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日経新聞の連載「日本国債」は、この夏最大のホラーである〜シン・ゴジラはリアルで怖いが、こちらは誤解だらけで怖い…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49448
2016年08月15日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
■この夏。五輪と、ゴジラと
今日は15日、終戦記念日である。この時期になると、戦争当事者であった日本という国を意識せざるを得ない。
おりしもリオ五輪の真っ最中である。筆者もテレビ観戦で寝不足、疲れ気味である。競技は個人間の争いであるものの、選手がどこの国の出身であるかを否が応でも意識せざるを得ない。日頃、日の丸、君が代斉唱問題でうるさい左派系の人でも、五輪で日本選手が金メダルを取った場合の日の丸、君が代斉唱では無粋なことをいわない。
五輪はほどよいナショナリズムを高揚させてくれる国際イベントだろう。ただし、五輪は平和の祭典であり、第一次世界大戦時の1916年第6回ベルリン大会、第二次世界大戦時の1940年の第12回東京大会、1944年の第13回ロンドン大会は中止されている。五輪が行われているときは、世界規模の大きな戦争がないということだから、感謝しなければいけない。
この夏は、映画「シン・ゴジラ」でも国を意識する。このコラムでも、映画「シン・ゴジラ」の評論があるが、筆者がこれから述べることは社会的評論ではなく、単なる感想だ。
「シン・ゴジラ」については公開初日の7月29日、8月6日と二回観た。筆者はゴジラオタクであり、本作を含め国内版29作、海外版2作について、すべてほとんど映画館で観ている。
「シン・ゴジラ」では、首相官邸などでの会議シーンが多く出てくる。もちろんゴジラは架空の話であるが、官邸会議の様子や政策決定までの手続き、法律の運用などの部分にはリアリティーがある。
公開中の映画なので、詳細な内容はネタバレになるので言及しないが、左派系の人からは「2011年の福島第1原発事故が下書きになっている」「憲法改正論議の対象とされる緊急事態条項を正当化するために、政府にすり寄っている」「日米安保を強調しており、政治的意図がある」といった指摘があるようだ。
これはちょっと考えすぎだろう。これまでのゴジラ映画の国内版をみれば、ゴジラ以外の怪獣が登場するケースでは、地球防衛軍のような、地球規模の集団的自衛権の話になっている。
一方、初回の1954年のゴジラと、16作目の1984年のゴジラでは、相手となる怪獣はおらず、ゴジラ対人間の構図だ。その場合、当然ながら日本政府や自衛隊が出動することとなる。他のゴジラシリーズでも自衛隊が出てくるのはお決まりであるが、どのような兵器もゴジラにはまったく歯が立たず、政府がいろいろと苦慮する。
筆者には「シン・ゴジラ」が54年版と84年版をベースとしているように思えた。いずれもゴジラが東京に上陸するなど共通点も多い。
また、84年版では米ソが対ゴジラに核兵器を使うなど、「シン・ゴジラ」での国連安保理の作戦との類似点が多い。今作だけが取り立てて国際的な安全保障問題と結びついているわけではないので、左派系の感想は的外れではないだろうか。
■リアルなゴジラと非現実的な日経特集
今回の映画は官邸での会議のシーンが多く、ゴジラの出現に対して、政府は民主主義的手続きを踏んで、害獣駆除という名目で自衛隊を出動させる。その手続きや会議進行の様子は、従来の映画に比べてもかなりリアルだ。
ちなみに余貴美子が演じる防衛大臣は、同大臣当時の小池百合子東京都知事を彷彿させる(蛇足だが、「シン・ゴジラ」は都知事選での小池票に貢献したのではないか)。
「シン・ゴジラ」はゴジラ以外はかなりリアリティがある。官邸の会議室の状況などは、筆者から見ても、かなり本物と似ている。ただし、官邸の部屋に関する情報はセキュリティー上機密扱いがかなりあり、官邸勤務になると、部屋の写真を公開しないように注意を受ける。
特に首相や官房長官が執務する4F、5Fは報道陣の立ち入りが制限されており、外部からものぞかれないようになっている。映画の中で、首相執務室はおおむね正確であったが、一部は明らかに違ったところもあった。
この映画には、内閣府防災担当が協賛している。当然ながら官邸のセキュリティー上の秘密を明かしてはいないだろうが、東京・有明のオペレーションルームが使用されている。また、枝野幸男氏と小池百合子氏が取材協力している。
ある防衛関係者に聞いたら、ゴジラを多摩川で迎え撃つ作戦はかなりリアルだといっていた。自衛隊の発射した実弾がすべてゴジラに命中するのも現実的である。
そして、セリフもかなりリアルである。「自衛隊は、この国を守ることができる最後のとりでです」というのはその通りで、自衛隊は違憲、防衛費は人殺し予算という政党は、この言葉をどう思うのか。
あまりに現実的で迫力があるため、ゴジラは観る人が観れば、かなり「怖い映画」だと思う。しかし、それより怖いのが、日経新聞の短期連載「日本国債」である。これは、ホラーと言ってもいいかもしれない。
■まず、ココがおかしい
この連載は、戦後のハイパーインフレの歴史を紹介して、財政政策・金融政策が一体化しているアベノミクスを批判する、というものだ。戦後の預金封鎖を材料として、財務省はこれまで「財政再建キャンペーン」を行ってきた。その時期として、終戦記念日あたりがいいタイミングなのだろう。
