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「個人営業」は金融業界で人工知能に取って代わられるか(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/16/hasan112/msg/576.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 8 月 31 日 09:10:05: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

「個人営業」は金融業界で人工知能に取って代わられるか
http://diamond.jp/articles/-/100364
2016年8月31日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン


■「週刊ダイヤモンド」の最新号
特集「金融エリートの没落」

 現在発売号の『週刊ダイヤモンド』(9月3日号)の特集は、「金融エリートの没落」という刺激的なタイトルだ。「没落」すると言われると心穏やかではない一方、今でもまだ「エリート」と呼ばれると、金融マンは少々嬉しいだろうから、よく読まれるのではないだろうか。上手いタイトル付けだ。

 さて、特集は多岐にわたるが、「没落」の構図を大まかに言うと、「マイナス金利政策」と「AI・フィンテック」の2つが大きなポイントだ。

 マイナス金利政策による金利低下では、金融機関にとって既に十分低かった調達金利の下がり方が小さいのに対して、長期金利や貸出金利の低下が大きく、利ざやが悪化しており、確かに苦しい経営環境になっている。特集では、銀行が経常赤字に転落するまでの「余命」を試算してランキング表にしているが、なかなか興味深い。確かに現在の環境が続いた場合に、「保たない」金融機関は出てくる可能性がある。

 特集にはそこまで書かれていないが、危ない銀行に大口の預金をお持ちの方は、「個人向け国債」(「変動10」をお勧めする)にでも、資産を移しておく方がいいだろう。

 また、特集の中で、地方銀行及び地銀マンのステイタス低下が取り上げられているが、現在の地方金融機関の姿は、大手行に掛かりっきりで手が回らなかった金融行政の「やり残し」の結果でもあり、状況は、この記事以上に苦しいような気がする。

 一部には、地銀は地元企業に密着して、本来お金を貸すべき先にお金を貸すような、いわば「半沢直樹」となって再生していくべきだ、という意見があるが、これは現実的ではない。部分的には、そうした成功事例も出て来ようが、大筋としてはそれをやりたくてもできない(チャンスと能力の両面で)現状があるのであって、根本原因を改善できる方法がない以上、将来性は厳しいと言わざるを得ない。

 さて、主にAI・フィンテック絡みで、将来なくなる金融職種は何か。読者が最も興味を持つのがこの点だろう。『週刊ダイヤモンド』(9月3日号)の41ページに掲載されている「フィンテックベンチャー首脳90人が答えた! 金融業界でなくなる職種ランキング」(http://diamond.jp/articles/-/100056)を見てみよう。22の金融関連職種がポイントによってランキングされており、それぞれ6業種が「危険水域」あるいは「安全圏」とされている。

 ちなみに、なくなる職種の「危険水域」の順位ナンバーワンが「銀行営業(個人向け)」で、なくならない仕事の「安全圏」の最右翼が「コンプライアンス担当」となっているが、さて、いかがなものだろうか。

■「個人向け営業担当」の存在意義は
意外と侮れないのではないか

 なくなる職種の栄えある第一位となった「銀行営業(個人担当)」だが、筆者はいささか異なる感想を持つ。

 確かに、個人営業には、銀行が大きなマンパワーと人件費を投入しており無駄の規模が大きいことは予想できる。ただ、AIやフィンテックなどのテクノロジーとの関係で言うと、テクノロジーが進歩しなくても能率の悪い個人営業担当者は多数いるのであり、彼らは、銀行全体の経営に余裕がなくなれば速やかに、そうでなくても徐々に減っていく趨勢にあるだろう。

 しかし、個人営業で生じている付加価値の大きな部分が、「人間」として「営業」している担当者に大きく負っていることが見落とせない。

 例えば、現在の「いいお客様層」に属する富裕な高齢者が、たぶん自分自身が理解できないのに、また時には顧客にとって損な商品だと感づいているにもかかわらず、ブラジルレアルなど無用なリスクまで絡めた毎月分配型の投資信託に投資している。また、金融庁長官までがひどい商品だと名指しして憚らない外貨建ての個人年金保険などを、銀行窓口で購入する場合もある。これらの「不合理な行動」は、なぜ起こるのだろうか。

 それは、営業担当の銀行員が巧みに印象の良い情報を提供したり、顧客との日頃の人間関係を良好に構築していたり、あるいは、顧客の側で、「私は難しいことは分からないけれども、あの人(銀行員)は信用していい人だと思う」と不用意にも信じてしまったりすることによっているのではないか(高齢者は他人を「信じたがる」傾向が強い点が、ことのほか心配だ)。

