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さびつく政府統計
(上)見えない消費 データ乱立、精度は低く
政府統計のあらが目に付く。消費の現場で起きる変化に即応できず、速報重視の国際的な流れにも乗り遅れている。足元の経済情勢を的確につかみ、先行きを見通せなければ、政府の政策判断や企業経営のかじ取りを誤らせる。経済の実力を測る物差しを点検する。
実態を追求
「インターネットの台頭で家計の動向が過小評価されている」。経済同友会が14日に開いた夏季セミナー。個人消費の動向がつかめない現状に、経営者がいら立ちを見せた。ネットを通じたモノのやりとりが浸透し、個人はもっとお金を使っているのに、政府統計ではその姿がとらえきれていないとの批判だ。
消費の統計は数多いが、精度の低さに批判が集中する。家計調査は需要側の各世帯に直接支出額を聞く長所を持つが、高齢者の回答が多いうえ、サンプルの少なさから月ごとに振れが出やすい。経済産業省は売り手の販売データをもとに商業動態統計や第3次産業活動指数を作るが、これらも対象業種を限るため、消費の全体像を表せない。
日銀はこうした不備を補おうと、自前の統計で消費の実態を追う。5月に公表を始めた「消費活動指数」。供給側である売り手の販売データを幅広く集め、百貨店売り上げや自動車販売、外食や医療などサービスの売り上げも含めた。毎月の公表で速報性も持たせた。日銀は「消費を素早く的確につかめ、振れも小さい」とし、消費の実勢に近いと強調する。
指数は2014年4月の消費税率引き上げ後、やや上向きの横ばい圏内で推移する。既存統計が補足しないデータを幅広く盛り込んだためか、水準は他統計より高めだ。
エコノミストは「消費の判断材料が増えた」(ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏)、「複数の統計を組み合わせ、消費分析の精度を上げる」(みずほ証券の上野泰也氏)とする。しばらくは結果に目を凝らす構えだ。
家計調査を手掛ける総務省も補強策を練る。6月の検討会に参加した有識者は、350万人が登録する無料家計簿アプリ「マネーフォワード」の活用を提言した。事前登録した銀行口座やクレジットカード決済を通じ、お金の出し入れを自動的に記録する仕組み。若い世代の利用も多い。迅速に、幅広くデータを集めるうえで、デジタル技術の活用は一考に値する。
果断に見直し
消費の現場では目まぐるしく新商品が投入され、ネットなど販売手法の革新も進む。新たな財やサービスの売れ行きを素早く統計に取り込むのは至難だ。日銀の指数もスマホゲームや音楽配信を含むが、基礎統計がない電子書籍は対象外。日銀は「様々な意見を聞き、改良を重ねる」と話す。
取りこぼす消費活動をどう取り込むか。変化に応じ、統計手法を果断に見直す姿勢が問われる。
[日経新聞7月21日朝刊P.]
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(中)見えない現状 速報、世界に見劣り
中国は四半期(3カ月)末から2週間後、米国や欧州連合(EU)、韓国は1カ月後、日本は1カ月半後――。四半期の国内総生産(GDP)速報値の公表時期は国や地域で異なる。カナダのように月次データを公表する国もある。日本の速報値公表時期は主要国の中で遅い方に入る。
縦割りの弊害
野村証券は毎週火曜日、世界中のエコノミストが集まる電話会議を開く。同証券の木下智夫氏は「速報値をもとに議論が進むなか、日本は予測値で話さざるを得ない」とこぼす。欧米の速報値がそろっても、日本が出るのはさらに先。世界経済の現状分析を投資家らに素早く伝えられないもどかしさがつきまとう。
一国の経済規模を示すGDPは、政府の政策や企業の経営計画に生かすうえで最も重視される政府統計だ。とりわけ速報値の注目度は高い。
日本では、内閣府が約200の統計と聞き取り調査をもとに作るが、もとになる統計は役所ごとにばらばらだ。鉱工業生産指数や家計調査など各月の数値が固まるのは1カ月後。内閣府はそこから2週間でGDP速報値を作る。各省庁の統計作成にかかる時間と手間がGDPの公表を後ずれさせる面がある。
2月、速報を巡る官民の認識の違いが表面化した。経済産業省が鉱工業生産指数の公表を午前8時50分から午後3時30分に変えると発表したのだ。経産省は「より詳細な分析を示す」としたが、民間はむしろ公表を前倒しすべきで、先進国の流れに逆行するなどと反発。経産省は撤回した。
