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曲がり角に来た新自由主義経済
記者の眼
トランプ現象とBrexitが示すもの
2016年7月28日(木)
田村 賢司
「俺たちはだまされている」
まさかと思われた英国の欧州連合(EU)離脱、どう見ても泡沫でしかなかったはずのドナルド・トランプ氏の米大統領選の共和党候補選出の裏には、怒りが満ちている。
富める者と貧しい者との間の所得格差が極限まで開き、移民の増大が既存住民の職を奪い、社会を不安定にする。政治エリートは、中低所得者層に配慮した政策を何も打ち出せていないと。
確かに格差は開いている。米国の労働総同盟・産業別労働組合会議(AFL−CIO)によると、主要企業500社(スタンダード&プアーズのS&P500採用企業)の労働者に対するCEO(最高経営責任者)の年収倍率は、1980年に42倍だったが、2014年には373倍に拡大。ウォルマートのCEOの収入を時給換算すると、同社の米従業員の最低賃金時給の約1036倍に達しているという。
(写真:Sara D. Davis/Getty Images)
「置いていかれた」側の膨張に目を付けたトランプ氏
想像もつかないほどの格差の広がりである。そして、その上に低賃金でも働く移民に職を脅かされると恐怖心を抱けば、トランプ氏のぶち上げる「米国とメキシコの国境に不法流入者を防ぐ強大な塀を築く」といった極端な主張にも中低所得者は、「YES」と叫ぶのだろう。Brexit(英国のEU離脱を示す造語)にも程度こそ違え、似た傾向を感じる。
だが、それだけだろうか。トランプ現象やBrexitのさらに奥にあるのは、世界経済の潮流となってきた新自由主義が曲がり角にきているという大きな変化ではないか。福祉・公共サービスなどの縮小、公営事業の民営化、規制緩和などを柱とした新自由主義は、1979年に英国でマーガレット・サッチャー政権が、81年に米国でロナルド・レーガン政権が誕生して以後、世界経済を本格的に動かし始めた。
前述のAFL−CIOの調査で見れば、CEOと労働者の年収差がまだしも小さかった1980年はその「出発点」であり、30年余りで格差自体が9倍に広がっている。この間、なにが起きたのか。新自由主義の根幹は、経済を政府の介入よりも市場に任せる市場原理主義である。この中で企業は当然、よりコストが低く、収益機会のある場所を求めて動くからグローバル化が進む。それは1990年代後半のIT(情報技術)・インターネットの拡大・普及でさらにドライブがかかった。
グローバル化が進めば、より多様で、より安価な財とサービスを各地で購入できるようになる。金融の自由化を初めとした規制緩和で世界規模のM&A(合併・買収)も活発になる。となれば、地域や産業によっては、今まで売れたものが売れなくなり、職場が突然なくなるといった激変が日常茶飯事になる。移民の流入は人の移動の自由化という点で同じ文脈だから、やはり地域や産業に大きな変化を起こす。
当然ながら、全ての人が等しく恩恵を受けることはないから、メリットを享受出来る人と、そうでない人の間に明らかに差が出来る。年収格差42倍から373倍への拡がりは、その結果を示している。
トランプ氏とBrexitの推進派はその「置いていかれた側」の膨張に目を付けたのだろう。大統領選の民主党予備選で有力候補、ヒラリー・クリントン氏を追いつめたバーニー・サンダース上院議員を押し上げたのも同じ層である。
(写真:Alexander Tamargo/WireImage/Getty Images)
トランプ氏が訴えるのは、自由貿易の制限であり、年金の維持を初めとした小さな政府志向の“改変”であり、規制の強化である。「これは共和党なのか?」と思わせる程に、置いていかれた側に的を絞って極端な政策を打ち出したことが成功している。そして、そこに見えるのは、従来の新自由主義が壁に突き当たっている姿でもある。
民主・共和両党の政策に違いがなくなる
