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エレベーション・バーガーのハンバーガーとポテト(筆者撮影)
米国の若者が金欠でも高いハンバーガーを買うワケ 過激な社会変革を求め、実践していく「ミレニアル世代」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47675
2016.8.25 老田 章彦 JBpress
首都ワシントンにあるジョージタウン大学を久しぶりに訪ねて、驚いた。構内には学生食堂のほかにフードコートがあり、外食のチェーン店が並んでいるが、その内容が以前とはがらりと変わっていたのだ。
ケンタッキー・フライドチキンやピザハットといったおなじみの店が姿を消し、代わりに1軒のハンバーガー屋が営業していた。いや、ぱっと見てハンバーガーと判別できたわけではない。「エレベーション・バーガー」というその店は、青と白で雪山を描いた実に爽やかな看板を掲げており、アイスクリームか何かの店かと思った。
その違和感につられて近寄ってみると、この店は「史上最高のオーガニック・バーガー」を標榜していることが分かった。野菜も肉もオーガニック。牛肉はホルモン剤や抗生物質などの薬品を使用せず、放し飼いで牧草だけを食べたウシからとっているという。値段はかなり高い。どういうハンバーガーなのか。
■“おいしくない?”ハンバーガーを高値で買う学生たち
ちょうど昼どきだったので、ものは試しと買ってみた。
まず、フライドポテトは太さと長さが不揃いだ。大手チェーン店では形と白さを保つためさまざまな添加物を加え、工場で大量生産した冷凍ポテトを店舗に配布することが多い。だが、ここではポテトを店舗でカットして揚げている。だから不揃いなのだという。現場では手間がかかるだろう。
ポテトを揚げる油は、大手チェーンでは健康リスクが指摘されることの多いサラダオイルが一般的だが、ここではオリーブオイルを使っているそうだ。健康的かもしれないが、やはりコストは割高になるだろう。
牧草だけで育てられたという牛肉はどうかと、ハンバーガーをかじってみた。牛肉独特のねっとりした舌触りが少なく、悪く言えば少しパサパサしていて「Grassy flavor(草くさい)」風味だ。放し飼いにされた牛は運動量が多く、筋肉質になりがちなこともあるだろう。
アメリカ人は、穀物飼料で育てた脂(あぶら)の多い高カロリーな肉を食べ慣れている。ヘルシーとはいいながらこうした淡泊なハンバーガーがアメリカ人に受け入れられるのか疑問である。
だが、マクドナルドなどと比べて値段が1.5〜2倍近くもするこのハンバーガーを、若者たちが列をなして買っている。一体これはどうしたことか。
■健康マニアが多いミレニアル世代
「史上最高のオーガニック」を掲げるエレベーション・バーガーは、首都ワシントンの南隣、バージニア州で2005年に誕生した。創業者のハンス・ヘスは、自分の子供たちに食べさせたい理想の外食を妻と一緒に考えるうち、安全と健康を最優先するコンセプトにたどり着いたという。
値段は高いが付加価値も高いハンバーガーは評判を呼び、3年後の2008年にはフランチャイズ展開を開始。現在は国内外に53店舗を構える。
外食業界では、エレベーション・バーガーの急速な成長は「ミレニアル世代」からの支持によるところが大きかったと見られている。
ミレニアル世代とはおよそ35歳以下の世代を指す。ベビーブーマーの子供たちだが、親世代より人口が多い。数え方にもよるが、ミレニアル世代は最大で米国総人口の3分の1に達する大集団であり、彼らの消費性向が今後のアメリカのビジネスを大きく左右することは間違いない。
彼らは食生活についてどう考えているのか。あるコンサルタント企業の調査によれば、ミレニアル世代の26%が自分を「健康マニア」と自認し、自分の体に何を入れるのかについてきわめて高い意識を持っているという。彼らは安全で健康的な食品であれば、値段が高くても買うことを躊躇しない。筆者が見たジョージタウン大学の学生たちは、マニアとまではいわずとも健康への関心が高いグループなのだろう。
ミレニアル世代の要求に応える安全・健康なハンバーガーの市場は、急速に拡大している。エレベーション・バーガーの1年前には、「シェイク・シャック」がニューヨークで設立され、去年は日本にも進出した。そうした新興勢力のほか、「カールス・ジュニア」などのような老舗企業も積極的に参入してくるようになった。
■企業の社会責任にうるさいミレニアル世代
ミレニアル世代は、自分さえ安全な食品にありつけば満足するわけではなく、自分たちの食が社会に与える影響を意識する傾向が強い。
そのため彼らはファーストフードの売り手、つまり企業が人と動物と環境に優しいかどうかに強い関心をもっているようだ。そして、実際に人や動物、環境に優しい企業が支持されている。例を挙げてみよう。
