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消費増税先送りで本当に景気は上向くのか? 次の「追加緩和」のタイミングはここだ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48806
2016年06月02日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■マイナス金利導入後、株式市場は「日本一人負け」
追加緩和の期待が高かった4月28日の金融政策決定会合で、追加緩和は見送られた。マーケットは当初、失望一色となり、円高株安が進行した。
だが、日本市場が休場となるゴールデンウィーク中に、ドル円レートが1ドル=105円、日経平均先物が1万5千円の水準に近づいた段階で底を打ち、現在は1ドル=110円台半ば、日経平均株価は1万7千円近辺で推移している。
1月29日のマイナス金利導入以降の株式市場は、ほぼ「日本一人負け」状態である。
「中国を中心とする世界経済の不安定から世界の株式市場が大きく調整したあおりを食った」との見方もあるが、1月29日以降の日経平均株価は、他の主要国の株価とは大きくかけ離れた動きをしており(図表1)、「日本一人負け」を中国経済のせいにするのはやや無理がある。
1月29日以前のマーケットの話題は中国、特に人民元、及び中国株の売り浴びせであった。だが、1月29日以降、世界の投資家たちの話題は、中国から日本、特に「QQE(量的・質的金融緩和)政策の限界にともなうデフレ脱却シナリオの頓挫」に移ったように思える。
すなわち、中国当局の強硬な抵抗や米国のドル高警戒姿勢、中国の経済指標の一時的な好転等から、「中国売り浴びせシナリオ」の妥当性が揺らいだことから、海外の有力ヘッジファンド等は、「中国売り」をあきらめて、「よりわかりやすいシナリオ」という観点で、追随者を生みやすい「QQE限界説」に乗り換えた可能性がある。
必ずしも上手くいかなかった「中国売り浴びせ戦略」の損失を取り戻すためか、「QQE限界説」はメディア等を通じてかなりの勢いで喧伝されたため、マーケットに深く浸透した感がある。
そして、面白いことに、1月29日以降の日経平均と上海総合指数の動きは逆相関の関係にある。
ただ、このような有力ヘッジファンドも、そろそろ利益を確定すべきタイミングが来たと判断したのか、「円買い日本株売り」ポジションの縮小に動き始めたことが、最近の反転(円安日本株高)の理由ではないかと筆者は考えている。
また、偶然かどうかわからないが、反転のタイミングで、有力海外メディア(FT紙やWSJ紙がこぞって、日本政府による「ヘリコプターマネー」政策実現の可能性を指摘した記事を掲載したことも非常に興味深い。
■日本の景気にプラス材料はあるか
筆者は、1月29日のマイナス金利政策導入は、1月の世界的なマーケットの混乱に対応するために実施したのではないかと考えていた。
そして、このマイナス金利政策が、市場に「これまでのQQE政策は限界に達した」と「誤解」されて、マーケットの混乱に拍車をかけたのであれば、QQE(量、及び質)の部分をより強調した追加緩和を実施して、マーケットの「誤解」を解くべきではないかという理由から、できるだけ早いタイミングで「追加緩和」をすべきだと考えていた。
だが、マイナス金利政策導入後の日本市場の混乱が、このような海外投資家の「ゲーム」であるとするならば、それに金融政策が追随した対応をとることは、逆に日本市場(為替、株式市場)の安定性を損なう可能性がある。
日銀がそのように、ここまでのマーケットの混乱を達観して「マーケットの催促」に乗るような追加緩和を行わなかったとすれば、それは正しい選択だったのかもしれない。
ただ、だとすると、1月29日のマイナス金利を導入した理由がわからない。もし、1月29日に何もしなかったのであれば、筆者はこのような好意的な解釈をしてもよいと思っているが、真相はわからない。
ところで、マイナス金利に対する世間一般の評価はかなり悪く、その弊害を指摘する声が多い。
