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夜の日本銀行(2011年7月11日撮影)。 Photo by Guwashi999 via flickr.
日銀はマイナス金利政策を後退させるのか?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47177
2016.6.24 黒瀬 浩一 JBpress
日銀が1月29日にマイナス金利政策を導入して以来、追加の緩和は見送られている。一部には強い追加緩和の期待があったためか、追加緩和見送りのニュースで株価が急落することもあった。なぜ追加緩和が見送られたのか、金融政策のフレームワークに立ち返って考察してみたい。
日銀のマイナス金利政策は、金融機関が日銀に持つ当座預金を、従前通り+0.1%を付利する基礎残高(A)、金利ゼロのマクロ加算残高(B)、そして新たにマイナス金利が課される政策金利残高(C)の3分割して、その金利水準と政策金利残高(C)を操作する制度設計とした。
日銀の操作変数は2012年に翌日物金利から国債等の買入で増加するマネタリーベース(以下、MB)残高に変更されたが、当初、マイナス金利が付与される(C)政策金利残高は、MB残高と同一のペースで増加すると見られていた。これは、操作変数はMB 残高のまま、限界的な金利をマイナスとすることで、金利にも操作変数の意味合いを持たせる、敢えて言うなら「ダブル操作変数」と理解できるスキームだった。
(C)政策金利残高にマイナス金利を課す制度設計について黒田総裁は、4月13日の講演で、「当座預金を3階層に分割し、従来どおりの『+0.1%』、『0%』、そして『-0.1%』を適用する階層構造を採用しました。そのうえで、『0%』を適用する部分を調整していくことにより、マイナス金利を適用する部分を限定することとしました。これは、『価格は、平均コストではなく、限界コストで決まる』という経済学の入門コース13(Econ101*1)で習う原則を応用したものです。つまり、金利形成において意味があるのは、取引主体が追加的に1単位の当座預金残高を積み増す場合のコストだということです」と述べている*2。
*1 経済学の初歩的な教科書の意
*2 https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/data/ko160414a1.pdf
黒田総裁の言う「『0%』を適用する部分を調整していくことにより、マイナス金利を適用する部分を限定」は、政策決定会合ではない場で決定され、金融市場局が発表している*3 。直近の6-8月期では、ゼロ金利が適用される(B)マクロ加算残高は当座預金残高の7.5%とされた。そして結果的には、マイナス金利が課される(C)政策金利残高は、「平均して概ね10兆円台」とされた。
当初は、年間80兆円のマネタリーベースの増加の全てが、マイナス金利が課される(C)政策金利残高の増加に直結するはずだった。このマイナス金利が課される(C)政策金利残高の増加ペースが鈍化することの意味は、「限界コスト」の増加ペースの鈍化と同一だ。日銀はマイナス金利政策を後退させたと理解して良いだろう。
金融政策が実物経済に影響を与える経路を伝達経路*4と呼ぶ。主な伝達経路は、(1)金利経路、(2)資産価格経路、(3)信用経路、(4)為替経路、(5)期待経路だ。そしてマイナス金利には、QE面で日本のような大幅な量的緩和、ECBのように小幅な量的緩和、デンマークのように量的緩和なし、の3つのパターンがある。それぞれには(1)から(5)のどの伝達経路を重視するかの違いがある。
黒田総裁就任で発足した新体制の日銀は、(5)の期待経路を重視して、2年で2%の物価を実現するため、操作変数をMB残高に変更して2倍とする政策を展開した。ただ成果が芳しくないため、(5)期待の伝達経路を重視した大規模な量的緩和を維持しつつ、(1)から(4)を再び強化するためにマイナス金利政策を導入したと理解できる。
しかし、結果的には、限界的にマイナス金利政策が課される残高を当初の構想から後退させたのは、大規模な量的緩和とマイナス金利の両立が、オペの札割れや金利の大幅な低下などに見られるように、無理があったからだと考えられる。日銀が金融緩和を更に強化するには、市場との対話や海外事例の研究を通じ、金融政策委手段と伝達経路の有効な組合せを再考する必要があると見られる。
*3 http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160609c.pdf
*4 http://www.resonabank.co.jp/nenkin/info/economist/pdf/160511.pdf
(*)本記事は「りそな銀行 エコノミスト・ストラテジスト・レポート 〜鳥瞰の眼・虫瞰の眼〜」より転載したものです。
(*)投資対象および銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、必ずご自身の判断でなさるようにお願いします。本記事の情報に基づく損害について株式会社JBpressは一切の責任を負いません。
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