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トヨタ、自動車ローンで驚異的高収益…小売業を必ず衰退させる「儲かる金融事業」
http://biz-journal.jp/2016/09/post_16564.html
2016.09.06 文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授 Business Journal
金融サービスに傾倒する小売業は衰退する。厳密にいえば、顧客データベースを構築して金融サービスを始める小売業は衰退する。
古今東西、企業が顧客データを蓄積するようになると、必ずといっていいほど、保険販売、ショッピングクレジットやキャッシングを含めた金融サービスを始める。顧客データを保有する企業には小売業が多いので、「小売業は金融サービスを始めたがる」としてもよい。そしてまた、金融サービスに力を入れた小売業は、本業がダメになってしまうことが多い。
最初に、金融サービスを始めてダメになった小売業の「古今東西」の例を挙げてみる。
1960〜80年代にかけて、米国一の小売業だったシアーズ(Sears, Roebuck & Co.)。そして、英国人の5人に1人が顧客だといわれた英国のテスコは最近の例だ。
19世紀末にカタログ通販を始めたシアーズは、20世紀になって高速道路網が米国全土に広がっていくのに合わせて店舗販売も開始。1945年には10億ドルの売り上げだったのが63年には50億ドルとなり、戦後の米国の繁栄の象徴となった。
金融サービスの提供は、1911年に地方の農民がカタログに掲載されている高額な耐久品を分割払いできるようなサービスを提供することから始まった。モノを買ってもらうために、お金を貸すわけだ。この点は、日本の丸井が31年の創業時に割賦販売でモノを売ったのと同じだ。
■消費者にお金を貸してモノを売る
銀行が一般消費者にお金を貸すことなど考えもしていなかった時代には、小売業者だけでなく自動車メーカーも家電メーカーも、消費者に自らお金を貸してモノを販売した。
自動車の例でいえば、米国では20年代にゼネラル・モーターズ(GM)がローン・サービスを提供しはじめた。これにより、高額所得者層でなくても自動車を購入することが可能になった。日本では、60年にプリンス自動車(現日産自動車)が最初に始めたといわれる。
そして60年後の今、トヨタ自動車の金融債権(消費者への自動車ローン、法人客へのリース契約やディーラーへの貸付金から成る)は14兆円を超えており、総資産の約30%となっている(2016年3月期)。トヨタの金融事業は収益性も高い。売上高ではわずか6.5%だが、営業利益の24.7%を占める。売上高利益率を見ても、金融事業は17.9%で自動車事業の9.4%よりかなり高い。
小売業や製造業者が金融サービスを始めた場合、金融事業のほうがモノをつくったり売ったりするより利益性が高いのは当然だ。モノをつくり販売して獲得した顧客基盤(顧客ベース)がある。顧客基盤は、顧客データだけでなく顧客との関係性をも含む。ある程度の顧客ベースを背景に、顧客一人ひとりと金のやりとりをすることは、特にデジタル時代においてはコストをかけずに利益を出すことができる。
それでも、メーカー(製造業)は小売業とは違って、金融サービスへの多角化を積極的に進めるところまではいかないことが多い。例外としては、米国ではゼネラル・エレクトリック(GE)、日本では保険会社や銀行を傘下に持つソニーの名前が頭に浮かぶ。
GEが、自分たちの製造した家電を一般世帯に販売するためにローンを提供し始めたのは1932年。この事業(GE Capital)は80年代から90年代にかけて、名経営者といわれたジャック・ウェルチ元最高経営責任者(CEO)の指揮のもとに積極的に拡大され、GEの利益の半分を占めるまでになった。しかし、2008年の金融危機後に政府の銀行への規制が厳しくなり、資産額では実質的に第7位の銀行とみなされたGEは、これまでの高利益を生むビジネスのやり方を変更せざるをえなくなった。金融事業は、製造業よりも低い利益性しかもたらさなくなると考えたジェフリー・イメルトCEOは、製造業に回帰することを宣言。2015年から金融事業を矢継ぎ早に売却している。
■本業の小売業が低迷するシアーズ
シアーズに話を戻す。
1886年に創業したシアーズの顧客数は、1920年代後半にはすでに2000万人を超えていた。31年には、オールステートというブランド名で自動車関連部品を販売していた関係から、そういった商品の購買客を中心に自動車保険を通信販売するオールステート保険会社を子会社として設立している。そして、53年にはリボルビングクレジットカードを発行して、所得がそれほど高くない客でも高額品を躊躇することなく簡単に買えるような仕組みを提供した。