確かに、マイナス金利政策の導入によって、長期金利は大きく低下した。だが、同時に予想インフレ率も大きく低下しており、実体経済にとって重要な「実質金利」は上昇している可能性がある(前回の当コラムで指摘したように、日銀短観の販売価格判断DIを元に筆者が試算した予想インフレ率は大きく低下しており、結果、その予想インフレ率と新規貸出約定金利を用いて計算した企業にとっての実質金利は上昇している)。
過去、この実質金利は、タイムラグをもって設備投資と逆相関の関係にあるので、今後、設備投資が減速する懸念がある。
一方、家計部門にとって、マイナス金利政策はプラスの側面も出始めている。例えば、新設住宅着工戸数は、2月以降、急増している(図表2)。
また、勤労者世帯では、「土地家屋の(ネット)借入の減少額」がこれまた2月以降、急増している(図表3)。
これは、マイナス金利導入後の住宅ローン金利低下をみて多くの家計が住宅ローンの借り換えを行ったためだと推測される。
マイナス金利政策は、住宅ローン負担の軽減をもたらすと同時に、2014年4月の消費税率引き上げ後に停滞していた新設住宅着工件数も回復させている。
GDPに占める住宅投資のウェートは2.5%前後と低いため、住宅投資の回復が、そのまま景気全体の回復につながるとはいえないが、それでも景気にとっては数少ないプラス材料となっている。
■次の追加緩和のタイミングはいつか
もっとも、マイナス金利の家計に対するプラス効果が消費回復にまで浸透するかどうかは疑問である。
2014年4月の消費税率引き上げから約1年弱は、消費税率引き上げによる販売価格の上昇(裏返せば、実質所得の低下)が特に低所得者層で消費減の直接的な原因であったが、2015年に入って、様相は一変した。
2015年は、消費減と同時に貯蓄率の上昇がみられる。なかでも特に、低所得者の貯蓄残高の増加が顕著であった。総務省の調査によれば、年収5分位別の貯蓄残高の変化率をみると、最も年収が低い階層(「第1分位」といわれる)の貯蓄残高が前年比で+17.2%増加した。
ちなみに、最も年収が高い「第5分位」は同-2.1%、その次に年収が高い「第4分位」が同-2.3%と、年収の高い階層ほど貯蓄残高が減少する一方、年収が低い階層の貯蓄残高が増加している。
これは、景気の回復が思わしくなく、将来に対する不安を抱えた状況の中で、2015年になって、いよいよ次の消費税率引き上げが来年に迫ったことによって、低所得者層(この階層には、年収が多少上昇したか、安倍政権になって新たに雇用を確保できた家計が多く含まれていると思われる)が将来の増税に備えて、「予備的貯蓄」を増やした結果であると推測される。
いわば、低所得者層が、「増税レジーム」に入ることによって、消費を抑制した結果である(この「第1分位」の2015年の消費は名目で前年比-3.2%、実質で同-4.2%であった)。
もし彼らが「増税レジーム」に入り、将来の増税による所得減を予想して貯蓄を増やしているのだとすれば、2年半の消費税率引き上げ延期で、消費が回復する可能性は低い。
それは、将来の増税(しかも、2年半後にそれなりに年収が増加すると言う見通しがないまま)を予想するという行動は、増税期間の先送りでは変わらないと考えられるためである。
以上より、今回の消費税率引き上げの2年半先送りで家計消費が十分に回復しないのであれば、マクロ経済の負の需給ギャップ縮小による消費者物価の上昇は期待できない。
そうなれば、消費者物価指数は、日銀が独自に計算する「(生鮮食品・エネルギーを除く)新コアコア」ベースで逆に低下する可能性もある。
これに、企業の予想インフレ率の低下にともなう企業活動の停滞が加わる事態が重なれば、その時にこそ日銀は追加緩和を実施するということになるのだろう。
つまり、次の追加緩和のタイミングを考える上で重要なのは為替レートのようなマーケット変数ではなく、「インフレ率」ということになる。
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