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午前7時、三菱の軽自動車3台を搭載した車両運搬車が、交通安全環境研究所の自動車試験場の正面玄関を通過した Photo by Kenji Momota
三菱自工の燃費不正で、国が慌てる本当の理由
http://diamond.jp/articles/-/90845
2016年5月11日 桃田健史 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
ついに、三菱自動車工業(三菱自工)に対する国の「技術的な強制調査」が始まった。
埼玉県熊谷市郊外にある、交通安全環境研究所の自動車試験場 Photo by Kenji Momota
大型連休の中日にあたる、5月2日(月)の午前7時、埼玉県熊谷市の郊外。独立行政法人・自動車技術総合機構・交通安全環境研究所(通称:交通研)の自動車試験場の正面玄関前は、在京テレビ局全社のカメラや、新聞社・通信社の記者たちが集まるという異例の事態となった。
我々報道陣が待ち構えていたのは、1台の車両運搬車。そこには、三菱「eKワゴン(スポーツ仕様のeKカスタムを含む)が2台、同「eKスペース」が1台、合計3台の軽自動車が搭載されていた。
この3台は、石井啓一国土交通大臣が4月26日の会見で述べた通り、28日に設置の同省自動車局と独立行政法人・自動車技術総合機構による「三菱自工の燃費不正問題」に対応するタスクフォースの指示により、三菱自工が持ち込んだ車両の一部だ。
これら車両を使って、交通研が5月2日から「型式指定の燃費試験」を行い、その結果はタスクフォースが6月中に発表予定の「取りまとめ」の中で明らかになる。その初日の試験が始まる前の時間にあたる、午前7〜8時にかけて、報道陣向けに「燃費・排出ガスの確認試験の実施について」と題して、走行抵抗値の測定試験(惰行法)の説明とデモンストレーションが行われた。
■異例の、国による走行抵抗の測定試験
錯綜する報道のなかで規定と技術を再確認すべき
一連の三菱自工による燃費不正問題。その発端は、同社が20日に記者会見で発表した「実際より燃費を良く見せるため、型式指定の燃費試験に際して提出を求めている走行抵抗値について不正行為を行っていた」(国交省HPの石井大臣談話より抜粋)ということだ。
そして三菱自工は、その不正行為とは、国が定める「惰行法」ではなく、アメリカ市場向けの「高速惰行法」を採用し、それを基に走行抵抗値を算出し、さらにそれら値を意図的に操作し、実際の燃費よりも優れた値が出るようにした、と説明した。
この20日の会見以来、メディアでは「燃費不正フィーバー」状態となっており、その多くが、不正はいつから、誰の指示で行い、経営陣を含めて社内でどのような意思決定プロセスによって決まったのか、といった「犯人探し」の視点で報じている。そのなかに、技術論が中途半端な状態で散りばめられているように感じる。
そこで本稿では、認証審査を行なう交通研の説明を基に、議論を規制、規定、そして技術に集約したい。
■燃費と排出ガスの試験は同じ!?
「惰行法」測定はメーカー任せ
まず、「型式指定」とは何か。自動車メーカーが自動車を発売する際、エンジンの仕様や車体構造の変更が伴う場合、新しい「型式」を国から得る必要がある。そのために、国が定める衝突安全試験、燃費試験、排ガス試験などの規定にクリアし、認証されなければならない。
試験場内には、テストコースの他、燃費や排出ガスの測定を行なう機器を設置されている
その審査を行なうのが、交通研だ。本部と研究施設は東京都調布市にあるが、自動車認証審査は、テストコースと各種審査用の機器設備がある熊谷市の自動車試験場でのみ行っている。
前述のように、交通研が今回行なった確認試験は、燃費と排出ガスに対するものだ。つまり、両者の試験方法の流れは基本的に同じなのだ。
自動車メーカーが、交通研の自動車認証審査部に提出する「走行抵抗値の測定結果」用の書類の記入例。@、A、Bと赤枠は資料説明で実際には記載なし。また、惰行時間はばらつき10%が限度で、記入例ではその枠内にないデータも Photo by Kenji Momota
その試験は大きく2つのステップに分かれる。ステップ1は、走行抵抗値の測定。これは自動車メーカーが各社の所有地内などで、実車を使って行う。得られたデータを交通研が指定する用紙に書き込み、保安基準など「型式指定」に必要な他の用紙と共に電子ファイルで、自動車メーカーが交通研に提出する。
ステップ2は、交通研が走行抵抗値データを、台上試験機(シャーシダイナモメーター)のソフトウエアに打ち込む。同機器は、再現性と公平性を重んじるために使用し、ローラーの上でクルマの駆動輪がその場で回転する仕組み。こうした走行において、日米欧それぞれで各地の走行実態を反映させた「モード」を設定している。日本では「JC08(ジェイシーゼロハチ)モード」で測定する。
このような流れのなかで、自然環境のなかで行なうため、手間と時間を要するステップ1の「走行抵抗値の測定」について、国は自動車メーカーの自主性に任せてきた。そのなかで今回、不正が起こったのだ。
交通研・自動車認証審査部からは「シンプルな試験であり、そこで不正が起こるとは想定していない」と本音が漏れた。
■惰行法は「国とメーカーの信頼」で成り立つ
自前の「高速惰行法」をかざす三菱自工の功罪
交通研が「シンプル」という、「惰行法」による走行抵抗値を求める試験。試験結果の記入書式には、上から90、80、70、60、50、40、30、20km/hと8つの指定速度がある。それぞれの指定速度に対して、往路と復路それぞれ3回の惰行時間、それらの平均惰行時間を計測、そこから走行抵抗を求めるという流れだ。