この変化は政治と経済の新たな潮流になるかもしれない。例えば、予備選でクリントン候補は、夫のビル・クリントン元大統領時代に廃止したグラス・スティーガル法の復活を念頭に置いた金融規制強化を唱えている。同法は、銀行と証券に垣根を設けるものだ。金融規制の強化は、本来は民主党の伝統政策であり、ビル・クリントン大統領による廃止自体が“異例”でもあったが、トランプ氏も同様の規制強化を訴えている。
これは共和党の伝統から離れるものであり、別の角度から言えば、党派の境界自体が見えにくくなりつつある。
通商政策も同様。国内の雇用に影響を及ぼすとしてトランプ氏はTPP(環太平洋経済連携協定)に反対し、ヒラリー・クリントン氏も「米国の労働者(の権利)を損なわないことを確実なものにする」と訴える。大量の雇用を生むインフラ投資にも両者は積極的あるいは前向きな姿勢を示している。
中・低所得者層の不満と苛立ちは今、明らかに政治を変えつつある。「ヒラリー・クリントン氏が大統領選で勝てば、民主党政権はバラク・オバマ大統領以来、計16年に届く可能性が出てくる。大統領選で民主党の勝利となれば、共和党は新自由主義をベースにした今までの政策を本格的に見直さなければならなくなるかもしれない」と東京財団の渡部恒雄・政策研究ディレクター(外交・安全保障担当)兼上席研究員は指摘する。
これは政治に留まらず、経済の在り方をも変えかねない変化である。最新の世論調査では、トランプ氏がヒラリー・クリントン氏をわずかにリードしているという。ただ、民主党の全国大会で同氏が大統領候補に指名されれば、また逆転する可能性も十分ある。
この一連の動きを「ポピュリズムによる短期的なもの」と侮ることができるのだろうか。世界経済の潮流は着実に変化し始めている。
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記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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IoTの隠れた巨人・中国の可能性と課題
The Economist
ネットに接続されたデバイスの数は既に世界一
2016年7月28日(木)
The Economist
「モノのインターネット」(IoT)が大きな話題を呼んでいる。家電製品や包装品、衣料品、医療機器、その他あらゆるものがスマートチップ経由でインターネットに接続され、検知した情報を共有する――。そんな世界の到来がこの10年ほどで現実味を帯びてきた。
(写真=AP/アフロ)
個人の身体活動を測定・記録してスマートフォンに通信するフィットビットなどのヒット商品が生まれたものの、消費者市場におけるIoTの歩みは相変わらず遅い。だが産業分野におけるIoTははるかに早く実現するかもしれない。
世界一の製造大国である中国は、この流れを主導する上で有利な立場にいる。世界最大の事業会社である米ゼネラル・エレクトリック(GE)が「デジタル・ファウンドリー」なるものを上海に設立したのもそのためだ。このセンターは、中国企業が産業IoT向け製品を開発したり商品化したりするのをサポートするための拠点だ。
産業IoTでは、相互に、そして周辺環境とコミュニケーションをとる機能を持つ工場機械や工業用品が組み込まれる。この市場はおそらく、消費者向け市場よりもずっと大きなものになるだろう。
中国には何百万もの工場があり、そこに存在する機械類の数は何十億にのぼる。また、中国は世界に出回る電子機器の大半を製造している。その中には、こうしたネットワークのバックボーンを形成する多くのセンサーやその他の電子デバイスも含まれている。しかも中国政府は国内の生産拠点を拡充することに乗り気だ。
2020年には3000億ドル超える市場に
中国ではどの国よりも多くのデバイスがつながっている
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/224217/072700094/02.jpg
出所:The Economist/GSMA
中国では既にどの国よりも多くのモノが相互接続されており、その数は今後も爆発的に増えていくだろう(図参照)。米調査会社IDCの試算によると、様々な形態のIoTキットをまとめた中国市場全体の規模は昨年1930億ドル(約20兆5000億円)だった。これが2020年には3610億ドル(約38兆4000億円)に成長するという。
