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アベノミクスの数少ない成果とされる株高も、最近は1歩進んで2歩下がるようにぐずつき気味。梅雨が明ければ…ならいいのだが(撮影/写真部・大野洋介)
日本経済を破綻させない唯一のシナリオとは?〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160629-00000253-sasahi-bus_all
AERA 2016年7月4日号
参院選が公示された。7月10日に投開票される。安倍政権はまた、争点を経済に置く考えだ。
しかし、アベノミクスの肝「異次元金融緩和」は完全に行き詰まった。追い込まれた首相は、時代遅れの予算バラマキを繰り出そうとしている。
巨額のツケを清算するのは誰か。
通常国会が閉会した6月1日。事実上の参院選のスタートを前に記者会見に臨んだ安倍晋三首相は、左手の人さし指を立てて声を張り上げた。
「アベノミクスを加速するのか、後戻りするのか。これが来たる参議院選挙の最大の争点であります。アベノミクスの3本の矢をもう一度、力いっぱい放つため、総合的かつ大胆な経済対策をこの秋、講じる考えです」
2017年4月に予定していた消費増税を2年半先延ばしすると表明するとともに、国や自治体がお金を使って景気をテコ入れする「財政出動」を再び打ち出した。
秋に想定される国の補正予算は、5兆〜10兆円規模という見方が広がる。購入時の金額以上の買い物ができる「プレミアム付き商品券」発行や公共事業、保育施設の整備といった項目が対策の目玉になりそうだ。
バブル崩壊後、今の安倍政権も含めて、政府は財政出動による景気対策を何度となく繰り返してきた。それでも日本経済は長い停滞のトンネルから抜け出せず、国の借金は1千兆円超という途方もない規模に膨らんだ。今回はうまくいくのか。
池袋駅から西武線に揺られて西へ20分ほど。東京都西東京市の住宅街の小さな電器店で、60歳代の男性店主は淡々と、昨年秋のことを話してくれた。
●地域経済底上げも消費刺激も期待薄
「プレミアム付き商品券のおかげで潤った、という感じは全くないですね。店の売り上げは例年とほぼ同じ。お得な商品券が手に入ったからテレビでも買おうか、なんて昔の話でしょ。このあたりでも、券を使ってスーパーでふだんの買い物をする人が多かったと聞いています」
14年4月に消費税率を8%に引き上げた後、政府が打ち出した緊急経済対策の柱の一つがプレミアム付き商品券だ。2500億円ほどの国費からプレミアム(割り増し分)の元手をもらい、全国の自治体の97%が発行した。プレミアムは1〜2割。2割なら1万円で買った券で1万2千円分の買い物ができるとあって、発売日には各地で券を買い求める行列ができた。
西東京市では昨年9月に6億円分が発行された。市民へのアンケートによると、使い道の7割弱は「通常の買い物」。大半は「商品券がなければしなかったはずの消費」を生み出さなかったことになる。
市では過去にも、国の経済対策や市の独自事業として同様の商品券が発行された。外部の有識者も交えた検討の末、市が自腹で手がける事業としては13年度を最後に廃止した。市の文書には理由がこう記されている。
「市内商工業の魅力増進や本来的な競争力強化につながるものではなく、継続的に実施することにより(消費)刺激策としての効果も低下する」
経済専門家の見方もおおむね冷ややかだ。ふだんの買い物の支払いをプレミアム付き商品券で済ませ、浮いたお金が貯蓄に回れば消費を押し上げる効果はゼロ。買い物を前倒しする人が増えても、その反動で将来の消費は減る。みずほ総合研究所はこうした要素を取り除き、プレミアム付きの商品券や旅行券で正味の消費は640億円増える、とはじいた。国が投じた費用の4分の1にとどまる計算だ。
●五輪前で人手不足公共事業にも疑問
