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[真相深層]米規制 プリウス翻弄
カリフォルニア州で「非エコカー」に トヨタ、世界戦略に影?
トヨタ自動車が誇る「環境車メーカー」の看板が米国で揺らいでいる。最大市場のカリフォルニア州でハイブリッド車(HV)への燃費規制が2018年に向けて強化され、旗艦車「プリウス」がエコカーではなくなるのだ。優遇するのは排ガスを出さない電気自動車(EV)だ。世界が倣う米規制でのつまずきはグローバル戦略にも影を落としかねない。
カリフォルニア州のエコカー優遇から外れる(米販売店の店頭に並ぶプリウス)=ロイター
「こんなに稼いでいるのか」。EVベンチャーのテスラ・モーターズ。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が4年後の100万台生産計画をぶちあげた5月の決算会見で、自動車業界の関係者が台数以上に注目したのは5700万ドル(約62億円)の「ZEVクレジット」収入だった。
「Zero Emission Vehicle(排ガスゼロ車)」を意味するZEVは、加州が自動車メーカーに一定割合の販売を義務付けている。環境に優しい電気駆動の車の普及が狙いで、達成できないメーカーは罰金を払うか、他社からクレジットを買う必要がある。テスラはたまったクレジットを売ることで赤字体質の収益を補完してきた。
販売台数24%減
米国最大の車市場である加州ではどのメーカーもZEV規制を意識する。実はそこで苦戦を強いられているのが日本では環境イメージの強いトヨタだ。1990年施行の規制は段階を経て厳しくなり、12年には18年以降のHVをZEVとして扱わないことが決まった。プリウスも例外ではない。
影響はビジネスに直結する。まず州の高速道路のエコカー専用渋滞回避レーンでの走行が11年7月からHVはできなくなった。渋滞が多いサンフランシスコなどの消費者にとっては致命的で、プリウス人気は低迷した。原油安も加わり、新型を含めたプリウスの1〜5月の販売台数は前年同期と比べて24.9%のマイナスだ。
HVの販売不振にあわせて獲得クレジットも減る。トヨタは18年以降を見据えクレジットの貯蓄を始めたとされるが、15年には初めてクレジットの買い手に転落した。トヨタは規制を緩和するよう当局への陳情を繰り返したが一切聞き入れられなかったという。
加州がそこまで排ガスゼロにこだわる背景には、公害に悩まされてきた地域の歴史がある。40年代のロサンゼルスでの光化学スモッグ対策が自動車規制の発祥だ。
今のZEV規制は、大気汚染とそれに伴う健康被害への対策に、温暖化問題が加味された。
加州大気資源局(CARB)のアルベルト・アヤラ副局長は「HVは燃費面で優れた技術だが、有毒な排ガスを出している時点でダメだ」と言い切る。
国際基準に
見逃せないのは加州の規制がグローバルでのひな型になりつつあることだ。連邦法に基づき、他州はCARBの規制をそのまま導入してもよい。ニューヨークやコネティカットなど東西9州が連合を組み、これだけで米新車市場の3割をカバーする。
さらにドイツやノルウェーなど加州を参考にEV優遇の規制を導入する国も出てきた。
トヨタも無策でいるわけではない。米国で15年に販売が始まった燃料電池車(FCV)「ミライ」はEV同様に排ガスゼロで加州の要望を満たす。だが現時点で州内の水素充填インフラは18基だけで普及には時間がかかりそう。ニューヨークなど他州でのインフラ整備の本格化は17年以降だ。
その間隙を縫うようにEVではテスラが台頭、ゼネラル・モーターズ(GM)も年内に1回の充電で200マイル(約320キロメートル)走行する大衆向けEVを出す。HVのプリウスが世界に先駆けた00年とは異なり、今のエコカーを巡る競争環境はかつてなく厳しい。
ただ、歴史を振り返れば自動車の技術の進化は規制の強化と裏腹でもあった。70年代、米国が制定した厳格な排ガス規制「マスキー法」はホンダなどの低燃費車の開発を後押しし、結果として同社の米国進出を助けた。
今後の規制の道筋について、CARBは「50年にZEV比率を100%にする」(アヤラ副局長)と宣言している。トヨタが今を危機と見なすか好機と見なすか。「環境車メーカー」の腕の見せどころである。
(ニューヨーク=中西豊紀)
[日経新聞6月11日朝刊P.2]
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