米コンサルティング会社のアクセンチュアは、製造業がIoTの導入を進めれば、中国のGDP(国内総生産)を2030年までに最大7360億ドル(約78兆2000億円)に押し上げる可能性があると見込んでいる。
GEがデジタル・ファウンドリーを設置したのは、同社製のIoT向け独自ソフトウェア「Predix」を企業に普及させる取り組みの一環だ(GEは欧州市場に参入するため近くパリにも同様のセンターを立ち上げる予定)。同社は中国東方航空 、中国電信 という中国の大手国有企業2社と既に契約している。最近、中国通信機器の巨大企業、華為(ファーウェイ)技術も提携企業に加わった。
中国が産業IoTの発展を担う豊かな土壌となる可能性を見出しているのはGEだけではない。競合である独シーメンスは7月、自社の技術を周知するためのイベントを北京で開催した。ヒューレット・パッカード(HP)やハネウェル、シスコシステムズなどの米IT大手も参入を急ぐ。
中国企業では三一重工がIoTを主導
中国企業にも独自のプランがある。移動電話最大手の中国移動通信は自社製デジタル・ファウンドリーとして「セルラーIoTオープンラボ」を立ち上げた。李跃 CEO(最高経営責任者)は、2020年までに50億ものデバイスを接続し、IoT関連で1000億元(約1兆6000億円)の収益を上げることを夢見ている。
中国企業は国内の事情をよく心得ている。建設機械大手の三一重工 は2008年、自社工場の床に設置している機械類の接続を始めた。次に、稼働効率を上げるため掘削機やクレーンにセンサーを取り付けてリアルタイムでモニターできるようにした。同社はデータ解析と人工知能に資金を投入している。
この一連の取り組みを主導している賀東東 氏は、外国企業とは異なり「中国の状況下」で正常に機能し、価格も手ごろなキットを生産する方法を知っているとうそぶく。同氏の言う「中国の状況」とは、労働者の熟練度が低く、不衛生な環境で、オペレーターがしばしば度を越えて設備を酷使する場所のことだ。
このような状況は、現地だからこそ得られる別の利点にもつながっていく。外国企業が提供するキットは上等かもしれない。これに対して、中国の企業は安価で楽しい製品の作り方を知っている。
IoTに向けた華為技術の取り組みはこの6月に勢いづいた。同社が開発に携わった「NB-IoT」と呼ばれる新プロトコルが世界の標準規格として認められたのだ。この新プロトコルは、低消費電力の安価なセンサーを搭載するデバイスを対象にしている。
中国が直面する3つの潜在的障害
だが、IoTの発展を目指す中国の野心には3つの潜在的な障害がある。まず、地域経済と世界経済がともに停滞する中で、企業には、所有する機械類をクラウドサービスに接続する余裕がないかもしれない。ただし、三一重工の賀氏は、力のある企業にとってはこの景気低迷が追い風になると考えている。下位にある競合企業が淘汰されていくからだ。
次に、一部の中国企業は、コンピューターを使って高度に管理された生産や自動化への移行に対し、しり込みする可能性がある。中国の工場は欧米に比べて技術面の発達が遅れているからだ。
最後は標準規格の問題だ。前述のNB-IoT は登場したものの、すべての分野を包含する世界規模での標準の設定は進んでいない。携帯電話の分野で欧州を躍進させたGSMプロトコルのように世界で広く使われる標準規格がないのだ。
米コンサルティング会社IHSのジャグディシュ・レベロ氏は、巨大な国内市場を持つ中国で当局が実現に向けて本腰を入れれば、世界市場を席巻する標準規格が誕生するかもしれないと主張する。もっとも外国企業はそんな事態を望まないだろうが(外国企業は、クルマからロボット工学、クラウドコンピューティングに至る様々な産業に関わっている)。
その一方で消費者は、IoTが進展し、スーパーマーケットと通信して自動的に食材を補充してくれる冷蔵庫が登場するのを今後も待ち続けることになる。
© 2016 The Economist Newspaper Limited.
