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プリウスPHVの脅威、“純”電気自動車は駆逐されるか
http://diamond.jp/articles/-/100367
2016年8月31日 井元康一郎 ダイヤモンド・オンライン
“第3のEV”と呼ばれるプラグインハイブリッドEVが注目されている。トヨタ自動車は今冬にも日本国内で第4世代「プリウス」をベースとした新型「プリウスPHV」を発売する。メルセデス・ベンツ、BMW、ボルボ、フォルクスワーゲンなど欧州勢も次々にプラグインハイブリッドモデルを市場投入しており、日産「リーフ」を代表とするバッテリー式EV(電気自動車)との勢力図が大幅に変わることも予想される。(ジャーナリスト 井元康一郎)
■トヨタが新型プリウスPHVを今冬発売
EV航続距離40km以上は余裕
トヨタ自動車は今冬にも日本国内で第4世代「プリウス」をベースとした新型「プリウスPHV」を発売する Photo by Koichiro Imoto
バッテリー式EV(電気自動車)か、それとも水素燃料電池式EVか。2つの新エネルギー車が主導権争いを繰り広げるなか、“第3のEV”、すなわちプラグインハイブリッドEVがにわかに存在感を高めている。
フォルクスワーゲンなど欧州勢も次々にプラグインハイブリッドモデルを市場投入している。写真は「ゴルフGTE」 Photo by K.I
メルセデス・ベンツ、BMW、ボルボ、フォルクスワーゲンなど欧州勢が次々にプラグインハイブリッドモデルを投入してくるなか、トヨタ自動車が第4世代「プリウス」をベースとしたプラグインハイブリッドモデルを開発。今冬とされる正式発売を前に、そのプロトタイプ(市販車に準じた試作車)を公開した。
エンジニアの説明によれば、新型「プリウスプラグイン」(日本では「プリウスPHV」)は、JC08モード走行時のEV走行距離が60km以上であるという。高効率エアコンやヒートポンプ式暖房を装備するなど、カタログ値と実走行値の差が大きくなるというEVの欠点克服に相当の努力を払っており、オンロードでもEV航続距離40km以上は余裕だろう。
走りもEVらしさを感じさせるものだった。ノーマルのプリウスのハイブリッドシステムに一工夫加え、EV走行時は出力53kW(72ps)の主モーターと出力23kW(31ps)の発電機の両方のパワーを利用できるようになった。クローズドコースで試したところ、全開加速でこそエンジンがかかるものの、スロットルペダルを相当深く踏み込んだ急加速もモーターパワーだけでこなすことができた。バッテリーに電力が残っているかぎり、ほぼEVと見なすことができるという商品特性だった。
充実が図られているのは数値性能だけではない。バッテリーの充電方法も一般的な家庭用の100V、単相200V、EV用の急速充電器である3相200VのChaDeMo(チャデモ)の3モードに対応。どんな電力インフラでも充電できるようにするためにそうしたのだという。
冒頭でプラグインハイブリッドカーを“第3のEV”と書いたが、実はプラグインハイブリッドカー自体は別に目新しい技術ではなく、以前から存在した。トヨタは今から4年以上前の2012年1月に、旧型(3代目)プリウスをベースとしたプリウスPHVを一般発売。1年後の2013年1月には三菱自動車がSUVのプラグインハイブリッドカー「アウトランダーPHEV」を市場投入した。ホンダもリース販売限定ながら「アコードPHEV」をリリースしている。
■第1世代のプラグインで唯一の成功
EV走行距離で売れたアウトランダー
第1世代プラグインハイブリッドカー3モデルのなかで唯一、成功を収められたのは、意外なことに燃費性能で最も劣るアウトランダーPHEVだった。トヨタ関係者は当初、「プリウスPHVを月3000台は売りたい」と息巻いていたが、販売実績はそれに遠く及ばず低迷。ホンダは限定400台というささやかな台数を売り切ることができなかった。
アウトランダーPHEVだけが売れた理由はいくつかあるが、最大のファクターはEV走行の航続距離にある。SUVの大きな車体を生かしてバッテリーを大量に積み、JC08モードにおけるEV走行距離は60kmに達していた。おまけに急速充電器にも対応。ライバル2車がEVとしても使えるハイブリッドであったのに対し、アウトランダーPHEVはハイブリッドとしても使えるEVという性格だったのだ。
トヨタ、ホンダ両社のエンジニアから「アウトランダーPHEVなんてエンジンの効率も良くないし、単に大容量バッテリー搭載という力技でEVっぽくしただけじゃないか。効率はウチのほうがずっといい」と嫉妬まじりのセリフを聞かされた。
しかし、それはサッカーの上手い高校生がモテモテになっているのを見てクラスメイトのガリ勉くんが「数学は俺のほうができるのに」と叫ぶのと同じくらい意味がない。プラグインハイブリッドカーに飛びつく顧客はハイブリッドではなく、本当はEVが欲しいという層だったのだ。
トヨタが新型プリウスPHVに、従来に比べて大幅にEV寄りの性格を与えたのは、この苦い敗北から得られた知見を生かしてのことである。仮に実航続距離が50kmとした場合、平均車速25km/h換算で2時間のEVドライブをこなせるのだ。同様にホンダも今後投入を予定しているプラグインハイブリッドモデルについて、EV的性格を大幅に強めてくるとみられる。