30年代から60年代までは、金融サービスはあくまで顧客の便宜性を高めるための付加サービスの要素が強く、ビジネスの中心はモノの販売だった。
ところが、70年代に専門店やウォルマートのようなディスカウントストアが台頭して、小売業での競争が激化するなか、シアーズの小売の売り上げは停滞し始める。そして、当時の経営者は利益率が高い金融事業の成長を促進すべきだと考えた。貯蓄貸付組合(貯蓄と住宅ローンに特化する米国の中小金融機関)を買収し、80年代には不動産会社や証券会社まで買収した。90年代半ばまでには、子会社が発行したクレジットカードは6000万人の会員をもち、消費者債権は280億ドルまでになった。小売事業部の利益率が2〜3%だったのに比べて、クレジット事業部の利益率は2ケタ台。クレジット事業部の売り上げは企業の収益全体の10%だったが、営業利益の70%を占めるまでになっていた。
企業価値向上を求められる経営者としては、利益性の高い事業を推進しようとするのは当然のことかもしれない。だが、金融事業を拡大するための買収にかかる負債も増え、結果として本業である小売業への投資が制限された。必然的に、本業の小売業の業績はさらに悪化し、80年代後半には毎年8%利益が減少。結果として、90年代には買収した金融関連会社を次から次へと売却するはめになった。
その後、本業である小売業の活性化を何度も試みているが、成功はしていない。2015年の米国小売業売上ランキングでは18位となっている。
■小売業が金融サービスを行うと成功する
英国の小売業売上高No.1で、世界的にもNo.5以内に入るテスコの創立は1919年。最初は食品中心のスーパーマーケットだったが、衣料品や家電、家具も売るようになった。95年にポイントカードを発行し、収集した顧客データの分析から購買行動予測に進むとともに、生命保険や旅行保険、ローンの販売も始め、97年にはRBS銀行との合弁でテスコ銀行も創立、08年に子会社化した。
だが、12年ごろから本業の小売業の売り上げが減少し始めた。ドイツから安売り店が進出してきたこともあるが、なによりも金融サービス、海外進出とかレストランやコーヒーショップなどへと多角化を進めるなか、英国消費者のライフスタイルや購買習慣が変化していることを見過ごしたことが要因だといわれる。1500万人の顧客データの分析に基づくパーソナライズされた販促活動やプライベートブランド(PB)開発では世界一と称えられたテスコが、消費者の変化を見逃したと批判されるようになったのは皮肉だ。この事実は、顧客データ分析の限界も教えてくれる。
売り上げ減少が続くのを隠そうとしたのだろうか。売り上げの数字を不正操作したことが発覚し、14年秋には株価が1年前の半分に反落。その年の決算で、過去100年で最大の損失も計上した。そのために外部からは、収益性が高くテスコグループの利益の3分の1を稼いでいるテスコ銀行を売却したらどうかという声も出るくらいだった。
このように小売業は、クレジットカードやポイントカードを発行すれば顧客データを収集することができる。顧客基盤がある程度の規模になれば、キャッシングサービスを始めて、保険を売ることもできる。それがうまくいったら、より高い利益を求めて、銀行だけでなく保険会社、証券会社を傘下に収めることもできる。ただし、日本や欧州とは違い、米国では規制があって小売業が銀行を買うことはできない。
顧客にとってみれば、モノを買っている会社から金融サービスを買うことは、手続きも簡単だし便利だ。銀行よりサービスの質もよい。米国でも、金融危機の後は特に、信頼性を失った金融機関よりは小売業者からの金融サービスを好む消費者が増えているという調査結果もある。ローンを提供する企業にしても、過去の購買履歴を分析して、信用度をチェックできるから、貸し倒れ率を低く抑えることができる。たとえば、丸井の貸し倒れ償却率は1.7%と、業界平均の1.9%より低い。
顧客データベースを持った小売業が始める金融サービスは、成功するようにできているのだ。
だが、冒頭で述べたように、小売業が金融サービスを始めると必ず本業が低迷する。次回、その問題点について探ってみよう。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授)
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