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日本銀行内でも、現在の金融政策を続けることに対する危機感が強まってきているようだ Photo:角倉武/アフロ
ヘリコプターマネーに漂う幻想 金融政策は“ただ飯”ではない
http://diamond.jp/articles/-/92955
2016年6月16日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] ダイヤモンド・オンライン
退任早々の元日本銀行幹部による異例の発言が物議を醸している。
5月末に日銀理事を退任した門間一夫氏が、日銀による2017年度中のインフレ目標2%達成は「相当ハードルが高い」と、米通信社ブルームバーグに語ったのだ。特定の近い時期に目標達成を目指す姿勢を続けると、「さらに想像を絶するような対応を取っていくことになる」とも指摘している。
黒田東彦日銀総裁や金融政策を担当している日銀企画局は、そうした考えから距離を取っているだろう。しかし、「このままではまずいのではないか」と危機感を抱く日銀関係者は増えているようだ。
このところ多くのインフレ指標が、2%に近づくどころか失速を見せ始めている。今年に入ってからの円高で輸入物価が低下してきていることが第一の要因である。
また、暖冬や株価下落による逆資産効果によって、昨冬以降の消費意欲は弱めで推移してきた。最近は企業が以前にも増して敏感に価格を設定するようになっている。POS(販売時点情報管理)データなどで需要の強弱をほぼリアルタイムで判断できるからだ。
需要の弱さを感じた企業は、4月以降の値上げを警戒的に抑制した。その結果、全国のスーパーマーケットの販売価格を集計している日経CPINow・T指数前年比は、+0.5%前後に急落した(昨年11月上旬は+1.7%)。
他方で、非正規雇用を中心に実質所得は緩やかに増えており、原油価格も底打ちしている。それらの要因でインフレ率低下に歯止めがかかってほしいと、日銀は祈っているところだと思われる。
もっとも、現在、日本の多くの企業は「景気はパッとしないが、かといって危機的な状況でもない」と感じていると思われる。海外を見ても、米国は5月の雇用者数こそ鈍化したが、賃金は伸びが続いている。日本の欧州向け輸出も回復傾向であり、アジア経済も緩やかに上向いている。
6月23日に英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱が決まる場合は警戒が必要だが、景気の観点から日銀が追加緩和を行うべき切迫性は、今のところない。しかし、インフレ目標を「できるだけ早期に達成する」と言い続けていると、「想像を絶するような対応」に自ら陥っていく恐れはある。
門間氏は明示していないが、「想像を絶するような対応」の一つに、最近話題のヘリコプターマネーがあるだろう。財政政策用の巨額資金を中央銀行が政府にばらまく政策だ。以前もこのコラムで述べたが、そういった“打ち出の小づち”のような政策をひとたび始めてしまったら、日本では歯止めが利かなくなる恐れが高い。
また、ヘリコプターマネーの具体的手段として、日銀が政府からゼロ金利の永久国債を数百兆円購入する場合、将来問題が起きる。
インフレ率が上昇したら、日銀は金融機関に支払う超過準備の金利(付利)を引き上げながら、市場金利を押し上げなければならない。しかし、日銀が利回り0%の国債を大量に保有していると、付利との間で逆ざやが発生して日銀の収益は赤字になる。
その常態化を避けるには、政府は税金で日銀の損失を穴埋めする必要がある。つまり、ヘリコプターマネーはフリーランチ(ただ飯)ではなく、コストが発生する。
2%のインフレ目標を達成するために「イチかバチか」の政策に国民を巻き込むべきではないだろう。日銀はインフレ目標の達成時期を「中長期化」する必要がある。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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