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ポケモンGOの致命的弱点と「任天堂復活」とは言えないワケ
http://diamond.jp/articles/-/96636
2016年7月26日 竹井善昭 [ソーシャルビジネス・プランナー&CSRコンサルタント/株式会社ソーシャルプランニング代表] ダイヤモンド・オンライン
歩く、歩く。モンスターを求めて、ひたすら歩く。読者のなかにも、そんな週末を過ごした方も多かったのではないだろうか。とにもかくにも「ポケモンGO」である。
世界中での爆発的な大ヒットを受け、日本でも「いつ、サービス開始だ?」と期待が高まるなか、先週の金曜日(22日)の午前10時にいきなり配信開始。各ニュースサイトは速報でその事実を伝えた。僕もさっそくダウンロード。この日の仕事を終えた夜、ログインして試してみようと思ったが、サラリーマンの帰宅時間帯ということもあってか、サーバー混雑でユーザー登録ができない。
あきらめて会食に向かい、その後23時くらいに帰宅。再び登録を試みるが、依然としてサーバー混雑で登録ができない。これは当分ゲームができないなぁと絶望的な気分になっていたら、妻から「Googleアカウントならすぐに登録できるよ」との情報を得る。すぐにやってみたところ、たしかにGoogleアカウントならあっさりと登録できた。このあたりになにか意図的なものを感じたが、それについては後述するとして、とにかく登録できたので娘を加えて親子3人で近所をぶらつくことにした。
■繁華街には意外と少ない
ポケモンGOプレーヤー
まずは、ピカチュウゲットをめざす。ゲーム開始時にゲットできる裏技を実践してみたが、そう簡単にはうまくいかない。5分ほどウロウロしてようやくピカチュウ出現。ゲットできた。ちなみに僕の自宅は、都心から少し離れた静かな住宅街にある。普段は夜中になるとほとんど人も歩いていないところなのだが、この夜はスマホ片手の若者がウロウロ。あきらかにみんなポケモンGOに興じている。
その後、近所のポケストップ(さまざまなアイテムがゲットできる場所)に桜吹雪が舞っているのを発見。桜が舞っていると30分間、モンスターの出現率がグンとアップするのだ。当然、それを目当てに人が集まる。早速僕らも行ってみたら、普段はほとんど誰もいない閑散とした場所に人だかりが。若いカップル、帰宅途中とおぼしきOL、一旦帰宅して着替えてきたような若い男子など、大学生から30代前半と思われる男女がたむろっていた。
ひととおりモンスターをゲットした後は、最寄り駅まで移動。こちらもポケストップになっていて、しかも桜吹雪が舞っていた。商店街を歩いていた人、駅から出てきた人たちが次々と駅前で立ち止まり、やはりポケモンGO。僕も何匹がゲットして次のストップに移動しようとすると、近くにいた学生っぽいグループから、「お疲れさま〜」と声をかけられた。見知らぬプレイヤー同士の仲間意識みたいなのものが生まれていたようだ。
翌土曜日は、フィールド調査のために中野に。サブカルの聖地・中野ブロードウェイあたりがどうなっているのか気になって行ってみたのだが、意外とプレイヤーらしき人間が見当たらない。そこで近くの公園に行ってみたら、こちらはプレイヤーだらけ。親子連れ、犬の散歩途中の若い女性、オタクっぽい男子2人組など。さまざまな人たちがゲームに没頭していた。
日曜日は渋谷、銀座に行ってみたが、こちらも意外とプレイヤーが少ない。渋谷はそれでも多少は見かけたが、銀座は日曜日の夕方という時間帯もあったせいか、ほとんどプレイヤーが見当たらなかった。僕が見た限りでは、どうやらポケモンGOプレイヤーは、繁華街より公園や住宅街のほうが多いようだ。そちらのほうがゆっくりとゲームが楽しめるということと、そもそも繁華街は買い物など目的があるのでゲームしている暇がないという理由もあるだろうが、意外と日本人の公共心の高さからくる現象なのかもしれない。
僕も渋谷センター街あたりでモンスターをゲットするときは、通行人の邪魔にならないように道の端やビルの陰などに移動してやっていたが、それでも人の流れを邪魔している感は否めない。なんとなく罪悪感があるので落ち着いてゲームができないのだ。「人混みのなかでポケモンGOをやるのはやはり迷惑だ」ということで、すぐにやめてしまった。渋谷や銀座に来ている人たちにも、そのような感覚があったのではないだろうか。
しかし一方で、ポケモンGOがさまざまな社会問題を引き起こしていることは、ニュースでも報道されている。すでに日本でも、接触事故やトラブルが全国で相次いでいる。プレイしながらの自転車運転で人にぶつかってケガをさせたり、バイクや自動車のながらプレイで警察に検挙されたりしている。なかには、プレイに夢中になっていた女子大生が原付バイクの男にカバンをひったくられるという事件まで起きている。しかしプレイヤーの全体数を考えれば、これらのトラブルはごく一部のことであり、ほとんどの人は他人に迷惑にならないようにポケモンGOを楽しんでいる。日本人はやはり公共心が高いのだと思う。
■期待される「健康増進」と
「地方活性化」への効果は?
