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イギリス国民の「決断」は、世界の地殻変動を告げる"号砲"だ 〜事の本質を見誤るな! 日本が学ぶべき教訓は?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49058
2016年07月01日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
■世界の地殻変動を告げる号砲
英国の欧州連合(EU)離脱ショックが収まらない。「金融市場の動揺は数日で収まる」などと楽観論も聞かれたが、だから「エコノミストは近視眼」と冷やかされる。これは単に経済の話ではない。世界の地殻変動を告げる号砲かもしれないのだ。
たしかに世界の株価は一時の急落ショックから脱して、なんとか小康状態を取り戻したかに見える。だが中長期的にみれば、経済へのマイナス効果はあきらかだ。EU離脱によって、英国経済は確実に苦しくなる。欧州や世界経済全体にも不透明感が重くのしかかっていく。
離脱派が勝利した後、一部で「離脱に賛成したのは間違いだった」という反省の声が続出した。そこをとらえて「だから言ったことじゃない。いまごろ何を言っているんだ」と冷ややかな声もある。
そんな展開を横目で見ながら、マスコミでは「今回の選択はポピュリズムに煽られた結果」といった冷ややかな批評が相次いでいる。ポピュリズムとは、人々の不安や怒りにつけ込んで、指導者がセンセーショナルな言辞で煽り、政治目的を達成しようとする手法だ。
たしかに離脱派の言い分には、大げさすぎたところがある。
たとえば「英国は毎週、EUに3億5000万ポンド(約480億円)も拠出している」という話だ。離脱派は「EU離脱で浮く拠出金を国民医療サービスに振り向ければいい」と主張した。だが、逆に英国がEUから受け取っている分を差し引けば、実際の持ち出しは「週に1億数千万ポンド」にすぎなかった。
指導者たちが真実でない話を材料にして、人々を煽った面があるのは否定できない。
だからといって、人々が経済的打撃をまったく認識していなかったかといえば、そうとは言えないだろう。英国財務省や経済協力開発機構(OECD)はじめ世界のシンクタンクやエコノミストはそろって「離脱の経済的マイナス効果」を宣伝していた。
それでも多数の人々が離脱を選んだのだ。「多少のマイナスがあってもEUの傘の下にはいたくない」と考えた。なぜかといえば、移民とテロへの不安を感じていたからだ。
■「エリート主義」では世界の本質が見えない
欧州委員会の世論調査によれば、英国民がEU離脱か否かで最重要と考えていたのは、移民問題がトップで44%、次いでテロ問題が24%、3番目が社会保障問題の21%だった。英国のマクロ経済が得するか損するか、ではない。
移民や難民の増加によって自分たちの雇用や賃金が奪われる。加えてテロリストが侵入する心配もある。これは身近でリアルな恐怖感だったのだ。
そんな不安を前に、エコノミストたちが「EUから離脱すると経済が悪くなる」と数字を挙げて訴えても、多くの人々の胸に響かない。「もう実際に自分たちの暮らしが脅かされている」と思ったからだ。
そんな判断は軽はずみだったのか。そうとはいえない、と私は思う。指導者の演説がどうあれ、人々は自分の暮らしと大陸欧州で繰り返されたテロの映像を思い出して、1票を投じたのだ。
それを「大衆迎合のポピュリズム」と断じるのは、はっきり言って「上から目線」のエリート主義ではないか。
私自身は離脱が誤りで「英国はEUに残留すべきだった」と思っている。そうであっても、離脱派を「ポピュリズムに操られた可哀想な人々」と切って捨てる態度には同意できない。そんなエリート主義に陥っていては、いま世界で起きている地殻変動の真実を見損なってしまうからだ。
■「ポピュリズム」のひと言では片づけられない
いったい世界で何が起きているのか。
私はかねて英国のEU離脱派や米国大統領選におけるトランプ候補のような主張を「自国優先主義」と指摘してきた(たとえば5月27日公開コラム、http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/48769)。
自国優先主義が勢いを増してきた背景には、ロシアと中国、それにテロリストたちの無法がある。
英国民が恐れる移民や難民がどうして増えたかといえば、直接的にはイスラム国に象徴されるテロリストたちが中東で暴れまわったからだ。
イラクやシリアの難民たちは母国の将来を見限って欧州に逃げ出してきた。加えて、豊かな西欧と貧しい東欧の格差もある。東欧諸国が相次いでEUに加盟した結果、西欧と東欧の壁がなくなった。それで東欧から西欧に出稼ぎや移住する人々が増えた。
私がブリュッセルで新聞特派員をしていた1990年代半ばには、住んでいたアパートの管理人兼清掃係兼クリーニング係はポルトガルからの出稼ぎ夫婦だった。だが、いまやそんな仕事も東欧の人々に取って代わられつつある。
つまり世界は国際法を無視した暴力がはびこる一方、自由な国が人、モノ、カネ、サービスの移動の自由を高めた結果、自分で自分のクビを締めるような形になってしまった。それが欧州であり、いまの米国の姿にほかならない。
ポピュリズムが真の問題ではない。それを生み出したのは一方で無法と暴力、他方で自由と民主主義の加速である。この皮肉な不均衡をどうするか、が問題なのだ。
英国のEU離脱派は大陸欧州からの移民や難民を締め出して、英国民の雇用と賃金、暮らしを守ろうと言っている。米国のトランプ氏もメキシコとの国境の壁を高くして、米国の雇用と産業を守ろうと言っている。イスラム教徒の入国禁止も唱えている。環太平洋連携協定からも脱けると言っている。
英国の選択はトランプ氏に間違いなく追い風になる。もしも11月にトランプ大統領が誕生すれば、来年春のフランス大統領選では極右のル・ペン国民戦線党首が勝利するかもしれない。その後にはドイツの総選挙も控えている。
こうした潮流を「ポピュリズムの躍進」と評したところで問題の解決にはつながらない。問題の根本にあるロシアと中国、テロリストがひるむはずもないからだ。暴力と自由の不均衡もなくならない。
百歩譲ってポピュリズム論を認めたところで、ポピュリズムを生み出した問題の根源に遡らなければ、移民や難民、テロリストの問題には対処できないのだ。
いま目にしている事態は世界の地殻変動である。地震を引き起こす地殻変動が止められないように、人間社会の地殻変動も止めるのは不可能といえないまでも、極めて難しい。
それでも日本について言えば「単純な自国優先主義ではやっていけない」のは明白だ。安全保障では米国と二人三脚でなければ、中国や北朝鮮の脅威に対抗できない。通商面でも日本は資源がないのだから、自由貿易こそが命綱である。
幸い、日本は英国同様、周囲を日本海と太平洋という自然の擁壁に囲まれている。だから大陸欧州とは違って、もともと出入国管理がしやすい。日本語という外国人に難しい言葉もある。
そんな日本が英国の事態から学ぶべき教訓は、欧米やアジアとの国際協調を大事にしながら、ありのままで独自性を発揮できる強みではないか。
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