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[ニュース解剖]黒田日銀 試練の時
大胆な金融緩和でデフレ打破に挑んできた日銀の黒田東彦総裁の影響力に陰りがみられる。「最も強力な緩和」と自認するマイナス金利政策は市場金利を大きく押し下げた。それでも円高・株安の基調は続き、景気や物価上昇の回復は鈍い。市場の意表をつく緩和策には消費者や企業からの抵抗感も出始めた。強まる逆風を日銀はどう克服していくのか。(編集委員 菅野幹雄)
マイナス金利に誤算
日銀が金融政策の現状維持を決めた4月28日、追加緩和期待の空振りで日経平均株価は600円以上急落した。「マイナス金利の効果は金融面ですでにあらわれている」「必要ならまだまだいくらでもマイナス金利を深掘りできる」と記者会見で強調した黒田総裁。だが「やや覇気を欠いていた」と複数の日銀ウオッチャーが口をそろえる。
たしかに悩ましい展開だ。銀行が日銀にあずける当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を付ける政策の決定は1月29日。市場は驚きをもって反応し、景気の下振れリスクに先手を打つ会心の一手に映った。
だが、実際にはここから日銀は数々の誤算に直面することになる。金融緩和の効果が伝わっていく経路に目詰まりが生じかねないのだ。
1つの誤算は円高・株安だ。本来、大胆な緩和策をとれば円売りの動きを招き、為替は円安に触れやすくなる。円はマイナス金利決定の直後に1ドル=120円台に下げたが、翌週は円高方向に転じ、5月初めには一時105円台に急騰した。
円高が海外展開企業の収益を悪化させる懸念から、1万8000円に迫った日経平均株価も1万6000円台に弱含んだ。
根源のひとつは米欧など海外の要因だ。世界経済の減速や原油安への不安で米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースに減速感が強まった。
みずほ総合研究所の高田創氏は「一極集中のドル高に耐えられなくなった米国は、マイナス金利による円安誘導に反対の意思を示した」とみる。4月29日に米政府の報告書が日本の為替政策を監視対象に据えたのも同じ流れだ。
第2の誤算は金融市場との対話のほころびだ。
4月の金融政策決定会合の数日前から市場では追加緩和の観測で円安・株高が進む「催促相場」の様相になった。日銀は今回の会合では早くから様子見を決め込んだ節があるが、市場の期待感が一方的に高まった。政策変更がないことで失望が一気に広がり、相場は大きく反転した。
「市場に日銀の行動原理が理解されていない」とJPモルガン証券の菅野雅明氏はいう。市場を驚かせるサプライズ緩和を続けてきた日銀だが、説明が不十分だったことが混乱の引き金になったというわけだ。
マイナス金利は市場に株式や投資信託などリスク資産投資を促す政策。市場との対話にヒビが入れば効果は落ちてしまう。
「2年で2%の物価上昇率を実現する」と宣言し、市場や人々の「期待」に強力に働きかけてきた黒田氏。だが、物価目標の達成時期はこの1年で4回も先延ばしした。原油安などの外的要因があるとはいえ、言葉の信頼度は下がっている。
第3に緩和マネーを民間に供給する金融機関との意識のすれ違いだ。
「銀行界にとっての短期的な影響は明らかにネガティブだ」。平野信行三菱UFJフィナンシャル・グループ社長は4月14日の講演で、マイナス金利への批判を公言した。期間の長い金利がより大幅に下がり、金融機関は運用による利ざやを確保しにくくなった。体力勝負が厳しくなる中で、金利を下げても企業や家計が投資に動くのか。そんな業界の本音を代弁した。
1月のマイナス金利導入決定で銀行の現場は大慌てだった。システムがマイナスの金利を想定しない設定で手作業でのデータ入力を迫られた金融機関も数多い。日銀への不満は根強い。
黒田総裁は「金融政策は金融機関のためにやるのではない」と反論する。マイナス金利を取る範囲を限定して銀行収益の悪化に配慮をしたとの自負もあろう。だが日銀と金融機関との協力関係にはすきま風が吹く。
4番目の誤算はより根深い。実体経済を動かす消費者や企業に、マイナス金利への戸惑いが隠せないからだ。
日銀が3月に実施した生活意識に関するアンケート調査で、現在の金利が「低すぎる」と答えた人の割合は65%と3カ月前の調査から13ポイント余り増えた。マイナスにならなくとも預金金利は下がる。年金や保険の利回り低下が意識される流れだ。