このように日本でも社会現象となったポケモンGOには、社会的な活用に期待する人も多い。「ポケモンGOは日本を救う、世界を救う!」とまで主張する人も少なくない。こうした人たちの主張の基本は、「健康増進」と「地方活性化」だ。しかし、ハッキリ言って僕は懐疑的だ。
たしかに、ポケモンGOをやっているとたくさん歩く。この週末、僕も土曜日には8キロ、日曜日には5キロ歩いた。僕の生活スタイルからすれば、かなり歩いている。ニュース報道などをみると、1日10キロ歩く若者も珍しくないようだ。このペースで日常的に歩くことができれば、たしかに健康にはいい。ただし、このペースで続けられれば、の話である。人間の生理というものは、基本的に「便利なもの(楽なもの)」と「気持ちのいいもの(楽しいもの)」を求めるようにできている。この生理に反するものは、基本的には売れない。まれに売れる場合もあるが、長くは続かない。
人間は、運動することが好きな人と、そうでない人に分かれる。運動が好きな人はポケモンGOがなくても、週末毎に10キロ20キロと走ったり、サーフィンに行ったり、社会人になっても野球やサッカーの試合をやっていたりする。こうした人たちは体を動かすことが好きなので、10年でも20年でもスポーツを続ける。つまり、健康に問題を抱えている人が少ない。
むしろ問題となるのは、体を動かすことへの価値観が低い人たちだ。僕もそんな一人で、運動は苦手ではないが、スポーツをやっている時間があれば、仕事に関する本を読んだり、新しいプロジェクトの企画書を書いたりしていたい。なので、健康のために運動しなければと思っていても、どうしても優先順位が低くなってしまう。さらには、そもそも運動が苦手、あるいは嫌いで、自宅で漫画を読んだりゲームをしたりしているほうがいい、という人も数多い。
健康増進という視点で言えば、課題は(僕を含む)こうした運動不足の人たちをどうやって運動させるかだが、たしかにポケモンGOは一時的には効果はある。しかし5年先、10年先もポケモンを捕まえるために、5キロ10キロと歩き続けているかというと、はなはだ疑問である。僕がこの週末に何キロも歩き回ったのもマーケティング屋としての関心があってのことで、つまり、仕事という自分の最も高い価値観を満たすために歩き回っただけであって、ポケモンGO現象がある程度把握できれば、もうそのようなインセンティブは働かない。つまり、ポケモンGOが健康増進に役立つことはあるだろうが、その効果は極めて限定的だと思う。
地方活性化についても同様だ。たしかにポケモンGOを始めると、行ったことのない場所、あまり行かない場所にも行ってみたくなる。ポケモンGOには「ポケモンの巣」という、レアアイテムが確実に入手できるスポットがあるらしいが、ここはぜひ行ってみたい。東京では、上野恩賜公園や井の頭公園がそうらしいし、馬込駅もそのようだ。ネット情報なのでどこまで正確かは不明だが(偽情報も多いようなので)、やはり行って確かめてみたいという気にはなる。行けば、お茶をしたり食事をしたりと、何らかのお金を地元に落とすことにもなるだろう。
たとえば、運営側が熊本県の南阿蘇村あたりにポケモンの巣を設定してくれれば、多くのプレイヤーが訪れて、それは震災復興にもつながる。しかしそれもまた、効果は限定的だ。レアアイテムを求めて訪れたプレイヤーも、ゲットできてしまえばリピーターとなる確率は低い。南阿蘇を復興させるためには、南阿蘇のファンやリピーターを獲得する必要があり、そのために必要なことは南阿蘇の魅力や価値を高めることで、ポケモンGOみたいなものが一時的なキャンペーン効果を生むことはあっても、そこに大きな期待をすることは間違いだ。
その他にも、「引きこもりの少年がポケモンをゲットするために外に出た」という事例も報告されており、これもポケモンGOの良き効果ではある。だがその一方で、引きこもり少年が母親や祖母に「レアアイテムをゲットするまで家に帰ってくるな!」と命令して近所を歩かせるという、家庭内暴力まがいの事例も報告されている。これもネット情報なので真偽のほどはわからないが、あってもおかしくないような話である。
■「ゲームの生理に反する」という欠点
もちろん、ポケモンGOが健康増進、地域活性化、引きこもり対策などに効果がないとは言わないが、その効果を「持続」させるためには、「仕掛け」が必要だ。そしてその仕掛けは、実はポケモンGOという「ゲーム自体」にも必要なのだ。いまは世界的に大ブームを引き起こしているが、そのブームは一時的なものだと思う。少なくとも日本では、このブームはせいぜいこの夏限りのものだろう。なぜなら、このゲームの仕組みが「シンプルすぎる」からだ。