速報値に磨きをかける取り組みも後れを取る。今年はGDPの作成基準を見直す5年に1度の改定年。見直しの柱は研究開発費の設備投資への計上だが、欧米主要国は2012〜14年に対応済み。米国やドイツなどはGDPの水準が上振れする影響が出ている。
先行きを読みにくい世界経済で、GDPの迅速な公表は国際標準だ。EU統計局は4月、ユーロ圏のGDP速報の公表時期を繰り上げ、「四半期終了の約45日後」から「約30日後」に早めた。これで欧米の様子はほぼ同時につかめる。
市場ニーズ強く
米国では「さらに早く知りたい」というニーズがある。ニューヨーク連銀は4月、実質GDP伸び率の独自推計の公表を始めた。4〜6月期の予測は2.2%増。類似のGDP予測はアトランタ連銀が先行するが、経済の先行きを考える材料が増えるのは悪いことではない。
米国のGDPが素早く公表されるのは、大部分を占める個人消費の統計が早めにそろうのが大きい。消費者の調査を使う日本と異なり、販売側のデータに一本化。確報段階で大きく修正するケースもあるが、民間も速報値を予測しやすい。
第一生命経済研究所の新家義貴氏は「発表が遅ければ、たとえ精度があがっても、政策判断などに利用されない」と警鐘を鳴らす。速報を軽んじれば、経済浮揚も見えなくなる。
[日経新聞7月21日朝刊P.5]
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(下)見えない新経済 繁栄の測定が急務
福岡市を代表する商業施設のキャナルシティ博多。免税店大手のラオックスやマツモトキヨシではツアーガイドに連れられて入店する観光客が薬や炊飯器を大量に買い込む。キャナルシティの2015年度の売上高は17年ぶりの高水準だった。
けん引したのはクルーズ船から博多港に降り立った外国人観光客。バスで観光地や商業施設を回る。訪日客は日本経済の風景を一変させた。爆買いといわれる消費動向はエコノミストの注目の的だ。だが、観光客を捕捉する統計は十分とは言えない。
観光庁が3カ月に1度発表する訪日外国人消費動向調査。空港や港など全国18カ所で出国しようとする外国人をつかまえて交通費や買い物代を細かく聞き取る。サンプルは約9700。観光庁は「統計的には十分な数を確保している」というが、クルーズ船客は対象外だ。寄港日時がバラバラで、調査員を手配しにくいためだ。
個人間でシェア
博多港のクルーズ船入港数は、15年に過去最高の259回を記録した。今年は350回を超す見込み。統計に表れない消費行動が急速に広がる。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「ホテルの設備投資にも正確な訪日客の統計が不可欠」と話す。
民泊やカーシェアなど、自動車や空き部屋から洋服まで、個人が遊休資産を別の人に活用してもらい、対価を得るシェアビジネスが人気だ。個人対個人のやりとりが形作る経済圏が急速に広がるが、どの国もその全容を捉えきれないでいる。
別の価値生む
今年2月、経済協力開発機構(OECD)の統計担当者らが、国内総生産(GDP)を扱う内閣府国民経済計算部を訪れた。テーマは「シェアリングエコノミーをどう測るか」。
OECDは電子商取引やインターネットでのコンテンツ配信など、デジタル経済をどう把握するか検討中だ。シェアビジネスもその一つだが、計測方法に解を見いだしているわけではない。「恐らくサービスの分類はできる。だが、どうやって個人間のお金のやりとりを把握するのか」。OECDと内閣府の担当者は悩みを共有しあう。
英エコノミスト誌は4月、「繁栄の測り方」という特集を組んだ。例えば、配車アプリのウーバーが普及すれば、市民の車保有率が下がってGDPにマイナスの影響が出る。だが、利用者は利便性や幸福感を手にできる。マイナス成長の一方にプラスの要素もあるのでは。記事は問いかける。
東工大の出口弘教授は「みんなが協力しあうシェアリングエコノミーが進むと、幸福の価値などが重要になる。だが、それはGDPでは捕捉できない」と指摘する。
新たな経済の風景や目に見えない価値をどう測るか。さびつく統計は日本が直面するニュー・エコノミーに迫りきれずにいる。
藤川衛、中西誠、大島有美子、木原雄士が担当しました。
[日経新聞7月22日朝刊P.5]
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