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今年に入るとどうしたことか円高に逆戻り。それに連動して日経平均株価も急落している
今再びの「1ドル100円」時代をどう生きるか 「悪いことではない」との意見も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160613-00509516-shincho-bus_all
「週刊新潮」2016年6月16日号 掲載
デフレスパイラルと呼ばれた時代、日本は超円高に陥り、国際競争に負けたハイテク企業が倒産したこともあった。そんな円高の頃に日本は戻ろうとしているのだろうか。黒田マジックによる円安が終わりを告げ、目の前に見えてきた1ドル100円時代の歩き方。
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今から3年前の5月、為替レートが1ドル100円を付けると、世間は大いに沸き立ったものだ。異次元の金融緩和をうたった「黒田バズーカ」は効果てきめん、超円高=デフレ時代から抜け出すことが出来たと誰もが思ったに違いない。
ところが、今年に入るとどうしたことか円高に逆戻り。それに連動して日経平均株価も急落している。慌てて日銀は2月に初のマイナス金利を導入したが、円安に振れたのはわずか数日だけ。焼け石に水とはこのことである。
一方、アメリカではダウ平均株価が最高値をうかがう勢いで、景気の過熱を冷やすために近日中の利上げも観測されている。日米の経済を比べれば、「円安ドル高」になってもおかしくないのに、再び1ドル100円が目前に迫っているのだ。アベノミクスにも打撃を与えるようなこの円高、一体何が起きているのだろうか。
ロータス投資研究所の中西文行代表(元SMBCフレンド証券投資情報部長)が言う。
「その理由は、まず、安倍政権と日銀の金融政策が手詰まりになっているからです。安倍総理が政権をとった総選挙(2012年)では、明確な物価上昇目標(2%)と“大胆な金融政策”を公約にかかげました。次いで13年の参院選も、14年の総選挙でも大胆な金融緩和をうたっていた。ところが、今年の6月3日に自民党が発表した参院選の公約には、今までのような金融政策は入っていません。これを見てとった投資家は円安誘導が限界に来たと判断したのです」
これに加えて、先に開かれたG7で、通貨安競争と“為替レートの過度な変動”の回避に釘が刺され円安誘導の手が封じられてしまったことも大きい。4月29日には、アメリカ財務省が「為替報告書」の監視リストに日本を載せたことが報じられている。これ以上の「バズーカ」に世界中から事実上のストップがかけられたのだ。
一方で、アメリカでも異変が起きている。6月3日に発表されたアメリカの「非農業部門雇用者数」の増加が事前予想をはるかに下回ったのである。このニュースが流れると、ドルが一斉に売られ、一時1ドル106円台を付けた。
「これは、雇用統計がアメリカ経済の幻想を暴いてしまったことを意味しています」
とは、シグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストだ。
「たしかにアメリカの企業は空前の利益を出すほど業績がいい。しかし、その一方で儲けが出ても株を持っていない国民には還元されていません。アメリカでは妻の収入が夫より多い家庭が4割を超えましたが、これは夫がリストラされたり、パートタイマーになるケースが増えているから。失業率は4・7%とリーマンショック時の半分近くに改善していますが、これも数字のマジックです。“働くことを諦めて職安にもいかない人”を入れると失業率は10%近くにハネあがる。一部の大企業ばかりが儲け、庶民には仕事がない実態が数字に出てしまったこともドル売りの要因です」
何より、「不法入国者に仕事を奪われた!」と煽るドナルド・トランプ氏が白人の中・低所得層から圧倒的な人気を集めていることが、今のアメリカを表している。
金融政策の失敗が露呈してしまった日本と、企業の利益が庶民に浸透していないアメリカ。この2つが重なって、「円高ドル安」が出現したというわけだ。
為替レートがどう動くのかを予測するのはプロでも難しい。しかし、円高にストップをかける要素が今のところ見当たらない以上、円高時代はしばらく続くと田代氏は指摘する。
そして、為替のトレンドラインをそのまま伸ばしてゆくと、参院選が行われる前後には1ドル100円にタッチしてしまうのだ。
■日本は「内需大国」
「そうなると、日本経済の稼ぎ頭だった輸出産業の受けるダメージが心配です」
と言うのはファイナンシャル・プランナーの深野康彦氏だ。
「今年の2月に内閣府が発表した『平成27年度 企業行動に関するアンケート調査』によると、2015年の輸出企業の採算レートは1ドル103・2円となっている。つまり、この水準を超えて円高になると、赤字を出す輸出企業が増えてくる計算になります」
日本一の稼ぎ頭、トヨタ自動車も急激な円高で来期の営業利益が4割減になると明らかにしているのはご存じのとおり。また、このまま円高が進んでしまうと、政府が掲げる「2020年に訪日観光客4000万人、旅行消費額8兆円」という目標も危うくなってくる。頼みの輸出産業の利益が減り、数少ない成長産業と見込んでいたインバウンドも掛け声倒れに終わってしまうとなれば、日本はどうなってしまうのだろうか。
だが、「1ドル100円台でとどまるのなら、むしろ日本にとって悪いことではありません」と言うのは、同じ深野氏である。
「日本では、これまで輸出で稼ぐために円安がいいと言われてきました。実際、円安になると日経平均株価が上がりますからね。しかし、GDPで見ると日本の輸出産業は全体の14・5%しか占めていない。残りの8割強は内需産業で、そもそも日本は内需大国なのです。円高になればスーパーは“円高還元セール”をやってくれるし、海外旅行だって安くなる。小麦や肉など食品はもちろん石油や天然ガスも安くなりますから公共料金が安くなる。これは、実質所得が増えたのと同じなのです。1ドル100円〜110円ぐらいの為替レートが、外国からプレッシャーを受けずにやってゆける適正レートともいえるのです」
アベノミクスが始まってから3年余、国民の所得が上がらないこともあって、肝心の消費も一向に伸びていない。不景気の思い出しかない「円高時代」だが、1ドル100円台なら、戻ってみるのも悪くない?
「特集 さらば『黒田日銀総裁』こんにちは『円高』 今再びの『1ドル100円』時代をどう生きる」より
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