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英ロンドンの売店に置かれた、「平静を保ち、普段の生活を続けよ」という第2次世界大戦時の同国のスローガンが印刷された絵はがき(2016年6月24日撮影)〔AFPBB News〕
右傾化を許した失政でどんどん貧乏になる英国 EU離脱で大打撃の経済、ドイツとの差は拡大の一途へ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47195
2016.6.28 伊東 乾 JBpress
「まさか、ということはあり得る。頭痛の種だ・・・」
そう言って、サー・ジョン・ボイドは頭を掻きました。このところロンドン滞在の折は、必ずサー・ジョン邸をお訪ねします。ケンブリッジ大学チャーチル校前学長として大学間協力のサポートをいただく、あるいは前大英博物館長として研究プロジェクトでお世話になる・・・。
様々な話題がありますが、彼と食卓を囲むと、話題の中心はどうしても外交になります。
現在もアジアハウス理事長の職位にある英国の老練な外交官であるサー・ジョン・ボイドは1990年代前半には駐日大使として東京で様々な音楽イベントも主催しておられました。
自身も長年にわたってヴィオラ奏者として室内楽で活躍してこられたサー・ジョンが、このところ一番恐れていたのが英国のEU離脱でした。そしてそれが現実のものになりつつある。
「グレグジット(Grexit)よりブレグジット(Brexit)が先に来る、などということは、あってはならないことだけれど・・・」
そのあってはならないこと、「まさか」が「まさか」でなくなってしまったのが2016年6月23日でした。ことによるとこれは大英帝国800年落日の始まりになっているかもしれません。
ちなみにグレグジットとはギリシャのEU脱落、ブレグジットはブリテンつまり英国のEU離脱を意味します。拙劣な経済より先に、拙劣な行政判断で、こともあろうに英国が「欧州」という枠組みを壊していく端緒を切ることになってしまうとは・・・。
なぜこんなことになってしまったのか。
「守り」に回って国を失う衆愚の妄動というのが、報道に接して最初に個人的に感じた事ではありますが、まずは順をおって考えていきましょう。
■経済的にはメリットなし
私は欧州圏でベルリンとロンドンを音楽の基軸に仕事をしていますが、本連載でも幾度か記したように日本人にはロンドンは物価が高く、このところ往生させられることが少なくありませんでした。
両替の手数料を含め、1ポンド200円くらいで考えておく方が安全というのが生活上の実感ですらあった。
さて、いま本稿を書いているタイミングでのポンド為替の値動きを見てみると、低値を133.42円までつけています。ちなみに1ユーロは113円代まで落ちている。ちょっと前にベルリンの家賃を払った時は130円代でした。これだけでも大変なことが起きているのは明らかでしょう。
為替のみならず経済外交の観点から英国のEU離脱を観察するなら、良いことなど1つもありません。ある試算では200兆円が消えたとも言われています。そもそもまず信用と通貨が弱くなる。
EUの一部であるというのは「欧州連合の3つの軸」、行政、司法、経済の統合にあずかるということで、そのメリットをすべて失う事を意味します。
早い話、現在の英国はEU圏との貿易で関税を払う必要がありません。EUに属するあらゆる国家、地域と自由に経済的なやり取りができる。
私たちは北海道の産物を東京や関西、九州や沖縄で売買する際、いちいち関税など払うことはないですよね。ところが(はっきり書きますが)欧州では大衆衣料として流通するH&Mの衣料品に結構な値段の正札がついているのは、関税の障壁が経済圏を守っているわけですね。
冬場のベルリンでユニクロのヒートテックはなかなか人気ですが、明らかに日本より高い値段がついているのとよく似ています。