公共事業についても効果を疑問視する向きが多い。恩恵を受ける建設・素材といった産業が日本経済に占めるウェートは下がり、景気押し上げ効果は以前より小さくなった。
加えて、東日本大震災の復興事業や東京五輪に向けた工事が集中して人手不足が深刻化し、工費も高騰。発注者の国や自治体が示す価格などの条件が業者と折り合わず、入札が不調に終わる事例も相次ぐ。多額の予算をつけても順調に消化できるかは怪しい。
アベノミクスとは何だったのか。日本銀行が市場をお金でじゃぶじゃぶにする「異次元の金融緩和」(第1の矢)と、財政出動(第2の矢)によって景気を押し上げて時間を稼ぐ。その間に規制緩和などで企業がビジネスしやすい環境を整え(第3の矢)、中長期的な経済成長を促す。これが基本戦略だった。
最も効果を上げたのは、首相が日銀総裁に据えた黒田東彦氏の就任直後の13年4月に始まった異次元緩和だ。日銀は今、民間金融機関から政府の借金証文である国債を年80兆円ものペースで買い増して代金を流し込み、世の中のマネーの量を増やそうとしている。これによって日本円の価値は下がり、海外で稼ぐ大企業を中心に円換算した利益が改善した。株価は15年4月、15年ぶりに2万円台を回復。失業率は下がり雇用も増えた。
それでも、全体として見れば日本経済は低迷したままだ。実質国内総生産(GDP)の成長率は13〜15年の平均でわずか0.6%。特に個人消費の低迷が目立つ。異次元緩和による円安が、輸入される製品や原材料の価格上昇を招き、食料品や日用品の幅広い値上げにつながったことが大きい。増えた働き口は低賃金の非正規雇用が大半。働き手の賃金の伸びも物価上昇のペースに追い付かない。
最近は為替相場が円高に振れる場面が目立ち、株価も停滞している。欧州や中国の経済に対する不安に加え、アベノミクスの肝である異次元緩和が限界に達しつつあるという見方が強まっているからだ。
日銀は15年、新たに発行された国債の総額にほぼ匹敵する膨大な量を買い入れており、「18年には市場に出回る国債が足りなくなる」という民間予測もある。日銀は今年1月、国債の購入量を増やさずに済む緩和策として「マイナス金利政策」の導入を決めたが、目立った効果は出ていない。首相の経済ブレーンを務める米エール大学の浜田宏一名誉教授でさえ、3月の本誌インタビューで異次元緩和の現状をこう表現した。
「強いクスリを使っても、だんだん効かなくなっていく」
折れた第1の矢に代わり、第2の矢を前面に押し立てようとしている。これが今のアベノミクスの姿だ。しかし、すでに説明した通り、財政出動の効果は疑わしい。
安倍政権は発足直後の13年1月、国の補正予算に盛り込んだ10兆円余りを元手とする緊急経済対策を発表。その後も税収が増えた分を財政出動に回すなどしてきたが、為替相場や株価を大きく動かした異次元緩和に比べればあくまでも脇役だった。
●今の低成長率は健闘との見方も
そもそも財政出動や金融緩和は、今の日本にとって正しい処方箋なのか。慶應義塾大学の池尾和人教授はこう指摘する。
「財政出動と金融緩和の本質は将来の需要の前借りです。先々にわたって需要を増やすことはできません」
国が借金して財政出動をすると今を生きる世代にお金を回せるが、返済負担が増えて将来の支出を削らなければならなくなる。金融緩和によって世の中の金利水準が下がり、物価が上がっていけば「いま借金してでもお金を使う方が得だ」と思う人が増えるが、その分、将来使えるお金は減る。いずれも、日本経済自体を持続的に大きくしていく力はない。
だからこそ本来、財政出動や金融緩和は急場しのぎの対策と位置付けられている。海外経済の急激な悪化といったアクシデントによって、景気が経済の「実力」に見合わない水準に落ち込んだ時、失業や倒産の急増を防ぐために用いるのが常道だ。
