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『貧困世代』(藤田孝典/講談社)
大学生活と両立できないブラックバイト、奨学金返済地獄・・・「下流老人」よりも悲惨な、若者を取り巻く深刻な生活環境
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160523-00010645-davinci-life
ダ・ヴィンチニュース 5月23日(月)6時30分配信
■若者を取り巻く深刻な生活環境とは?
本書の著者である藤田孝典さんは、 埼玉県にあるNPO法人「ほっとプラス」に所属している社会福祉士。日々、生活上の困難や悩みの相談を受けて支援したり 、困窮状態にある多くの人たちをサポートしたりしているそうだ。本書はまさに、その現場からの痛烈なレポート。そして、このレポートの主役となっているのが、現代の「若者たち」である。
現在、若者たちを取り巻く生活環境は急速に悪化している、と『貧困世代』(藤田孝典/講談社)で警鐘を鳴らしている。今の若者たちは、もはやロスト・ジェネレーションのような一時的な就職難や一過性の困難ではなく、雇用環境の激変を一因とする、一生涯の貧困が宿命づけられている、というのだ。さらには、日本史上でも類をみない特異な世代が登場している、とまで言い切っている。著者はこの世代を、「貧困世代(プア・ジェネレーション)」と呼び、クリティカルな問題として提出している。
この「貧困世代」は、流行語にもなった「下流老人」以上に深刻な状況にあるという。自らの生き方を制限せざるをえない環境から逃げることができない、まるで「監獄に閉じ込められた悲劇」のような生活環境。なかにはそれを、若者のメンタル的な問題と考える向きもあるかもしれないが、この問題は決して個人の責任に帰するものだけではない。本書はその環境の構造を、具体例を用いながら平易に説明していく。
■このままでは日本は、若者を育てることができない
著者が所属するNPO法人には、食べるものに困り、栄養失調の状態で相談に来る若者も多いそう。そのような、今困窮している人たちをサポートすることも大切だが、それと同時に、未来に発露するであろう貧困の芽を、とくに学生たちの存在に見出していく。彼らの置かれている現状と、その結果として行き着く日本社会の姿に危機感を抱いているのである。
まず、家庭の平均収入はずっと減少傾向にあるのにもかかわらず、学費は大幅に上がりし続け家計を圧迫している。当然、そのことは学生たちへの親からの仕送りにも影響を及ぼして、その結果、多くの学生たちは生活費を捻出するために、アルバイトに精を出さなくてはならないような状況に追いやられる。そして、そこに待ち構えているのが悪名高い「ブラックバイト」の数々だ。
本書で「ブラックバイト」とは、「学生生活と両立ができないバイト」のことを指す。それだけではない。苦しさは、卒業後もさらに続いていく。経済的に困難な状況にある学生たちの多くは、無利子、有利子の貸与型の奨学金を受けている。しかしこの制度は、大学を卒業し、まともに就職活動すれば就職できて安定した収入が得られるという前提が成り立っていた頃に作られたものなのだ。そして今、その前提は崩壊している。
そのため現在では、やっとの思いで大学を卒業したからといって、充分な収入を望める安定した職を得ることが難しくなってきている。つまり、多くの若者たちが、卒業と同時に事実上の借金に苦しめられることになるのだ。このことが多くの若者たちにとって、経済的に大きな負担となり、子育てどころか、結婚にまで踏みきれなくなっている人もいるほどになっているのである。
■まずは、「同じスタートライン」に立つことが必要
「今の日本の環境では、まったく若者を育てることができない」と、著者は主張している。そしてまずは、努力や実力を発揮できるような「同じスタートライン」に若者たちを立たせる必要がある、と指摘している。より多くの若者を包摂する仕組み作りが今、求められているのではないだろうか。
国の教育レベルの高さは、そこに暮らす人たちの人生を豊かにするものだ。なぜなら教育が、自由選択の幅を広げ、それぞれの可能性を開花させるための基盤となるからだ。また、国民の教育レベルを高めることは、その国の根幹にもかかわる問題でもある。若者を使い捨てにすることを許す国の未来が、明るいものになるだろうか。
本書が提出している課題は、「貧困世代」にのみ適用されるものではない。どのような社会に住みたいのか。そういった根源的な問いも横たわっているのだ。私たちは今、何を失おうとしているのか。本書から、そのささやきを聞き取ってみたい。未来はまだ、確実に決定しているわけではないのだから。
文=中川康雄
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