H&Mはスウェーデンの企業で、EU内のベルリンで展開する際には関税がかりません。同様に英国企業が欧州で展開する際にも、EU圏の中にいる間は無関税、もっと言えば、世界各国の企業が欧州で展開しようと思えば、ロンドン支社をハブにして自由な戦略を組むことができました。
で、それを全部手放した。
率直に言って「英国」全体として考えるならバカみたいな話であって、離脱派は、昨今の日本の似非右翼が言う「反日」同様、極めて「反英」的な行動を取って、今回僅差ながらEU離脱という恐るべき選択をしてしまった。
欧州大陸側のある友人は、私の顔を見るなり「おはよう、大英帝国の本格崩壊が始まったね」と切り出したものでした。
ではどうして、こんなことになってしまったのか。背景のカギは「欧州の3つの統合」の残り2つ、法と行政の共通化へのアレルギー、拒否反応にあります。
私が頻繁に行き来するベルリンとロンドンは、中東紛争からの難民たちが目指す「2大最終目的地」にほかなりません。より正確に言うなら、英国とドイツ連邦共和国に亡命し、難民として認定されれば、他の各国と比較にならない厚遇で迎え入れてもらうことができるのです。
■デジタル化なくしてブレグジットなし
EUは「経済の統合」と並んで「法」と「行政」の統合を核に成り立っています。今回の英国EU離脱を単純な理由に帰することは難しいですが、一般には3つの要素が指摘されています。
第1が「主権の回復」、第2が「EUによる税収搾取への反動」そして第3が「中東移民移民受け入れ」問題。いずれも法と行政の統合への反発ですが、今回以下では特に移民に関して考えてみましょう。
EU全体としてシリアなど中東からの難民を受け入れる、と言うとき、英国だけがそれを拒否することはできません。EU内部にとどまり続ける限りは、移民を受け入れ続けなければならない。
端的に言って今回の「英国EU離脱」は鎖国圧が「開国圧」に僅かに勝って国を危うくしたもの、と言えると思います。
ではどうしてそこまで移民を排除しなければならなかったのか。
負担の問題は明らかでしょう。難民を受け入れ、居場所や生活保証などを与える原資はすべて税金です。中〜低所得層を中心に「あんな奴らを養うのに払う税金なんかない!」という反対が出るのは多くの国で目にする現象で、日本でも類似の「ヘイト」すぐ思いつく気がします。
もう1つは仕事の奪い合いでしょう。海外から移民が流入して来れば、最低限の生活保証は別として、彼らも働かねばならない。こうなると、いくつかの職業については従来からの就労者との間で仕事の奪い合いが始まることになります。
中東からの移民はiPhoneなど携帯インターネット端末を持って西へ、西へと進んで来ます。
鉄道駅などで充電しながら携帯でブローカーと連絡、金銭のやり取りもネットを通じて行い、夜のエーゲ海にゴムボートで船出して沈没といった事態が発生している「デジタル化なくして移民なし」と言われるゆえんです。
それがついに英国のEU離脱、欧州連合という枠組み自体を壊すところまでの圧力になってしまった。
さて、先ほどこの2点に注目するとき、
「おれ達の税金を外国人に使うな」「おれ達の仕事を外国人に与えるな」という主張の2つとも「おれ達」つまりローカルなエゴであって、国の全体など全く考えない「自由な」主張であるのが分かるでしょう。
ナチスの政権奪取時などもそうでしたが「右派」と呼ばれる人たちが必ずしも国家主義であるとは全く限りません。
むしろ社会的弱者、経済的にも、その他の意味でも、必ずしも優遇されていない層が増大し、そのフラストレーションが堰を切って噴出すると「頼れる親分」「20世紀の大宰相」としてアドルフ・ヒトラーのような「僭主」指向に大衆は容易に流れてしまう。
今回の英国での投票は、議員暗殺などという事態まで発生するなか、最後までギリギリのラインでの攻防がありましたが、その背景に英国内外行政の失敗があったのではないか、というのが私の率直な感想なのです。
英国は言うまでもなく露骨な階層社会で、かつ「ゆりかごから墓場まで」と言われる「大きな政府」のサポートが「上」から「下」まで行き届いていることで知られます。
今回の投票のような争点は、重要な国際問題の判断であるにもかかわらず、国内各階層の所得と納税率などのほんの少しの違いでも、結果が逆転していた可能性があると私は思います。
