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「ちょい飲み」は牛丼業界の"救世主"か、"劇薬"か 〜牛丼で読み解く日本経済の今吉野家・松屋・すき家が軒並み好調だが…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49031
2016年07月01日(金) 加谷珪一 現代ビジネス
■苦境の一手が大成功
牛丼チェーン各社が、アルコール類を気軽に楽しめる「ちょい飲み」のサービスを拡充している。
かつて牛丼各社は「デフレの勝ち組」などと呼ばれていたが、インフレ政策を掲げるアベノミクスによって苦戦を強いられてきた。
このところ物価が下落基調を強めていることから、牛丼チェーンには再び市場の注目が集まっているが、現実にはデフレと呼べるほどの物価下落が発生しているわけではない。さらに、実質賃金の低下による需要減少が続き、業績の悪化に拍車をかけた。
割安なサービス一辺倒の経営に限界を感じた各社が、新たな戦略として打ち出したのが、「ちょい飲み」のようなサービスの拡大だ。懐に余裕のないビジネスマンにとっては歓迎なのだが、果たして牛丼チェーンにとって安定的な収益拡大に繋がるのか。
■一杯150円という魅惑
牛丼各社は昨年から「ちょい飲み」のサービスを拡充させているが、今年に入って一層アルコールの提供に力を入れるようになった。
吉野屋は約360店舗でアルコールとおつまみを提供する「吉呑み」というメニューを展開していたが、今年度からこれを全店舗(約1200店)に拡大する。
吉野屋の「吉呑み」は、生ビールやハイボールを350円で楽しむことができるほか、牛皿などの定番メニューに加え、子持ちししゃも(250円)、焼きいか(300円)、冷奴(150円)など一通りのおつまみ類も揃う。軽く一杯飲むには十分な内容である。こうしたフルサービスが提供できない店舗でも「吉呑みチョイ」というサービスがあり、品目は少ないものの、同じようなメニューを楽しめる。
松屋も一部店舗でアルコールやおつまみの提供を行っており、生ビール(小ジョッキ)が150円で楽しめるほか、ソーセージ&ポテトサラダなどのおつまみ類も注文できる。小ジョッキは量が少ないので、たくさん飲む人には物足りないかもしれないが、150円という価格設定は魅力的だ。
すき家も昨年から実験的な運営を開始しており、一部店舗でアルコール類とおつまみの提供を開始している。
各社とも、既存店舗においてアルコールとおつまみを出すだけなので、本格的にお酒を楽しむというわけにはいかないが、「ちょっと一杯」が目的なら、けっこう利用価値はあるし、ある程度の来店者は確保できるだろう。
各社がこうしたアルコール類のサービスを強化しているのは、客単価の上昇を狙いたいからだ。そして、この戦略は成功していると言える。実は直近の牛丼チェーン各社の業績はすこぶる好調なのだ。
■劇的な復活
すき家を運営するゼンショーホールディングスの2016年3月期決算は、売上高が前期比2.7%増の5257億円、営業利益が前期比3.8倍の121億円と大幅な増益となった。
同社は一昨年、深夜営業を従業員1人で担当するいわゆる「ワンオペ」が問題視され、半数以上の店舗において深夜営業の停止に追い込まれた。2015年3月期の決算は111億円の純損失だったので、まさに劇的な復活といえるだろう。
吉野屋を展開する吉野家ホールディングスは、2016年2月期こそ営業減益だったが、2017年2月期については前期との比較で2.1倍の営業増益を見込む。松屋を展開する松屋フーズも好調で、2016年3月期の売上高は前期比3.5%増の839億円、営業利益は同72%増の37億円だった。
各社の決算が好調な背景には、客単価の向上がある。すき家の業績急回復は深夜営業の復活が大きいが、値上げもそれなりに寄与している。すき家は2015年4月に牛丼の値上げを行い、291円だった並盛りが350円(税込み)になった。この値上げによって各社の並盛りはすべて300円台となっている。
松屋も、牛肉の質を高めた「プレミアム牛めし」への切り換えを行い、実質的な値上げに踏み切った。客数は前期比で1.3%減少したが、客単価は逆に3.9%向上しており、これによって営業利益が増大した。
こうした各社の付加価値戦略は、うまく業績に結びついたように見えるが、万事順調というわけではない。なぜか。
一連の施策は、実は綱渡りの連続だったからである。