今回の日経新聞も、いわゆる財政再建の必要性をいうキャンペーンものである。その中でも「面白い」のは、元財務相の藤井裕久氏(旧民主党)のインタビューである(http://www.nikkei.com/article/DGXLASM108H0I_R10C16A8000000/)。
「消費税を目的税として使うといったのが小沢一郎(新生党代表幹事=当時)です」
と語っている。しかし、小沢氏にそのように唆したのは、はじめは一部の財務官僚だった。その当時、財務省内には「社会保障は保険料で賄うのが基本で。保険料を払えない人の分は高額所得者からの累進超過所得税で賄う」という世界標準の正論もあった。
筆者は、その立場を忠実に再現し、「消費税を社会保障目的税としている国はない」と言い切った。そのように書かれた公式文書は政府税調答申などに残っているはずだ。ついでにいえば、消費税は安定財源のために地方の財源となっている国が多い。
しかし、消費増税をもくろむ財務省は、小沢氏が権勢を誇っていたことを利用して、消費税を社会保障目的税にする、という世界で例のない税制に方向転換した。これは完全な政策ミスであった。そのミスを改めることなく、2012年の3党合意まで持って行ってしまった。
そして、消費増税は、今の財政状況が危ないからだという前提で行われている。藤井氏も、日本の財政は破綻寸前という大前提で話を進めている。
この藤井氏のインタビューでは、
「大蔵省に本当の幹部達の集まりがあるんだよ」
とされ、その場で、黒田日銀総裁が財政健全化の重要性を藤井氏から諭されていることが書かれている。
たしかに、財務省の歴代幹部の集まりはある。その場で、諸先輩からどのように評価されるかが、自分の天下り先の選定にも関係するので、諸先輩から評価されるように、歴代幹部は必死になる。財務省はかなり軍隊組織の伝統が残っているので、縦のつながりは外部の人からは想像できないだろう。
■実際、負債は150兆円程度
そうした場では「日本の財政が悪い」という話になるのは、疑問の余地のない大前提である。
もっとも、本コラムの読者であれば、昨年12月28日付け「「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした〜それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47156)を読んで覚えているだろう。そのコラムは、海外にも英訳されて、大きな反響があった。
財務省は3ヵ月ごとに「国の借金」を公表し、そのままマスコミは国民に垂れ流している。先日も、国債や借入金、政府短期証券をあわせた「国の借金」の残高が6月末時点で1053兆4676億円になったと発表された。
内訳は国債が918兆4764億円となり、3月から7兆6667億円増えた。一時的な資金不足を穴埋めする政府短期証券は1兆4697億円減の82兆2792億円だった。借入金は2兆955億円減の52兆7120億円だった。今年7月1日時点の総務省の人口推計で単純計算すると、国民1人当たり約830万円の借金を抱えていることになる。
以上は、財務省の発表である。ウソではないが、バランスシートの右側という情報の一部を示したものでしかない。
これに対して、これは「国の借金」というのはミスリーディングであるという反論もある。要するに、国民の借金であるかのようにいうが、正確には政府の借金であって、国民とは関係ないというものだ。
ただし、この意見はちょっと甘い。確かに政府の借金であるが、政府が破綻すれば、国民への行政サービスが行われくなり、その損失は結局国民に降ってくる。大きな大企業が倒産したら、その関連先には大きな被害を被るが、日本政府は日本の中で最大の企業といってもよく、日本政府に無関係な国民はほとんどいない。
ではどう考えたらいいだろうか。
一番心配なのは、日本政府の破綻であるので、その「バランスシート」を見てみればいい。借金だけをいっても、それに見合う資産があれば破綻しない。これは破綻論の基礎である。
政府のバランスシートは、きちんと財務省のホームページに載っている。国の財務書類は、http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2014/national/fy2014-gassan.pdfにある。
政府子会社を含めた連結ベースの政府バランスシートもある(連結財務書類http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2014/national/fy2014-renketsu.pdf)
それらを初めて政府内で作ったのは筆者だ。今から20年以上前のことである。しかし、それらは直ぐには公表されずに、正式に公表されたのは2006年からだ。
しかも、連結ベースのバランスシートでは、政府子会社となるべき日銀が抜けている。中央銀行である日銀を含めて政府の財務状況を考えるのは、経済学では当たり前のことで、これは「統合政府」といわれている。
政府のバランスシートでみて、資産を差し引いたネットの負債残高は500兆円程度である。さらに、統合政府で考えればネット負債残高は150兆円程度である。これらの対GDP比率を見れば、先進国の中でも悪いほうでない。
■バランスシートも分からないの?
