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三菱東京UFJ銀行が国債入札のプライマリーディーラーの資格を返上する。その理由とは?(写真はイメージ、出所:Wikimedia Commons)
ヘリコプターマネーの先には地獄が待っている 「GDP600兆円」で始まる高橋財政の悲劇
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47067
2016.6.10 池田 信夫 JBpress
日本は1930年代に似てきた──といっても「戦争法で日本が戦争に巻き込まれる」という類の話ではない。安倍首相が消費税の10%への増税を「新しい判断」で再延期し、「GDP600兆円」をめざす大幅な赤字財政を決めたからだ。
これは30年代の「高橋財政」の運命とよく似ている。高橋是清蔵相は国債の日銀引き受けで赤字財政を可能にし、大恐慌で疲弊していた日本経済を回復させた。しかし軍部は際限なく国債増発を求め、それを拒否した高橋は暗殺された。
■メガバンクが国債の買い手から売り手に回った
今週、1つのニュースが金融村を騒がせた。三菱東京UFJ銀行が国債入札のプライマリーディーラー(PD)の資格を返上するというのだ。PDは財務省との懇談会に参加できるなどの特典がある一方、発行額の4%以上の応札を義務づけられる。
しかし日銀のマイナス金利で国債の利回りがマイナスになったため、この義務が重荷になったのだという。これ自体は大した事件ではなく、PDを降りても国債は買えるが、メガバンクの最大手が「もう国債を買いたくない」という意思表示をした意味は小さくない。
「日本の国債の90%以上は日本の金融機関が保有しているから大丈夫だ」という向きがあるが、邦銀は愛国心で日本国債を保有しているわけではない。企業の資金需要がないため、やむなく国債で運用しているのだ。その金利がマイナスになっても買うことは、株主に説明がつかない。
メガバンクは国債保有高を減らし、日本郵政も国債を売って外債を買うようになったが、心配は無用だ。彼らの売る国債を日銀がすべて買えば、政府は国債をいくらでも発行できる。このように中央銀行が国債を引き受けて財政資金を供給することを財政ファイナンスと呼ぶ。
高橋是清は1932年に蔵相に就任してから、金解禁でデフレに陥った日本経済を建て直すために金輸出を再び禁止し、農村救済事業を行なって歳出を32%増やした。このため国債の発行が増え、それを消化するために日銀に引き受けさせた。
これで景気は回復し、デフレも止まった。これはケインズが1936年に『一般理論』で財政政策を提唱するより早く、高橋が「日本のケインズ」と呼ばれる所以だが、彼は均衡財政主義者であり、総予算は増えたが、軍事費を除く予算は33年以降は減少した。
日銀が国債を引き受けたのは世界恐慌で銀行に国債を買う体力がなかったからで、景気が落ち着くと国債を市中に売却した。しかし35年ごろには市中消化は滞り、高橋は国債の発行を減らそうとした。これが軍部の反発を招き、彼は二・二六事件で暗殺された。
■「GDP600兆円」を実現するヘリコプターマネー
いま起こっている出来事は、気味が悪いほど当時に似ている。日銀の黒田総裁は「デフレ脱却」をめざして国債を大量に買い、今ではその保有高は300兆円を超えた。これは国債の残高800兆円の4割近く、実質的な財政ファイナンスといってよい。形の上では市中銀行を通すが、すぐ日銀が買い取るケースも多い。
このようにいくら財政赤字が増えても、日銀が「輪転機ぐるぐる」で日銀券を発行して買い取ってくれるので、安倍首相は増税を何度も延期し、大型の補正予算を組んで、2020年度までに「名目GDP600兆円」をめざす「骨太の方針」を決めた。
今のGDPは約500兆円だから、あと5年でGDPを100兆円も増やすには、毎年4%も成長しなければならない。この10年の平均成長率もインフレ率もほぼ0%の日本経済が、どうすれば突然4%の高度成長を実現できるのだろうか?
1つの方法は、5年間で100兆円の財政支出を行なうことだ。今年すでに10〜20兆円の補正予算が検討されているが、この調子で毎年20兆円ずつ補正予算を組めば、GDPは民間支出と政府支出の合計なので、5年でGDPが100兆円増えることは(乗数効果を1としても)確実だ。
もう1つの方法は、5年間で20%のインフレを起こすことだ。名目GDPは実質GDP+物価上昇だから、100兆円の政府支出で発行される国債をすべて日銀が引き受ければ、激しいインフレが起こるだろう。日銀引き受けは財政法で禁止されているが、国会が決議すればできる。
これをヘリコプターマネーと呼び、アデア・ターナー(元イギリス金融サービス機構長官)が昨年、IMF(国際通貨基金)で提案して反響を呼んだ。
ヘリコプターで空から全国民にカネをばらまくようなものなのでこう呼ばれているが、100兆円の補正予算でもよく、消費税をゼロにしてもいい。その財源は国債を発行し、日銀が引き受ければいくらでも調達できる――そんなうまい話があるだろうか?
■財政規律はいったん破ると取り戻せない
実は、これが30年代に日本のとった政策なのだ。景気が回復すると高橋は緊縮財政にしようとしたが、陸軍は「国債は国民の債務なると共にその債権なるを以て何ら恐るるに足らず」と、これに反対した(今でもどこかで聞く話だ)。
高橋は「ただ国防のみに専念して悪性インフレを惹き起こし、その信用を破壊するごときことがあっては、国防も決して安固とはなりえない」」と軍部に反論した(松元崇『恐慌に立ち向かった男 高橋是清』)。
結果的には、1936年度予算は22億円のうち11億円が軍事費という異常な構成になったが、これでも陸海軍の予算要求を下回り、これに怒った青年将校が高橋を暗殺した。この結果、国債の日銀引き受けは歯止めを失い、日本は戦時体制に突入する。
軍事費はまさにヘリコプターマネーであり、ナチス・ドイツで一時的に景気がよくなったのもこれが原因だった。しかし日銀引き受けという「打ち出の小槌」があると分かると、軍部は際限なく軍事費を増やし、戦時国債の発行は爆発的に増えた。
こうして財政が破綻して通貨への信認が失われると、激しいインフレが起こる。戦時中は物価統制令で価格が凍結されたが、敗戦でハイパーインフレが起こり、物価は300倍になった。
高橋財政の教訓は、いったん財政規律を破ると取り返しがつかないということだ。ターナーもそのリスクは認識しており、インフレ目標で歯止めをかけるべきだという。しかし日銀は政府支出をコントロールできないので、財政が破綻したらインフレ目標は役に立たない。
この批判はターナーも認め、政府が際限なく財政支出を拡大しないように制限するルールをつくる必要があるというが、どんなルールをつくっても首相が「新しい判断」で破ることができるので意味がない。
今回は野党まで増税延期法案を出して政府に「翼賛」し、与野党を挙げて放漫財政への道を走り始めた。その意味で今回の増税再延期は、二・二六事件のような歴史の分かれ目になるかもしれない。
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