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「デフレのおかげ」で上昇した実質賃金(写真=Thinkstock/Getty Images)
「デフレのおかげ」で上昇した実質賃金
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160613-00000016-zuuonline-bus_all
ZUU online 6月13日(月)19時10分配信
「消費増税2年半再延期」を表明した安倍総理の会期末記者会見に対して、批判的な、さまざまな議論が巻き起こっている。
「アベノミクスは順調に結果を出している。新興国経済に問題があるから消費税再引き上げの公約は取り消す」と繰り返した安倍総理の発言に違和感を覚える向きが多いのも無理はないのかもしれない。国民に向けた真摯なメッセージというより、余りにも身勝手な「理屈の押し売り」に聞こえるからだ。
「一度約束した約束を破るのは無責任」という政治論、消費税の再引き上げを予定通り実行することがデフレ対策として是か非かという政策判断論、それに伊勢志摩サミットに参集した主要国首脳達さえ首をひねったほど唐突に持ち出された「世界経済リスク」の認識論など、批判は今のところ多岐にわたっている。
しかし今回、敢えて焦点を絞りたいのは、「有効求人倍率など経済指標は過去最高の良い水準であり国内経済は最良の状態にある」という総理の現状認識についてだ。
■労働需給の引き締まりは事実だが……
安倍総理が胸を張って繰り返す通り、第2次安倍内閣の発足以降、雇用は約100万人増えた。2013年12月に約5580万人だった労働力調査の「雇用者数」は3年後の2015年12月に約5690万人となっている。15歳以上人口でも減少基調が続いており、雇用者増加の裏には、労働参加率の上昇や失業率の低下が作用していたことも明らかだ。
4月の有効求人倍率は1.34倍と24年5カ月ぶりの高水準を回復し、都道府県別でも調査を開始した2005年2月以降初めて全都道府県で1倍を超えた。医療・福祉や宿泊・飲食サービス業を中心に人手不足感が根強く、リーマンショック後の最悪期に5%台半ばまで上昇した完全失業率もここ2カ月は3.2%にまで下がっている。
現在のように、労働市場の需給が引き締まってくれば当然、賃金上昇につながるのが経済理論では常識だ。4月の勤労統計調査(速報値)によると、実質賃金は前年同月に比べ0.6%増。名目賃金にあたる現金給与総額は0.3%増となり、ともに3カ月連続の増加となった一方で、ほぼ横ばいの微増だから力強い賃金上昇とは言い難い。
2016年春闘は現在進行形だが、5月末時点(8割を超える組合が回答獲得)での集計結果を見ると、組合員数加重平均の賃上げ率は約2%(昨年同時期は2.23%)と政労使三者がそろって目指していた3年連続の賃上げ2%台達成が濃厚となっている。中小組合や非正規労働者の賃上げに格差縮小・底上げの方向性も現れているが、最終結果が昨年を上回りそうにはない。
■「アベノミクス」はもう用済なのか?
いずれにせよ、労働市場でのこれらの動きが「アベノミクスの成果」と連呼するに値するほど目覚ましものかどうか、もう少し広い視野で見直すことが必要な様子だ。
まず、実質賃金だ。最近の数カ月は、プラス続きと言っても、年度ベースでみれば2015年度まで5年連続の減少。雇用者の増加も13年以降は、非正規雇用や短時間労働者の増加が主であり、正規雇用は2007年以降減少基調となっている。総務省のデータによれば雇用者全体に占める正規労働者の割合はこの20年間で約79%から65%にまで低下した。
個人の働き方が多様化すること自体は時代の流れだとしても、結果としての経済効果は、短時間化・非正規雇用化という相対的に低賃金な労働力市場の拡大が全体の動静を左右する形になっているということだ。
賃金と労働需給の関係に起きている変化のメカニズムを究明することはエコノミストにとって重要な課題だが、そもそも「アベノミクス」の目標はデフレからの脱却であり、継続的な所得の増加ではなかったのか。「失業率が下がった、有効求人倍率が上がった」と言って威張るものではないとの見方もできる。
2014年の名目給与は欧米4カ国(英米仏独)で2000年比3〜5割増、OECD平均で11%増、これに対し日本は10%減という信じがたい現実がある。リーマンンショック時(2009年)からの変化で見ても、欧米4カ国は10%前後の増加している。
他方で、日本はほぼ横ばいとなっており、実質では1.4%増となるが「物価の下落」のおかげという「デフレ脱却政権」には皮肉な結果ではないだろうか。
■「成長戦略」がやっぱり決め手
GDPの6割を占める個人消費は2014、15年度と2年連続で実質マイナスとなったが、所得が伸びない中で、合理的とさえいえる。消費不振は、消費税引き上げの影響というより、リーマンショック以降継続している中長期的現象だからだ。
アベノミクスの3本の矢のうち、「金融の異次元緩和」は目に見える効果を発揮したとみられてきた。ただ、3年目に入ると「賞味期限切れ」とななったのか、「マイナス金利」まで持ち出す状況に追い込まれており、さらに円高・株安が進むなど、将来の不透明感を拭えない。そもそも中期的な成長力や消費の拡大を実現できるのは、やはり「成長戦略」が重要だろう。
「アベノミクス」に次ぐキャッチフレーズ「1億総活躍」で「働き方」に目を向けることも悪くはないが、本当に必要なのは低成長の真因を分析し、じっくりと練った対策を、政治家の言葉で国民の心に訴えかけることではないだろうか。(岡本流萬)
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