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麻生太郎財務大臣の一連の発言の結果か、5月10日のドル・円相場は円安に振れ、株価も大幅に上昇した Photo:Motoo Naka/AFLO
「口先介入」好きの麻生財務相が 本当に喧嘩すべき相手は誰か
http://diamond.jp/articles/-/91374
2016年5月18日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■効いた「口先介入」
ここのところ麻生太郎財務大臣の外国為替市場に関わる言動が注目されている。
5月3日の海外市場では海外市場では1ドル105円台を付けるところまで円高が進んだが、この頃から麻生氏は「足下の為替市場で一方的かつ急激に偏った投機的な動きが更に強まっていることに憂慮している」と述べた。
その後、9日には「当然介入の用意がある」と表現を強め、さらに10日には参院での質問に答えて「一方的に偏った動きが続くのであれば介入するのは当然のことだ」と前日の発言を補足した。さらに9日の発言の真意を問われた麻生氏は、「さらにこの方向に進んでいくのは断固止めねばならんと思っていた」と円高抑止の意図があったことを述べ、「主要7ヵ国(G7)などでも急激な為替の変動は良い影響を与えないということに対して合意されている」と付け加えた。
一連の発言の傍らで、9日の午前中には107円台前半だったドル・円相場は10日の午後には108円台後半に下落した。現在の株価には、為替レートの影響が「直接的」と言いたくなるような強度で影響しているので、円安の動きに連れて東証の株価は大幅に上昇した。
アベノミクスが目指すデフレ脱却にとって円安が円高よりもプラスだし、株価は下がるよりも上がる方がいい。ついでに言うなら、既にその段階ではないと思うが、麻生大臣配下の財務省が狙う2017年度の消費税率引き上げにも、円安で株高の方がいい。
もちろん、為替レートに影響した材料は麻生発言だけではないはずだが、結果から見ると、麻生氏は実際に介入を行うことなく、その発言だけで市場に影響を与えて、円高を修正し、株価を反転させたように見える。いわゆる「口先介入」が成功したかたちだ。麻生氏は満足したのではないか。
しかし、今週末(20日、21日)には主要7ヵ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議が行われること、その翌週にサミットがあって、たぶんこの後に安倍首相が消費増税の引き上げ再先送りを決断し今後の経済政策を発表することを思うと、麻生氏が自らの発言の正しさと影響力に自信を持つと、いかにも危ない感じがする。
■為替を巡り、政府が守るべき暗黙のルール
為替レートはそれぞれの国の経済に大きな影響を与える重要変数だ。各国政府は、これを自国にとって都合良く動かしたいという動機を持つが、各国の利害はしばしば対立するため、為替レートに対する政府の影響力行使を巡って、特に先進国間では、幾つかの暗黙のルールがある。
暗黙のルールは要約するなら以下の3点だ。
(1) 先進国の政府(含む中央銀行)は原則として、為替レートに影響を与えることを目的に、為替市場に直接介入してはいけない。
(2) 為替レートの変動が短期間にあまりに大きい場合、動きを緩やかにするための為替介入(スムージングオペレーション)は許される。
(3) 金融緩和等、直接的な介入以外の手段が、為替レートに「結果的に」影響を与えることは、程度が甚だしくなければ、概ね容認される。
すると、麻生氏の一連の発言は、(2)に基づく原則論の確認を述べているという意味でルールに対しては「十分セーフ」であるが、「…断固止めねばならん」といった辺りの表現は、審判によっては「アウト!」と判定されかねない、かなり際どいものだった。
■為替市場「裏の大原則」とは?
