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最近、注目されている経済政策ですが、どこが問題なのでしょうか?
「ヘリコプターマネー」はなぜ“劇薬”と言われるのか
http://diamond.jp/articles/-/96642
2016年7月26日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■最近注目されている経済政策
バーナンキ元FRB議長来日がきっかけ
最近、"ヘリコプターマネー"なる経済政策が注目を集めている。そのきっかけは、7月12日のバーナンキ元FRB議長と政府関係者の会談である。7月14日には、安倍首相の経済ブレーンの一人がバーナンキ氏と永久債の発行を議論していたことが報道され、今後の経済対策への期待から円安、株高が進んだ。
バーナンキ氏は、ヘリコプターマネーに積極的な考えを持つことで知られてきた。安倍首相が「政策を総動員する」と言い続ける中で、今回、会談の報道が出たことで「わが国でヘリコプターマネーが始まる」との期待が高まったことは間違いない。
ヘリコプターマネーの元々の意味は、政府がヘリコプターから国民に対してお金をばらまくことを意味する。実際には、政府が国民に現金や商品券を給付することで、国民の心理を好転させ、消費や投資が増えることでデフレからの脱却を図ることが狙いだ。
確かに、わが国の経済政策を見ると、財政・金融政策ともに手詰まり感が漂う。それだけに、ヘリコプターマネーによって積極的に現金などを国民に給付すれば、消費の喚起、景気の回復、さらには金融市場でのリスクテイクを促進する効果は期待できるだろう。
しかし、問題は、ヘリコプターマネーには大きな弊害も伴うことだ。中央銀行による国債の引き受け=財政ファイナンスを進めると、政府支出に歯止めが効かなくなる。過去の歴史を振り返っても、最終的に高率インフレ=ハイパーインフレにつながる懸念が高い。
その意味では、ヘリコプターマネーは、一種の"劇薬"と考えた方がよい。劇薬の副作用で、わが国経済が大きく混乱する恐れがある。一時の効果を狙って、後になってその何倍もの苦痛を味わうことになりかねない。
■1969年からあった「ヘリマネ」議論
かつての「地域振興券」も類似の政策
ヘリコプターマネーとは、政府が対価を求めることなく、国民に現金などを給付して需要の喚起、景気の回復を目指す経済政策だ。経済理論から考えると、金融・財政政策を一緒に行う政策と考えると分かりやすいだろう。
ヘリコプターマネーの議論が始まったのは最近のことではない。その起源は1969年にさかのぼる。米国の著名経済学者ミルトン・フリードマンが、論文『最適貨幣量』の中で、「政府がヘリコプターを飛ばして上空から新しく刷った紙幣をばらまき、直接、国民にお金を配るとどうなるか」との議論を展開したことが出発点だ。
フリードマンは、「政府が自由に、お金の量を調整することができれば、効率的に需要を刺激し、目標とする物価水準を達成することができる」と考えた。
この政策を進めるためには、政府が発行する国債を中央銀行に引き受けてもらうことが必要になる。いわゆる財政ファイナンスだ。中央銀行は引き受けた国債と交換で、紙幣を印刷して政府に渡す。
この時、政府が発行した債務は、中央銀行が保有する。両者のバランスシートを合算すると両者合計の債務は増加しない。政府は制約なく、自由に財政支出を行うことができるため、財政規律は一挙に弛緩してしまう。一方、中央銀行である日銀の独立性は大きく損なわれる。
既に、わが国はヘリコプターマネーに似た政策を導入したことがある。それは1999年の「地域振興券」だ。これは、政府が一種の商品券を国民に配り、消費を刺激しようとした取り組みだった。しかし、当時の振興券は期待したほどの効果は上がらなかった。これは、ヘリコプターマネーにも限界があることを示す証拠と言えるだろう。