各社は昨年の秋、一斉にキャンペーンを行い、期間限定の値下げを行っている。特にすき家については値上げの直後だっただけに、市場からは値上げ戦略がうまくいっていないのではないかとの声も上がった。実際、各社は客数の減少に悩まされており、期間限定の値下げキャンペーンは客数の減少を補うためのものであった。
値上げで客単価の向上を狙いたいが、値上げすると客足は遠のいてしまう。両者の絶妙なバランスを取れるギリギリの地点を探りたいというのが各社のホンネであり、これは消費者の購買力が決して回復していないことの裏返しともいえる。
これは牛丼という個別商品の問題ではなく、日本経済全体の話と捉えるべきだろう。
■「物価上昇」という苦難
このところアベノミクスの限界が指摘されるようになり、デフレに逆戻りするのではないかとの声も聞かれるようになってきた。
日銀が提示した2%の物価目標の達成がほぼ不可能な状況になっていることは確かだが、物価が下がってモノやサービスが買いやすくなっているのかというと決してそうではない。
アベノミクスのスタート直後、日本の物価は順調に上昇するかに見えた。2013年4月に日銀が量的緩和策を開始すると消費者物価指数はすぐにプラスに転じ、消費税が8%に増税された直後の2014年5月には前年同月比でプラス1.4%(消費税の影響除く)に達した。2%という物価目標の達成も近いと思われたが、この頃を境に物価上昇率は鈍化に転じ、最近ではマイナスとなる月も目立つ。
だが、ここで示した消費者物価指数は「生鮮食品を除く総合」と呼ばれるもので、いわゆるコア指数のことを指している。コア指数には上下変動が大きいエネルギー価格が含まれているため、当然のことながら原油価格の影響を大きく受ける。
消費者物価指数には、エネルギーの影響を除いた「食料及びエネルギーを除く総合」(こちらはコアコア指数と呼ばれている)という指標も用意されているのだが、このところ両者の乖離が激しくなってきている。
コア指数を見ると物価は横ばいが続き、月によってはマイナスとなっているのだが、コアコア指数の動きはだいぶ異なっている。
コアコア指数は2015年の前半にはゼロに近づいたが、その後、上昇が続き、2015年の9月にはとうとうプラス0.9%に達した。実はこの数字はアベノミクスがスタートしてからもっとも高く、エネルギーの影響を除けば、日本の物価は継続して上昇していると判断できる。
ガソリンや電気料金など一部の品目を除くと、おそらくコアコア指数の方が生活実感に近い。最近、モノの値段が一段と上がったと感じる人が多いのは当たり前なのである。一方、賃金はモノの値段ほどには上昇していないので、物価の上昇を考慮した実質賃金は何と5年連続でマイナスとなっている。
実質賃金がマイナスであれば、消費者の懐に余裕はなくなる。値上げをしてしまうと客数が減少するというのも、当然の結果ということになるだろう。値上げというのは、需要が拡大している時に実施すれば大きな効果を発揮するが、需要が十分ではない時に行うと、販売数量の減少というリスクも背負い込むことになる。
牛丼各社の決算が好調だったのは、客数と単価のバランスをうまくコントロールすることができたからなのだが、来期以降もこの状況を継続できる保証はない。ちょっとしたことがきっかけで、売上高が急減するリスクを各社は抱えているといってもよいだろう。
各社がちょい飲みに力を入れる背景にはこうした事情がある。アルコールが入ると客単価を上げることができるというのは、外食産業の世界ではひとつのセオリーであり、これで客数の減少リスクを補いたい考えだ。
ちょい飲みの戦略は、当面はうまく機能するかもしれない。その理由は、アルコールの拡充によって、居酒屋など他の業態から顧客を奪うことが可能だからである。
だが、これも持続的なものとは言い難いというのが現実だろう。
先ほど述べたように、消費者の実質賃金は減少しており、購買力は年々低下している。アルコールに支出できるお金の総額も減っていることが予想され、これに伴って単価の高い業態から安い業態に顧客が流れていく。
このまま実質賃金の低下が続けば、牛丼各社は今度は家飲みと競合せざるを得なくなるかもしれない。そうなってくるとライバルとなるのは、もはや外食ではなく、コンビニなど小売店ということになる。
いずれにせよ、マクロ経済的な購買力の低下に振り回される状況は当分の間、続く可能性が高い。
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