為替市場に関して、先の、暗黙のルール3つは、「為替レートは、概ね市場の形成に任せるべし」という表の建前に沿ったものだが、過去の為替市場を見ていると、現実の為替レートの形成には、「為替レートを動かす最大の要因は米政府の意思である」という裏の大原則があるように思われる。
もともと、麻生発言以前の段階で、今年になってから15円以上ものドル・円相場の円高への動きがあった背景には、アメリカのルー財務長官が為替レートの動きは「秩序的である」とドル安を肯定する発言を行う一方、為替操作国の疑いを監視するべき「監視リスト」の対象に日本をも含めるといった、アメリカ政府がここに来てドル安を指向するようになったことと、その主な対象通貨の一つが日本円だと見えたことがあった。
ここまでの円高への過程で日本は直接的な介入を行っていない。中国、韓国などと一緒の扱いで「監視リスト」に入れられるというのは、些か失礼な話だとの印象はあるが、近年の日本は、率直に言って競争上かなり有利なレベルのドル・円レート(120円前後)を維持してきたし、大統領選挙を控えて政治の季節に入ったアメリカでは、自国の産業と雇用を第一とする考え方が強まっている。
「当面、アメリカの政府や政治家は、なるべく刺激しない方がいい」というのが、日本の多くの経済関係者の意見ではないだろうか。
心配な展開の一例を挙げると以下のようなものだ。
例えば、G7でアメリカが、為替レートは市場に任せるべきで、自国通貨を安く誘導するような行為は慎むべきだと強調すると、為替レートは再び円高に振れる可能性がある。仮に、この時に麻生氏が、これを止めようとして、「いつでも介入の用意がある」と口にした場合、麻生氏本人は言っても良い原則論だと思っていたとしても、アメリカの関係者(最有力はルー財務長官)に「現状の為替レートの動きは全く秩序的なもので、スムージングオペレーションの対象になり得るようなものではない」とでも明言されてしまえば、為替レートは一層の円高(1ドルが100円の少し手前くらいまで)に突き進んでしまう可能性がある。
■「口先」で喧嘩するなら勝てる相手と
アベノミクスは、本来、日本の経済的コンディションを改善するための前提条件として、デフレを脱却してマイルドなインフレ環境を作ることを最優先している。そのためには、為替レートは円安が好ましく、少なくとも円高は不都合だ。
また、現在の状況では、金融緩和を物価上昇に結びつけるために、財政的な需要追加が有効かつ必要だが、日本一国で財政拡大を行った場合、(経済理論的には実質金利上昇から)円高を誘発して、財政拡大の需要追加効果が十分働かなくなる可能性が懸念される。サミットを前に、日本が各国に対して財政拡大での協調を要請する根回しを試みたことの理由はここにある。しかし、報道を見る限り、均衡財政に対する指向が強いドイツをはじめとする各国の賛意は得られていないようだ。ただ、需要が漏出するかもしれない日本の財政支出拡大に対して、他国が反対する理由はない。
マイルドなインフレを達成する上では、いずれの意味でも、円安にできるなら望ましいし、少なくとも円高になると台無しだ。しかし、先の暗黙のルールを前提とするなら、為替市場への直接的な介入はできない。
すると日本にとっては、円高を抑制するために金融緩和策を追加しつつ、消費税率の引き上げ先送り(できれば凍結)を含む、財政拡大的な政策を併用することが必要だということになるだろう。
実際に行われる金融緩和策としては、マイナス金利政策の拡大が予想できる。為替レートに対して一定の効果はあるだろうが、アメリカに為替誘導を牽制する情報発信を浴びながらでは、円高抑止効果が大いに削がれることになるだろう。
為替市場における影響力において、アメリカには勝てるはずがない。負ける喧嘩を仕掛けるのは下策なのだが、「自分は理が通っていることを言っているだけだ」と思っている麻生氏が、その事を分かって黙っていられるかどうかが大いに心配だ。
麻生財務大臣には、アメリカを刺激する公算の大きい「口先介入」をしばらく控えていただくことが望ましかろう。強面ぶりは、消費増税の先送りを財務省に飲ませるために、むしろ自身の配下を抑える方向に使ってほしい。
目下、マスコミ調の典型的なものの言い方としては、「消費増税を先送りするなら社会保障充実のための財源をどう確保するのか。市場の信認を維持するためにも、財政再建への道筋を含め明確に示すことが欠かせない」といった意見がある。新しい支出に一つ一つ財源を紐付けしなければならないという制限はそれ自体がそもそも余計だし(理由は、支出間の優先度の調整が硬直的になるからだ)、現在は、支出を先行させることがマクロ政策的には適切だ。また、市場の信任(国債及び通貨・円に対する)と言うが、「信任」の過剰すぎる状態がデフレなのだから、インフレ目標の達成が、財政再建に優先するという順位付けを明確に確認することが重要なのだ。
「発言好き」の麻生財務大臣が、何か一言言いたければ、「今は、財政再建にこだわる時ではない。経済を見ていれば、それはよく分かる」というぐらいのことを言うといい。
「さすが経済通の麻生さんだ」、「存在感を示した」などと、好評を博するだろう。財務省は少なくとも形の上では麻生氏の部下なのだし、消費増税に対する態度を「すっきりと反対!」に一本化できずにぐずぐずしている野党・民進党には痛い一撃となるだろう。
勝てる相手と喧嘩するという意味でも、理に適っている。
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