Jul 23rd 2016 | SHANGHAI | From the print edition
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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The Economist
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サムスンのBYD出資は中国市場成功への布石?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
中国の政策に翻弄される電池業界、自動車業界
2016年7月28日(木)
佐藤 登
(写真:AP/アフロ)
7月14日のコラム「協業の成功と失敗を分ける要素は何か?」では、協業に関する成功と失敗の分岐点に関して実例を採り上げて記述した。双方の思惑が相反しないこと、相手への敬意を払うこと、双方がWin-Winの関係を築くようにリアルタイムで考えることが肝要と述べた。
また、今後も国境を越えた協業が一段と増えるだろうと記述したが、その直後に大きな動きが生じた。韓国のサムスン電子が中国大手自動車メーカーのBYDに出資することを、7月15日に発表した。韓国紙によれば約480億円の出資で2%の株式を保有する見通しという。
今回は、この協業の意味を、自動車向け電池の勢力図と中国市場に対する各国電池メーカーの思惑を鑑みながらひも解いてみたい。
参入障壁の高い自動車用電池
2015年12月に、サムスングループは自動車産業に直結するビジネスを目的とした「電装事業チーム」を発足させた。サムスングループが保有するリチウムイオン電池や半導体、各種デバイスや材料など、このチームが対象とするビジネスモデルは幅広い。
この組織を発足させるに至った背景は2010年までに遡る。当時のキム・スンテック副会長の指令の下、サムスングループ各社から幹部が寄せ集められ、自動車産業ビジネスに関する戦略タスクチームを結成した。
筆者もこの戦略の一翼を担ったが、韓国国内はもとより、日米欧の自動車各社とのビジネスを開拓する上で必要な組織であった。中でも、自動車産業が発展する日本は、サムスングループにとっては重要な市場である。そのため、副会長からの指示を受け、2010年から11年にかけて、ホンダ、トヨタ自動車、日産自動車、そしてデンソーでサムスングループの製品展示会を大々的に執り行った。
各社では、経営陣をはじめ部課長クラスにも大勢見学していただいた。「サムスンがここまでの製品群を有しているとは知らなかった」との驚きの声は、すべての展示会で聞かされた。
そこから車載用リチウム電池(LIB)やLEDライト、車体材料や半導体など、日本の各社と個別に協議できる下地がサムスングループでは作れたのである。しかしその後、順調にビジネスが発展していったかと言えば、そうではない。日本の自動車産業界では有力な競合他社が既に存在していて、サムスンが食い込むためにはハードルがかなり高かったと言える。
車載用LIBに関しては多々交渉をしてきたものの、日本の自動車メーカーとのビジネスが形成されるまでにはまだ至っていない。また、独BMW、欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)、独アウディの電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)にLIBを供給はしているものの、ここでもビジネス拡大は難航しており苦戦を強いられている。
2016年の1月から5月までの車載用電池の世界での出荷量ベースでは、トップのパナソニックが米テスラ・モーターズのEVへの供給を足掛りに着実な伸びを実現した。これに中国国内に供給先が限定はされているもののBYDが2位に続き、日産自動車とNECの合弁企業であるオートモーティブエナジーサプライ(AESC)、トヨタ自動車とパナソニックの合弁企業であるプライムアースEVエナジー(PEVE)、次に韓国LG化学、サムスンSDIと続く。従って、サムスングループは業界の中で後塵を拝している格好である。
中国政府のエコカー戦略上での協業課題
一方、中国政府はエコカー戦略を主導し、2020年時点でEV、PHVを主体に500万台を達成する目標を掲げている。しかし、この戦略は中国政府が中国国内産業界を興隆させるための偏ったもので、この方針に外国籍企業は戸惑いを感じている。
