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三菱自に巨額出資した日産「真の狙い」 〜世界シェア拡大より大事な「切り札」とは
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48662
2016年05月17日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■「アウトランダーPHEV」という決め手
どういう成算があるのだろうか――。
先週木曜日(5月12日)、燃費偽装で経営破たんが取り沙汰される三菱自動車に対して、「コストキラー」カルロス・ゴーン氏の率いる日産自動車が救いの手を差し伸べて世間をアッと言わせた。
救済策の柱は、日産が2370億円を投じて三菱自の新株を取得し、資本提携に踏み切ることである。
資本提携によって、世界第4位とはいえ上位3社に大きく水をあけられていたルノー・日産グループが一気に上位との差を縮める道を開いたと、新聞やテレビはやや興奮気味に報じている。確かに、同グループの最大の弱点だったアジア市場での販売力を強化できる面はありそうだ。
だが、ゴーン日産は、もっと別の算盤を弾いているとみるべきだろう。その鍵を握るのが、日欧で最も売れているプラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」の存在だ。
2018年以降、米国カリフォルニア州などで始まる新たな排ガス規制を視野に入れると、三菱自が誇るアウトランダーPHEVのパワーユニットは、決め手を欠いていたルノー・日産グループの救世主になるポテンシャルを秘めているのだ。
■日産が迅速に出資を決めた背景
「この提携は広範囲に協力関係を拡大するものであり、両社にとってまさにウィンウィンの内容。大きなシナジー効果と成長のチャンスを約束するものです」――。
日産と仏ルノーのCEO(経営最高責任者)も兼務するゴーン日産社長は12日、三菱自への出資を明かす緊急記者会見の冒頭で、こう強調して胸を張ってみせた。
その柱は、日産が保有株数で三菱グループ御三家(三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行)合計を上回る三菱自の筆頭株主になることだ。
そのために、軽自動車4車種の燃費偽装の公表翌日(4月21日)から提携発表前日(5月11日)までの出来高の加重平均で算出した株価(1株当たり468円52銭)で、新規に発行される5億660万の三菱自株を取得するという。
不祥事の発覚直前まで、三菱自の株価は800円以上していた。将来、三菱自が再建に成功すれば、今回の出資は割安な投資だったという評価を得ることになるかもしれない。
また、この出資により、日産の三菱自への出資比率は34%となり、日産の意に沿わない重要な決定に対して拒否権を発動できるようになる。
ゴーン日産が迅速で思い切った出資に踏み切った背景として、新聞やテレビが指摘したのは、ルノー・日産グループの世界シェア拡大に向けた布石という構図だ。
2015年(暦年)の自動車の世界販売台数は、第1位のトヨタ自動車グループが1015万台、第2位の独フォルクスワーゲングループが993万台、そして第3位の米ゼネラル・モーターズが984万台である。
ルノー・日産グループは852万台と、第4位に着けているとはいえ、上位3社に100万台を超す大差を付けられていた。ここに107万台の三菱自が加われば、一気に上位3社と肩を並べる規模になる。
■真の狙いは排出ガス規制への対応
確かに、世界シェアを意識している面はあるだろう。特に大きな貢献が期待できるのは、アジア市場だ。三菱自は全販売台数の9割以上を海外で販売している会社だ。その中でもアジア市場向けは3割を占めている。
「ゴーン日産の目には、三菱自の海外販売を支援している三菱商事の存在も魅力的なものと映っている」(日産OB)らしい。
だが、「真の狙いは別のある」と指摘する自動車関係者もいる。それが、世界各地で一段と強化されることになっている排出ガス規制への対応だ。
例えば、米国では10州が自動車メーカーに一定比率以上のエコカーの販売を義務付けているが、2018年実施のカリフォルニア州を先頭に、従来型のハイブリッド車をエコカーから外すことになっている。