■プラグインはEV走行重視へと進化
バッテリー式EVとの勢力図は変わるか
プラグインハイブリッドカーが「ちょっとEV」ではなく「けっこうEV」になることで興味深いのは、バッテリー式EVの行方だ。競合が激化することはまず間違いないところだが、果たして勢力図に変化は起きるのだろうか。
三菱自と日産が相次いでEVの量産モデルを一般発売したのは2010年のこと。プラグインハイブリッドカーよりかなり早い段階での登場で、当時は多くのマスメディアが「あっという間にエンジン車は駆逐され、電気自動車一色になる」だの「EVは作るのが簡単だから自動車産業は解体に向かう」だのとセンセーショナルに煽り立てた。
ところが、実際にはそうはならなかった。なぜか。
「電池の性能向上のスピード感が思ったより上がらなかった」(EVエンジニア)ために、航続距離が伸びず、価格も下がらないという苦難の道を歩んできたからだ。最近になってようやく航続距離300kmの声が聞こえはじめてきたが、これとて燃料タンクの小さな軽自動車にも負けるレンジである。
今日、日本でまともに売れているEVは日産「リーフ」だけである。だが、これはEVの実力だけで売れているわけではない。日産は先行投資として多くの日産ディーラーに急速充電器を設置し、その投資額を考えるときわめて安価な定額料金でそれらを使い放題とするという大胆な策を打った。
日産は「リーフ」発売に伴い、先行投資として多くの日産ディーラーに急速充電器を設置した Photo by K.I
「航続距離が短い」というEVの最大の弱点を弱点でなくしてしまおうという強引なワザだったが、果たしてEVユーザーからは大いにポジティブに受け止められた。リーフはすでにモデルライフ後半に差しかかっているが、2015年も国内販売台数は9000台を何とかクリアした。
■アウトランダーPHEVに負けた「リーフ」
今度はプリウスPHVが難敵として登場
手厚いサポートで何とか台数を増やしてきたEVだが、実はすでにプラグインハイブリッドに押され気味という様相を呈していた。2015年、アウトランダーPHEVは約1万1000台が売れ、初めてリーフが逆転された。
今年はリーフの性能アップと三菱自の燃費不正によるイメージダウンの相乗効果でふたたび首位の座を走っているが、アウトランダーPHEVが落ちたと思いきや、今度はEV性能強化版のプリウスPHVが難敵として立ちはだかることになった。
プリウスPHVのほうはSUVのアウトランダーPHEVと違ってクルマそのものの個性は希薄だが、ブランドの信頼感は抜群。そのうえで2時間程度はEVとして使え、その後はハイブリッドカーとして運用可能という商品力を備えてきた以上、相当の影響を受けることが予想される。
もちろんEV陣営もプラグインハイブリッドカーの攻勢を黙って見ているわけではあるまい。日産はリーフの次期モデルについて、現状では公称値280kmという航続距離をさらに延ばすことを宣言している。だが、それだけでプラグインハイブリッドカーに対して明確なアドバンテージを持てるわけではない。
■電力各社の深夜料金引き上げで
EVのコストメリットは縮小傾向
肝心のコストメリットは以前に比べると縮小している。EVの圧倒的メリットは運用コストの安さと言われているが、電力各社が深夜電力料金を引き上げる動きも出てきているからだ。
仮にプリウスPHVと100km走行あたりのコストを比較した場合、プリウスPHVがハイブリッド走行のみだったとしてレギュラーガソリン4.5リットル、500円。対するリーフはバッテリーに送り込むのに消費する投入電力を15kWhとすると340円。一応7割程度ではあるが、厳寒期や夏季などエアコン等でより電力を消費する時期にはアドバンテージはほとんど吹き飛ぶことになるだろう。
現状で100kmあたり1000円くらいかかる燃料電池式EVよりはマシだが、決して楽な戦いではない。EVは今後、プラグインハイブリッドカーにはないようなEVならではの素晴らしさを積極的に表現できる何かを掴む必要があろう。
一方、プラグインハイブリッドカー陣営も安閑とはしていられない。プリウスPHVの価格は補助金を計算に入れない場合、ノーマルハイブリッドに対して約70万円高くなるという。それでEVライフを過ごせるというのは結構なことに思えるが、実は罠も潜んでいる。
先に述べた深夜電力料金引き上げの影響は、EVと同様にモロに受ける。現行プリウスが相当に優秀な燃費性能を持っていることもあって、ガソリン価格が今日の水準で推移する限り、70万円分のモトを取り戻すのはほぼ不可能に近い。
短時間テストドライブしてみた印象としては、次期プリウスPHVはとても良くできたエコカーではあるが、とてつもなく速いといった決定的な付加価値を持っているわけではなく、ごく普通のクルマである。
コストメリットが薄いとなると、今度は普通のハイブリッドカーが立ちはだかってくる。いちどEVに乗ってみたいという顧客は吸引できても、そこから先は苦戦する可能性も結構高いのだ。果たして日本や世界の顧客がどういう選択をするのか、成り行きが興味深い。
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