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村上ファンド「村上」攻撃で完全復活…大企業の株を続々取得でやりたい放題、何がしたいのか?
http://biz-journal.jp/2016/07/post_16068.html
2016.07.28 文=編集部 Business Journal
海運業界の再編が加速している。日本郵船、商船三井、川崎汽船の国内大手3社は、韓国の韓進海運、台湾の陽明海運、独ハパックロイドと、コンテナ船の新しい共同運航組織「ザ・アライアンス」を設立した。2017年4月から、アジアと北米や欧州を結ぶ東西航路のコンテナ船の共同運航を始める。
船舶の供給過剰と運賃低下を受けて、海運業界は歴史的な市況低迷に喘ぐ。コンテナ船の運賃は09年3月期を100とした指数で、16年3月期の北米航路が85、欧州航路は52まで低下した。もはや事業を継続できる環境になく、生き残りを賭けて合従連衡が相次ぐ。
中国では今年2月、中国遠洋運輸集団(COSCOグループ)と中国海運集団(チャイナ・シッピング・グループ)が合併し、運航能力で世界第4位の海運会社が誕生した。
M&Aを重ねて世界最大手となったデンマークのA・P・モラー・マースクを軸に、世界的な海運再編が進行する。必然的に日本の海運大手も再編の渦に巻き込まれることになる。
海運再編を絶好のビジネスチャンスと捉えた投資ファンドがある。「物言う株主」として一世を風靡した、「村上ファンド」の通称で知られたM&AコンサルティングやMACアセットマネジメントといったファンドの出身者が設立したエフィッシモ・キャピタル・マネージメントである。
■川崎汽船に揺さぶりをかける
川崎汽船が6月24日に開催した定時株主総会で、村上英三社長の取締役再任への賛成率は56.88%にとどまった。衝撃的なこの数字は、川崎汽船が関東財務局に提出した臨時報告書で明らかになった。昨年の賛成率は85.92%だったから、29.04ポイント下がったことになる。投資ファンド、エフィッシモが反対票を投じたため、薄氷を踏む再任劇となったのだ。
エフィッシモは昨年8月に川崎汽船株を取得し、その後も買い増してきた。今年3月末時点の持ち株比率は30%弱だったが、6月21日時点では34.22%に上昇した。3分の1超の株式を持つと、定款変更や会社の解散、分割、合併、事業譲渡などの重要事項を決める株主総会の特別決議で拒否権を発動できる。さらに買い増しを続け、7月20日時点で持ち株比率は36.42%に高まった。
エフィッシモは川崎汽船に揺さぶりをかけるカードとして、「自己資本利益率(ROE)」を使った。株主総会では「ROEが8%に達していない」と攻め立てた。川崎汽船は海運市況の低迷で16年3月期に514億円の連結最終赤字を計上、17年3月期も350億円の最終赤字を見込む。16年3月期のROEはマイナス12.9%と、落第点である。エフィッシモは、これを理由に村上社長の再任に反対したのだ。
エフィッシモの3月末時点の持ち株比率は3割弱であるから、株主総会ではそれ以外の株主も業績低迷の責任を問うかたちで村上氏の取締役再任に反対票を投じたことになる。
エフィッシモの本当の狙いはどこにあるのか。
■息を吹き返したエフィッシモ
エフィッシモは、村上ファンドのメンバーで資金運用責任者を務めた高坂卓志氏が、06年6月にシンガポールで設立した。村上ファンド代表の村上世彰氏がインサイダー取引で逮捕される4日前のことだ。捜査の手を逃れるため、村上ファンドをシンガポールへ移転させることを狙った。その際に、高坂氏は立ち上げスタッフに選ばれた。高坂氏はペンシルベニア大学でMBA(経営学修士)を取得。村上ファンドの解散後、同ファンドのメンバーがエフィッシモに合流した。
運用実績が低迷し、苦境に立たされているファンド業界のなかで、息を吹き返してきたのがアクティビスト・ファンドだ。一定以上の保有株式を裏付けにして、経営者に対して増配や自社株買いなどの株主還元策を要求。株主総会での議決権行使などを積極的に行う投資ファンドのことで、「物言う株主」と呼ばれる。
エフィッシモはアクティビスト・ファンドとして活発に活動している。川崎汽船、第一生命保険やヤマダ電機、リコーなど、15社の株をそれぞれ5%超保有する。7月4日に関東財務局に提出した大量保有報告書によって、ジャパンディスプレイ(JDI)株を5.44%、日東紡株を5.00%取得したことが明らかになった。
エフィッシモの日本株買いの勢いが止まらない。さながら、“エフィッシモ旋風”と呼べるほどだ。いずれも「純投資」としているが、なかでも異彩を放つのが川崎汽船株だ。純投資であれば、拒否権を行使できる3分の1超の株式を保有する必要はないからだ。大量に保有すると、高値で売り抜けるのに邪魔になる。
■川崎汽船株を海外企業に高値で売り渡す狙い?
エフィッシモの投資手法は、かつての村上ファンドのそれを踏襲している。割安株を大量に仕込み、経営陣に圧力をかける。そして、自社株買いなどで内部留保を吐き出させ、それに乗じて買い占め株の高値売り抜けを図る手法だ。
大量に取得した株式を発行会社やその親会社に買い取らせてもいいし、その株を欲しがっているライバル企業に売ってもいい。高い値段をつけたほうに売ればいいのだ。
エフィッシモのデビュー戦となったダイワボウ情報システムの場合は、前者だった。老舗繊維会社、ダイワボウ(現・ダイワボウホールディングス)とダイワボウ情報システムは、親子上場していた。エフィッシモは企業統治の“ねじれ”を突いた。08年にダイワボウは、買い占められた株式の買い取りを了承し、エフィッシモは90億円の儲けを手にした。
川崎汽船株の売却は、それとは違ったパターンになるとみられる。川崎汽船を買収したいと考えている海外の海運会社を視野に入れているようだ。海外勢は、3分の1超の株式を保有して川崎汽船の生殺与奪権を握る魂胆だろう。
海運業界が絶好調の時には、この手法は使えないが、世界的な再編機運が高まっている今なら使える。エフィッシモにとって、川崎汽船株を高値で売り抜ける絶好のチャンスが到来しているのである。
(文=編集部)
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