もちろんシンプルだから、子どもからシニアまで誰でも楽しめるゲームとなっている。しかしシンプルすぎるゲームは、飽きられるのも早い。ポケモンGOはあちこちを歩き回ってモンスターを集めるという、基本的にはそれだけのゲームだ。対戦ゲームを楽しめる「ジム」というものもあるが、これはオマケみたいなもので、本筋ではない。よほどのマニアでもない限り、モンスターを集めるだけのゲームに、何ヵ月も何年も夢中になるとは考えにくい。
もう一点、大きな「欠点」もある。「ゲームの生理に反している」ということだ。ゲームというものは、基本的には籠もってやるもの。だから、自室に籠っているユーザーと、ゲームは相性がいい。通勤電車でOLがスマホのパズルゲームに興じている姿もよく見かけるが、これも満員電車のなかで「自分空間」に籠もっているから、ゲームに没頭できている。
この「籠もった感」こそが、ゲームの本来の魅力であり快感なのだが、外を歩き回ることを前提としたポケモンGOは、このゲームの生理に反している。人間の生理に反したゲームをこれだけ流行らせたポケモンGOは、その意味では革命的で画期的だとは思うが、前述したように、多くの人が1年後も2年後も、モンスターを求めて歩き回っているとは考えにくい。
また、歩き回らないとモンスターが出現しないという設計では、他のパズルゲームのように、連続して何かの作業をするという「没頭感」にも欠ける。昔から、シリコンバレーあたりでは「指先ドラッグ」という言葉があって、人間は高速でキーボードを打ったり、スマホ画面やゲーム機のボタンを連打したりしていると、脳内麻薬がわき出て快感を得るようにできているという。ゲームではないが、ネットの掲示板やチャットにハマるのも、この指先ドラッグの影響だと考えられる。しかしポケモンGOには、この指先ドラッグが湧出する要素がほとんどない。つまり、中毒的にこのゲームにハマる人もそう多くはないだろうと推測される。
ブームというものは人の生理を狂わせることがある。ブームが去った後で「あれはなんだったんだろう?」「なんであんなものにハマったんだろう?」と多くの人が感じることもある。ポケモンGOもいまはブームなので多くの人が熱中しているが、その熱は長くは続かないものと思われる。そこで、その熱を続けさせるためには何かのイベント的要素が必要になるわけだが、そこに頼るとこれまでの多くのゲームがそうであったように、マニア向けゲームに変質してしまい、課金ユーザーばかりが有利になる。一般の人はついていけなくなってしまうのだ。
■「資産の切り売り」と
「新しい価値の創造」は違う
「ポケモンGOが任天堂を救う」と主張する人もいるが、これも間違いだろう。ニュースでは任天堂などが開発したゲームと報じられているので、ポケモンGOを任天堂オリジナルのゲームだと思っている人も多いかもしれないが、開発したのは「ナイアンテック」という、Googleの社内プロジェクトからスピンアウトしたアメリカのベンチャー企業だ。
このナイアンテックは、ポケモンGOに先立つ2013年12月に「イングレス」という位置ゲーム(ポケモンGO同様、GPSデータを活用したゲーム)を正式リリースしている。ポケモンGOの基本的なシステムは、このイングレスの流用だ。言ってみればポケモンGOとは、高性能スポーツカーのエンジンやドライブトレーンを流用して、ボディだけを変えて作ったファミリーカーみたいなもので、任天堂はポケモンという世界的人気キャラクターを提供しただけと言っても過言ではない。つまりポケモンGOは、任天堂にとっては「資産の切り売り」でしかないわけで、新しい価値を生み出したわけではない。
ポケモンGOが証明して見せたことは、「イングレスのエンジンに人気キャラクターを乗せれば、誰でも大ヒットゲームが作れる」ということだ。それは、任天堂にとっては大いなる脅威でもある。たとえば「スター・ウォーズGO」みたいなゲームが出てきたら、どうなるか。少なくとも欧米では完全にポケモンGOを食ってしまうだろう。そのような(任天堂にとっての)致命的な脆弱性がポケモンGOにはある。それが、このゲームが任天堂の救世主にはなり得ない理由である。
任天堂に限らず、どのような企業も、成長や復活のためには資産の切り売りではなく、「新しい価値の創造」が必要だ。任天堂の場合は、もちろんかつてのファミコンやDSのようなハードウェア回帰、プラットフォーム回帰ではない。任天堂という企業はずっと「娯楽の本質とは何か?」を追求してきた会社だ。「これからのAI時代における娯楽とは何か?」、その問いに対する答えを世界に先駆けて打ち出せるか――。それができたとき、初めて任天堂は「復活」するのだと思う。
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