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英国、欧州連合離脱へ EU前身現加盟国外相が会談(写真:ロイター/アフロ)
世界から「金利」が消え始めてる…世界経済、未知の異常事態突入の兆候
http://biz-journal.jp/2016/07/post_15891.html
2016.07.15 文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授 Business Journal
世界的に金利低下が止まらない。日本の国債市場では、期限20年物の国債まで流通利回りがマイナスに落ち込んだ。欧州地域でもドイツ国債の利回りが水面下に落ち込む現象が発生している。
これまで、比較的経済状況が堅調で金融市場がしっかりしていた米国でも、ここへきて米国金利の低下が顕著になっている。米国の国債利回りで見ると、5月末から7月8日まで、2年金利は0.20%低下し0.61%、長期(10年)金利は0.47%低下し1.37%、30年金利は0.53%下がり2.11%だ。ここで気になることは、残存期間の長い金利の低下幅が大きいことだ。利回り曲線が、著しくブルフラット化している。
こうした世界的な金利低下の背景には、世界経済の先行きに不透明要素が増えていることがある。今後の経済の展開が読めないため、投資家はどうしてもリスクが相対的に低い国債を購入することになる。その結果、期間の長い金利に低下圧力をかけることになる。こうして長期の金利が短期の金利よりも、より大きく低下しやすい。
■世界経済の不透明感を示す金利低下
国債の流通利回りがマイナスに落ち込むことは、お金を借りる人が金利をもらい、お金を貸す人が金利を払うことを意味する。理論上はおかしな現象だ。そうした現象が今、世界の主要国で起きている。冷静に考えると、まさに異常事態だ。
わが国や欧州などの中央銀行が景気の下支えをするために、一部の金利をマイナスに設定している。それによって市場金利が大きく下落し、期間の長い国債の金利までマイナスになっている。そうした事態になったきっかけの一つに政治情勢の不安定化がある。特に、欧米諸国の政治情勢の先行きが読みにくくなっている。
6月23日のイギリス国民投票で予想外にEU離脱が選択されて以降、欧州経済に対する懸念は高まっている。足許では不良債権処理の目処が立たないイタリアの銀行セクターへの警戒感も強い。システミックリスクの顕在化などパニックが発生しているわけではないが、投資家はリスクを取りづらい。
専門家のなかには、「徐々にEU分裂のリスクが高まり、それが各国の経済政策を束縛する」との見方も高まっている。こうした警戒感が世界的な金利低下を後押ししている。まさに、「世界の債券市場から利回りが消えつつある」のである。
7月6日、日本の20年国債の利回りはマイナスの水準に落ち込み、国内の金融機関などは利回りを確保するために、社債などを積極的に購入している。イギリスの国民投票後、世界的に株価は大きく下げた。しかし、イングランド銀行が夏場の金融緩和の可能性を示唆したことを境に、低金利がリスク資産を支える“金融相場”の様相が強まっている。そのため、イタリアの銀行業界に対する懸念も、足元で幾分小康状態を保っている。
もうひとつ気になるのは、金利が低下し一部の国で金利が消えつつあるなかで、世界の基軸通貨ドルへの人気が高まっていないことだ。英国のEU離脱が醸し出す欧州分裂の懸念は、ユーロなどの減価を高め、ドル買いを誘発してもおかしくはない。
■世界経済の先行きと金融市場
8日に発表された米雇用統計では、雇用の回復が続いていることが確認された。非農業部門の雇用者数は、市場予想の18万人程度を上回る28.7万人増だった。時間当たりの賃金は前月から0.1%の伸び率にとどまった。それが物価上昇期待を抑制するとの見方もあるが、米国の経済は緩やかな景気回復を維持しているといえる。
しっかりした雇用統計の発表直後、米国の金利は一時反発したものの、その勢いは続かずその後、低下に転じた。これを反映してドルは主要通貨に対して伸び悩んだ。この動きは、「年内の利上げが遠のいた」ことだけでは説明が難しいだろう。年内は無理でも、来年の利上げが可能だとすれば、ドルの保有は正当化されるはずだ。
しかし、先行きの不透明感が高まるなか、来年の米国経済、金融政策の動向を見通すことが次第に難しくなっている。そこで、市場参加者は欧州をはじめとする地域での金融緩和期待に乗って、一部の投資家がいわば近視眼的に、米国の金融緩和を意識し始めていることも想定される。
今年初来で、ドルは主要通貨のバスケットに対して2%程度下落した。同じ期間で金先物価格は3割近く上昇している。金価格の動向は、ドルの価値に対する期待や懸念をよく反映する。徐々に市場参加者は米国の量的緩和第4弾(QE4)等の緩和策の発動を意識しているのかもしれない。それが、先回りして金を保有しようとの動機を高め、金価格の大幅な上昇につながっているかもしれない。
米国経済に着目した場合、利上げが困難なわけではないだろう。むしろ、カネ余りに支えられた資産価格の正常化を目的に、利上げは進められるべきかもしれない。しかし、グローバル経済というコンテクストに当てはめて米国の金融政策を考えた際、利上げは難しいだろう。世界の投資家は景気の先行きに不安を感じているからだ。この動きが進んだ場合、さらに金利は消えていくだろう。そうした現象は、収益力の低下した企業や金融機関の存続を支えることになるだろう。
一方で、行き過ぎた金利低下を懸念した投資家の債券売りが波紋を呼び、急速な金利上昇が起きることもあるだろう。いずれの場合も、世界経済は相当に厳しい状況に直面しそうだ。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)
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