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「金融政策はもう限界」は本当か? デフレ脱却へ、アベノミクス第2弾でまずやるべきこと 問われる安倍首相と日銀の本気度
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49174
2016年07月14日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■ついに財政支出拡大が実現する
7月10日の参院選勝利をうけて、安倍首相は、本格的な経済対策の策定を始めた。参院選後もマスメディアは、憲法改正に対する強い懸念から安倍政権批判を強めているようだが、マーケットはとりあえず与党の大勝を素直に評価したようだ。
参院選前に発表された6月の米国雇用統計の結果がよかったことも影響したであろうが、今週に入ってから株価や為替レートは大きく好転している。
いわゆる「Brexit」問題が浮上して以降、ドル円レートは1ドル=100円を割りそうな勢いで円高が進行していたが、参院選の結果を受けて政策当局は「ピンチ」を脱することができた感がある。特に影響が大きかったと考えられるのは、12日火曜日に安倍首相が前FRB議長のベン・バーナンキ氏と会談をしたことであった。
バーナンキ氏は安倍首相との対談の中で、「日本の金融政策が採りうる政策手段はまだいくらでもある」と明言したとのことであるが、「日銀は万策尽きた」とたかをくくっていた投資家が一方的な円買いポジションを縮小させたことが今回の円安の背景にあるのではないか。
また、政府は、10兆円規模の経済対策を実施する見込みであり、財源の一部として建設国債の追加発行も検討するという。ニュース等で報道されている経済対策のメニューを見る限りでは、公共投資の拡大がメインになりそうだが、日本でついに財政支出拡大が実現する見通しが強まったことの意味は大きい。
財政政策発動の必要性については、ローレンス・サマーズ元財務次官が問題提起した「長期停滞論」以降、欧米の経済学者らの間で理論的な研究が進められている。
多くの研究は、「長期停滞」から脱し、元の成長経路に戻るためには、財政政策と金融政策の両方を緩和させるべきであるという政策的なインプリケーションを導き出している。これは、先進国のリーマンショック後の緩和政策が金融政策だけに偏ってきたことに対して大きな一石を投じるものである。
サマーズ氏の他にも、ニューヨーク市立大学教授のポール・クルーグマン氏も財政政策と金融政策の両輪で長期停滞を克服すべきだと提言している。しかも、両氏は、「長期停滞」は何も日本に限ったことではなく、利上げを実施したアメリカでさえも、まだ財政・金融両面で緩和政策が必要な局面であると述べている。
■日本の経済政策に世界が注目している
だが、現実には、FRBは次の利上げをいつ実施すべきか、そのタイミングを計っているようにみえる。
現段階では、7月のFOMCでの利上げは見送られるだろうとの見方が大勢だが、5月雇用統計が良好で、かつ、「Brexit」問題が米経済に与える影響はそれほど大きくないという話がコンセンサスになりつつある(IMFがレポートを発表している)。
したがって、筆者は、7月利上げの可能性もまだ排除できないのではないかと考えている(なお、次回のFOMCは7月26、27日に開催予定)。
さらにいえば、直近(7月6日時点)の米国のマネタリーベースが3.74兆ドルで、1月6日の3.7兆ドル以来の低水準となっている点も気になる。
筆者は、この前回のマネタリーベースの減少は、その後の世界的な株価の下落の遠因でなかったと考えているため、最近の米国のマネタリーベースの減少を警戒的にみている。
また、ユーロ圏もECBのマイナス金利政策、量的緩和政策によって景気の底割れは回避されているが、中心国であるドイツが緊縮財政に固執しており、財政政策が拡大に転じる見込みは現在のところ小さい。イギリスもBrexit問題による経済の落ち込みに際して、イングランド銀行が追加緩和を示唆したものの、財政発動の話はいまのところ聞かない。
このように、現時点で、財政政策と金融政策の両方が拡張的となる国・地域は日本だけだといってよいだろう。その意味で、今後の日本の経済政策(アベノミクス第2弾)は世界の投資家の注目を浴びる可能性が高い。
そのため、今回の参議院選での与党の大勝とその後のマーケットの戻りを2005年の郵政解散後の総選挙の結果とその後のマーケットの戻りと同様のパターンだと思い始めている気の早い投資家も出てきている模様だ。
だが、現時点で、筆者はそこまで楽観的になれないし、当時のような高揚感はいま一つ感じられない。
その理由は、いまだに「金融政策限界論」がマーケットに残っている感が強いためである。アベノミクスに好意的な論者の中にも「金融政策はもう十分だ、次は財政政策の番だ」と考えている人がかなりの数いそうな雰囲気だ。
■財政支出の拡大が機能するためには
じつは筆者もついさっきまでは、なんとなくそう考えていたのだが、現在は再考している最中である。
その理由となる興味深い論文がある。イタリア銀行(イタリアの中央銀行)のロベルト・ピアザ氏による「Self-fulfilling Deflation(自己充足的なデフレのメカニズム)」である。
2015年3月に発表されたこの論文では、中央銀行が設定する「インフレ目標」がインフレ率の「Anchor(アンカー)」になっていない状況で、かつ、金融政策が「ゼロ金利制約」下にある場合、財政政策の乗数(財政支出の拡大が経済全体でどの程度の波及効果をもたらすか)は、政策のメニューが政府支出の拡大であっても、消費減税を含む減税政策であっても、その効果は極めて小さい(0.5程度)ことが指摘されている。