「衆愚」などきつい言葉を記すと反発があるかと思いますが、あえて記しているのには背景があります。
最も離脱票が多かった地域はブリュッセルの資金で回っているような産業地帯であったこと。今後明らかに発生する経済的な危機を担保する力がないのに、勢いやフラストレーション、「意見票」などとして投じた結果が現実に国を割ることになってしまったこと。
それと、あまりうれしい話ではありませんが、離脱票の割合と就学歴の肯定が見事なほどに相関を持ってしまったことなどを指摘せざるを得ません。
つまり教育を受け後先を考える力のある人は、決して離脱票を投じていない。教育の機会に恵まれず、EU資金で産業が回っているエリアで、自分で自分の首を絞めるような投票結果になっている、そういう状況を端的に述べているものです。
例えば、やはり「豊かな北」であるスウェーデンでは「EU離脱」という話には(いまのところ)なっていない。
移民の受け入れ、そうやって受け入れられた「新たな労働力」がどのような職業について英国社会内の新しい労働力として組み込まれていくか。それを既存の各層はどのように受け入れる準備ができていたか、あるいはできていなかったか?
そうした個別、細やかな計画行政がより徹底していたなら、今回のようなことにはなっていなかったのではないか?
EU指導部は英国に「辞めるならさっさと辞めて波及効果をミニマムにしてくれ」と引導を渡しています。今後EUは英国に少なくとも経済面では襟を正した対応をすることになるのは間違いない。
巷間「ドミノ離脱」を恐れる向きがありますが「EUを辞めるとどういうことになるか、思い知れ」という政策を、少なくとも欧州連合の体制維持を考える側では、検討しないわけにはいかない。
これを英国にとって国難と言わずして、いったい何が国の難儀と言えるか。英国にとってEU離脱は13世紀、マグナカルタあたり以来から数度あったか、という程度にシリアスな国難につながる可能性があるかもしれません。
で、そういう国難を自ら「国民の入れ札」が呼び込んでしまう現象を「衆愚」とあえて呼んで論点を明確化したいと思います。例えばワイマール共和国最末期に極めて「民主的」な選挙で選ばれたヒトラー首相―総統はその端的な例です。
これを指して「衆愚」と言うなら、今回の英国の投票結果は、極めて衆愚的な結果を英国にもたらすことになるでしょう。
英国は今後、自分で自分の首を絞めるような方向にどんどん進む懸念があります。欧州圏ではドイツの一人勝ちが指摘されますが、それが嫌だ、とカウンターを放ったつもりでどんどん差を広げられてしまう可能性が、率直に言って高い。
現状の英国はすでに産業国ではなく金融国に変質しており、産業労働者は割を食う下層を形成しつつある。それらに十分な手当てができなかった政策の拙劣が、今回の結果を招いているのではないか?
社会経済的な地勢リスクという観点から考えるとき、産業労働者を受け入れる余地がある大陸、ドイツが中東移民にまだ寛容で、英国が不寛容なマス・ヒステリーで国を危ぶんだ違いが生まれてしまった。
ドイツは「インダストリー(Industry)4.0」という実に大陸的な政策を展開していますが、諸政策が射程に入れる多様性の器の違いが、今回の明暗に出ているようにも思います。
最後に端折って記したことは、かなり複雑な内容なので、追ってもう少しかみ砕いて記したいと思います。
なお、誤解のないように申し添えますが、私の家は曾祖父の代から「イギリス国教会」(日本では日本聖公会)信徒で、私自身が同教団が日本で展開する聖路加国際病院で生まれているくらい、筋金入りの「親英派」として英国と行き来させていただいており、上の論旨も冷たく突き放す考えでは全くありません。
今回は紙幅が尽きましたが、引き続きスコットランドと北アイルランドの独立、そして「ロンドンのシンガポール化か?」といった関連の話題を考えてみたいと思います。
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