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コラム:ドル100円割れ再現に警戒、政策の鮮度後退=内田稔氏
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-minori-uchida-idJPKCN1140IP
2016年 08月 29日 17:22 JST
内田稔三菱東京UFJ銀行 チーフアナリスト
8月29日、三菱東京UFJ銀行・チーフアナリストの内田稔氏は、米国の利上げと日銀の金融緩和期待がドル円の持続的な上昇要因として機能するとは考えにくく、年末に向け再び100円割れを試しにいく可能性が高いと予想。提供写真(2016年 ロイター)
[東京 29日] - 米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は、カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で講演し、緩やかなペースでの利上げが適当との考えを改めて示した。
もちろん、明確な利上げ時期を示したわけではないし、利上げ判断は常に今後のデータ次第とするなど、従来からの説明を繰り返したに過ぎない。ただ、講演の演題は、やや中長期的な視点に立った米国の金融政策手段に関するもの。あえて利上げの可能性に言及した辺りに、利上げへの地ならしを進めたいとの意向も垣間見える。
講演の中で、イエレン議長は、米国の金融緩和手段として、政策金利の引き下げ、大規模な資産買い入れ、フォワードガイダンスの組み合わせが、長期金利の押し下げに有効であると説明。買い入れ資産の多様化や緩和の長期化を可能とするインフレターゲットの引き上げ、利上げの条件としての国内総生産(GDP)ターゲット導入などを今後の研究課題としつつ、現時点では不要との考えも示した。
これらに鑑みると、いずれかのタイミングで金融緩和を行う場合の主要な手段は利下げとなる。その利下げ余地を確保するため、利上げによって発射台を高めておく必要があるだろう。
フィッシャーFRB副議長も同日のテレビインタビューで、9月の利上げの可能性に言及している。米経済は、成熟期に近づきつつあり、実際の利上げ決定は困難との見方を当方は維持しているが、正副両議長の発言を踏まえると、米連邦公開市場委員会(FOMC)が、最短で9月に利上げを決定する可能性も想定しておく必要はあるだろう。
一方の日銀は、9月に金融政策の総括的な検証結果を公表する見込みであり、追加緩和観測が高まりやすい。日米金融政策の格差が改めて意識され、ドル高円安予想が強まりそうだ。
<散発利上げでは乏しいドル高の持続力>
しかし、それでもドル円が下落基調を脱することは難しいだろう。なぜなら、米国の利上げはあっても緩やかとしか見込まれず、経常赤字国通貨であるドルの持続的な上昇にはつながらないためだ。
実際、ドルの名目実効相場の動きを振り返ると、2016年に入り、利上げ観測がくすぶる中にあっても、ドルは下がりこそしていないが、上がってもいない。このようにドル高が影を潜めた要因は、米国の利上げが経済情勢をにらみつつ緩やかなペースで進められるとの見方が浸透したためとみられる。
足元では、依然として物価の伸びが鈍い上、個人消費が持ち直しつつも、経済指標にはバラつきがみられる。米経済の拡大が始まって、すでに8年目に突入していることに照らすと、FOMCが9月の利上げに踏み切った場合も、利上げペースが緩やかとの見方は変わらないだろう。
また、日本やユーロ圏の金融緩和による円安やユーロ安期待が大幅に後退したこともドル高鈍化の一因だ。ドイツでは昨年4月、長期金利が急上昇し、これがマイナス金利政策による金利低下とユーロ安期待の根底を揺るがしたと考えられる。このため、欧州中央銀行(ECB)が預金ファシリティ金利のマイナス幅を0.3%へと深掘りした昨年12月以降、少なくともユーロ安の動きはみられていない。
日本でも、今年1月末のマイナス金利政策導入後、かえって円高傾向が強まっている。日銀は、技術的なことはもちろん、そもそもなぜマイナス金利付き量的・質的金融緩和をもってしても予想物価上昇率が上がらないのかという検証を行う必要がある。これは、マイナス金利政策の導入後、円安どころか、かえって円高が進んだメカニズムの解明にもつながるはずだ。
<サプライズ演出が適切でない局面に>
金融緩和が通貨安へと波及しなかったり、かえって通貨高をもたらしたりするこうした動きは、日本やユーロ圏に限ったことではない。同じくマイナス金利政策を導入している欧州のスイスやスウェーデンなどにおいても、やはり予想物価上昇率が上がらなかったり、通貨高を招いたりしている。こうした現象が起こる1つの背景は、単にマイナス圏での金利低下に、為替相場は反応しないかもしれないということだ。
ただ、何よりも重要なのは、家計や企業といった各経済主体や市場が、金融緩和と通貨安に依存した景気浮揚そのものに懐疑的となった可能性も高い。特に、日本の場合、マイナス金利政策を受けて、各経済主体やマーケットが運用利回りの低下や年金債務の増加、銀行収益悪化懸念による株式相場への下押し圧力といったさまざまな副作用を連想する結果、期待されるプラスの効果を打ち消してしまい、予想物価上昇率がかえって低下すると考えられる。
比較的、歴史の新しい量的緩和やマイナス金利政策といった非伝統的な金融緩和の最大のカギは、各経済主体の適切なデフレ脱却あるいはインフレ期待の形成に、働きかけることができるかどうかだ。中央銀行の狙い通りの効果を金融政策が発揮するためには、企業や家計、そして市場との間で、政策の効果やデフレ脱却が達成されるとの期待感が共有されることが何にも増して必要だろう。そのためには、金融政策に関する事前の十分な説明が必要不可欠であり、サプライズの演出は適切とは言えないだろう。
しばらくの間、米国の利上げと日銀の追加緩和予想によって、漠然としたドル円上昇期待が高まり、ドル円は底堅く推移するかもしれない。ただし、昨年以降、為替相場の方向を決する要因としての金融政策の影響力は、かなり後退した局面にすでに入っているとみるのが妥当だろう。米国の利上げと日銀の金融緩和期待が、ドル円相場の持続的な上昇要因として、機能するとは考えにくく、その場合、日米間の経常収支の格差やインフレ率の格差が重みを増すと考えられる。
このようにしてみると、ドル円が年初来の下落トレンドを脱するとは考えづらく、ドル安円高圧力が加わる時間帯がまだ続く公算が大きい。反発が一巡した後は、年末に向けて改めてドル円が100円割れを試しにいく可能性が高いと考えられる。
*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から15年まで個人ランキング1位。
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