「日本は高齢者の割合が高い。借入金利の低下を喜ぶ人よりも不安を感じる人の方が多い」と東短リサーチの加藤出氏は言う。マイナス金利は心理に働きかけ「いずれ物価が上がる」と思ってもらう政策。ところがそれが長引きそうだと思われると、将来を気にして逆に消費心理を冷やしかねない。
市場の動きを映す予想物価上昇率はマイナス金利の導入前より0.5ポイントほど低下した。名目長期金利も0.2ポイント程度下げたが実質金利の引き下げは日銀の思い通りには実現していない。
日本経済の実力である潜在成長率がゼロ近くに低迷するなかで、日銀が孤軍奮闘してもなかなか物価や景気を上向かせるのは難しい。実体経済に効果が及ぶまで「半年も1年もかからない」と断言する黒田総裁だが、言うほど視界は開けていないだろう。
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正念場の6月 総力戦へ
黒田日銀が人々や市場のココロを再びつかめるかどうか、6月は正念場だ。景気や物価に漂うモヤモヤ感がさらに強まれば追加緩和をためらうべきでない。市場や銀行とのほころんだ対話の修復も不可欠だ。政府も日本経済の足腰を強くする改革に真剣に取り組み、日銀の孤立を防がなければならない。試練の克服には総力戦がいる。
日米欧の中央銀行が金融政策を決める会合は1カ月半に1回の頻度で開く。6月はユーロ圏の欧州中央銀行(ECB)が2日、米連邦準備理事会(FRB)が14〜15日、日銀が15〜16日の順番だ。7月下旬にも同じ順で日米欧の政策会合がある。
内外の政治日程も絡む。5月下旬の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を踏まえ、政府は財政出動や消費税率引き上げについての判断を6月にかけて下す可能性がある。
4月の会合で市場の失望を買った日銀にとって、混乱の再来は是が非でも避けたいところだ。マイナス金利による市場金利や貸出金利の低下が着実に経済を押し上げるか。原油安の一服とともに人々の物価見通しが高まるか。そうした点を見極めたうえで、市場に説明を尽くして誤解を持たれないようにする必要がある。
日銀の政策決定の直前、6月16日未明には米FRBの判断も出る。東短リサーチの加藤出氏は「米国が利上げを見送り、7月以降の利上げにも慎重姿勢を示せば、円高阻止の観点で日銀の緩和圧力は増す」とみる。
追加緩和が必要な場合の手法についての意見は分かれる。日本経済研究センターの岩田一政理事長は「中銀に赤字が生じ財政コストがかかる量的緩和はもう難しい」と、政府の財政出動とマイナス金利拡大の組み合わせを主張する。若田部昌澄早大教授は財政出動で増発した国債を日銀が買い増す「ヘリコプター・マネー」の考え方。「6月に追加緩和と補正予算編成、来春の消費増税の見送りを決める可能性は高い」と指摘する。
緩和の有無にかかわらず、銀行界とのコミュニケーションの改善は急務だ。日銀の取れる手が狭まる中で、政策効果が行き渡る環境作りが問われている。
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中銀トップ、欧米でも受難
悩ましい境遇にあるのは黒田日銀総裁だけではない。金融危機後の市場混乱と戦ってきた主要国の中央銀行トップは受難の時を迎えている。
欧州の市場不安を鎮め「スーパー・マリオ」と称賛されてきたドラギECB総裁はユーロ圏の盟主ドイツで袋だたきに遭っている。矛先はマイナス金利の拡大など度重なる金融緩和策だ。ショイブレ財務相をはじめ有力政治家が相次ぎ不快感を公言している。
中央銀行の独立を重んじる国での異常事態だ。ECBの緩和が低所得者の生活苦を深め、地方選で極右躍進を招いた――そんな批判も。ドラギ氏は「我々は法律に従う。政治家には従わない」と真っ向から反論する。亀裂は決定的だ。
米国では大統領選挙で共和党候補に選出が濃厚なトランプ氏が、2018年に任期が来るイエレンFRB議長の再任を認めない考えを示唆した。慎重に利上げ路線を探る議長にけん制球を投げている。
株価や景気を支える日米欧の大胆な緩和策は「黒田バズーカ」「ドラギ・マジック」などと異名をとったが、魔術は色あせた。世界全体で成長が頭打ち傾向にあるなかで、中央銀行の緩和頼みは限界を迎えている。
[日経新聞5月12日朝刊P.9]
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