・人に優しい
「シェイク・シャック」がアメリカで大当たりした理由の1つに、同社が業界では高水準の給与や福利厚生の充実に努力していることがあると言われている。ファーストフード業界は、渡米まもない移民など低熟練労働者を大企業が安く使う最底辺の労働市場のように言われることが多い。ミレニアル世代は、労働者を「むさぼらない」経営姿勢にも強く共感するようだ。
・動物に優しい
ミレニアル世代に人気のあるメキシコ料理のファーストフード「チポトレ」は、人道的な育て方をした豚肉の使用を標榜している。その品質管理は難しい。2015年、ある契約農場でのルール違反が判明すると、チポトレはその事実を公表し、当該農場からの豚肉の納入を停止した。チポトレの一部の店舗から豚肉のメニューが半年以上にわたって消えたが、顧客の間には不満よりもむしろチポトレの対応を支持する声が多かったという。
・環境に優しい
シェイク・シャックの店舗は、ボウリング場のレーンの廃材で作ったテーブルをはじめ、椅子や壁材もリサイクル木材の利用を進めている。ペットボトルやプラスチック製品のリサイクル率を100%にするほか、独自ブランドのミネラルウォーターの売り上げの一部を世界の水資源保護のために寄付しているという。
こうした人と動物と環境に優しい経営は、経済と自然と資源の持続性(サステイナビリティ)につながる。このことへのミレニアル世代の共感は、世界共通のようだ。市場調査会社のニールセンが2014年から2015年にかけて行った国際的な調査では、「よりサステイナブルな商品・サービスであれば割高でも買う」と答えたミレニアル世代は50%から73%へと大きく増加した(35歳以上の人は55%から66%への増加)。ミレニアル世代は、サステイナビリティに特に関心が高いことをうかがわせる。
■社会変革に直接タッチしたいミレニアル世代
アメリカのミレニアル世代は、バーニー・サンダース上院議員が掲げる「過激な社会変革」の支持者として脚光を浴びるようになった。
長引く就職難に加え、高騰する学生ローンの返済に追われて破産同然になる者が続出するなど、明るい材料が乏しいミレニアル世代が大きな変革を求める気持ちは当然である。
だが彼らは、政治家をかついで中央の政治を変えようとするだけにとどまらない。身のまわりの社会も自分たちでこつこつ変えていこうとする。そこがミレニアル世代の大きな特徴と言えるだろう。
全米に700店舗以上を展開するサンドイッチ・チェーンの「ファイアーハウス・サブ」は、その名が示すように創業者が元消防士だ。同社は2005年、ハリケーン「カトリーナ」がもたらした甚大な被害をきっかけに、公衆の安全に貢献する事業を開始した。売り上げの一部を割き、洪水などの災害に役立つ救助ボート、消防士が交通事故現場で使う救命用具、山火事の消火活動に必要な高性能の防火服などを購入し、地域の消防署に寄付している。
同時に顧客も、お釣りの寄付や、各店舗で使用済みとなるピクルスの容器(19リットルの頑丈なプラスチック製で、再利用しやすい)を2ドルで購入することで、消防署の援助に参加できる。こうした「小さな世直し」に直接タッチできることが、ミレニアム世代をファイアーハウス・サブにひきつける要因と言われている。
ミレニアル世代の若者たち自身も、新たな事業の担い手になっている。首都ワシントンで2007年に創業したオーガニックサラダの「スイートグリーン」は、同年にジョージタウン大学を卒業した3人の若者によって始められた。彼らが創業以来注力してきたのは、地産地消の推進だ。全米に展開する48店舗では、それぞれの地域の農家から野菜を仕入れている。地産地消で農家と消費者を結びつけることがサステイナブルな地域経済の基盤になるという信念によるものだ。
筆者もこの店に入ったことがあるが、ボウル1杯のサラダで十分満腹するとはいえ、大半のメニューが税込みで10ドルから15ドル近くするのはけっこうな値段だと思った。だが若者が中心の客たちはカウンターに列をなしてこのサラダを求めている。高価なハンバーガーを買い求め、淡泊な味わいに舌鼓をうつ大学生のことを思い出しながら、ミレニアル世代の気持ちに触れた気がした。
■自分と社会にとって「いいもの」を
自身の健康だけでなく、社会によい影響をあたえる企業活動を高く評価し、変革を強くのぞむ若者が増えている。
筆者の周辺には、経済的にぎりぎりの暮らしをしながらも、「変なもの」を食べるくらいなら一食抜いてでも高くて「いいもの」を食べると真顔で言う若者が少なくない。いいもの、とは自分と社会の両方にとってである。生真面目なその姿勢に、頭が下がることもある。
ミレニアム世代が成熟に向かう今後10年、20年でアメリカはどう変化していくのか。ぜひ見届けたいものだ。
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