経済がふつうの状態で推移した場合の「実力」と言える成長率を潜在成長率と呼ぶ。働き手が減り、新興国の激しい追い上げを受ける日本の潜在成長率は、日銀や内閣府の試算でさえ0%台前半。ゼロと見る民間シンクタンクもある。日本の成長率の実績は低迷しているが、潜在成長率を踏まえれば「健闘している」という見方もできる。
日本経済の停滞の真犯人は、消費増税や海外経済の悪化といった一時的な要因ではなく、実力そのものの低下である以上、財政出動や金融緩和といったカンフル剤を打ち込んでも効果が限られるのは当たり前だ。それだけではない。深刻な副作用まである。
●「今」に必死で「将来」は手薄に
紙幣を刷る権限を握る中央銀行が政府の借金を直接引き受けることは「財政ファイナンス」と呼ばれ、まともな国では禁じ手とされる。国民が嫌がる増税をせずに政府が支出を増やせるため歯止めがきかなくなり、通貨の価値が下がって激しいインフレを招きかねないからだ。日銀は国債を金融機関から間接的に買っているとはいえ、買い占め状態に近づく現状は財政ファイナンスとそう変わらない。
「今の暮らしを良くするか、将来に備えるか。経済政策にはこんなトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず、という関係)が成り立ちます。安倍政権は『今』に最大限注力する一方で、『将来』が手薄になっている。これが最大の問題だと思います」(池尾氏)
消費が一向に盛り上がらないのは、そんな危うさに少なからぬ人が気付いていることも一因だ。そうした見方は経済専門家の間で広く共有されている。
「消費税の増税が延期されたので、車は今のうちに買ってしまおうかと思っています」
パートで働く主婦(33)はこう話す。昨年買った都内の一戸建てに、IT企業の正社員の夫と1歳の長女と住む。子どもを連れて出かけるのに便利なマイカーはいずれ買う予定だった。
「増税が先延ばしになったからといって、新しく大きな買い物をする気にはなりませんね。この先、娘の教育費もかかるし、年金はほぼもらえないと思ってお金をためてます」
●残された選択肢はみなで痛みを共有
結局、成長戦略で経済規模を地道に大きくしていくしかないが、企業間の競争促進やもうからないビジネスの淘汰につながるため、既得権を失う層の抵抗が強く、過去の政権でもなかなか進まなかった。
「安倍政権のもとで電力小売り全面自由化といった一定の成果が出ていることは確かです。しかし、成長戦略の効果が出るまでにはそもそも数年単位の時間がかかる。もっとスピーディーで強力な取り組みが必要です」(日本総研の湯元健治副理事長)
安倍政権が異次元緩和と財政出動に頼って成長戦略をおざなりにした間に、日本経済は抜き差しならない状況に陥った。財政再建のめどが立たない今、異次元緩和を急にやめれば、日銀という超大口の買い手を失う国債の価格が急落して金利が急騰し、経済が大混乱しかねない。
それでも軌道修正の余地はまだある。一部の経済専門家の間でささやかれる「ベストシナリオ」は次のような内容だ。
日銀は国債の買い増しをやめるが、保有分は塩漬けする。政府も社会保障費抑制や増税によって財政再建の姿勢を示す。そうして何とか金利上昇を抑え込み、物価上昇率も1ケタ台にとどめて国の借金負担を少しずつ減らしていく。インフレでお金の価値が下がれば、過去につくった借金の価値も減る。極端なレベルではないが、収入の伸びを上回るインフレに耐えながら、お金持ちも貧しい人も等しくツケを支払っていく──。
異次元緩和と財政出動の泥沼から抜け出そうとすれば、痛みは避けられない。しかし、痛みを怖がって手を打たなければ、いずれ金利と物価の急上昇が避けられなくなり、より深刻な事態を招きかねない。
どちらを選ぶか。子どもや、これから生まれる将来世代に選択権はない。決められるのは今を生きる有権者だけだ。(編集部・庄司将晃)
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