一方、足元で、ヘリコプターマネーこそがデフレ脱却の特効薬との見方もあるようだが、本当に、この政策が経済の長期的な安定に資するかは疑問の余地がある。
■第1次世界大戦後のドイツにみる
財政ファイナンスが残した教訓
政府が現金などを国民に給付した場合、一時的には現金を手にした人の気分が高まり、消費は増える可能性がある。しかし、通貨の発行量が制限なく増えていくと、次第に通貨の価値が低下しインフレリスクが高まる。
財政ファイナンスを通して本格的なヘリコプターマネーが実施されると、最終的にはインフレ率が急上昇して、物価の高騰が起きるハイパーインフレに突入する恐れがある。それは経済を大きく混乱させるだけではなく、社会情勢も不安定化しかねない。
歴史を振り返ると、第1次世界大戦の敗戦国ドイツは、1919年のヴェルサイユ条約によって巨額の賠償金を支払わなければならなくなった。この負担はドイツ財政を圧迫し、賠償は滞った。
この事態を受けて、フランスはドイツ経済の心臓部と言われたルール地方を占領し、石炭などの資源を確保しようとした。それに対してドイツ政府は、労働者に対してストライキを呼びかけ賃金の支払いも保証した。
この時、ドイツ政府は、当時の中央銀行であったライヒスバンク(ドイツ帝国銀行)に国債を引き受けさせて資金を調達し、賃金の支払いに充てた。こうして経済が低迷する中で中銀が紙幣を乱発した結果、ドイツのインフレ率は"天文学的"に上昇した。
その後、世界恐慌の影響を受けてドイツでは社会不安が高まり、ナチス・ドイツが台頭した。このように、財政ファイナンスが進むと、通貨の増刷に歯止めが掛からなくなりがちだ。
その結果として経済が大きく混乱した教訓から、主要国では中央銀行の独立性が重視されてきた。わが国では、財政法第5条が"国債の市中消化の原則"を定め、国債の日銀引き受けは原則禁止されている。このように今日の経済政策の裏に、財政ファイナンスが残した過去の教訓があることは明確に認識すべきだ。
■ヘリマネに過大な期待を抱く市場参加者
"劇薬"と言われるリスクを考えるべきだ
歴史が示す財政ファイナンスの弊害があるにもかかわらず、市場参加者の中でヘリコプターマネーに対する期待が高まっている。先述した7月14日の報道では、4月の時点で安倍政権の関係者がバーナンキ氏と流通性のない永久債(満期償還のない債券)を使った経済政策を議論していたことが明らかにされた。
それを境に、ドル/円は104円台から105円台後半まで上昇した。そして、円安の流れと政策への期待から株式市場も上昇し、国内外で投資家の積極的なリスクテイクが進んだ。
気になるのは、市場参加者がヘリコプターマネーに過大な期待を抱いている点だ。手詰まり感が漂う現在の財政・金融政策を考えると、新しい経済対策への期待は高まりやすい。そのため"新しい経済対策"に関するヘッドラインが流れると、期待が先行し、リスクテイクが進みやすい。
今回の動きも、投資家の一部が市場の初動反応に流され、円売り、株買いに走ったのが実体だろう。そうした動きには注意が必要だ。経済対策の効果や弊害など明らかにならない中、多くの投資家が市場の雰囲気に流されている懸念があるからだ。
リスクを認識しないまま、期待だけが膨らむことは、わが国の経済にとって好ましいことではない。財政ファイナンスを導入した多くのケースで、悪性のインフレが進み経済が混乱したという史実は冷静に考えるべきだ。
市場関係者の多くは、財政ファイナンスが進む弊害を実際に感じたことがない。その意味では、ヘリコプターマネーは未知の政策と言えるだろう。未知のものに対して市場参加者は、シミュレーションなどを机上の空論に頼りがちだ。
しかし、常に理屈通りに経済や金融市場が動くとは限らない。
歴史を振り返ると、財政ファイナンスを通したヘリコプターマネーが長期的な経済の安定をもたらすとは考えづらい。今一度、歴史を振り返り、劇薬と言われる経済政策にどのようなリスクがあるのかを冷静に検討するべきだ。
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