こういうと、まだ債務超過であるという批判もある。しかし、政府の場合、強制的に税金を徴収できる徴税権がある。どんなに少なく見積もっても毎年30兆円以上の税金徴収ができるのだから、その資産価値は数百兆円以上だろう。
というわけで、政府バランスシートでみても、統合政府バランスシートで見ても債務超過ではない。これが政府や統合政府のまともな財務分析である。
それでも、政府のバランスシートの評価法で問題があるという人もいる。しかし、筆者はその批判にも解答を出し、財務省内に埋め込んでいる。
資産の大半は、出資金と貸付金である。政府の公表されたバランスシートは、一応額面となっている。しかし、それらの出資金と貸付金は、それらが生み出す将来キャッシュフローからの現在価値も算出されている。キャッシュフロー分析による政策コスト分析である(http://www.mof.go.jp/filp/summary/policy_cost_analysis/index.htm)。
これは、出資金や貸付金に時価評価を行っていることに相当する。バランスシートにおける額面と政策コスト分析における時価評価の両方を見ていれば、国の財務分析は十分だろう。
日経新聞の短期連載「日本国債」がまったく物足りないのは、書いている記者が以上のような財務分析をまったくわかっていないことだ。日経新聞自体がコーポレートガバナンスがない会社なのに、他会社のコーポレートガバナンスを批判するのは滑稽だったが、バランスシートをわからずに国の財政を論じていることには呆れてしまう。
また、藤井氏に限らず財務省の歴代幹部は、戦前に国債を日銀引受したから、戦後ハイパーインフレになった、という史実に反する思い込みが強い。
高橋是清は、1931年に蔵相に就任すると、1932年11月に日銀による国債の直接引き受けを始めた。東京卸売物価指数で見ると、1932年から1944年のインフレ率は平均9%。今から見れば高いように見えるが、当時としてはそれほどでもなく、まして悪性インフレとはいえない。
■そしてホラーが蔓延する
悪性インフレになったのは1946年だ。1945、1946年のインフレ率はそれぞれ、41.1、378.5%と酷かった。戦前の日銀引受は1932年に実施され、戦後の1946年の悪性インフレとは13年の間がある。
戦争で生産設備が壊滅的な打撃を受け、モノ不足で悪性インフレになった。こうしたことは世界各地の敗戦国で見られた現象である。まして戦後の悪性インフレとその14年前の日銀の国債引受は関係ない。
現時点で考えても、中央銀行の国債引き受けはマネーを増加させる、というのが事実であるが、それがハイパーインフレになるかどうかは、経済状況と引き受け量に依存する。金融政策がハイパーインフレになるという論者は、こうした経済関係を数量的に理解できないのだろう。
そのため、量的緩和を開始するときも「量的緩和でハイパーインフレになる」と叫んでいた。ところが、2001−2006年も、今回の量的緩和はハイパーインフレどころか、デフレ脱却すらできていない。ちょっと物価は上向きになったが、2006年時は迂闊にも量的緩和をやめてしまった。
現在でも、消費者物価統計の上方バイアスを考えると、インフレ率は▲1%でもおかしくない。つまり、量的緩和が足りないのだ。インフレ目標2%があれば、おそれることはない。インフレになってもハイパーインフレのはるか手前で金融緊縮になるからだ。
筆者は、「借金1000兆円で日本の財政は破綻寸前」とか、「財政・金融一体化でハイパーインフレになる」というのは、脅しでしかない「ホラー話」であると思っている。その理由は上で示したとおりだ。
五輪はまさにリアルだ。「シン・ゴジラ」もゴジラ以外はリアルだ。しかし、日経新聞の短期連載「日本国債」は、史実の解釈を誤ったホラー話ではないかと思うのだ。
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