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スウェーデンの国民的ポップスター、ABBAの博物館には「支払いはカードしか受け付けません」という表示があった Photo by Izuru Kato
「現金お断り」のスウェーデン 背景にマイナス金利の余波も
http://diamond.jp/articles/-/100175
2016年9月2日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] ダイヤモンド・オンライン
スウェーデンのストックホルムに先日行ってきた。特に印象的だったことが二つある。
一つは、将来の不安を感じている人が予想以上に少ないという点だ。日本のように「長生きが心配」で高齢者が貯蓄を抱えているようなことはまずない。社会保障が手厚いため、貯蓄は死ぬまでに使い切って楽しまなければ意味がないそうだ。税率は高いが、その分見返りがあるため「国に対して貯蓄している感覚」だという。
最近の難民受け入れ急増が社会保障システムに影を落としている面もあるが、十分な年金をもらえなくなると心配する人は現時点では少ない。スウェーデンの中央銀行、リクスバンクはマイナス金利政策を実施しているが、日本のようにそれによる預金利率の低下が不安を招き、消費マインドが大幅に悪化するといった現象は起きていない。
もう一つ印象深かった点は、フィンテック(金融と技術を掛け合わせた造語)の普及を背景とした世界最速といわれるキャッシュレス化だ。
実際、少額の支払いでもクレジットカードが嫌がられることはなかった。逆に、カードかスマートフォンの決済アプリを持っていないと困るケースが出てくる。小売店は法律上、顧客の現金での支払いを拒むことができるようになっているからだ。地下鉄の駅では乗車券を現金で買うことはできない。
スウェーデンの国民的ポップスター、ABBAの博物館には入場券売り場や土産物売り場に「支払いはカードしか受け付けません」との表示がある。ABBAのメンバーであるビョルン・ウルヴァース氏は、息子が強盗に遭ったことをきっかけに現金は犯罪を生むと考えるようになった。
次のような説明があった。
「われわれは紙幣やコインは取り扱いません。なぜなら、訪問者にとってもスタッフにとっても、キャッシュレスはより安全で、より効率的だと信じているからです」
金融機関もキャッシュレス化を積極的に進めている。ある大手銀行では300以上の国内店舗のうち、窓口で現金を取り扱っているのは今や数店舗しかない。ATM(現金自動預払機)は稼働しているが設置数は急減。紙幣が在庫切れになっていることもよくある。
ただし、急速なキャッシュレス化には、フィンテックを使いこなせないお年寄りから激しい批判が湧き上がっている。また、リクスバンクが進めているニセ札防止のための新紙幣への切り替えにおいてもトラブルが生じている。
6月末で従来の20、50、1000クローナ札は無効となった(8月末までは銀行で預金することは可能)。旧紙幣を持つ市民は銀行に行く必要があったが、前述のように現金を取り扱う店舗は少ない。長蛇の列が発生し、旧20クローナ札の6割弱は交換されないまま市中流通が停止されてしまった。
スウェーデンの金融機関がキャッシュレス化を進める最大の動機はコスト削減にある。現金管理の費用は無視できない額で、店舗に現金がなくなれば銀行強盗も来ない。警備費も劇的に減らせる。
スウェーデンの銀行はマイナス金利政策で打撃を受けつつも比較的収益を確保している。それは顧客サービスを大胆に切り捨てることで成り立っている部分がある。
黒田東彦・日本銀行総裁は「日本は欧州に比べてマイナス金利の引き下げ余地がある」と、たびたび言及しているが、状況に大きな違いがあるように思われる。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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