サムスンSDIもその渦中にある。中国市場の電動車両(xEV)の普及拡大をにらんで、中国西安市に車載用LIBの工場を完成させ稼働を開始した。中国ローカルの自動車メーカーの電動化戦略に応え、LIBビジネスの拡大を狙ったものである。同様にLG化学も南京市に車載用LIBの生産工場を建設し稼働している。
中国の自動車メーカーとのビジネス交渉をしているものの苦戦を強いられている背景には、中国政府の国内産業の保護政策のような力学が働いているからだ。中国政府は補助金政策の一環として、車載用電池メーカーの指定制度を導入している。これまで60社ほどがその認定を受けている模様だが、ほとんど中国企業が対象であり、サムスンSDIはその認定をいまだに受けていない。
xEVへの補助政策は今後一層厳しくなる模様で、政府の指定を受けた電池メーカーの電池を搭載したEVとPHVだけに補助金が供与されるというストーリーになると予測されている。サムスンSDIがその指定を受けることができなければ、中国での電池ビジネスは滞る。
そのためにもサムスングループとしては、中国との連携を強化し中国政府との距離感を縮める必要がある。今回、サムスン電子がBYDに出資した理由の1つに、このような政治的背景があるとの観測がある。
BYD自体も電池企業であり、自動車メーカーでもある。BYDのEVとPHVの今期計画は15万台程度としている。急拡大しているBYDの生産計画を考慮すれば、サムスン電子の電装事業チームが進める車載用半導体でのビジネス交渉もしやすくなるだろう。
しかし、そのような思惑通りに進むかは微妙なところもありそうだ。確かにBYDの車載用LIBには安全性や信頼性に課題があり、ここを克服しなければグローバルなビジネスを展開できない。そこに、サムスングループとの協業が成立すれば、サムスンの技術や知見、ノウハウを活用できることになり、BYDにとっても良い機会となるだろう。
筆者は、2013年から数回にわたり、中国市場で開催されたエスペックのプライベートセミナーやアジアの国際会議で、xEVと電池技術に関する講演を行ってきた。BYDからのエンジニアも多数参加する中、BYDをはじめとする中国電池の課題について指摘してきた。BYDから異論、反論がなかったことを勘案すると、彼ら自らが安全性や信頼性の欠如を認めているように思う。
中国市場では今現在も、車載用LIBが原因となる火災や事故は後を絶たない。BYDにしてみれば、サムスンとの協業は自社の技術力を向上させる意味で有意義なスタイルとなる。しかし、サムスンにとってのリスクも考慮しておく必要があろう。
サムスングループがBYDとの協業で技術や知見を供与したとしても、サムスンSDIが中国政府から指定を受ける保証はない。逆に最悪のシナリオは、BYDが安全性や信頼性を向上させることでBYDのステータスが上がり、中国ローカルメーカーの指定だけで十分と政府が判断することもあり得る。
また、現在、60社ほどの指定がある中、安全性や信頼性の低い電池メーカーが排除されることもあり得るだろう。サムスングループがこの協業を仕掛けて展開したとしても、政府指定枠の中に入り込めなければ、技術や知見をBYDに提供するだけに終わり、ビジネス開拓どころか、中国でのビジネスが立ちいかなくなるリスクが存在するということだ。それを、どのようにリスクヘッジするかがサムスングループにとっての大きな課題としてのしかかる。
論理性に乏しい政策方針
電池産業界では、中国ローカルメーカーが暗黙の裡に中国政府から指定を受けていることもさることながら、エコカーへの補助金も中国自動車メーカー以外は受けられていないことなど、偏った補助金政策が海外勢にストレスを与えている。テスラのEVも補助金を受けることができないまま、販売での苦戦が続く。
トヨタやホンダが圧倒的に存在感を示しているハイブリッド車(HV)への補助金も本年になってやっと認めた。これも、HVでは中国ローカルメーカーに競争力がないと言う理由でこれまでは排除されたものであった。消費者視点と環境問題では最適な解であるはずのHVなので、ここも論理が伴わない。
補助金優遇制度を受けるEVが中国市場で拡大していけば、低質な石炭火力発電でEVを充電することになり、PM2.5問題はより深刻になるはずだ。年々深刻になっているPM2.5問題、呼吸器系障害で健康を害する患者が増加している社会問題とEV戦略は背反事項となっている。