メーカー各社は、ハイブリッド車よりも温暖化ガスの排出が少ない燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)の販売にこれまで以上にシフトする必要に迫られているのだ。
日産と言えば、早くからEVの「リーフ」を市場に投入して販売に力を入れてきたが、必ずしも満足な成果をあげていない。今後の新エコ車の販売合戦を有利に進めることも難しいとの見方が根強い。
リーフは、1回の充電で走行できる航続距離が280qと比較的長いものの、バッテリーの残量が無くなると走行できないEV車固有の弱点を抱えているし、小型車なので車体が小さく米国で人気車になりにくいという事情もある。
これに対して、アウトランダーPHEVは米国でもなかなか人気があるSUV(スポーツ用多目的車)だ。しかも、1回の充電での航続距離が60.8kmと、ライバル車であるトヨタ の「プリウスPHV」(26.4km)を大きく上回っている。
加えて、ハイブリッド車としてバッテリーが切れた後もガソリンを燃やして走行することが可能である。EV車のように外出先での充電スタンドの有無を心配しないでよいのである。
自動車業界では、アウトランダーPHEVのパワートレインの主要部分が三菱電機製であることは有名だ。
それゆえ、ゴーン日産は、「三菱自を完全子会社として飲み込むのではなく、あえて三菱自への出資比率を34%に抑えることにより、三菱自を三菱グループとの合弁会社として、内外の新エコ車競争で三菱電機などからの協力を得やすくする狙いもあったのではないか」(自動車業界関係者)とみられている。
■再建は容易ではない
日本企業を巡るM&A案件では、ごく最近も、台湾の鴻海精密工業が支配権の取得に拘った挙句、傘下に収めた途端に、買収前の公約を翻して、シャープに厳しい人員削減や経営陣の退任を迫る騒ぎが起きたばかり。
その一方で、日産の三菱自に対する出資は、今までのところ、シャープのケースとは対照的に、「支配ではなく、補完・シナジー関係の強化を狙うゴーン流の特性がよく表れている」と総じて好意的に受け止められている。
ただし、客観的に見て、三菱自の再建は容易ではない。
日産による出資が明らかになる前に、新聞、テレビ、通信社が競って報じていたように、少なくとも、燃費偽装の関連だけで1年間に約1500億円の特別損失が三菱自に発生する見通しだ。
これは、野村証券が三菱自の言い分に基づいて試算したものだ。勘案されているのは、燃費のカタログ掲載値と実際との差額のガソリン代の補填費用(1台当たり4.8万〜9.6万)、エコ税制の追納分の補填費用(同1〜2万円)、そしてユーザーへのお詫び金(同1〜5万円)などである。
これ以外に、独フォルクスワーゲンがディーゼル車の排ガス不正に伴って米国で義務付けけられたように、偽装車の買い取りを求める訴訟が続出しても不思議はない。
仮に問題の軽自動車4車種の平均的な新車の販売価格を130万円とし、その半分の65万円で、対象の62万5000台すべてを買い取るとすると、約4000億円の資金が必要になる。
石井国土交通大臣は4月22日の記者会見で、買い取りについて聞かれ、「それも含めて誠実に対応していただきたい」と注文を付けており、事態は予断を許さない。
三菱自車の不正によってエコ税制で不利な扱いを受けたライバルメーカー車のユーザーから賠償を求められる訴訟が相次ぐリスクもある。
発端になった軽自動車4車種だけでなく、問題が他の車種や輸出車に広がる懸念も残っている。実際、早くも、米国の当局から追加の調査や情報提供の指示が出ているという。
16年3月期の決算短信をみると、三菱自の今年3月末の現預金残高は4533億円、純資産はほぼ7018億円あるので、目先の資金ショートの懸念はない。
とはいえ、徹底的な補償・賠償を迫られるリスクに加えて、消費者の三菱自離れが起きる懸念もあり、経営が深刻な危機に陥らない保証はない。それが、三菱自の置かれている状況である。
ゴーン日産の出資が目論見通り割安なものとなるのか、それとも無駄金に終わるのか。事態は予断を許さない。
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