 あれらの悪徳商品は(筆者も概ね金融庁と同じ価値観を持っているので「悪徳商品」と呼ぶことにする)、明らかに、「商品」そのものの良さや魅力によってではなく、営業担当者個人の顧客への関わりによって売れている。もちろん銀行の看板あってのことだが、「個々の個人営業の担当者が売れている」のが現実だ。

 彼らがいなければ、顧客の側が運用商品の選択で損をすることもないという意味で、銀行の個人営業担当者は倫理的に微妙な存在なのだが(本人には悪いこと「も」しているという意識は少なくとも持ってほしい)、銀行経営にとって、優秀な個人営業担当者と彼(彼女)が持つ顧客との人間関係は有力な利益源泉の一つだろうし、それは、テクノロジーが発達しても変わらずに残るのではないだろうか。

 少なくとも、ランキング表に、「なくなるまでの年数(年)」として表示されている7.2年ではなくならないのではないか。

 個人営業に関しては、「危険水域」にカウントされている、「保険外交員(生保レディー)、「証券営業(個人向け)」にも、同様のことが言えそうな面がある。彼らの相当部分が、ネット取引に置き換えられることは趨勢としてあるだろうが、「太いお客」に食い込んだ営業マン(レディー)は、思いの外強いのではないだろうか。

 もっとも、現在の「太い客」である高齢者の層が退場して、新しい世代に入れ替わる動きが進むにつれて、「営業担当」の効力が薄れる可能性はある。

 なお、これは、やられては困ることなので、ここに書かない方がいいのかもしれないが、究極のビッグデータの一つである、預金者の資金移動の情報を、銀行が本格的に解析して個人向けの営業にフル活用することを、筆者は心から恐れており、本格活用が始まらないうちに、何らかの規制が必要だと感じている。金融庁には、この点にも関心を持ってほしい。

■「コンプライアンス担当」的な
専門職は危ない

 コンプライアンス担当者は、現在複雑でかつニーズの高い仕事をしているのは事実だ。また、現在、彼らには、自分たちが自ら自分たちの仕事への社内需要を生み出すことができるという強みがある。例えば、「コンプライアンスの観点から、こうした研修が必要です。やらないことは、当行にとってリスク要因です」とコンプライアンスに言われて、「うちには、そんな研修はいらないよ」と言い返せる経営者は、銀行ばかりでなく、金融界には少ないのではないか。

 とはいえ、コンプライアンスの仕事の大きな部分は、法令と前例に依拠した判断に基礎があり、年月と共にデータが蓄積される。これを使って「判断」するシステムは、AIなどと呼べるほどに大げさなものでなくとも、かつて「エキスパートシステム」と呼ばれていた知識データベースのシステムを高度化して、インターフェースを改善した程度のもので、相当程度代替できる可能性がある。高度・複雑で、AIに置き換えにくい業務のようでいて、案外早く置き換えが進む可能性があるのは、「コンプライアンス担当」のような知識データベースへの依存が大きい専門職ではないだろうか。

 あるいは、高度な「コンプライアンス・エキスパートシステム」の使い手が少数いるなら、今まで多人数必要だったコンプライアンス業務の必要マンパワーが一気に激減するかもしれない。

 AIの発達は、AIが人間に完全に取って代わる前の段階で、個人間に巨大な生産性の差をもたらすことが考えられる。

 例えば、「AI弁護士」的なシステムを巧みに使うことができる弁護士が、普通の弁護士の100倍の能率で仕事ができるとするなら、この一人の弁護士が100倍近い仕事と収入を得て、その煽りを食って90人以上の弁護士が失業ないし、底辺的収入に追い込まれる可能性があるだろう。

 一般論として、AIの発達は、(1)生産性を上げるけれども、(2)個人間の格差を拡大するので、(3)経済政策としては今後『再分配』が重要になる、と考えている。

 なお、コンプライアンス担当よりも簡単にAIに置き換えられて、よりスッキリなくなってしまいそうな金融関連の仕事としては「ファイナンシャルプランナー」(FP)が考えられる。彼らの資格は独占業務を持っていないし、知識と計算によって答えが出る分野が専門性の中核なので、将来はかなり厳しいのではないか。22職種のランキングでは、7位と比較的上位だが、筆者なら、もっと上に順位付けする。

 太いお客をがっちり持つ特別に営業に強いFP、個人へのコンサルティングに強みを持つ人生相談FP、といった「対人(顧客)関係に強い」少数のFPだけが、FPとして生き残るのではないかと、筆者は予想している。

 それにしても、「コンプライアンス担当だけが最後に残る金融機関」というのは、実にシュールな未来予想図だ。

■「マーケット」と「ディール」の仕事を
AIが置き換えるか?

