしれませんが、事実ではないですね。繁忙店の店長でも、自ら仕事を効率的に工夫して、残業なく店を切り盛りできている人もいます。
店舗勤務の場合、開店は17時ですが、段取りの良い社員は15時頃に出勤して普通の業務をこなして店を回しています。一方で、段取りの苦手な社員は13時に出勤して、どうにか店を回している状態で、このタイプの社員をマスコミは面白おかしく取り上げてきたわけです。渡邉さんも「早く出勤して働け」などとは言っていません。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)
※後編へ続く
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