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孫正義氏の並外れた情熱が生みだしたソフトバンクのロボット「ペッパー」(資料写真)。(c)AFP/Yoshikazu TSUNO〔AFPBB News〕
孫正義氏に「後継者」はいない 資本主義にはカリスマの独裁が必要だ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47186
2016.6.24 池田 信夫 JBpress
ソフトバンクの孫正義社長が後継者と位置づけていたニケシュ・アローラ副社長が、6月22日の株主総会で退任し、今まで通り孫社長が経営を続けることになった。彼の後継者と目される人物は他にはいないので、彼の言う通り「あと5〜10年は社長を続ける」ことになるだろう。
これは正しい決断である。私も昔からソフトバンクを見てきたが、よく悪くもソフトバンクは孫氏の個性で生まれ、成長してきた会社であり、失敗もたくさんあったが、彼のカリスマ的な求心力で乗り超えてきたのだ。
■常識破りのギャンブルで成長したソフトバンク
アローラ氏は2014年にグーグルの最高事業責任者からソフトバンクに引き抜かれ、アジア各国で企業買収を手がけてきた。年俸は昨年が165億円、今年はこれまでに80億円で、彼は600億円でソフトバンク株を買うなど、経営への強いコミットメントを示していた。
しかし社内では、当初からアローラ氏が後継者になるのは無理だという声が多かった。ソフトバンクがこれまで急速な成長を続けてきた原因は単なる企業買収ではなく、孫氏の常識破りの発想と、社員を引っ張ってゆくカリスマ性だからだ。
ソフトバンクはもともと、その名の通りソフトウエアの卸し売り業者で、孫氏は通信にはまったく素人だった。2001年に「ヤフーBB」でDSL(デジタル加入者線)に参入したのは、ITバブルで儲かって資金が余ったためだったが、参入した直後にバブルが崩壊し、資金繰りがつかなくなった。
技術的にも、ソフトバンクのモデムはNTTの回線では干渉が起こって使えないことが判明した。NTTも電話局の設備をソフトバンクが使うことに難色を示した。ところが追い詰められた孫氏は、自社のモデムを日本でも認可するよう総務省を相手に行政訴訟を起こし、使用を認めさせた。
ルータについては、孫氏が電話局を訪ね歩いて工事を要求した。総務省では「このままでは当社はつぶれるので、ここでガソリンをかぶって火をつけて死ぬ」と言って、全国の電話局に設置を認めるよう総務省に指導させた。
ソフトバンクは無料でモデムを配ってDSLを300万台以上普及させ、日本は「世界一のブロードバンド大国」と言われるようになった。ソフトバンクの社運を賭けたギャンブルを、孫氏は常識破りの手法で乗り切ったのだ。
■「空気」を読まなければ日本にチャンスは多い
これでソフトバンクは通信分野の人材を得て、300万人以上の顧客を集めた。そのとき日本を撤退するボーダフォンの売却話が持ち込まれたが、ある外資系企業の社長は「私のところにも話が来たが、あんなボロボロのインフラで営業するのは自殺行為だ」と言っていた。
それを孫氏は買った。このときも2兆円近い資金を借りたので、金利が上がったら終わりだったが、低金利で助かった。ボーダフォンのインフラは使い物にならなかったが、ちょうどそのころアップルがiPhoneという新しい携帯電話を開発していることを知り、スティーブ・ジョブズと交渉して独占契約を結んだ。
・・・というように彼の手がけた事業の成功確率は、技術的に見るとDSLも携帯電話もそれぞれ10%ぐらいで、孫氏が生き残る確率は1%もなかった。普通の経営者だったら、ソフトバンクの経営はとっくに破綻していただろう。
しかし孫氏は、そのわずかなチャンスを大胆なギャンブルでものにした。彼がシリコンバレーにいたら、今のような大成功はしなかっただろう。彼の才能は空気を読まないでリスクを取ることにあり、それは横並びで競争のない日本社会ではきわめて大きな優位性なのだ。
■独裁的な経営者がもっと必要だ
今回と似たような事件は、ユニクロ(ファーストリテイリング)でもあった。柳井正社長が玉塚元一氏を2002年に社長に抜擢したが、その3年後に解任して柳井氏が社長に復帰した。しかし日本の企業の時価総額ベスト20の中で、1980年以降に創業した会社はソフトバンクとユニクロしかない。
しかし世界の企業では、時価総額の上位には、アップルやマイクロソフトやグーグルなどのオーナー型企業が多い。資本主義はもともと株主がリスクもリターンも100%取る独裁的なシステムだが、そういう19世紀型の個人資本主義に回帰しているのだ。
しかし企業が大規模になるにつれて垂直統合型になり、経営者は株主利益を無視して規模を拡大する傾向が強まる。これは1980年代にアメリカで大きな問題になり、多角化したコングロマリットを投資ファンドが買収して収益の低い部門を売却するプライバタイゼーション(非公開化)が起こった。
その最大のメリットは、意思決定の集中である。企業は大きくなると官僚制によって「恐竜化」する。最盛期のGM(ジェネラル・モーターズ)の従業員は70万人、IBMは40万人にも達し、意思決定がコンセンサス中心になる。これに対して非上場の個人企業にすれば、よくも悪くも独裁的な経営でリスクを取るイノベーションが可能になる。
いま起こっているのは、通信コストがさらに低くなって官僚組織が必要なくなったことだ。特にその傾向は、要素技術が標準化して技術情報がネットで容易に入手できるIT産業で強い。スティーブ・ジョブズは、iPhoneのデザインを自分で決めた。孫氏も数百億円でゲーム会社を買収するかどうかを自分で判断できるのだ。
このような情報コストの劇的な低下が、IT産業でオーナー型企業が強い理由である。日本型のコンセンサス企業では、官僚機構ができない理由ばかり探すので、プラットフォームへの思い切ったインフラ投資ができず、品質は高いが凡庸な製品しか生まれない。日本には、孫氏のような独裁者が足りない。
個人資本主義の時代にイノベーションを生むには、こうした空気を読まないカリスマが必要だ。それは才能なので、教育や訓練で身につけることはできないし、運も重要だ。オーナーがいなくなると、ソニーのように多角化してだめになるケースが多い。才能も運も、後継者に譲ることはできないのだ。
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