一方で、「ゼロ金利政策」下での財政政策の乗数が「政策金利がプラスの状況」下での財政乗数よりもはるかに高い(2.5程度)とする論文もいくつか存在する(エガートソン[2011]、ヒルズ・中田[2014]など)。
これらの論文とピアザ氏の論文との違いは、中央銀行による「インフレ目標政策」がきちんと機能している(すなわち、インフレ目標値がインフレ率のアンカーになっている)か否かである。
ピアザ氏の論文では、中央銀行がうまくインフレ率を目標値に誘導できていない場合、財政支出を拡大させても(もしくは減税しても)、財政拡大を通じて供給された「お金」は支出されずに貯蓄されるため、その効果は限定的であるとされる。一方、エガートソン氏らの論文で用いられているモデルでは、中央銀行のインフレ目標政策が機能することが前提とされている。
どちらが、ここまでの日本経済の状況にマッチしているかといえば、前者ピアザ氏の論文であろう。
特に、消費税率を引き上げた2014年4月以降、日本銀行は「ハロウィン緩和(2014年10月)」、「マイナス金利導入(2016年1月)」と断続的に金融緩和を実施してきたが、その効果は少なくとも予想インフレ率には現れておらず、むしろ、低下傾向にある。
そのため、残念ながら、日本銀行によるインフレ目標政策が現実のインフレ率の「アンカー」として機能しているとは言い難い状況だ(ただし、2014年4月の消費税率引き上げまでは、日本銀行による「QQE政策」が功を奏して、2%のインフレ目標値がインフレ率の「アンカー」になりつつあったと考えている)。
■デフレ克服のための政策パッケージ
日本の場合、他国と異なり、長期デフレによって、デフレ予想が蔓延しており、それを払拭させるのに苦労しているというのが実情である。いまさら言っても遅いが、そのような状況下で2014年4月から消費税率を引き上げたのは明らかな失敗であった(せめてもう1年実施を先送りしていればよかったのかもしれない)。
また、日本のデフレを解消させるためには、財政支出拡大によって名目GDPの水準を底上げし、負のGDPギャップを縮小させる必要があり、負のGDPギャップが縮小すればデフレは解消するというのが、これまでの考え方であったが、ピアザ氏の論文の興味深い点は、金融政策がインフレ率のアンカーとなりえない状況下では、財政支出の拡大によって負のGDPギャップを縮小させることが困難ではないかと指摘したことである。
その意味で、金融政策に対する「楽観派」は、拡大された財政が、民間需要をクラウドアウトしない程度に追加緩和をすればよい(すなわち、「Accommodative(受動的)な緩和」)と考えていたが、ピアザ氏の論文はそれでは不十分である可能性を指摘したともいえよう。
すなわち、「追加発行された建設国債の額だけ追加の量的緩和をする」というスタンスでデフレが解消するかどうかは現段階ではわからないのである。
以上より、筆者は日本をデフレから脱却させるのは至難の業であるが、決して不可能なことではないと考える。そのためには、黒田総裁が「マイナス金利政策」導入時に言及していた「3次元緩和」をすべてのベクトルで思い切り進めるしかない。
日本の「潜在政策金利(シャドー政策金利)」を計算すると、6月末時点では、-4.06%となる(ちなみに米国は+0.16%、ユーロ圏は-6.12%)。この「-4.06%」という「潜在政策金利」の水準は2012年前半の米国と同水準である(図表1)。
2012年前半は、FRBが2011年6月にQE2を終了し、マネタリーベース残高がほぼ一定で推移する中、失業率は依然として9%程度で高止まりし、株価が低迷した局面であった。そこで、FRBは2012年9月にQE3を実施した。
QE3では、@国債ではなく、MBSの買い切りオペを実施した、A期限や債券の買い取り総額を事前に設定せず、「雇用市場が改善するまで、インフレ率が抑制されている限り無制限に継続する」ことが発表された。そして、これによって、米国の潜在政策金利は急反発し、その後、2014年1月よりテイパリングが、2015年12月に利上げが可能な水準となった(当然のことであるが、同時に株価も上昇した)。
一方、日本の潜在政策金利をみると、潜在政策金利がジャンプする局面(2010年10月の「包括的金融緩和」、2013年4月の「量的質的金融緩和」、2014年10月の「ハロウィン緩和」)では、@一時的にせよ、マネタリーベースの供給ペースが拡大している(図表2)、Aその後、予想インフレ率の上昇がみられる、といった特徴がある。
そのため、マネタリーベースの供給ペースをより拡大させることは必要かもしれない。ただし、2012年9月のFRBによるQE3の教訓を踏まえると、すでに著しい金利水準の低下がみられる国債だけでなく、別の資産(株式等のリスク資産)の買い取り額を増やすことを考えた方がよいかもしれない。
もう一つは、いま一つ評判がよくないマイナス金利政策だが、実は潜在政策金利のマイナス幅を縮小させているという点だ。そして、それにともない、景気動向指数や全産業活動指数がごくわずかではあるが、改善している(図表3)。
すなわち、マイナス金利政策の効果は小さいながらも発現している点には注目すべきだろう。
つまり、マイナス金利自体に「政策効果がない」のではなく、マイナス金利の幅がインフレ予想をもたらすにはまだまだ不十分であるという可能性もある(理論的には、実質金利を現在マイナスであると推測される自然利子率をさらに下回る水準までマイナス幅を拡大させる必要があると思われる)。
このように考えると、今後のデフレ克服のための政策パッケージとしては、「金融政策にはもう限界があるため、財政政策に軸を移す」というよりも、財政政策の効果を高めるためにもよりこれまで以上の金融緩和が求められる状況にあると考えたほうがよいかもしれない。
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