LIB本体でも非論理的な方針が横行している。正極材料はリチウムリン酸鉄(LiFePO4)を適用したLIB以外は補助金の対象としないという見解もその1つ。それはLiFePO4を適用したLIBは安全性が高いからという政府の考えが支配した。
しかし、これも全く大きな誤解である。LiFePO4を使ったLIBでも、中国国内ではこれまで火災事故が多発してきた。なぜなら可燃性電解液を使用するLIBでは、正極や負極にどんな材料を使おうとも、安全性のリスクはつきまとうからだ。論理的に展開されていない政策は誤ったビジネスを誘導する。
論理が通らない技術戦略、海外メーカーを排除するとも言える国内産業への手厚い擁護政策を見る限り、今後の中国市場での海外企業のビジネスモデル作りには入念な検討が欠かせない。
中でも、中国政府が主導するエコカー戦略は非常に裾野の広い産業が絡む。エコカー本体、電池事業、電池材料事業、デバイス事業、さらには評価試験機関も絡んでいる。
いずれにしても政府が絶対的な権限をもって主導するビジネスである限り、海外勢は中国政府とのネットワークを強化することが不可欠である。その上で、いかに的確に政策の思惑に食い込めるような魅力あるビジネスモデルを構築できるか、したたかな事業戦略が求められている。
このコラムについて
技術経営――日本の強み・韓国の強み
エレクトロニクス業界でのサムスンやLG、自動車業界での現代自動車など、グローバル市場において日本企業以上に影響力のある韓国企業が多く登場している。もともと独自技術が弱いと言われてきた韓国企業だが、今やハイテク製品の一部の技術開発をリードしている。では、日本の製造業は、このまま韓国の後塵を拝してしまうのか。日本の技術に優位性があるといっても、海外に積極的に目を向けスピード感と決断力に長けた経営体質を構築した韓国企業の長所を真摯に学ばないと、多くの分野で太刀打ちできないといったことも現実として起こりうる。本コラムでは、ホンダとサムスンSDIという日韓の大手メーカーに在籍し、それぞれの開発をリードした経験を持つ筆者が、両国の技術開発の強みを分析し、日本の技術陣に求められる姿勢を明らかにする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/246040/072600030/
米製造業耐久財受注:コア資本財が小幅増加−全体は大幅マイナス
Victoria Stilwell
2016年7月27日 23:12 JST
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• 6月の全耐久財受注額は前月比4%減−14年8月以来の大幅マイナス
• コア資本財出荷は前月比0.4%減−2カ月連続マイナス
6月の米耐久財受注統計では、航空機を除く非国防資本財(コア資本財)の受注が3カ月ぶりに小幅ながら増加した。企業は設備投資の強化を急いでいないことが示唆された。27日の米商務省発表で明らかになった。
• 設備投資の先行指標となるコア資本財の受注額は前月比0.2%増加、前月は0.5%減
• 国内総生産(GDP)の算出に使用されるコア資本財の出荷は0.4%減、前月は0.5%減
• 6月の全耐久財受注額は前月比4%減(エコノミスト予想中央値は1.4%減)と、2014年8月以来の大幅なマイナス
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iI58nQTzeXGI/v2/-1x-1.png
TDセキュリティーズの米調査・戦略副責任者、ミラン・ マルレーン氏は「この統計には、弱いトーンが近い将来に峠を越しそうだと示唆するものは何もない」と指摘。「特に英国の欧州連合(EU)離脱決定の影響をめぐる不透明感で企業の投資活動が抑制されているため」、今後数カ月に著しく持ち直す可能性は低いと述べた。
• 輸送機器を除く耐久財受注は前月比0.5%減、前月は0.4%減
• 国防機器を除く耐久財受注は前月比3.9%減、前月は1.6%減
統計の詳細は表をご覧ください。
原題:U.S. Capital Goods Orders Rise for First Time in Three Months(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-07-27/OAZ6KZ6JIJUZ01
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