まず、指定速度に対する惰行時間とは、指定速度を中央として前後5km/hでの10km/h域の通過時間を指す。例えば、指定速度70km/hの場合、75km/hから65km/hに減速するまでの時間だ。
今回、デモンストレーションは、全長1200mの直線路で合計7回行なった
実際のデモには「eKカスタム」を使った。ルーフにGPSアンテナ、車内には車速計、パソコン、計測データ確認用の大型ディスプレイなどを交通研が装着した。
コースは、全長1200m×幅60mのアスファルト路面の直線路。その両端にある角度が急なバンクコーナーで加速。直線路に入ってから、ギアをニュートラルに入れて惰行開始だ。
試験場の直線路、の両端に急な斜面のバンクコーナーがあり、ここで惰行に必要な加速する
最初の指定速度90km/hに対応する、95km/h時点で後席に乗る係員が計測スイッチを押す。続いて、85km/h、75km/h、65km/hに減速した時点で計測スイッチを押していく。だが、直線路が短いため、車速が60km/h程度で計測を一旦中断。これを2往復・4回行なった。
デモンストレーションで使用した、三菱「eKカスタム」の車内。試験用に車速計やパソコンを搭載
次に、初速65km/hから20km/hまでの1往復・2回、さらに初速45km/hから1回、合計7回走行した。
つまり、自動車メーカー所有を含めて、直線路の全長が1km程度の一般的なテストコースでは、8つの指定速度での惰行時間を一気に計測することは不可能なのだ。
助手席の前に、速度変化と時間をグラフ化したデータを表示 Photo by Kenji Momota
「8つの指定速度を何回に分けて取るべきという規定はない」(交通研・自動車認証審査部)という。
試験の条件として、最も重要視されるのは、走行抵抗に直接的な関与する風の影響だ。規定では、直線方向に毎秒5m以下。風の影響を加味して、最低3回往復する。また、直線路に対して垂直方向に毎秒2以下としている。
だが、路面状況に対する規定は特にないなど、自動車メーカー側にとって「ある程度の自由度」があり、事実上の「抜け道」はいくつかあるように感じる。
こうして計測した平均惰行速度を基に、走行抵抗値を求める。計算式は、走行抵抗値=(1.035×試験車重量)÷(0.36×平均惰行時間)。得られた走行抵抗値をY軸に、各指定速度をX軸にとり、二次曲線を描き、「空気抵抗+ころがり抵抗×速度の二乗」という走行抵抗値を決める。なお、走行抵抗値は、大気圧や気温による補正を行い、摂氏20度相当の値を採用している。
今回の三菱自工による燃費不正では、達成目標とする燃費を出すための走行抵抗式を想定し、それを実現するために各指定速度での惰行時間を捏造したい疑いがある。また、「型式」が違えば、走行抵抗の計測試験はそれぞれの車種で行なうべきだが、それを怠っていたことはすでに三菱自工側が認めている。
記者の質問に答える、交通安全環境研究所・自動車認証審査部・主席自動車審査官の高瀬竜児氏 Photo by Kenji Momota
交通研側は今回、走行抵抗値の計測試験について「メーカーへの信頼の上に成り立つ」と繰り返し言った。そのうえで「今後は、自動車メーカーが行なう走行抵抗試験に交通研が立ち会う方向で調整している」(自動車認証審査部)と、試験に対して「信頼関係を見直すこと」を示唆した。
もう1点気になることがある。三菱自工の会見で「惰行法ではなく、アメリカ市場向けを考慮した高速惰行法」との発言があった。ところが、交通研・自動車認証審査部は「高速惰行法という言葉を聞いたことがない」とキッパリ。つまり、これは三菱自工の社内用語、または一部の自動車関係者が使う俗語だ。
また、アメリカの場合、米自動車技術会(SAE)が2008年3月に規定したJ2263のなかで、「惰行法」に相当する「Coastdown Method」がある。その場合、計測開始の速度は毎時80マイル(128km/h)であり、日本との規定に差があることは事実だ。
ただし、「三菱自工の高速惰行法は、(SAEの)アメリカ規定でもないオリジナルのようだ」(交通研関係者)との声がある。
■燃費・排ガスで世界調和の重要性高まる
だから、この時期、国は焦っている
国としては、三菱自工の燃費不正問題がこのタイミングで表面化したことを苦々しく思っていることだろう。
なぜなら、国連による自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において2014年3月、乗用車の燃費と排出ガスについて国際調和(WLTP:ワールドワイド・ハーモナイズド・ライト・ヴィークル・テスト・プロシージャ)が採択され、日本では2014年6月24日に閣議決定した規制改革実施計画のなかで、JC08からWLTPへの早期移行を決めているからだ。
現在、日本でのJC08モード、アメリカでのLA4モード、そしてEUでのNEDCと、排出ガス・燃費の試験方法は国や地域で異なっている。アメリカのCAFE(企業別平均燃費)や欧州CO2規制などが厳しさを増すなか、排出ガスと燃費における世界統一が急がれる。
そうした社会背景のなかで、独フォルクスワーゲンの排出ガス不正問題が発生。さらに、今回の三菱の燃費不正問題が後追いした。また、「WLTPのなかで、走行抵抗値を計測する惰行法についても、規定を世界統一する方向で現在調整している」(交通研・自動車認証審査部)と明らかにした。
日本政府としては、三菱自工の事案について早期に原因を究明し、厳しい行政処分を課すことが、WLTP移行に伴う世界各国に向けた「信頼の回復」に繋がるはずだ。
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