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消費者に寄り添い低所得者向けスマホローン開発
中田 敦
2016年6月13日(月)
米国の低所得者層のスマートフォン所有率が低いのはなぜだろう――。そんな疑問を突き詰めることで生まれたFinTechスタートアップがある。シリコンバレーに拠点を置く米PayJoyだ。「デザイン思考」のアプローチに基づいて、低所得者向けのスマホローンを開発した。
PayJoyは2015年12月に米国で、韓国サムスン電子製のハイエンドスマホ「Galaxy」の購入資金を貸し出すというショッピングローンを開始した。米国で携帯電話事業者(キャリア)が提供するスマホの割賦販売を利用可能なのは一般に、クレジットカードの利用履歴などを基に算出した「FICO(ファイコ)スコア」が高い消費者だけ。PayJoyはキャリアが相手にしないFICOスコアが低い層をターゲットにする。
融資の条件はPayJoyが開発した「PayJoy Lock」というソフトウエアをスマホにインストールすること。返済が滞った場合はこのソフトがスマホを利用できなくするので、返済へのインセンティブが強く働く。「スマホを『Pay as You Go(使った分だけ支払う)』で利用可能にした」。同社の創業者でCEO(最高経営責任者)を務めるDoug Ricket氏(写真1)はそう説明する。
写真1●PayJoyの経営メンバー
左からCBO(最高ビジネス責任者)のMark Heynen氏、CEOのDoug Ricket、COO(最高執行責任者)のGib Lopez氏
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「市場には100〜200ドルの低価格スマホが存在するのに、低所得者のスマホ所有率は低いまま。その理由を考えた結果、このサービスが生まれた」。Ricket氏はPayJoyのサービスが生まれた経緯をこう語る。
低所得者はお金が無いからといって、低価格スマホには手を出さない。なぜなら低価格スマホは性能的に使い物にならないことを知っているからだ。「みんな低価格スマホを買って惨めな思いをするぐらいなら、フィーチャーフォン(スマホではない携帯電話機)を使っている方がいいと考えている」(Ricket氏)。消費者の心理に寄り添うことで、低所得者のスマホ所有率が低い本当の原因が、低所得者向けのショッピングローンが無いことにあると判断して、ハイエンドスマホ専用のショッピングローンを開発したのだという。
消費者への「共感」はデザイン思考で学んだ
消費者の心理に寄り添うという同社のアプローチに大きな影響を与えたのが、Ricket氏がスタンフォード大学の「d.school」で学んだ「デザイン思考」だ。デザイン思考は「デザイナーの手法や考え方を応用にした、イノベーションを生み出すための方法論」のことで、スタンフォード大学や、同大学と密接な関係があるデザイン会社の米IDEOなどが提唱し、体系化した。
デザイン思考のプロセスは、製品やサービスのユーザーを観察することから始まり、プロトタイプ(試作品)を作ってユーザーにテスト(評価)してもらい、試作とテストを何度も繰り返す。そうすることでアイデアを洗練させていく。特に重視するのがユーザーへの「共感(Empathize)」。「低価格スマホは欲しくない」というユーザーの気持ちに「共感」することで、PayJoyは新しいショッピングローンのサービスを生み出したわけだ。
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販路も工夫している。PayJoyがショッピングローンを受け付けるのは、プリペイド中心の低価格MVNO(仮想移動体通信事業者)である「Boost Mobile」や「metroPCS」の一部店舗だけ。サムスンのハイエンドスマホの購入を逡巡している消費者に店員が「ショッピングローンもありますよ」と声をかけて、PayJoyのサービスに誘導する。
「プリペイドフォンを買いに来るのは、クレジットスコアが無いために、大手キャリアのポストペイド(後払い式)を利用できない消費者。PayJoyはそういう消費者をターゲットにしているので、この二つのMVNOの店舗を選んだ」(Ricket氏)。ここでも消費者への共感が生きている。デザイン思考の考え方で言えば、これも一つの「デザイン(設計)」ということになる。
写真2●PayJoyのDoug Ricket CEO
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スマホ向けのショッピングローンは、PayJoyにとって最初の一歩。スマホの次は、冷蔵庫やテレビといった家電製品向けのショッピングローンを提供する考えだ。家電に無線機能付きロックチップを付けて、融資を返済しなければ使えなくする仕組みによって、返済へのインセンティブが働くようにする。
「ショッピングローンが利用できない人は、世界中に数十億人単位で存在する。そうした人々にテクノロジーの力を活用した新しいショッピングローンを届け、世界中の人々の暮らしを豊かにすることがPayJoyのゴールだ」。Ricket氏はそう力説する(写真2)。
アフリカでの太陽光発電システムの販売がヒント
PayJoyには、モデルとなる会社がある。アフリカなど発展途上国向けにプリペイド方式の太陽光発電システムを販売している米d.lightだ。同社は太陽光発電システムを一括で購入できない発展途上国の人々に、プリペイド方式をで太陽光発電システムを提供している。実はd.lightも、スタンフォード大学のd.shoolで生まれたスタートアップだ。
Ricket氏はPayJoyを起業する以前に、d.lightで勤務していた。低所得者層に新しいテクノロジーを届けるためには、テクノロジーを入手するためのお金の仕組みを新しく作り出さなければならないという考え方は、d.lightで学んだものでもある。PayJoyやd.lightは、スタンフォード大学が生み出したデザイン思考による社会変革の一つの在り方を示していると言えそうだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061700004/060300115/
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