 個々の金融職種への興味は尽きないのだが、特に興味を覚えるのが、バイサイド(資産運用側)の中核である「ファンドマネージャー」と、セルサイド(証券会社側)ビジネスのスタープレーヤーである「インベストメントバンカー」だ。

 ファンドマネージャー、あるいはトレーダーは、近い将来、AIに駆逐されるだろうか? あるいは、インベストメントバンカーをスキップするディール(例えばM&A)がフィンテックによって可能になるだろうか?

 彼らが駆逐される可能性は、半分「Yes」であり、半分「No」なのだろう。

 運用パフォーマンスを競うファンドマネージャーの世界で、AIがファンドマネージャーを含む人間を凌駕し駆逐するかというのは、なかなか興味深い問題だ。何を以てそう呼ぶかの定義は様々だが「AI運用」(一部にコンピュータープログラムを用いた運用)は、既に人間に十分並んでいるが、人間を駆逐するほどの優位性を示さないのではないかと筆者は考えている。

 もともと株式市場のようなマーケットでは、有効な情報を持った参加者の判断が取引価格に表れることと、有効な方法があれば(有効性が確認されれば、されるほど)模倣されたり逆用されたりする裁定が働くことで、安定的かつ大規模に成功し続けることの難しいゲームを構成していた。そこでは、ある程度の基本を踏まえている素人なら、十分な経験のあるプロと互角に渡り合うことがもともとできたし、参加者の「能力差」(たとえば頭の良さの差)が、運用成績に有意かつ大きな説明力を持っていたとは言い難い。

 こうしたゲームの構造から類推すると、チェスや囲碁でコンピュータープログラムが人間のプロを凌駕したような形で、明確かつ大幅な優劣がつくことはないというのが、筆者の予想だ。投資家が素人プロのいずれであっても、ある程度以上に十分な分散投資を行ったポートフォリオは、市場平均や、有名なプロ、あるいはコンピューター運用と、「勝ったり・負けたり」を楽しめるのではないだろうか。

 運用パフォーマンス面で「AI運用」に大きな期待はできないような気がするし、ファンドマネージャーはこの点で大きな心配をする必要はないが、彼らには、現時点で既に「運用の付加価値」のレベルで優位性がないのであって、彼らが現在のビジネス上の立場を維持し続けられるかどうかには疑問がある。

 市場平均に勝つことを目指す代わりに高い手数料を取る「アクティブ運用」は、ビジネスモデル的には、現世御利益の提供を約束できないのに信者からお金を取る「宗教」と同じ構造だ。

 教祖の役割を果たすのが人間のファンドマネージャーである場合もあるだろうし、AIプログラムである場合もあり得るし、この金融版の「宗教」自体の人気にも盛衰があるだろう。

 ファンドマネージャーという職業は、当面衰退しつつも、なくなりはしないのではないか、というのが筆者の予想だ。

 インベストメントバンカーはどうだろうか。こちらは、資本市場を舞台に、売り手側と買い手側の間に入って、いずれかを「そそのかす」ことを生業とする、対人的な要素が濃厚なビジネスだ。

 例えば、クラウドファンディングのような「中抜き」の仕組みに、商売の一部を取られることがあるかもしれないが、クラウドファンディングが広範に普及し大型化すると、これを利用して一儲けする余地ができ、当初は自身の資金とリスクで儲けて、儲けにくくなって来たら客に勧めてリスクを取らせて手数料を取るといった利用法が十分発生しそうだ。

 古来、詐欺師という職業は連綿と続いてなくならない。

 インベンストメントバンカーは、金融の分野で、合法・違法の線を境に、詐欺師よりも一歩合法側の領域を歩く職業なので、時代が変わっても残る職業なのではないだろうか。

 大きな「ディール」を決める主体は人間であり、個々の人間が、「協力」・「励まし」・「そそのかし」といった他人の力抜きに、これを完遂するのは、将来も難しかろう。

 ファンドマネージャー、インベンストメントバンカー以外にも、将来のあり方が興味深い金融職種は他にも多数ある。10年後の金融業界がどうなっているか、大変楽しみだ。

 

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